【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第49回

2010/5/6
「悪い予感は当たってしまった」

 J1第8節、新潟×広島。
 試合終盤、押し込まれるシーンが続いて、これはあぶないと思った。たぶんビッグスワンに来ていたサポーター全員が同じことを思っただろう。悪い予感は当たってしまった。後半45分、広島・山岸智の同点ゴール。
 新潟は9割方つかみかけた「初勝利」を逃す。広島がACLとの過密日程でバテバテだったことを考えれば負けに等しいドローだ。

 誰のミスがあった、押し返してバランスを保てなかったか、そういうのを指摘するのはカンタンだ。
 カンタンだが、大して何にもならない。
 大事なのは「開幕8戦未勝利」という危機的な状況を、どうチーム、ファン、サポーターが団結して切り抜けるかという方だ。
 前を向こう。
 顔を上げて、今こそ戦おう。

 この試合はベンチにまつわる印象的なシーンが二つあった。ちなみに僕はNHK-BS中継だ。
 ひとつは「幻の決勝ゴール」に終わった後半23分、マルシオの勝ち越し弾。ビッグスワンが沸騰したあの瞬間、マルシオがベンチへ駈け寄り、黒崎監督を中心にした歓喜の輪ができた。
 あれがアルビレックス新潟のありのままの姿だ。黒崎監督の求心力は変わらない。勝とう、黒崎さんを男にしよう、そういう感じにまとまっている。それがあるかないかは今後へ向けて決定的な違いだ。

 もうひとつは2失点めを食らう前後のベンチワーク。新潟の交代選手が次々に変わった。42分過ぎ、「酒井OUT→中野IN」が準備され、44分過ぎ、「ヨンチョルOUT→小林慶行IN」に指示が変更、そこで同点ゴールを喫してしまい、「三門OUT→ファグネルIN」に最終的に変更された。まぁ、戦況をにらんで交代選手を変更することは、サッカーではよくあることだ。特に同点にされてからFW投入は当たり前の話。
 だが、試合のしめくくりに失敗した展開を思うと、あれはポイントだった。どうしても迷ったという風に見られてしまう。あるいは動揺を伝えてしまう。いや、こういうのはある程度、結果論で、最初の「酒井OUT→中野IN」が手際よく行われていたら失点しなかったかというと、それはわからない。
 それでもあの危険な時間帯、ベンチワークが迷った、という印象を与えるのはあまりいいことじゃない。ピッチ上にも、スタンドのファン、サポーターにも不安感は伝染したと思う。

 冒頭、「負けに等しいドロー」と書いた。主力を何人も欠き、バテバテの広島相手に何としても勝っておきたかった。チームは上昇気流に乗りそこなった。終盤追いつかれるシーンは去年から繰り返されている。
 じゃ、前向きな要素が何もなかったかというと、チーム自体は方向性が定まってきた感触を受ける。前で奪う意識がはっきりした。マルシオにも今季、初ゴールが生まれた。お前はそんなことばっかり書いてると言われるかも知れないが、あと一歩なのだ。

 今週になって、「大宮・鈴木淳監督」就任の報に衝撃を受けた。何とまぁ、これで下位戦線を争うライバルチームに元新潟の監督が2人揃った。これはアルビ包囲網か。包囲網って鹿島とかにやるもんなんじゃないのか。
 まだシーズンは長いけれど、大宮、湘南と当たる最終2節は一体、どんなことになるのだろう。

 そして、この事態は黒崎監督にとって非常に大きな意味を持つのではないかと想像する。フツーに考えたって、成果を残した前任者と比較される立場はフクザツだ。損な役回りだ。それが反町康治、鈴木淳という2人の前任者と直接戦うことになった。驚くべきドラマだ。
 事態が「黒崎さん、あなたのサッカーは何か?」と問うている。そして、「アルビレックス新潟、お前は何者だ?」と問うている。
 

附記1、俺はね、こうなったら土曜、早起きして観音様へお参りして来るよ。神戸戦必勝あるのみ。

2、その神戸戦で栗原圭介引退セレモニーが行われるんですよね。僕は先週の日曜(4月25日)、日光アイスバックスの選手らと宇都宮・花みずきフェスタというイベントに参加したんですが、栃木SCのPRブースで贈呈用フラッグの寄せ書きやってました。僕も「おつかれさまでした」とメッセージを書かせてもらった。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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