【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第72回

2010/10/14
「キンチョウスタジアム」

 J1第25節、C大阪×新潟。
 ネーミングライツの関係で8月から会場名が「キンチョウスタジアム」に変わった。叉、場内改修が施され、サッカーが見やすくなった印象である。ただ古手の新潟サポは「長居」の方がJ2戦線の苦闘を想起して燃えるんじゃないかと思う。「長居」は因縁深いスタジアムだ。その因縁は今年4月、ナビスコ杯で黒崎アルビが「公式戦初勝利」をあげたところまで連続している。

 両チームの「今季のあらすじ」はかなり似通っていると思う。共に上位への挑戦者として旋風を巻き起こした。夏の移籍で香川、矢野がドイツへ旅立った。そしてどうしたものか、9月は勝利から見離されている。
 この試合も新潟はマルシオ、ミシェウが欠場し、セレッソは家長、アドリアーノを出場停止で欠いている。

 といってセレッソの1トップ3シャドーは健在だ。やろうとしているサッカーは型崩れを起こしていない。対して新潟は選手のやりくり、スカウティングで急場をしのいでいるところだ。正直、苦しい。踏んばりどころだ。「キンチョウスタジアム」へ駆けつけたサポーターはそれが痛いほどわかっている。

 新潟はこの試合、4-3-3で布陣した。千葉和彦をアンカーに配し、CBに鈴木大輔(リーグ戦初スタメン)。直感的に思ったのは、これは去年、ペドロ・ジュニオールがいた頃の4-3-3のイメージではなく、南アW杯日本代表のような守りの布陣だなということ。堅実にポジションどりして、球際で負けない。そのミッションを90分やり抜くことができるだろうか。

 よし、幻に終わった「日本代表×スペイン」でも見るつもりでこの試合に注視しよう(セレッソもスペインよりは弱いだろう)と思ったら、始まってどうも勝手が違う。新潟はW杯日本代表のようなキーンと張り詰めたテンションにない。ていうかはっきり言って緩い。ありゃ、ぜんぜんつかまえきれてないよー。やばい、これ。セレッソは両サイドバックまで攻撃に加わってやりたい放題。

 ペースを握られた。これ、どうやって押し返そう? 少なくとも(セレッソの)両サイドバックにあんな高い位置をとらせちゃ駄目だ。DFラインももっと押し上げたい。局面を落ち着かせないと点をとられるのは時間の問題だ。ほっとくと後から後からウンカの如く人がわいてくるぞ。

 13分、高橋大輔のシュート。16分、丸橋のクロスから播戸竜二の合わせ。どうにか枠をハズれたり、GK・東口が押さえたりしている。22分、播戸が抜けだしてGKと1対1。これもハズしてくれた。ツキがあるうちにどうにかしてー。

 27分、やられた。アマラウのミドルシュートのこぼれへ播戸が飛び込んで来る。アマラウのシュートはブレ球だった。東口としても止めるだけでせいいっぱいだ。ボランチのとこにスペースが生じてしまった。

 サッカーの嫌なことのひとつに「あぁ、やばい、やられると予感が高まっていき、やっぱりやられる」がありますね。ふり払ってもふり払っても悪い予感が高まる。手が汗でベトベト。で、案の定やられちゃうんだなぁ。心臓に悪いなぁ。

 黒崎監督は本間のポジションを1枚下げて、局面を落ち着かせることにした。これは即効性があった。3点くらいとられてもおかしくなかった前半が、どうにか1点ビハインドで終了。

 後半はグッとよくなった。依然としてやられ気味ではあるけれど、良いシーンも増えてくる。後半29分、折り返したボールを交代出場の明堂和也がワントラップ入れてシュート!。これを大島が微妙にコースを変えて決める!うおっしゃー、ラスト15分だ。スコアだけでなく、展開としてまったくのイーブンに持ち込んだぞ。

 勝負どころだ。そして、決めたのはセレッソの方だった。後半39分、乾のクロスに小松が合わせ、これは東口が弾いて左ポスト。それを今日、3シャドーに入っていた丸橋祐介が反転して蹴り込む。左足のJ初ゴール。これは悔しい。くわああー、マジかー。

 新潟はロスタイム、猛攻をかけ、ロングボールの競り合いから明堂に決定機が生まれた。くわあああー、空振り。くわあああー、あれ決まってたらなぁ。
 新潟、紙一重の差で勝ち点1を逃す。サッカーの質は問うまい。今日は勝負強さが足りなかった。以上だクノヤロー。


附記1、クノヤローはクノヤロー(意気消沈し、口をあまり開かずコノヤローを言った状態)なんですが、救いは明堂和也の試合後のコメント「今日の試合はすごく自分の自信になる。これからにつながっていくと思う」ですね。すんません、俺、読んでちょっと涙が出た。明堂頼んだぞ!

2、クノヤローはクノヤローなんですが、鈴木大輔よく頑張った。でっかく育て!

3、新潟はナベツネ氏の横浜ベイスターズ移転発言で大揺れですね。僕なりに調べてみたんですけど、現時点で別に方向が定まった話ではないようです。ま、情報に振り回されるのはやめときましょう。そんなことよりまず1勝。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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