【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第65回

2010/8/26
 「お盆連戦」

 J1第18節、山形×新潟。
 山形のゲームプランに見事にハマッた。山形強い。現時点に限ればJ最強かも知れない。小林伸二監督は腕があるねぇ。その戦術方針をチームが一糸乱れず実行する。これも地方クラブのひとつの個性だ。経験豊富な監督さんの「老舗名店の味」(?)。
 こと監督さんに関して新潟は全く別の戦略を採用していて、その対照の妙もあった。新潟はやる気のある若手指導者の登竜門だ。反町康治、鈴木淳、黒崎久志と3代続けて少なくともJ1未経験の監督さんを迎え、結果に結びつけている。これは口で言うほどカンタンなことじゃない。

 で、この18節の戦いは「つづきもの」だ。W杯前、ビッグスワンで行われた第12節を踏まえないと面白味が半減する。事実上の「矢野貴章壮行試合」だった一戦。宮沢克行にやられた後、逆転勝利した試合。あの試合は山形にとっても意味があった。小林監督はあの負けでチームの方針変更を決意する。4-3-3(別の言い方をするなら4-1-4-1)にシステムを変える。守備の積極性を意識づけようというアイデアだ。
 新潟サポは去年、鈴木淳監督が指揮した「09年アルビ」をイメージしてもいいし、あるいは岡田武史監督の「10年W杯日本代表」を思い浮かべてもいい。味付けは微妙に異なるが、大前提は4バックの前にアンカーを置いた堅守、そして攻守の切り替えだ。

 だから山形は心中、期するものがあった。戦術変更のきっかけをくれた新潟をホームに迎え、きっちりお返しがしたい。新潟はミシェウ出場停止で、こじ開ける力が不足したのも影響した。大島に惜しいヘッドがあったけれど、注文通りの完封負けを喫する。ボールは持たせてくれるのだ。安全なところでは好きにまわさせてくれる。が、危険ゾーンは立ち入り禁止にされる。今日のところはお見事と称賛しておいて、今後の課題としよう。しかし、新潟サポの多くがそうじゃないかと思うが、つい山形に好感を持ってしまう。「天地人ダービー」はダービーというより、さわやかな「兄弟対決」の色彩がある。これで今年の対戦はなくなった。友軍にエールを送り、互いにリーグ戦の援護射撃を誓おう。

 J1第19節、新潟×清水。
 大一番。今季、J前半戦の主役を張った清水をホームに迎える。そして、その清水に日本平で唯一、土をつけたのが新潟だ。両軍サポのみならず、サッカーファン注目の一戦といっていい。
 とはいえ、コンディション的にはきびしい試合だった。猛暑のさなか、清水は中2日でスワンに乗り込んだ。ヨンセンに完全休養を与える等、事実上のターンオーバー態勢だ。一方、新潟は山形戦が前節唯一の金曜開催だった(友軍の援護?)のが幸いして、中3日で臨むことができる。しかもホームだ。連敗は何としても避けたい。

 で、フタを開けたらびっくり仰天の完勝だった。清水は今季ワーストの試合内容じゃなかったか。もう、全然動かない。プレスに来ないから自在に攻撃が作れる。何ていうんですかねぇ、こう、ほとんど静止画像のような清水相手に新潟だけ倍速再生で動いてるような感じ。

 これは夏休み3万大観衆はウハウハだった。祭り太鼓だ。わっしょいわっしょい。お子さんの思い出に、宿題の絵日記に、この大一番いかがっすかー。前半32分、マルシオのFK得点(又してもJ最高峰の、スーパーすぎるゴール!)に始まり、42分ヨンチョル、後半4分矢野貴章と「東映まんがまつり」的人気者大集合のゴールラッシュ。スコアの上では最後、清水・原に1点返され、PKをもらって1点追加したが、勝負は矢野のゴールのところでついていた。

 おかげで新潟は本間、マルシオを早々と下げ、新外国人ジョン・パウロを試し、明堂を3戦連続起用する等、余裕を持った試合運びができた。わからないものだ。スタメンを見たときは、ターンオーバーできる選手層をうらやましく思ったものだが、結局、清水は藤本を後半使わざるを得なくなった。それに対し、新潟はベストメンバーを組み、そしてキーマンを途中交代で休ませた。

 さぁ、土曜の川崎戦が楽しみになった。4対1で清水を破った新潟、4対0で名古屋を葬った川崎。お盆連戦の最後はガチですよ。そしてホーム&中1日分のアドバンテージは、今度も新潟にあります。


附記1、ぎっくり腰の安静期間が終わり、昨日(8月18日)湘南×京都戦から現場復帰しました。死闘のドローでした。平塚とんでもなく蒸してた。僕はこの移動(鶯谷→平塚→南千住)で初めて青春18キップを使いました。初心者としては、まずこのくらいから。

2、で、次は川崎戦投入の予定です。腰、大丈夫かなぁ。図書館で未読のキング(『回想のビュイック8』上巻、新潮文庫)を借りたから車中、間はもつと思うけど。

3、だけど、途中下車自由ってすごいことですね。感動した。ちょっと早めの電車にして、長岡散策しようかなぁ。長岡で食った方がいいもんって何でしょう?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!



ユニフォームパートナー