【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第48回
2010/4/29
「上昇気流」
J1第7節、名古屋×新潟。
ミッドウィークにナビスコ杯・C大阪戦(長居)で「今季公式戦初勝利」を飾り、グッとムードが良くなった。問題はリーグ戦だ。まだ勝ち点の計算をするような時期ではないけれど、リアリズムで言うなら「節の数と同じ勝ち点」はキープしたい。現状、1勝しても第7節の7に1つ足りない。そろそろ上昇気流に乗りたいのだ。
対戦相手の名古屋は3連勝中。ここは何がうらやましいといって決定力がある。ブルザノビッチのロングシュートが話題を集めたけれど、今季、最も警戒すべきはセットプレーだ。ケネディの高さはただでさえ脅威(直接ヘッドで狙って来るのでも、ポストでも)だが、ケネディをオトリに使う手もある。何しろ今季は闘莉王が加わった。CKがハラハラするなぁ。
そうしたらこれがやたらと名古屋のCKが多い試合だった。実に15本(うちの3倍!)。失点もCKからだった。後半38分、闘莉王が一か八かの勝負をかける(「ボールはよく見えなかった。コースだけ読んで頭を突き出した」闘莉王コメント)。まぁ、15本あったら1本ぐらい決まってしまうだろう。名古屋にしたら試合内容の悪さを帳消しにするゴールだ。
流れのなかではほぼ問題なく攻撃を抑え込んでいた。GK・東口の判断の良さが光る。それからケネディを封じた千葉も凄かった。
それだけに終盤の失点は痛い。
後半、風上になってからは攻勢に転じていたんだけど。名古屋のDFラインの前に使えるスペースが出来ている。負けてしまうのか。ナビスコ杯の1勝は何かのきっかけにならないのか。
そうしたら黒崎監督が思い切った手を打った。後半40分、ファグネルと大島を投入。これがピタリと当たった。
44分、マルシオがドリブルで持ち込み、斜めに走り込んできたファグネルに渡す。と、ファグネルが(行き過ぎていたので)足を伸ばして右足アウトでDFのウラへ出す。そこへ大島が詰めた。大島は頼り甲斐あるなー。この起死回生のチャンスに落ち着いてGK・楢崎の股下を狙った。
試合は1対1のドローで決したから、新潟は依然、リーグ戦未勝利のままだ。勝ち点1を上積みしただけで、「節の数と同じ」に持ってくには最短でも2節かかる。
だけど、これはポジティブな勝ち点1だ。ラッキーではない。やることをやれば結果に結びつく、持ち味を出せば戦える。そうした手応えをチームにもたらした勝ち点1だ。
もうひとつ大きいのは黒崎監督の用兵が当たったことだ。指揮官がノッてるかどうか、勝負勘が当たってるかどうかはチームの空気を左右する。戦術理論も大事だろうが、ここ一番というとき、人間の集団を動かすのはプリミティブなものだ。この人についてけば大丈夫だという直感―。
以前、戦国時代の合戦についての本を読んで、なるほどなぁと思ったことがある。関ヶ原のような大戦の最後、陣形が乱れ、東西南北どこに敵がいるかわからない白兵戦になったとき、要するに兵は強そうな者に本能的について行くのだという。それが死地を生きのびる知恵らしい。腕っぷしの強い者、確信を持った者、ツイてる者、そういうのに兵が寄って来るという。
本当に上昇気流かどうかは知らない。まだわからない。が、チームは兆しをつかんだ。きっかけをつかんだ。
これを本物にしよう。ホームで勝って、黒崎さんの笑顔を見よう。
附記1、風が強い日の試合でした。だからセットプレーは余計イヤだったんだけど。東口はもう第3キーパーじゃないですね。どんなことにも多面性があって、オフのレギュラー級の離脱からこっち、苦戦続きの物語は、こと東口に関して言えば「チャンスをモノにして成長するドリームストーリー」です。「東口の親戚」の視点で見たら、たぶんどの試合も最高なんだろうなぁ。「東口の親戚」が仮に8万人くらいいたらビッグスワンはいつも満杯ですね。東口には早く家庭を持って、まず家族を増やしてもらいたい。←ちがうかー。
2、この試合、ナビスコ杯・C大坂戦の長居から直接、名古屋入りしてミニキャンプを張ったオペレーションはヒットだったと思います。勝った雰囲気のまま、すーっと名古屋戦を迎えることができた。
3、名古屋の公式HPは「English」ってクリックボタンがあるとこが凄いなぁと思います。さすがリネカーの所属したクラブだ。あとアレですね、いや、アレって洒落みたいだけど「アレアレアレ・・、フォルツァ名古屋!アレアレアレ!」ってチャントあるでしょう。前から気になってんだけど、アレはフランス語で、フォルツァはイタリア語なんですよね。こう世界全体に向かっていく感覚なんだと思います。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)下巻読了。いやー、北越戦争どえらいですねー。新潟は、っていうか新潟も分かれてたから長岡はって話なのかも知れないけど、近代のはじめ、「(東北を除く)日本全体」と一戦まじえたことがある(!)。武装中立が崩れた結果とはいえ、とてつもないことです。こりゃ「川中島ダービー」から時代が下ると、新潟の宿敵は西国ですね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第7節、名古屋×新潟。
ミッドウィークにナビスコ杯・C大阪戦(長居)で「今季公式戦初勝利」を飾り、グッとムードが良くなった。問題はリーグ戦だ。まだ勝ち点の計算をするような時期ではないけれど、リアリズムで言うなら「節の数と同じ勝ち点」はキープしたい。現状、1勝しても第7節の7に1つ足りない。そろそろ上昇気流に乗りたいのだ。
対戦相手の名古屋は3連勝中。ここは何がうらやましいといって決定力がある。ブルザノビッチのロングシュートが話題を集めたけれど、今季、最も警戒すべきはセットプレーだ。ケネディの高さはただでさえ脅威(直接ヘッドで狙って来るのでも、ポストでも)だが、ケネディをオトリに使う手もある。何しろ今季は闘莉王が加わった。CKがハラハラするなぁ。
そうしたらこれがやたらと名古屋のCKが多い試合だった。実に15本(うちの3倍!)。失点もCKからだった。後半38分、闘莉王が一か八かの勝負をかける(「ボールはよく見えなかった。コースだけ読んで頭を突き出した」闘莉王コメント)。まぁ、15本あったら1本ぐらい決まってしまうだろう。名古屋にしたら試合内容の悪さを帳消しにするゴールだ。
流れのなかではほぼ問題なく攻撃を抑え込んでいた。GK・東口の判断の良さが光る。それからケネディを封じた千葉も凄かった。
それだけに終盤の失点は痛い。
後半、風上になってからは攻勢に転じていたんだけど。名古屋のDFラインの前に使えるスペースが出来ている。負けてしまうのか。ナビスコ杯の1勝は何かのきっかけにならないのか。
そうしたら黒崎監督が思い切った手を打った。後半40分、ファグネルと大島を投入。これがピタリと当たった。
44分、マルシオがドリブルで持ち込み、斜めに走り込んできたファグネルに渡す。と、ファグネルが(行き過ぎていたので)足を伸ばして右足アウトでDFのウラへ出す。そこへ大島が詰めた。大島は頼り甲斐あるなー。この起死回生のチャンスに落ち着いてGK・楢崎の股下を狙った。
試合は1対1のドローで決したから、新潟は依然、リーグ戦未勝利のままだ。勝ち点1を上積みしただけで、「節の数と同じ」に持ってくには最短でも2節かかる。
だけど、これはポジティブな勝ち点1だ。ラッキーではない。やることをやれば結果に結びつく、持ち味を出せば戦える。そうした手応えをチームにもたらした勝ち点1だ。
もうひとつ大きいのは黒崎監督の用兵が当たったことだ。指揮官がノッてるかどうか、勝負勘が当たってるかどうかはチームの空気を左右する。戦術理論も大事だろうが、ここ一番というとき、人間の集団を動かすのはプリミティブなものだ。この人についてけば大丈夫だという直感―。
以前、戦国時代の合戦についての本を読んで、なるほどなぁと思ったことがある。関ヶ原のような大戦の最後、陣形が乱れ、東西南北どこに敵がいるかわからない白兵戦になったとき、要するに兵は強そうな者に本能的について行くのだという。それが死地を生きのびる知恵らしい。腕っぷしの強い者、確信を持った者、ツイてる者、そういうのに兵が寄って来るという。
本当に上昇気流かどうかは知らない。まだわからない。が、チームは兆しをつかんだ。きっかけをつかんだ。
これを本物にしよう。ホームで勝って、黒崎さんの笑顔を見よう。
附記1、風が強い日の試合でした。だからセットプレーは余計イヤだったんだけど。東口はもう第3キーパーじゃないですね。どんなことにも多面性があって、オフのレギュラー級の離脱からこっち、苦戦続きの物語は、こと東口に関して言えば「チャンスをモノにして成長するドリームストーリー」です。「東口の親戚」の視点で見たら、たぶんどの試合も最高なんだろうなぁ。「東口の親戚」が仮に8万人くらいいたらビッグスワンはいつも満杯ですね。東口には早く家庭を持って、まず家族を増やしてもらいたい。←ちがうかー。
2、この試合、ナビスコ杯・C大坂戦の長居から直接、名古屋入りしてミニキャンプを張ったオペレーションはヒットだったと思います。勝った雰囲気のまま、すーっと名古屋戦を迎えることができた。
3、名古屋の公式HPは「English」ってクリックボタンがあるとこが凄いなぁと思います。さすがリネカーの所属したクラブだ。あとアレですね、いや、アレって洒落みたいだけど「アレアレアレ・・、フォルツァ名古屋!アレアレアレ!」ってチャントあるでしょう。前から気になってんだけど、アレはフランス語で、フォルツァはイタリア語なんですよね。こう世界全体に向かっていく感覚なんだと思います。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)下巻読了。いやー、北越戦争どえらいですねー。新潟は、っていうか新潟も分かれてたから長岡はって話なのかも知れないけど、近代のはじめ、「(東北を除く)日本全体」と一戦まじえたことがある(!)。武装中立が崩れた結果とはいえ、とてつもないことです。こりゃ「川中島ダービー」から時代が下ると、新潟の宿敵は西国ですね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!