【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第78回 -part2-

2010/11/25

 天皇杯4回戦、名古屋×新潟。
 開始早々の7分、DFのクリアが雑になり、三都主にさらわれる。この失点がたたった。試合は30分過ぎから新潟ペースに落ち着く。名古屋は基本、引いた布陣だ。新潟はマルシオ欠場で三門、木暮がサイドハーフ、ジョン・パウロがボランチを務める。以前からの課題だ。引いた相手をどう攻略するか。

 黒崎監督は、後半アタマから田中亜土夢を投入、局面打開を託した。これが奏功し、68分、ヘッドの同点弾。亜土夢はものすごく頼もしく見えた。得点の際、頭を負傷してホータイぐるぐる巻きで駆け回る。書き忘れたが、試合序盤、内田もぐるぐる巻きになってたので、新潟はぐるぐる2名の陣容だ。

 押しまくった。後半はほぼ一方的な内容。が、名古屋GK・高木義成が当たっている。特にロスタイム、三門が三都主をちぎり、至近距離から亜土夢が2発打ったやつなんかべらぼうなセーブだ。決めきれず試合は15分ハーフの延長へ。

 延長に入るインターバルで新潟応援席が「愛シテル ニイガタ」を歌い続ける。新幹線最終は22時10分、在京サポはケータイの乗換案内で何時まで粘れるかを確認したりする。確認しないのもいた。どうなってもいい。どうにかなる。僕には「愛シテル ニイガタ」がそういう風に聴こえた。

 延長戦でも押しまくって、決めきれない。僕は元サカマガ・大中祐二さんの隣へ移動して見守る。ついにPK戦だ。大中さんの席はデスクと電源コードがあって、地元紙の記者さんがいる。ここはあんまり好きじゃないんだよね。さっきから記者さん、名古屋の誰が足つったって笑ってる。が、ここは大中さんと「肩を組んで見守る」イメージ。

 両軍3人めまで成功、新潟4人めの加藤大が止められた。地元紙の記者さんが「誰ですか?」と大中さんに尋ねる。「加藤」、大中さんは低い声で答えてやる。戻ってくる加藤大を本間とミシェウが迎えにいった。そして、10人のPKキッカーのうち、決められなかったのは加藤だけだった。最後のキッカー・磯村亮太が決めた瞬間、名古屋の選手が列からベンチから駆け出して優勝シーンのようになる。地元紙の記者さんが「オレのクリスマスどうしてくれるんだよー」と裏返った声を上げる。

 「ドリームなごや2号」車中。今日は大中さん、久々に無口だったなぁ。あの記者席に充満してた空気は「勝ちたくないのに新潟のせいで勝っちゃった」だ。あそこにいたら無理もないか。僕は加藤は本物になるいいきっかけをもらったと思うよ。忘れねーだろ。忘れたくっても忘れられない。俺たち上しか見るもん何にもないんだからさ、顔を上げて、上だけ見てりゃいい。東京着は5時53分か。座席を倒して上向いて寝るよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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