【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第74回
2010/10/28
「お待たせ!」
J1第26節、新潟×名古屋。
ごく控えめに言って「今季ベストゲーム」だ。
首位独走中の名古屋をホームに迎えての一戦。ジンクスを言うと、名古屋はビッグスワン未勝利である。完全な「鬼門」状態。といって今はチームが波にのっている。この機会にジンクスを破る気満々といったところ。
新潟はどうかというとハッキリ正念場だ。リーグ戦5戦勝利から遠ざかって、もう後に引けない。が、ポジティブな雰囲気だ。ついに選手が揃った。マルシオ・リシャルデスに続いてミシェウが復活。U-19代表から酒井高徳が帰ってきた。欲を言えばチョ・ヨンチョルの出場停止が痛いが、久々にほぼベストメンバーだ。黒崎監督は初の非公開練習を実施するなど、決戦ムードが高まる。
で、見せたのがあの試合だ。いやー、僕、原稿でサッカーを描く限界を感じちゃいますね。いつものようにポイントを言葉にして、具体的なシーンを書き込むしかないんだけど、あの試合の快感には届かないのがわかっている。
僕が感じたのは音楽です。音楽が聞こえた。新潟がボールを持って、マルシオやミシェウが関与し、コンディションの戻った芝をパスが通っていく。人が動き、広がりやうねりが起こる。複数のアクションがオーケストレーションを奏でる。
僕らライターは試合の描写によくリズムという言葉を使う。たぶん今、言ってる音楽もリズムの延長線上にあるものなんだと思う。だけど、それだけの話と違うんですよね。僕は試合中、ずっと音楽を感じていた。ベタな言い方に直すと、新潟は長いトンネルを抜けるやいなや、とんでもなく上質のサッカーを展開した。
試合は新潟の積極的なプレッシングでスタートする。あんたらにペースを渡すつもりはないんだと表明している。選手が揃ってチームに落ち着きがある。奪えるし、持てるし、タメが作れる。走力を生かして流れが作れる。
戦術として徹底していたのは名古屋・ケネディのケアだ。必ずDFが背後に張り付き、パスが入ったところでボランチがフタをするように奪いに行く。
先制点は前半31分、左の角度のある位置からマルシオのFK。ゴールを決めたマルシオが赤ちゃんのパフォーマンスをしてると思ったら、何と夫人が初めてのお子さんを妊娠されたそうだ。これでビッグスワンにスイッチが入った。歓声、歌声、どよめき、叫び。名古屋が長年苦手としているビッグスワンの爆発的歓喜が始まる。
それでも首位・名古屋の意識の高さは途切れなかった。34分、スローインから続く一連の攻防でこじ開けられた。最後はケネディだ。昨日、鹿島が湘南と引き分けている。名古屋はここでもっと差をひろげておきたい。
だから、すぐに名古屋が追いついたことで試合はイーブンだった。名古屋が特段悪かったわけでもないし、この時点でどちらに流れが行ってもおかしくなかった。
試合のハイライト、衝撃的な勝ち越しゴールは前半終了間際(43分)、細かいパス交換のつながりからミシェウが右サイドを深くえぐり、ほとんどCKの位置くらいで折り返したクロスが発端。マイナスのボールがペナルティエリア中央で待ち構えた三門雄大へ送られる。三門は下がりながらタイミングを合わせた。痛快ダイレクトボレー!ゴール右下隅へズドーンッ!伸びかけのボーズ頭がいい感じにまとまったやつよ永遠なれ。三門はクラブ史上のスーパーゴール・ランキングにノミネート決定。
で、前半が終わらない。名古屋は金崎夢生の突破で逆襲に転じるが、少々無理攻めが目立つ。そのスキをついて本間が奪い、カウンター攻勢。前線に駆け上がってラストパスを供給したのも本間。これに45分、大島が合わせた。場内は大騒ぎ。3対1。手がつけられない新潟。
後半、名古屋はしくじった。8分、エリア中央で受けたマルシオを中村直志が後ろから削ってイエロー2枚めの退場。勝つ新潟があわててないのに負ける名古屋がなぜあわてる? 相手が10人になり、試合展開はグッと楽になった。
30分には三門の折り返しをマルシオが決め、4対1。クラブJ1新記録の5点めに期待がかかるが、それは叶わなかった。
とはいえ、何対1だろうと非の打ちどころのない完勝だ。そして、もっと大事なこと、僕が試合中感じていた音楽はきっとみんなにも聞こえていただろう。お待たせ!最高のチームが帰ってきた。
附記1、僕はこの試合の週末から日光アイスバックスの3連戦で録画観戦でした。うらやましいよ、見に行った人。で、びっくりしたのは19日(火)、日光霧降アリーナへ取材に来てくれた地元・下野新聞のY記者から「毎週、散歩道読んでますよ」と声かけられたこと。Y記者、大学時代を新潟で過ごされたアルビサポだった(!)。もう、Yさんと「三門のボレーすげー」「あれは見たかった」とかリンクでアルビ談義。僕は永田さんの結婚をそこで教わりました。永田選手、おめでとうございます。
2、しかし、ホントに首位とかに強いねー。「このスタジアムは好きではない」「彼らはチャンピオンのようにプレーした」、ストイコビッチ監督の談話は最高の誉め言葉ですよ。
3、今週、上京されるサポにミニミニ豆情報。竹芝桟橋のアンテナショップ&レストランバー「東京愛らんど」で奥山武宰士選手の実家、八丈島酒造の焼酎「八重椿」「島流し」がグラス一杯から飲めて、ボトルでも買えます。時間があったらいかがでしょう。竹芝桟橋の行き方はJR浜松町下車、海へ向かってほぼ一本道(徒歩5分)。か、ゆりかもめ竹芝下車(徒歩1分)。ま、あんまりアルビサポが押し寄せると品切れの可能性はあるけど。それでは味スタでお会いしましょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第26節、新潟×名古屋。
ごく控えめに言って「今季ベストゲーム」だ。
首位独走中の名古屋をホームに迎えての一戦。ジンクスを言うと、名古屋はビッグスワン未勝利である。完全な「鬼門」状態。といって今はチームが波にのっている。この機会にジンクスを破る気満々といったところ。
新潟はどうかというとハッキリ正念場だ。リーグ戦5戦勝利から遠ざかって、もう後に引けない。が、ポジティブな雰囲気だ。ついに選手が揃った。マルシオ・リシャルデスに続いてミシェウが復活。U-19代表から酒井高徳が帰ってきた。欲を言えばチョ・ヨンチョルの出場停止が痛いが、久々にほぼベストメンバーだ。黒崎監督は初の非公開練習を実施するなど、決戦ムードが高まる。
で、見せたのがあの試合だ。いやー、僕、原稿でサッカーを描く限界を感じちゃいますね。いつものようにポイントを言葉にして、具体的なシーンを書き込むしかないんだけど、あの試合の快感には届かないのがわかっている。
僕が感じたのは音楽です。音楽が聞こえた。新潟がボールを持って、マルシオやミシェウが関与し、コンディションの戻った芝をパスが通っていく。人が動き、広がりやうねりが起こる。複数のアクションがオーケストレーションを奏でる。
僕らライターは試合の描写によくリズムという言葉を使う。たぶん今、言ってる音楽もリズムの延長線上にあるものなんだと思う。だけど、それだけの話と違うんですよね。僕は試合中、ずっと音楽を感じていた。ベタな言い方に直すと、新潟は長いトンネルを抜けるやいなや、とんでもなく上質のサッカーを展開した。
試合は新潟の積極的なプレッシングでスタートする。あんたらにペースを渡すつもりはないんだと表明している。選手が揃ってチームに落ち着きがある。奪えるし、持てるし、タメが作れる。走力を生かして流れが作れる。
戦術として徹底していたのは名古屋・ケネディのケアだ。必ずDFが背後に張り付き、パスが入ったところでボランチがフタをするように奪いに行く。
先制点は前半31分、左の角度のある位置からマルシオのFK。ゴールを決めたマルシオが赤ちゃんのパフォーマンスをしてると思ったら、何と夫人が初めてのお子さんを妊娠されたそうだ。これでビッグスワンにスイッチが入った。歓声、歌声、どよめき、叫び。名古屋が長年苦手としているビッグスワンの爆発的歓喜が始まる。
それでも首位・名古屋の意識の高さは途切れなかった。34分、スローインから続く一連の攻防でこじ開けられた。最後はケネディだ。昨日、鹿島が湘南と引き分けている。名古屋はここでもっと差をひろげておきたい。
だから、すぐに名古屋が追いついたことで試合はイーブンだった。名古屋が特段悪かったわけでもないし、この時点でどちらに流れが行ってもおかしくなかった。
試合のハイライト、衝撃的な勝ち越しゴールは前半終了間際(43分)、細かいパス交換のつながりからミシェウが右サイドを深くえぐり、ほとんどCKの位置くらいで折り返したクロスが発端。マイナスのボールがペナルティエリア中央で待ち構えた三門雄大へ送られる。三門は下がりながらタイミングを合わせた。痛快ダイレクトボレー!ゴール右下隅へズドーンッ!伸びかけのボーズ頭がいい感じにまとまったやつよ永遠なれ。三門はクラブ史上のスーパーゴール・ランキングにノミネート決定。
で、前半が終わらない。名古屋は金崎夢生の突破で逆襲に転じるが、少々無理攻めが目立つ。そのスキをついて本間が奪い、カウンター攻勢。前線に駆け上がってラストパスを供給したのも本間。これに45分、大島が合わせた。場内は大騒ぎ。3対1。手がつけられない新潟。
後半、名古屋はしくじった。8分、エリア中央で受けたマルシオを中村直志が後ろから削ってイエロー2枚めの退場。勝つ新潟があわててないのに負ける名古屋がなぜあわてる? 相手が10人になり、試合展開はグッと楽になった。
30分には三門の折り返しをマルシオが決め、4対1。クラブJ1新記録の5点めに期待がかかるが、それは叶わなかった。
とはいえ、何対1だろうと非の打ちどころのない完勝だ。そして、もっと大事なこと、僕が試合中感じていた音楽はきっとみんなにも聞こえていただろう。お待たせ!最高のチームが帰ってきた。
附記1、僕はこの試合の週末から日光アイスバックスの3連戦で録画観戦でした。うらやましいよ、見に行った人。で、びっくりしたのは19日(火)、日光霧降アリーナへ取材に来てくれた地元・下野新聞のY記者から「毎週、散歩道読んでますよ」と声かけられたこと。Y記者、大学時代を新潟で過ごされたアルビサポだった(!)。もう、Yさんと「三門のボレーすげー」「あれは見たかった」とかリンクでアルビ談義。僕は永田さんの結婚をそこで教わりました。永田選手、おめでとうございます。
2、しかし、ホントに首位とかに強いねー。「このスタジアムは好きではない」「彼らはチャンピオンのようにプレーした」、ストイコビッチ監督の談話は最高の誉め言葉ですよ。
3、今週、上京されるサポにミニミニ豆情報。竹芝桟橋のアンテナショップ&レストランバー「東京愛らんど」で奥山武宰士選手の実家、八丈島酒造の焼酎「八重椿」「島流し」がグラス一杯から飲めて、ボトルでも買えます。時間があったらいかがでしょう。竹芝桟橋の行き方はJR浜松町下車、海へ向かってほぼ一本道(徒歩5分)。か、ゆりかもめ竹芝下車(徒歩1分)。ま、あんまりアルビサポが押し寄せると品切れの可能性はあるけど。それでは味スタでお会いしましょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!