【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第80回
2010/12/9
「白ネクタイの日」
J1第33節、大宮×新潟。
大宮駅からタクシーを飛ばした。やばい。試合が終わってしまう。略礼服に白ネクタイの格好だった。14時開始の親戚の結婚披露宴(於・東青梅スィートプラム)がもろバッティングしていた。披露宴は2時間半の予定で、計算上は後半キックオフに間に合う筈だった。それがそもそも10分程度押した上に、終わってから「ラジオ聴いてるよ」「写真いいですか」みたいな人が来て、そこから更に遠縁の若い子が「ドラムスやってます」「マンガ家のアシスタントやってます」「主人を紹介します。ストックホルムから来たマーティンです」とか、めちゃくちゃ言いやがって、ナイストゥミーチューやってて会場出るのが遅れた。ちなみに新郎新婦は彫刻家だ。でたらめだな俺の血筋は。
武蔵野線の車中でケータイ速報を確認し、同点に追いつかれたことを知る。タクシー車内で叉、見たら2対2のままだった。NACK5スタジアム大宮の正面にタクシーを停めてもらって、領収証をひっつかんで走る。チャントが聴こえる。プレス受付で女の子の爆笑をとった。「すいません、結婚式で遅れました」という礼服の男が引き出物をぶら下げて走ってきたのだ。白ネクタイの上にIDパスを下げて、施設内の階段を駆け上がる。ベンチコートをはおって、スタンドに出た。まぶしい。ナイター照明のなか、試合が佳境を迎えている。
後半32分えのきどIN(OUTなし)。スコアは2対2。最初あわててるからどっちに向かって攻めてるのか、向きがわからない。どっちもオレンジ?どっちのオレンジ?あ、マルシオが白いの着てるから白がアルビでこっちに攻めてるの?そんな体たらくだ。僕は後半ラスト10分とか5分とかで投入される選手は大変だなーと思った。流れにのれない。よくやれるなぁ。大宮駅からタクシー飛ばして領収証ひっつかんで、それで出てくるんだよ。←そんな選手はいない。
ひとつ決定的なピンチを見た。石原からのスルーパスがラファエルに通る。ラファエルは千葉和彦をフェイントで交わし、フリーの状態でシュート。これがポストをかすめる。もしかして劣勢なのか。そんなこと思ってるうち、落ち着く間もなくタイムアップ。両軍選手がスローインだろうと待ってるところで、唐突に終わった。一瞬、「?」という空気がピッチを支配する。それが大宮アルディージャJ1残留の瞬間だった。
黒崎監督が大宮ベンチの鈴木淳監督のところに握手へ出向く。続いてモトハルさんや選手たちが次々に行く。この光景を見られただけでも来た甲斐があった。「10年アルビレックス」は鈴木淳・前監督の築いたベースの上に成り立っている。みんなが胸を張って挨拶に行けた。鈴木淳監督も新しいチームをシーズン途中から率い、J1に残すという難しいミッションをやり遂げた。
しばらく立っていたのである。メインスタンドと新潟ゴール裏のコーナーの地点。選手が引き上げてきて、真下の通路に消えていく。ピッチでは大宮のホームゲーム終了セレモニーが始まっている。タクシーから降りて、気がついたらここに立っていた。記者席が混んでそうに見えたせいもある。動転していて席が探せなかった。が、あわてながら、僕は本能的に新潟サポーターの傍らへ立とうとしたらしい。
こんな僕でも今年はサポーターの知り合いが増えた。高速バスだの青春18だの、今年はサポ的移動が多かったからなぁ。同じバスに乗り合わせたり、ひょんなことで親しくなったり、色々だ。「何ですかその格好!」とさっそくツッコまれたりする。えへへ、俺、結婚式帰りだよ。関東最後の試合、ひと目見たかったんだよ。「とうとう関東アウェー勝てませんでしたね」。あぁ、そうなるね、今日の試合ぜんぜんわかってないけど。「淳さん、交代早かったですねー。アルビでは焦れるくらい動かなかったのに」。そうなんだ、わかんないや俺。「え、見てないんですか。今日は久しぶりに波状攻撃見れたんですよ」。
僕は応援コラムを書かないつもりだった。そういうのでなく、傍らに立とうと思っていた。09シーズンの予告編にはっきりそう書いた。例えば中野翠さんの著書に『映画の友人』というのがあるけれど、そんなスタンスだ。ちなみに中野翠さんの書名はかつての雑誌『映画の友』にかけてあるんだけど。
友人くらいの立ち位置。べたべたしすぎない、しかし親愛の情を持った関係。言うべきことはきちんと言う間柄。新潟ゴール裏の傍らに立つ礼服、白ネクタイの男はそのようにいられただろうか。「聞いてますか?来週は絶対勝つ!」。
僕は血の気が多いんだろうな。圧倒的に共感してしまう。おしっ、ぜってー勝とうと答えてしまう。机に向かってるとき、何度も頭を冷やすけど、我に返ると引き出物をぶら下げてスタジアムにいる。こんなの最初からテレビで見た方が、間違いなくいいサッカーコラムが書けるよ。
僕が今日書きたいのは試合の流れでもアヤでもない。スタジアム前でタクシーを降りて、チャントが聴こえてきたとき、どんなにドキドキしたか。あせったか。そして、嬉しかったかだ。スタジアム内の階段を駆け上がり、とんでもねー数のサポーターを目にしたとき、どんなに興奮したかだ。それが伝わればいいや。ただどっち向いて攻めてるかは、5秒くらいわからなかったんだけどね。
附記1、ひょっとして最終回?というくらい自己言及的な内容になりました。試合のことほとんどなし。家帰って録画見たら、亜土夢が良かった。あと三門は潜在能力すごいね。マルシオのゴールはよく認定してくれた。
2、そういえば「散歩道は契約更改したのか?」という問い合わせがありました。もちろん来季も続きます。オフに入ったら2年分をまとめた単行本にも着手するつもりです。
3、この日はこの後、元サカマガ・大中祐二さんと日暮里の焼肉屋でした。久々にサシでゆっくりしてたら、FA渦中の森本稀哲が地元の友達連れて登場、にぎやかなことになりました。ヒチョリの実家の店だったんです。ヒチョリはサッカー好き(ヴェルディのジュニアユースを受けたことがある)で、大中さんにアルビの話を色々聞いてた。だもんで、僕と大中さんはベイスターズ移籍を発表前に知ってたんです。
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
J1第33節、大宮×新潟。
大宮駅からタクシーを飛ばした。やばい。試合が終わってしまう。略礼服に白ネクタイの格好だった。14時開始の親戚の結婚披露宴(於・東青梅スィートプラム)がもろバッティングしていた。披露宴は2時間半の予定で、計算上は後半キックオフに間に合う筈だった。それがそもそも10分程度押した上に、終わってから「ラジオ聴いてるよ」「写真いいですか」みたいな人が来て、そこから更に遠縁の若い子が「ドラムスやってます」「マンガ家のアシスタントやってます」「主人を紹介します。ストックホルムから来たマーティンです」とか、めちゃくちゃ言いやがって、ナイストゥミーチューやってて会場出るのが遅れた。ちなみに新郎新婦は彫刻家だ。でたらめだな俺の血筋は。
武蔵野線の車中でケータイ速報を確認し、同点に追いつかれたことを知る。タクシー車内で叉、見たら2対2のままだった。NACK5スタジアム大宮の正面にタクシーを停めてもらって、領収証をひっつかんで走る。チャントが聴こえる。プレス受付で女の子の爆笑をとった。「すいません、結婚式で遅れました」という礼服の男が引き出物をぶら下げて走ってきたのだ。白ネクタイの上にIDパスを下げて、施設内の階段を駆け上がる。ベンチコートをはおって、スタンドに出た。まぶしい。ナイター照明のなか、試合が佳境を迎えている。
後半32分えのきどIN(OUTなし)。スコアは2対2。最初あわててるからどっちに向かって攻めてるのか、向きがわからない。どっちもオレンジ?どっちのオレンジ?あ、マルシオが白いの着てるから白がアルビでこっちに攻めてるの?そんな体たらくだ。僕は後半ラスト10分とか5分とかで投入される選手は大変だなーと思った。流れにのれない。よくやれるなぁ。大宮駅からタクシー飛ばして領収証ひっつかんで、それで出てくるんだよ。←そんな選手はいない。
ひとつ決定的なピンチを見た。石原からのスルーパスがラファエルに通る。ラファエルは千葉和彦をフェイントで交わし、フリーの状態でシュート。これがポストをかすめる。もしかして劣勢なのか。そんなこと思ってるうち、落ち着く間もなくタイムアップ。両軍選手がスローインだろうと待ってるところで、唐突に終わった。一瞬、「?」という空気がピッチを支配する。それが大宮アルディージャJ1残留の瞬間だった。
黒崎監督が大宮ベンチの鈴木淳監督のところに握手へ出向く。続いてモトハルさんや選手たちが次々に行く。この光景を見られただけでも来た甲斐があった。「10年アルビレックス」は鈴木淳・前監督の築いたベースの上に成り立っている。みんなが胸を張って挨拶に行けた。鈴木淳監督も新しいチームをシーズン途中から率い、J1に残すという難しいミッションをやり遂げた。
しばらく立っていたのである。メインスタンドと新潟ゴール裏のコーナーの地点。選手が引き上げてきて、真下の通路に消えていく。ピッチでは大宮のホームゲーム終了セレモニーが始まっている。タクシーから降りて、気がついたらここに立っていた。記者席が混んでそうに見えたせいもある。動転していて席が探せなかった。が、あわてながら、僕は本能的に新潟サポーターの傍らへ立とうとしたらしい。
こんな僕でも今年はサポーターの知り合いが増えた。高速バスだの青春18だの、今年はサポ的移動が多かったからなぁ。同じバスに乗り合わせたり、ひょんなことで親しくなったり、色々だ。「何ですかその格好!」とさっそくツッコまれたりする。えへへ、俺、結婚式帰りだよ。関東最後の試合、ひと目見たかったんだよ。「とうとう関東アウェー勝てませんでしたね」。あぁ、そうなるね、今日の試合ぜんぜんわかってないけど。「淳さん、交代早かったですねー。アルビでは焦れるくらい動かなかったのに」。そうなんだ、わかんないや俺。「え、見てないんですか。今日は久しぶりに波状攻撃見れたんですよ」。
僕は応援コラムを書かないつもりだった。そういうのでなく、傍らに立とうと思っていた。09シーズンの予告編にはっきりそう書いた。例えば中野翠さんの著書に『映画の友人』というのがあるけれど、そんなスタンスだ。ちなみに中野翠さんの書名はかつての雑誌『映画の友』にかけてあるんだけど。
友人くらいの立ち位置。べたべたしすぎない、しかし親愛の情を持った関係。言うべきことはきちんと言う間柄。新潟ゴール裏の傍らに立つ礼服、白ネクタイの男はそのようにいられただろうか。「聞いてますか?来週は絶対勝つ!」。
僕は血の気が多いんだろうな。圧倒的に共感してしまう。おしっ、ぜってー勝とうと答えてしまう。机に向かってるとき、何度も頭を冷やすけど、我に返ると引き出物をぶら下げてスタジアムにいる。こんなの最初からテレビで見た方が、間違いなくいいサッカーコラムが書けるよ。
僕が今日書きたいのは試合の流れでもアヤでもない。スタジアム前でタクシーを降りて、チャントが聴こえてきたとき、どんなにドキドキしたか。あせったか。そして、嬉しかったかだ。スタジアム内の階段を駆け上がり、とんでもねー数のサポーターを目にしたとき、どんなに興奮したかだ。それが伝わればいいや。ただどっち向いて攻めてるかは、5秒くらいわからなかったんだけどね。
附記1、ひょっとして最終回?というくらい自己言及的な内容になりました。試合のことほとんどなし。家帰って録画見たら、亜土夢が良かった。あと三門は潜在能力すごいね。マルシオのゴールはよく認定してくれた。
2、そういえば「散歩道は契約更改したのか?」という問い合わせがありました。もちろん来季も続きます。オフに入ったら2年分をまとめた単行本にも着手するつもりです。
3、この日はこの後、元サカマガ・大中祐二さんと日暮里の焼肉屋でした。久々にサシでゆっくりしてたら、FA渦中の森本稀哲が地元の友達連れて登場、にぎやかなことになりました。ヒチョリの実家の店だったんです。ヒチョリはサッカー好き(ヴェルディのジュニアユースを受けたことがある)で、大中さんにアルビの話を色々聞いてた。だもんで、僕と大中さんはベイスターズ移籍を発表前に知ってたんです。
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。