【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第64回

2010/8/19
「西京極初勝利」

 J1第17節、京都×新潟。
 なるほどなぁという話。去年まで川崎フロンターレを率いておられた関塚隆氏は、リーグ戦日程が発表になると最初に京都戦がいつなのか確認したそうだ。もちろん西京極のアウェー戦。京都の暑さは定評がある。もしも真夏に試合が組まれていたら、覚悟を決めるしかない。
 で、新潟はよりにもよって「記録的な猛暑の10年夏」ど真ん中で西京極だ。苦戦必至? そもそも夏場は苦手の戦績傾向だ。
 そうしたら当日、キックオフ前の気温が31.6℃、京都としては何日かぶりに涼しい(?)夜になった。いや、31.6℃は充分暑いのだが、前日までずっと35℃以上あった日中の最高気温がこの日は33℃で「猛暑日」ではなかったのだ。幸いなことに風もあった。夏の西京極でこれより多くは望めない。

 戦績傾向といえば、もっと根本的な問題として新潟は西京極未勝利なんである。これは母数が少ないうちに勝って、悪いジンクスを破らなければいけない。
 それにはおあつらえ向きの好機到来だ。チームは充実のときを迎えている。さすがにこれだけ負けてないとサッカーメディアが取材にくる。
 対戦相手の京都は工事中だ。シーズン途中の監督交代劇で秋田体制になったばかり。報道によると、秋田監督はチームの意思統一から着手しているらしい。どんなサッカーをしてくるのか、まだわからない。
 ただ「最下位チーム」と侮(あなど)ることだけは避けたい。今季、ナビスコで負けている相手だ。「今季、負けている相手と、まだ勝ったことのない会場で戦う」事実を忘れたら手ひどい目にあう。

 試合は興味深い入りだった。京都の布陣は4−3−3だったんだけど、意図がわからない。僕の目には守備ブロックを形成しようとしてる感じに見えた。ま、獲って前線の3枚へすばやく送るイメージなのかなぁ。僕が連想したのは、W杯のスイスみたいな守備ブロックだ。スペースを与えない戦法。だけど、ホントにそうだったのかどうかはわからない。不徹底だった。
 この時間帯、新潟の課題は要するに「引いた相手をどう崩すか」ではなかったか。主戦場はチョ・ヨンチョルのいる左サイドになった。ヨンチョルは韓国A代表に初選出されて、実に張り切っている。果敢にドリブルを仕掛け、切り込んでいく。そこに酒井高徳がオーバーラップしてからんだり。京都守備の型崩れはこのサイドから起きそうだ。
 もうひとつの注目ポイントはマルシオの位置取りだった。右サイドから中央付近を行きつ戻りつ。ギャップのできそうな場所を探していた。マルシオへ一本縦パスが入るとチャンスが生まれる。この、まだ何も起きていないが、起きる気配が高まっていく時間帯が面白かった。攻城戦で工兵か何かがあちこちに時限爆弾を仕掛けてまわってるような感覚。

 火の手は左サイドから上がった。ヨンチョルだ。受けてひとりでDFのウラへ抜けてシュートまで行ってしまった。28分、韓国代表としての将来性を予感させるナイスゴール!

 すると秋田監督はすぐに布陣をやり慣れた4−4−2に戻す。局面を落ち着かせて火消しをはかった。試合は新しいバランスのなかで、又、やり直しになる。今度はミシェウが工兵として爆弾を仕掛けにまわる。そんなことやってるうちに1点リードで前半終了。

 後半早々、事件が起きる。ミシェウがレッドカードをもらって一発退場。これはTVを見てて何が起きたのかまったくわからなかった。とにかく、これで又、バランスが変わった。新潟は10人で残り35分ほどを戦わなきゃならない。

 こりゃ大変なことになったと心配して見てたら、あまり大変なことにならなかった。京都の攻撃がまったく迫力がない。新潟は余裕を持って守りきった。危ない場面は55分のドゥトラに突破されたシーン、67分、中山のクロスをディエゴに流し込まれたシーンくらいか。どちらもオフサイドだった。

 ムードは1点差逃げ切りだったが、78分、マルシオが又も大仕事をする。CKからの直接ゴール。記録はオウンゴールになったが、仙台戦の再現だ。あんな芸術的ゴールをオウン扱いにするなんてちょっと無粋だなぁと感じてしまった。試合はこれで決する。京都は完全に戦意喪失。

 読者よ、11戦負けなしだ。そして上位に食らいつける位置まで来た。リーグ戦はこの試合で折り返し。
これ後半戦、去年より楽しみですよ。僕はとにかく鹿島戦以来、早く次の試合が見たくてたまらない。何かこのチーム、毎試合良くなってる気がするんですよ。毎試合ポジティブな発見があるんですよ。


附記1、次節・山形戦はミシェウさん抜きで戦うわけですよね。ミシェウさんが加わってから上昇気流にのったチームが、彼抜きで戦う。どうなんのかなぁ。黒崎監督は「本間欠場の鹿島戦」プランに匹敵する「▲」を繰り出すのか。

2、何かどっかまだ勝ってないスタジアムはないんですか。今だったら端からジンクス破りできそうな気がします。ウェンブリーとかやってます? ウェンブリー行っても勝つんじゃないかなぁ。

3、南魚沼のオカムラさんから「八色西瓜」を送っていただきました。3Lですよ。うちの冷蔵庫史上、最大にして最高のスイカです。糖度が高くて、食感のサクッとした感じがたまらない。おかげ様で椎間板ヘルニアもだいぶ良くなりました。お盆明けにはスワンへうかがう予定です。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!


ユニフォームパートナー