【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第56回

2010/6/24
 「単独ええじゃないか紀行」

 ナビスコ杯(Aグループ)第7節、名古屋×新潟。
 JR夜行バスで早朝、名古屋駅桜通口ターミナル到着。近鉄名古屋駅のコーヒー店でサンドイッチの朝食をとり、急行で宇治山田へ。通学時間帯なので愛知、三重の高校生がいっぱい乗り込んで来る。見慣れない制服の子が自意識を抱え込んでたり、眠そうだったり、友達とヘラヘラしてるのが実によかった。

 伊勢神宮。バスで外宮をすっ飛ばしていきなり内宮へ向かう。参道付近は甘味処の多いおばちゃんの世界。江戸時代は近くに遊郭が軒を連ね、言わばおっさんの世界が展開されていた(観音様の裏手に吉原が所在したような、聖俗表裏の構造)ようだが、今はヘンリンもない。
 五十鈴川を渡ると神域の森だ。古来、日本では森や山が神域を形づくることが多い。僕らはそのプロセスというかアプローチ自体を重んじる国民性だ。お寺さんと違って、行った先に仏像のようなフォルムを持ったものはない。神社は記号的な表現だ。森を歩くうち清浄な気に包まれ、澄みわたった心境になることが既に信仰の形になっている。
 正式に二礼二拍手一礼。今日これから見るナビスコの勝利と、開幕目前のW杯・日本代表勝利を祈願する。特に「矢野貴章に出番をやって下さい」と念入りに祈願。そんなアフリカ大陸の話をされて神様も困る気がするけど、日本代表に関してはここが一番話が通じるんじゃないだろうか。岡田ジャパンは危機的な様相だ。どうも一夜漬けみたいな戦法で初戦に当たるらしい。どうか代表に神助がありますように。神様、僕ね、初めてここまで来たんですよ。今まで何もお願いしたことなかったでしょ(笑)。

 ナビスコ。瑞穂競技場はスタッフの数がべらぼうに多い。アルビ・栗原広報に聞くと「アウェー側スタッフルームにお茶を入れるだけの人がいるんですよ」。クセで自分でコーヒーをいれようとしたら、「私らの仕事を奪わないで下さい、私はその為にいるんです」と注意された由。やっぱりお金あるんだなぁ。
 だけど試合のオペレーションはユルかった。開場後、スタジアムDJは「アルビレックス新潟サポーターの皆さん、グループ突破の可能性が消滅したのに、こんなに大勢来てくださってありがとう!」とマイクパフォーマンス。消滅したのは君たちだ。こっちは可能性残しとるよ。
 あとスタメン&リザーブ発表のとき、電光掲示板が「13・三門雄大、14・三門雄大」と同姓同名の選手がいるらしいことになってた。スタッフの人数いるんだから、それくらいチェックしたらいい。

 試合。名古屋サポが応援を拒否する異例の事態だった。シーンとしたなか、新潟のチャントだけが場内にこだます。それ以上に驚いたのは名古屋の選手のテンションの低さだ。少なくとも僕は公式戦であんなに戦意を失ったチームを見たことがない。試合後、名古屋・ストイコビッチ監督が「何人かの選手はJリーグでプレーする資格がない」と激怒していたそうだが、一体、どうしたことだろう。その点、新潟はホントに真面目だった。早々と先制点を奪い、こりゃ今日は何点とるかわからないぞと思う。

 試合途中から大中祐二さんの隣へ移動し、PCで他会場の経過を追う。FC東京が負けていた。仙台は2対0でリードしているが、ここは大宮・鈴木淳監督にサポートを頼もう。これはひょっとして起死回生の勝ち抜け劇を見てしまうのか。
 と、しばらくして大中さんが「あぁー」と声を出す。FC東京が1対1に追いついた。大宮もいっこうに仙台に追いすがる気配がない。しまった、お伊勢さんにナビスコ勝利じゃなく勝ち抜けの方をお願いするんだった(!)。

 もちろん完勝だ。そりゃそうなる。戦意あるプロチームは戦意のないプロチームに完勝する。こういう試合もあるんだなぁ。思い出に残るぐらい不思議な試合を見た。新潟は惜しくもグループリーグ敗退。


附記1、場内の異様さが印象に残ります。記者席近くに、名古屋がバックパスをする度に「ナイス・バックパス!」と大声で叫ぶ客がいて、その屈折した感じがつらかった。あと地元の記者さんが名古屋がミスすると笑うんですよね。声あげて笑うんですよ。

2、新潟は最後の選手交代まで最善手を打ち続けました。黒崎さんはタイムアップまで勝ち抜けの可能性を追った。来年は突破すると思います。

3、伊勢神宮の御加護か、日本代表はW杯初戦に見事勝利しました! そして矢野貴章選手は交代出場で晴れのピッチに立った。詳しくは来週「散歩道・W杯編」でふれることにしますが、まずは皆さん、おめでとうございます!

4、私信ふたつ。発売中の「サッカー批評」(47号、双葉社)に僕がアルビレックス新潟・池田弘会長にインタビューした記事が掲載されています。当日はこのインタビューを終えて、栗原広報のクルマに乗っけてもらってセイローへ向かったのでした。あと20日・日曜26時から(つまり正確には21日、2時から)、文化放送でW杯の3時間トーク特番をやります。出演は僕のほか、文化放送・長谷川太アナ(カメルーン戦のラジオ実況を担当)と北條聡「サッカーマガジン」編集長。時間帯も時間帯だし、第一、新潟にネットされてないんだけど、聴ける方はよかったら何らかの方法で聴いて下さい。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!


ユニフォームパートナー