【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第71回

2010/10/7
「覚悟の一戦」

J1第24節、浦和×新潟。
 苦戦必至。埼スタへ駈けつけた新潟サポーターは覚悟を固めていたと思う。ただでさえ分が悪い相手&会場である上にマルシオ、ミシェウの欠場が濃厚だ。「飛車・角落ち」と表現したメディアもあった。

 新潟は長いこと「ブラジル人頼みのクソサッカー」という品のない物言いに耐えてきた。「ブラジル人頼みの」の部分が「マルシオ頼みの」になることもある。まぁ、定型化した悪口みたいなやつだ。実際、アルビレックス新潟の歴代ブラジル人選手はかなり優秀で、これはむしろ強化部の眼力を誇るべき事柄だろうと思う。又、Jクラブでブラジル人選手の世話にならなかったところがあったら、不勉強な僕に教えてもらいたい。

 「飛車・角落ち」上等上等。やってやろうじゃないの。浦和復調のウワサも上等上等。あんた、これで勝ったら「マルシオがいないと勝てない」「埼スタ・浦和戦に勝てない」的な鬼門まとめてブレークですよ。スポーツってのはチャレンジがないと面白くないんじゃないの?

 チャレンジ1年生! いや、意味わからんけど。こうなったら1年生に戻って、基本の基本、大原則から始めよう。サッカーの基本とは何か? 気持ちで負けないことだ。一対一の積み重ねが全体を左右する。球際激しく行こう。タフな戦いに持ち込もう。新潟は何もブラジル人に任せっきりで過酷なJ1戦線を生き残ってきたわけじゃない。
 最大のストロングポイントは粘りだ。この持ち味は監督さんが代わっても選手が代わっても、脈々と受け継がれている。粘っこく行こう。浦和だって「追加点」が課題に挙げられてるチームだ。ロースコアの攻防なら充分、勝機はあるでしょう。

 僕は黒崎さんは引かないと踏んだ。引いてどうなるもんでもないし、むしろラインを上げて真っ向勝負に行くだろうと思った。そしたら試合始まって、予想のはるか上を行った。とんでもないテンションだ。新潟のハードチェックに浦和がたじたじになる。
 こりゃすんごいこと考えたなぁ。このスーパー・ハイテンションは、もって10分程度だろうけど、アウェーお構いなくペースを握る気だ。前線の4枚はFWが大島、田中亜土夢の前橋育英コンビ。サイドハーフが右・ヨンチョル、左に加藤大。

 実際、前半は新潟の試合だった。浦和の得点機は29分、エジミウソンが右足のアウトでゴール右隅を狙った超絶シュートくらいじゃなかったか。これはポストにはばまれ、
助かった。
 といって新潟も圧力を加えているんだが、攻めがなかなか形にならない。今の浦和は守りのチームだ。ま、センターバックに山田暢久が起用されてることでもわかるように読みで守る。この日は細貝、柏木の2ボランチがよく働いていた。

 前半のホットポイントはチョ・ヨンチョルとサヌのマッチアップだった。ここは両軍の意識づけがはっきり見てとれた。新潟からすると、サヌが穴だと見ているのだろう。浦和はヨンチョルを殺しておきたい。サヌのスピード、運動量は確かにめんどくさい。
 まさにそのサイドから決定機が訪れる。42分だった。自陣、大島の落としからヨンチョルが単騎、右サイドを持ち上がる。完全に裏をとった。交代出場の坪井が必死に追走するが、坪井のスピードでもヨンチョルに追いつけない。そのままシュート!これ、浦和GK・山岸が触ったんだよなぁ。よく反応したなぁ山岸。

 僕は新潟の狙いが「前半ゼロゼロ」じゃなく「前半リード」だと思ったので、このとき、ちょっと気落ちしたのだ。ことによるとチームも気落ちしていたのかも知れない。前半ロスタイムに失点を喫する。エアポケットみたいな瞬間だったんじゃないかなぁ。面白いようにパスをまわされ、バイタルでどフリーの柏木に決められた。誰もつっかけに行けなかった。

 後半は浦和が堅実に試合を運んだ。サヌを下げて、ヨンチョルの応対に配置転換・平川を当てたのも理にかなっていた。この日はフィンケさんの策が当たったなぁ。36分には交代出場のエスクデロ・セルヒオがチーム待望の「追加点」。

 新潟も懸命に戦った。後半だって別に不甲斐ないプレーに終始したわけじゃない。まぁ、前半飛ばした影響は少なからずあっただろう。ちょっと単調になってしまった。

 いや、我ながら後半を描く熱意がほとんどないのに笑ってしまう。こういうサッカーコラムが日本にひとつくらいあってもいいんじゃないですか。負けた負けた。負けましたよ。負けたけど、特に若い選手には貴重な経験になりましたよ。今日のところはしょうがないじゃん。次、勝とうぜ!


附記1、西大伍が狙ってんのにはしびれますね。ループの惜しいのがあった。

2、先週、叉しても書き忘れました。東口選手おかえりなさい!! あれだけのケガをして、こんなに早く復帰し、もう2戦、フツーにやってます。すごいよね。競り合う場面でも影響は感じない。

3、秋です。南魚沼のアルビサポ、岡村健彦さんから新米が届きました。ホントに岡村さんの作った米は日本一です。ありがとうございます。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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