【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第59回

2010/7/15
「ウェルカメでもなく、ウェルコメ」

 本稿執筆現在は7月6日14時過ぎである。ぼんやりしている。W杯は準決勝を控え、ドイツの評判が高まっている。ベスト8の段階で「南米優勢のW杯」と報じられていたものが、ブラジル&アルゼンチンの敗退もあって、「欧州優勢のW杯」へと変貌した。
 
 個人的にはブラジルの意外なもろさがショックだった。「史上最も守りの堅いセレソン」と言われたドゥンガのブラジルがバタバタにあわてた姿をさらし、姿を消す。僕の住むマンションの管理人・村上さんはブラジル人(戦後、新移民としてブラジルへ渡る。現在は出稼ぎに戻って来られた状態)なのだ。最初、立ち話で「村上さんはどちらにいらっしゃったんですか?」と尋ね、「ブラジリアですね」と言われたときは絶句した。首都ブラジリアで「クラッキズ」というハンバーガー店を経営し、同名のフットサルチームのオーナー兼監督兼選手であった由。「チームにあんなにお金使わなかったら、こうして日本に戻って働かなくてもよかったんですけどねー」と村上さんの奥さんが笑う。

 今回の敗退で村上さん御夫妻もさすがに元気がない。ブラジルで働いている3人のムラカミーニョたちからもぱったりメールが来ないという。うちのマンションは「ゴミ出しに行ったついでにフラメンゴの話ができる」、間違いなく都内有数、サッカー偏差値の高いマンションだが、しばらくドゥンガの話題は禁句だと思う。

 ドゥンガといえば今大会は服装が気になった。何かこうカラフルな襟のインナーにハーフ丈のブルゾンだった。あれは私服だろうか? 方向としてはパパスの服みたいな感じ。休日のお父さんファッション。聞くところによると南アの新聞でベストドレッサー賞に選ばれたらしい。僕はW杯ってあれもアリなのかと思った。

 読者よ、思うのだがこの世で最大に服装の自由が認められている職業は、サッカーの監督さんじゃないか。だって「スーツでもいいし、ジャージでもいい」仕事って他にありますか。ドゥンガのおかげで「私服でもいい(らしい)」ことが判明してしまった。

 「サイトー君、明日は得意先をまわるからスーツでもいいし、ジャージでもいい。何か着てきてくれ」
 「田中課長、私服でも構いませんか?」 
 「あぁ、裸じゃなかったら何でもいいよ」
 
 そんな仕事はないでしょう。思えば新潟・黒崎久志監督も既に今季、スーツとジャージの両方で指揮をとっている。最近はもっぱらジャージ派だ。先月、ナビスコ杯で確認したところ、(新潟は移動着がスーツだから)黒崎さんはまずスーツ姿でチームバスを降り会場入り、着替えてジャージ姿で指揮をとり、又、着替えてスーツ姿で会場を後にされている。一見、ものぐさ風に見えるジャージ姿はその実、余計に着替えの手間がかかっている。

 そういえば私服のケースをもうひとつ思い出した。ドイツW杯のアジア予選時、日本代表・ジーコ監督が私服だった。途中からサッカー協会の要請でダンヒル(代表サプライヤー)のスーツを着用するようになり、その後はやっぱりネクタイが嫌いなのかジャージに方針転換したが、あの人はインナーがTシャツで、ジャケット、Gパンって格好が一番のお気に入りだった。ほっといたらドイツW杯でもGパンで指揮をとったと思う。つまり、どうやらGパンもアリらしいのだ。

 「スーツでもいいし、ジャージでもいい」職業を色々考えたが、学校の先生しか思いつかない。僕の通った中学、高校には英語や数学教師なのに上下ジャージという先生がいた。去年、大阪府の橋下徹知事が「教師のジーンズ、ジャージを禁止すべきだ」と発言、議論を呼んだくらいだから、今でもそういう先生がおられるのだろう。

●ホンジュラスのウェルコメ選手もびっくり! 米は新潟米!

 おられるのだろうと書いて2日ばかり原稿を放置してしまった。申し訳ない。続きをどう進めるつもりだったのか思い出せない。しょうがないので新潟米の自主的なCMを入れたが、現在、8日朝6時だ。びっくりしたなぁ、準決勝が終わっている。今大会ベストチームの呼び声高かったドイツが消えた。決勝カードはどちらが勝っても初優勝のオランダ×スペインだ。

 準決勝で敗れたウルグアイ、ドイツにはそれぞれ「最後のぎりぎりになってもあきらめない心」「リスクをとってチャレンジすることの難しさ、大切さ」を教えてもらった気がしている。あとドイツのレーブ監督にはセーターで指揮をとるのもアリだと教えてもらった気がしている。

附記1、ま、ミーハーといえばミーハーなんですけど、大会前、TBSラジオで広言した僕の優勝予想はスペインでした。グループリーグ初戦でいきなりスイスに敗れる等して、ちょっとキビシイかなぁと思ってたので決勝進出が嬉しいです(←プジョルのヘッドの瞬間、「来たーっ!」と大騒ぎ)。何か調子が出ないまま勝ち進み、大詰めでエンジンかかってきた感じですね。

2、10日21時半〜、再び『ジャンルカなう』(スカパー)に出演予定です。先週、お問い合わせの多かった「矢野の8分間」は前回の散歩道に大筋書いたじゃないですか。ああいうトーク番組はその場の流れで話がどっちへ行くかわからんもんです。悪しからず悪しからず。

3、矢野貴章といえば、『Number』(7月14日臨時増刊号)のイビチャ・オシム氏のパラグアイ戦インタビューに「もうひとりストライカーを置けば全然違っていた。矢野のように大きくて空中戦に強いストライカーが前線にいれば、少なくともボールはキープできるし、相手DFを後ろに下げることもできた。彼が何度か戦いに勝てば、松井や大久保といった小さな選手たちがその状況をうまく利用できた」(イビチャ・オシム「日本はすべてを試みたか」より)とのコメントが掲載されています。
 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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