【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第75回
2010/11/4
「マルシオ劇場」
J1第27節、FC東京×新潟。
マルシオ劇場。そう書く以外、どうしたらいいのかわからない。
マルシオ・リシャルデスが決めて、最後に決めきれなかった試合。
サッカーだからそんな言い方もどうなんだろうと思うのだ。交代を勘定に入れなくても、マルシオ以外に両軍合わせて21人がピッチに立っている。そのひとりひとりにドラマがあることは、当コラムの読者だったら御承知の筈だ。ライターはできるかぎり、そのひとつひとつをフォローしていきたいと願望する。
が、参った。これは「マルシオが決めて、最後に決めきれなかった試合」としか表現できない。この試合、マルシオの動き自体はそれほどでもなかったのだ。むしろ、省エネで、要所をおさえることに専念していた印象が強い。
新潟全体も前節の大一番の反動なのか何なのか、テンションが低く感じられた。ハッキリ申し上げれば内容的には負け試合だ。ただ面白いことにFC東京が拙攻を重ねてくれた。変テコリンな読後感が残る。「内容的には負け試合なんだけど、展開的には勝ち試合を逃したドロー」。
ま、これもサッカーだろう。FC東京はおかしかった。僕は当日、マッチデー・プログラムを見てひっくり返ったんだけど、何と開幕戦の勝利以来、本拠地・味の素スタジアムで勝ってないのだ(!)。ホームが「鬼門」と化している。
前半、どうしてもわからなかったのは、前線に背の高い平山がいて、スピード系の大黒、石川がいて、カウンターに時間をかけるのだ。変な横パスを入れて、守備陣形を整える時間をくれる。石川が単騎持ち上がるときは脅威があったけれど、そこに注意すればどうにかなりそうだ。意味がよくわからんなぁ。追い越す選手もいない。監督が大熊さんに代わった頃の試合をテレビで見たときは、あ、やっぱり平山に当ててシンプルに行くのかなー、と思ったんだけど。
では、「マルシオが決めた」シーン。前半終了間際(45分)、FKをもらった。このもらったいきさつも含蓄あるんだけど、そこは省く。絶好の位置。当日、NHK-BS『Jリーグタイム』で小島伸幸さんがキーパー目線でこれを解説してくれた。カベに入った選手がマルシオの蹴る瞬間を目かくしして、しかもコースを作るという協力作業をしていたということだった。蹴る瞬間が見えないのは、キーパーからするといつボールが来るかわからず反応が遅れるとのこと。さすが小島さん、実にわかりやすい。
ただチームメイトの協力があったとして、その開けたコースを使ってあれだけ見事に、しかも当然といった感じで決めてしまうマルシオは一体、何だろう。ネット的な表現をすると「神」ですなー。ホントに「神ゴール」。
後半はFC東京に積極性が出た。16分、PKで同点に追いつかれるが、これも積極性のもたらしたものだろう。だけど、そこから逆転の決定機をハズしまくってくれる。あわてている。前半の問題点が「もたもた」だとしたら、後半のそれは「あわてぶり」だ。引き分ける新潟があわててないのに、引き分けるFC東京がなぜあわてる?
その決定機のハズしまくりが最後の最後、どえりゃードラマを演出する。最終盤だ。ロスタイムにこっちもPKをもらった。そのもらったいきさつも含蓄あるんだけど、そこは省く。スコアは1対1。蹴るのはマルシオ・リシャルデス。そこまで色々あった一切合切は御破算になり、試合はこれが決まるか決まらないかに集約される。
面白かったよー。スタジアムが固唾をのんで見つめる。FC東京ゴール裏は生きた心地がしない。何だろうねー、あの緊張感。何だろうねー、マルシオのウルトラマン状にセットされたヘアスタイル。
で、決まらないんだこれが。防がれた瞬間、タイムアウト。劇的に「勝てなかった試合」。いや、僕、野球のたとえもどうかと思うけど、今日のマルシオは「4番・DH」だと思った。前後半、最後に打席がまわってきて、ホームランと三振。そんな感じですなー。あと、ひとつ感じたのは秋だなーということ。秋の試合はこういう風にドタバタにこじれて決着することがある。シーズンが終わりに近づいている。降格危機のFC東京はこの拾った勝ち点1をどう生かすだろう。
附記1、最後、PKのとき、新潟ベンチが肩を組んで見つめてたのW杯っぽかったなー。
2、この日、僕は北尾トロさんと高円寺のブックフェス「本の楽市」に参加してから味スタ入りしたんですけど、トロさん自腹で創刊した『季刊レポ』が売れてないー。これ、サッカーのことぜんぜん出てこない雑誌だけど、サブカル好きにはたまらんものがありますよ。よかったらネット検索でHPを御覧ください。俺たち執筆陣みんなで手売りしたり、送本作業に集まったりしてるんですよ。だけど、トロさんの事務所にまだ1000冊くらいヤマ積みなんだ、やばいぞこりゃ。
3、次節・鹿島戦はサッカー講座もあってビッグスワンへお邪魔します。三吉屋のチャーシュー麺も食べるつもりです。とっても楽しみです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第27節、FC東京×新潟。
マルシオ劇場。そう書く以外、どうしたらいいのかわからない。
マルシオ・リシャルデスが決めて、最後に決めきれなかった試合。
サッカーだからそんな言い方もどうなんだろうと思うのだ。交代を勘定に入れなくても、マルシオ以外に両軍合わせて21人がピッチに立っている。そのひとりひとりにドラマがあることは、当コラムの読者だったら御承知の筈だ。ライターはできるかぎり、そのひとつひとつをフォローしていきたいと願望する。
が、参った。これは「マルシオが決めて、最後に決めきれなかった試合」としか表現できない。この試合、マルシオの動き自体はそれほどでもなかったのだ。むしろ、省エネで、要所をおさえることに専念していた印象が強い。
新潟全体も前節の大一番の反動なのか何なのか、テンションが低く感じられた。ハッキリ申し上げれば内容的には負け試合だ。ただ面白いことにFC東京が拙攻を重ねてくれた。変テコリンな読後感が残る。「内容的には負け試合なんだけど、展開的には勝ち試合を逃したドロー」。
ま、これもサッカーだろう。FC東京はおかしかった。僕は当日、マッチデー・プログラムを見てひっくり返ったんだけど、何と開幕戦の勝利以来、本拠地・味の素スタジアムで勝ってないのだ(!)。ホームが「鬼門」と化している。
前半、どうしてもわからなかったのは、前線に背の高い平山がいて、スピード系の大黒、石川がいて、カウンターに時間をかけるのだ。変な横パスを入れて、守備陣形を整える時間をくれる。石川が単騎持ち上がるときは脅威があったけれど、そこに注意すればどうにかなりそうだ。意味がよくわからんなぁ。追い越す選手もいない。監督が大熊さんに代わった頃の試合をテレビで見たときは、あ、やっぱり平山に当ててシンプルに行くのかなー、と思ったんだけど。
では、「マルシオが決めた」シーン。前半終了間際(45分)、FKをもらった。このもらったいきさつも含蓄あるんだけど、そこは省く。絶好の位置。当日、NHK-BS『Jリーグタイム』で小島伸幸さんがキーパー目線でこれを解説してくれた。カベに入った選手がマルシオの蹴る瞬間を目かくしして、しかもコースを作るという協力作業をしていたということだった。蹴る瞬間が見えないのは、キーパーからするといつボールが来るかわからず反応が遅れるとのこと。さすが小島さん、実にわかりやすい。
ただチームメイトの協力があったとして、その開けたコースを使ってあれだけ見事に、しかも当然といった感じで決めてしまうマルシオは一体、何だろう。ネット的な表現をすると「神」ですなー。ホントに「神ゴール」。
後半はFC東京に積極性が出た。16分、PKで同点に追いつかれるが、これも積極性のもたらしたものだろう。だけど、そこから逆転の決定機をハズしまくってくれる。あわてている。前半の問題点が「もたもた」だとしたら、後半のそれは「あわてぶり」だ。引き分ける新潟があわててないのに、引き分けるFC東京がなぜあわてる?
その決定機のハズしまくりが最後の最後、どえりゃードラマを演出する。最終盤だ。ロスタイムにこっちもPKをもらった。そのもらったいきさつも含蓄あるんだけど、そこは省く。スコアは1対1。蹴るのはマルシオ・リシャルデス。そこまで色々あった一切合切は御破算になり、試合はこれが決まるか決まらないかに集約される。
面白かったよー。スタジアムが固唾をのんで見つめる。FC東京ゴール裏は生きた心地がしない。何だろうねー、あの緊張感。何だろうねー、マルシオのウルトラマン状にセットされたヘアスタイル。
で、決まらないんだこれが。防がれた瞬間、タイムアウト。劇的に「勝てなかった試合」。いや、僕、野球のたとえもどうかと思うけど、今日のマルシオは「4番・DH」だと思った。前後半、最後に打席がまわってきて、ホームランと三振。そんな感じですなー。あと、ひとつ感じたのは秋だなーということ。秋の試合はこういう風にドタバタにこじれて決着することがある。シーズンが終わりに近づいている。降格危機のFC東京はこの拾った勝ち点1をどう生かすだろう。
附記1、最後、PKのとき、新潟ベンチが肩を組んで見つめてたのW杯っぽかったなー。
2、この日、僕は北尾トロさんと高円寺のブックフェス「本の楽市」に参加してから味スタ入りしたんですけど、トロさん自腹で創刊した『季刊レポ』が売れてないー。これ、サッカーのことぜんぜん出てこない雑誌だけど、サブカル好きにはたまらんものがありますよ。よかったらネット検索でHPを御覧ください。俺たち執筆陣みんなで手売りしたり、送本作業に集まったりしてるんですよ。だけど、トロさんの事務所にまだ1000冊くらいヤマ積みなんだ、やばいぞこりゃ。
3、次節・鹿島戦はサッカー講座もあってビッグスワンへお邪魔します。三吉屋のチャーシュー麺も食べるつもりです。とっても楽しみです。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!