【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第70回

2010/9/30
「高徳エクスプレス」

 J1第23節、新潟×京都。
 ミニミニ豆知識から入ろう。JR四国にその名も「高徳線」という鉄道路線がある。営業キロ数・74.5km。もちろんW杯南ア大会の日本代表バックアップメンバーに選出された酒井高徳を顕彰すべく命名されたものだ。
 ウソをつきました。これは高松駅と徳島駅を結ぶ路線なので「高」「徳」線なのだった。読み方も「こうとくせん」。四国の都市間交通では、他に大川自動車と徳島バスが共同運行する高速バス「高徳エクスプレス」に注目したい。凄い名前だ。ビッグスワンにそういうゲーフラが立っても何の違和感もない。ファンなら一度は乗車して、意味なくうどんを食べたり、フィッシュカツを食べたりしたいですね。当然ながら「高徳エクスプレス」のネーミングもW杯南ア大会バックアップメンバー・酒井高徳に由来している。ウソをつきました。

 一方、「高徳院大仏」についてはどうか。いやもう、何が「一方」だかわからなくなってるわけだが、言うまでもなくW杯南ア大会バックアップメンバー・酒井高徳を顕彰する目的で建立された大仏なのだ。ウソをつきました。高徳院(こうとくいん)とは鎌倉市長谷に所在する名刹であり、通称・鎌倉大仏で知られる。付近はかつて「おさらぎ」という地名であったことから、「大仏」と書いて「おさらぎ」と読ませる例を生む。『鞍馬天狗』で名高い作家・大佛次郎はここからペンネームをとった。余裕があれば秋の一日、ファンならずとも是非、足を運びたい大仏じゃなかろうか。

 というわけで今週は酒井高徳にスポットを当てた。別にスポット当たってない気もするが、もう予定の半分くらいこんな話を書いているのである。サッカー専門誌でも大注目を集めている。京都戦は日本代表のザッケローニ新監督が視察に訪れたが、半分は高徳を見に来たんじゃないのか。
 そしてこの日、黒崎監督は欠場のマルシオに代えて、高徳をサイドハーフに起用するという新機軸を打ち出した。
 「高徳には前に行く力を求めていた。背後を狙っていく動きもできる。そういうプレーはしてくれた」(試合後、黒崎久志監督コメント)
 僕は、おお、この手があったかと興味深く見た。かなり矢野貴章っぽい起用法だ。「前に行く力」、そして敵を追いまわす守備力。サイドバックの運動量があれば高徳は「もうひとりの貴章」に育つかも知れない。これも「ポスト貴章」システムのビッグチャレンジだ。もちろんサイドバックに西、内田という人材がいて初めて成立する話。

 酒井高徳は意欲的だった。ウソではありません。元々、前へ顔を出すのが好きな選手である。攻守ともに及第点は与えてもいいだろう。ただ「マルシオや貴章の代わり」と考えると(酷ではあるけれど)、決定的な仕事が足りない。
 この試合はひとことで言って「新潟が攻めあぐねた試合」だった。攻めの連携がもうひとつかみ合ってない。早い話、クリエイティブなパスの出し手がミシェウに限定された。高徳もクロスを入れていたが、単調。単調というのは出し手の問題でもあるけれど、受け手の信頼やイメージ共有の問題でもある。もっとわかり合うには時間が必要なのだろう。チームとしても、もっとスペースへ動いてパスを受ける感覚が欲しかった。

 京都は想像通り、カウンター命の守備的戦術。前節、神戸戦で秋田体制初勝利を挙げたこともあって、浮上のきっかけを逃すまいとひたむきだった。まぁ、後ろの方しぶといしぶとい。新潟はCKのこぼれから先に失点したが、あわてる必要はない。こじ開けられる相手だ。
 昔、F1のことを「走る実験室」と呼んだりしたのを思い出す。最高峰のモーターレースを戦いながら、新技術を果敢に導入した(その新技術はいずれ、市販車へ降りてくるという意味で「走る実験室」だったが、特殊な技術が多くて実はあんまり降りてこなかった。ま、自動車メーカーのタテマエだった)わけだが、黒崎アルビも同様に走りながら実験し、実験しながら走っていると思う。

 結果を言えばこじ開けられなかった。PKで1点返し、ドローにするのがやっとだった。が、僕は実験しながら連敗を止めたことを前向きにとらえたい。今週は何故かあっという間に紙数が尽きてしまった。


附記1、先週、書き忘れたんですが、酒井高徳選手ご結婚おめでとうございます。内田潤選手は200試合出場おめでとうございます。

2、僕はテレビ観戦だったんですが、スカパー実況の鈴木英門アナ、公平中立を期そうという気持ちが前面に出すぎて、最後の方「京都サンガ応援放送」みたいになってましたね。まぁ、そのくらい「放っとくとアルビ寄りになってしまう自分」を意識されてるんだと思います。

3、宣伝ふたつ。友人の北尾トロ氏が自費で『季刊レポ』誌を創刊しました。僕も連載持ってるんですけど、これ本当に面白いですよ。僕はトロさんの書いた「奥崎謙三のラブレター」笑ったなぁ。興味のある方は『季刊レポ』で検索してください。公式サイトで申し込めます。ちなみにこの雑誌、トロさんや僕が切手貼ったり、発送業務してるんですよ。あと新刊『我輩はゲームである 其の弐』(集英社)が出ました。少年向けゲーム誌『Vジャンプ』の長寿連載をまとめたものです。しりあがり寿さんが書いてくれた僕のイラスト(和服姿)がカバー表紙。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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