【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第79回

2010/12/2
「曇天の下」

 J1第32節、新潟×仙台。
 考えれば考えるほど天皇杯・名古屋戦がキモだった気がする。あのとき、「11人総とっかえ」の名古屋に延長PK負けして、ダメージがあった。中2日で戦った31節・広島戦は後半、疲れで足が止まり、惨敗を喫す。身体面の疲れはある意味、仕方ない。満身創痍なのも知ってる。心配なのは気持ちの粘りがなくなったことだ。
 僕の勘が正しいかどうかわからないが、チームに意識のバラツキを感じる。うまく言えなくて恐縮するが、モチベーションのようなことだ。何か壊れたものがあるのか。か、壊れかけのレディオなのか。←それは違う。

 俗にいうアレですかね、「目標を失ったチーム」の難しさってやつなのか。戦える選手とそうでない選手がいる。そういう感じに僕には見える。はっきりしたところは「あなた、戦えますか?」と訊いてまわったわけでもないし、僕にはわからない。チームは生き物だなぁと思うだけだ。

 読者はどう思うか知らないが、僕は敗れた天皇杯が新潟がタイトルを獲得する千載一遇のチャンスだと考えていた。で、一番難しいハードルが「11人総とっかえ」の名古屋戦だと思っていた。そんなベスト8にも残ってないものを今更言ってどうなるとお叱りを受けるだろうが(そして当然、カンタンな話じゃないのだが)、新潟はタイトルに届いてぜんぜんおかしくないと思っていた。タイトルってそんなに遠いものじゃないでしょう。(11月初旬当時)11位の磐田がナビスコ杯獲るんだから。
 
 僕は新潟が上を向いてないと落ちるチームに思える。何ですかねぇ、泳ぎ続けないと死んじゃう魚(マグロでしたっけ?)がいるでしょう。そんな感じ。上を見ることで引っぱり上げられてたバランスがあって、それが途切れると落下する。壊れだしたら早いと思います。建て直すのに何年もかかるようなことになる。

 だけど、仙台に絶対勝つ! 
 JR東日本のウィークエンドパスを使って、在来線乗り継ぎでスワンを目指す僕はそう信じていた。ちなみにそれは事実上の青春18状態だけど、今回は「大人の休日倶楽部」割引だから青春では断じてない。帰りは同割引の新幹線特急券も購入した。
 勝つんだよ。ホームだよ。更に中2日だけどカンケイない。
 僕にはぐつぐつ煮えたぎっている選手の目算があった。何がどうなってたって、あいつなら戦ってくれる。ちょっと出来すぎでウソついてると思われるかもしんないなぁ。あ、知り合いのサポに石打駅あたりでメール打った。その履歴を見てもらいたいよ。きっと田中亜土夢がやってくれる。そんな気がしてたんだ。

 新潟の曇天の下、「目標を失ったチーム」を見るためにサポが早々と集まっている。この人らは別にアルパカ(が山古志から来てたんだ)目的じゃないよ。例えば上位の賞金圏に届いてほしい。例えばこのチームを最後まで見たい。例えばアルビがなかったら生きていけない。みんないいとこ見せてほしいんだ。
 僕は名古屋行って意気消沈して、広島行って更に意気消沈して、それでもスワンへ駆けつけた在京サポを知っている。僕は夜勤明けで1時間くらいしか寝てないで、顔色白っぽくなってんだけど、「4万人復活させたいんです」って言ってる(もちろん駆けつけた)長岡サポを知ってる。
 「目標を失ったチーム」? 冗談じゃない。
 鳥屋野潟の強風にあおられながら、みんな待ってるんだ。
 アルビレックス新潟はみんなの夢だろ? 

 試合。持ち越されている課題。引いた相手をどう崩すか。そんな難問、一発回答が出りゃ苦労はないんだけど、この試合もそこに尽きる。ボールは持たせてくれる。ポストプレーヤーにクサビも入る。が、中を締められる。クサビのボールはいったん下げて遠目から打つことになる。それを防がれる。
 何度も何度も繰り返し。ガマン比べの展開になる。それを工夫がないとか何とか言うのはたやすいけれど、大して意味がない。工夫ならしてるよ。ほんのちょっと合わないんだ。それよりこういう展開で最悪なのはガマン比べに負けることだ。精神の強度で負けることだ。仙台は残留を決めるべく、一心に戦っている。負けんな。アイルランドみたいに続ければいい。あの、こうと決めたらテコでも動かない国の頑固なフットボーラーみたいに。

 失点した。後半33分。こぼれを拾った仙台・赤嶺真吾の泥臭いけれど意思のこもったゴール。これでしゅるしゅるっとしぼんでお仕舞いか。中2日×2じゃここまでか。

 田中亜土夢が負けないくらい意思のこもったゴールを返す。ロスタイム。亜土夢はずっと続けていた。90分続けていたし、ひとシーズン続けていた。この日、誰の目にも一番ギラギラして見えただろう。戦っている選手にはサッカーの神様が御褒美をくれる。結果はドローだが、この試合は忘れちゃいけない。亜土夢がチームの誇りを救った。


附記1、仙台戦はダービーに育てていけるかもしれないカードですね。サポの熱さといい、「謙信vs政宗」的戦国ムードといい、実に絵になる。ちなみに「VAMOS!」のコレオ掲示のとき、仙台応援席からどよめきと拍手が起きました。

2、帰りに仙台サポをつかまえて「仙台とどっちが寒いですか?」と訊いてみたら、「こっちだよー。やっぱり仙台は都会だなーや」とのことでした。風がきびしかったそうです。「来年も叉、おいで下さい」と言ったらすっごい喜んでくれた。

3、アルビ・小山直久取締役と話したんだけど、「SMILEプロジェクト」に出す生原稿の話、あれ、去年の貴章のやつにこだわらないことにします。えーと、だからね、当選した人が欲しい回の生原稿どれでもいいことにする(もちろん貴章のもOK!)。去年のでも今年のでも好きに選んでもらった方がいいと思って。あ、前回の「名古屋弾丸原稿」だけ生原稿ないです。あれ下書きしてないから。同プロジェクトもいよいよ大詰めですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。


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