【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第68回

2010/9/16
「新風」

 天皇杯2回戦、新潟×金沢。
 青春18きっぷで最初の乗り換え駅・高崎へ向かいながら、何故、こんな日程になってしまったんだろうと思った。相手チーム、ツエーゲン金沢は一昨日(9月3日)、石川県西部緑地公園陸上競技場でJAPANサッカーカレッジ(新潟)を破ったばかりだ。実に中一日。しかも、今年の猛暑だ。いかにジャイアント・キリング(大番狂わせ)に燃えてるとしても、実際問題、身体の疲れをとるのがやっとだと思う。 
 ツエーゲン金沢はJFL9位(9月5日現在)の好チーム。「石川からJリーグへ、石川から世界へ。」の大志を抱き、着々と歩を進めている。NHK『土曜スポーツタイム』を御覧になった読者も多いだろう。元日本代表FW、久保竜彦の移籍はクラブの認知度をグッとアップさせた。
 他に馴じみのある選手を挙げると山根厳(柏)、根本裕一(千葉)だろうか。あるいは当コラム読者にとっては長谷部彩翔(JAPANサッカーカレッジ)だろうか。

 いずれにしても負けてはならない相手であり、負けてはならないコンディションだ。再び宮内駅へ降りたち、いち井の日曜定休にショックを受けた後、地元のWさんの案内で「麺香房・ぶしや」を訪れた僕は行列に並びながら強く思ったのだった。
 驚いたことにWさんのクルマは、ときどき「あ、道間違えた」と折り返したりしながら、見附市の和菓子店・田の口屋等を経て高速道へ乗る。僕は「黒糖まんじゅう/美都景(みつけ)」を口にほおばった状態で決戦の地・ビッグスワンへたどり着くことになった。サル・キジっぷりもここまで来ると本物ではないか。

 試合。インターナショナル・マッチデーの関係で新潟のスタメンに新味がある。日本代表追加招集の永田充に代わって鈴木大輔、韓国代表招集のチョ・ヨンチョルに代わって田中亜土夢。(U-19日本代表招集・酒井高徳に代わって内田潤もあるが、これは当然というか目新しさはない)。
 僕の注目は田中亜土夢だ。「ポスト矢野貴章」システムの可能性を探りたい。

 貴章の穴をどう埋めるか。もちろんあれだけ特徴を持った選手の代役をこなすのは、誰であっても難しいことだ。代役ではなく、新しい配役と考えた方がいい。例えば大島秀夫であれば、ポストプレーの上手さを生かして、大島1トップ+3シャドーみたいなイメージがパッと浮かぶ。いや、これはプロのコーチが言ってるのではなく、僕あたりが言ってることだからあくまでイメージの話。

 田中亜土夢はどうかというと、僕のイメージは松下年宏だった。去年、松下がやっていた役割を亜土夢ならすんなりこなしてしまうんじゃないか。
 そうしたら発見があった。前半30分くらいに接触プレーで流血してから(?)、亜土夢の動きがめちゃめちゃ良くなる。もしかしていつもハチマキしてた方がいいんじゃないか。
 亜土夢は「小さなマルシオ」だった。後半に入って、あり得ないスルーパスを通すなど、その特徴が際立ったが、マルシオ&ミシェウと組むと「前線に上手い出し手が3人いる」感じになる。非常に面白い。誰が出して誰が飛び出すのか、相手からするとしぼれないと思う。
 これはうまく機能すれば変幻自在の攻撃だ。機能しなければ「出し手だけ多くて決める人間がいない」状態になる。僕は田中亜土夢の意欲を買いたい。この試合は亜土夢の提案でもあった。ミシェウを加えて攻めが多彩になったチームにもう1枚、加えたらどうか。

 「ポスト貴章」は例えば明堂和也のようなスピードタイプを置くのも面白いけれど、亜土夢の提案は一考の値打ちがある。貴章移籍はチームに新風をもたらした。これは良い傾向じゃないか。

 で、スコアを言うと3対0だ。そりゃそうなる。前半、金沢がなかなか良かったので、もう少しいい状態で試合を見たかった。マルシオの2ゴールはさすがだが、嬉しかったのは鈴木大輔のゴールだ。鈴木大輔「持ってる」んじゃないですか。


附記1、しかし、久保竜彦フツーに怖かったですね。全然やれるなぁ。金沢サポの熱さもよく伝わってきた。いつかJの舞台で戦えるといいです。

2、永田さん代表戦デビューおめでとうございます。やっぱり試合に出ると格別の嬉しさがありますね。

3、僕は帰路、前回同様「ムーンライトえちご」利用だったんですけど、こないだは新潟から乗って、今回は新津から乗ってみる作戦でした。面白いことに新津→池袋だと指定席券310円(新潟→池袋510円)なんですね。だんだん新潟経験値がアップしていく。列車を待つ間、新津駅前のコンビニで「もも太郎」買って食べた。何かJRに「もも太郎」おごってもらった気分です。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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