【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第69回

2010/9/23
「連敗」

 J1第22節、新潟×G大坂。
 スタメンを見て、本当におおーっと声が出たのだ。
 19歳、加藤大リーグ戦初先発。名前のせいでうっかりすると「大リーグ」と読めてしまうんだけど、もちろんMLBの話ではない。マルシオ・リシャルデス欠場(9日の練習で左太もも負傷)という、緊急事態に対する黒崎監督の回答だ。これはすごいんじゃないか。
 
 チームは目下、「ポスト矢野貴章」システムの模索中だ。そこへ大黒柱のマルシオまで欠けてしまった。フツーはやばいですよ。まいちゃったなー、どうすりゃいいのよ、と頭を抱えるところでしょう。ま、黒崎さんだってにんげんだもの、頭は抱えたと思うんだけど、そこから反転して積極策へ持っていく力がすごい。加藤起用でポーンと突き抜けてしまった。面白いですねー。それひとつで試合がめっちゃポジティブな印象に変わる。

 黒崎監督の方向性は一貫してチームの積極性を引き出すところにある。加藤起用は「責任はオレがとる、勝負して来い!」だ。おおーっと声が出ますよ。見てる側としたら、こりゃ面白いことになったぞ、加藤ガンバレガンバレ、ですよ。さっきまで「貴章移籍」「マルシオ欠場」とマイナスばかり見てたのがふっ飛んで、プラスを見つめてみようという気になる。

 対戦相手のガンバはナビスコ杯を戦って中2日。遠藤、明神ら主力が欠場。ビッグスワンの芝も荒れてるし、看板の「パスサッカー」はハナから捨ててるだろう。つまり、「皆、とにかくまずルーカスを見るカウンター」戦法だ。

 試合。主題は18節・山形戦同様じゃなかったか。「守りを固めた相手をどう崩すか」。西野監督はあの試合のビデオを参考にした可能性がある。新潟はある程度ボールを持たせても、重心を後ろめにしてブロック形成すればしのげる、という判断だ。もちろんその展開で一番厄介な「マルシオのFK」という脅威がないことも計算に入ってたと思う。

 僕の期待はチョ・ヨンチョルだった。打開力という点では、もはやJを代表するひとりではないか。とにかくタテに切り込んでいく。この日は腕をプロテクターで固めた状態だったが、開始早々、ロングボールからウラを突いて、ミシェウに折り返し好機を演出する意欲を見せる。
 
 「ポスト貴章」を考えると、タテの推進力がひとつの考えどころだ。貴章の持ち味は(色々あるけど)、奪って持ち上がる迫力である。相手ボランチを追い回す仕事は分担してカバーするとして、持ち上がる
力が足りない。現状、それを補っているのはヨンチョルだ。ヨンチョルにはエリア内の打開という意味でも、逆襲の切り替えでも、タテ方向の意識がものすごく感じられる。

 もっともこの日、ガンバはプレスに来ない。新潟はポゼッションを握り、攻めが組み立てられる展開にあった。注目の加藤も安田理大とのマッチアップでいいところを見せる。黒崎監督の起用は成功したといっていい。

 攻勢。西、内田の両サイドが攻撃参加して、ガンバを脅かす。大島に惜しいシーンがあった。大島に爆発してもらいたいなー。相手の嫌がる仕事をきっちりしてるんだけど、最後のところがまだ決まらない。

 前半、これは決まったと思ったのは終了目前、西がループシュートを放ったところだった。いやー、惜しかったねー。西はホントにゴール感覚がある。敵GK・藤ヶ谷がイヤーな顔をしていた。0対0で折り返し。

 後半スタート。4分、新潟が見事な崩しを披露する。ミシェウが左へ上がった本間へパス、本間が逆サイドの西へ振る。西の折り返しをヨンチョル豪快に決めた。サイドチェンジ&マイナスの折り返しという、崩しのお手本みたいな形。ヨンチョルはとうとうJ得点王が視野に入ってきた。進境著しいとはこのことだ。そんなこと開幕前、誰が予想しましたか。

 悔しいのは勝てる試合をその後、ひっくり返されたことだ。いやー、勝ち切らなきゃいけない試合だった。後半9分、CKから高木のヘッドで同点にされる。ガンバしぶといなー。この辺りは修羅場をくぐってきた強みだ。

 切り札勝負。新潟は田中亜土夢、川又堅碁。ガンバはイ・グノ、ドド。終了間際、ドドにやられた。ちっきしょう、あれはどうにもならんかったかなぁ。
 ずっと攻勢を続けた試合だけに悔いが残る。勝てた。絶対に勝てた。
 会見での黒崎監督の言葉は実感だろう。
 「選手にも話したが、すごくいいゲームができたと思う。だからこそ悔しさも倍くらいある」

 新潟は今季初の連敗。踏ん張りどころだ。チームの感じはぜんぜん悪くない。ガンバにはいい勉強をさせてもらったと思って、ポジティブに行こう。ペドロ・ジュニオールや松下がいなくなったことで、ヨンチョルは本格化したじゃないか。


附記1、この日、アヤを作った要素をもうひとつ挙げると、ピッチのひどさでした。これは両軍監督が会見でコメントしている。日頃、素晴らしい芝を管理してくれてるビッグスワンには申し訳ないけど、あの状態では攻撃の連動性がある程度、途切れる。猛暑の後遺症ってことなんでしょうか。

2、とはいえ、条件はイーブンですからね。

3、僕はこの週末、風邪をこじらせてゼンソクの発作が出ちゃってヘロヘロでした。もう大丈夫です。で、わかったんですけど、ライターの仕事はある意味「筆談ホステス」ですね。いや、どこもホステスじゃないけど。息が続かなくても(電話とかがしんどくても)原稿は書ける。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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