【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第82回
2011/3/17
「出発」
J1第1節、福岡×新潟。
今年は福岡・レベルファイブスタジアムの開幕戦だ。晴天。よく入っていた。開幕戦特有の祝祭ムードに加え、福岡は5年ぶりのJ1復帰である。成岡翔、松浦拓弥、キム・ミンジェら移籍&新加入選手がスタメンに名を連ねている。
新潟の主題は勝利である。勝利が最低ライン。開幕前、評論家各氏の順位予想によれば「マルシオ抜きの新潟は降格戦線を戦うだろう」という話になっている。僕も最初からでかいことを言うつもりはないから、そんなら昇格チームは最初に叩いておかなくちゃいけないねーと思う。
が、開幕戦の主題が勝利という理由は別のところだ。新チームに弾みが欲しい。マルシオ・リシャルデス、永田充、西大伍と主力の抜けたチームは全く新しいバランスになるだろう。最初が肝心だ。こういうとき、いちばん困るのは「内容は悪くないんだけど、結果に結びつかないねー」という状態だろう。トンネルに入る。チームが疑心暗鬼に陥ったりして、本来、持ってる力も出せなくなる。まぁ、黒崎久志監督は去年、それに近い状態から粘り強くチームを立て直していった経験があるから、シーズン序盤の大切さは身にしみているだろう。勝利が最低ラインだ。欲を言わせてもらえば「新戦力の活躍する勝利」が欲しい。
試合の入りは福岡が活発だった。4年目の篠田善之監督は4−2−3−1の左サイド2枚に松浦、キム・ミンジェを起用、トップ下に成岡を使ってきた。攻撃はそこがキーになる。陣形をコンパクトに保って、元気いっぱいだ。どうもロングボール作戦らしい。新潟は慎重に入った。状況としては「受けにまわる」だけど、そんなに悪い感じはしない。まぁ、スタジアム全体が張り切っているようななかでペースを保ち、落ち着いている。15分、キム・ミンジェの突破から大ピンチを招くが、まずまず無難にしのげていたのではないか。センターバックに入った石川直樹、サイドバックの藤田征也ともに充分メドが立つ働きである。この2人の補強の手堅さは新潟の真骨頂というべきだ。
30分すぎから福岡の陣形が間伸びしてくる。まぁ、ちょっと飛ばしすぎたのかもしれない。逆に言えば、運動量において新潟がまさっていた。当然、主導権は新潟へ移る。それまで単発の無理攻めだったものが、有効打を奪い始める。抜群に目立っていたのは、新エースの呼び声高いチョ・ヨンチョルだ。ドリブルで仕掛ける仕掛ける。いや、これは開幕からキレキレだ。フェイントを用いず、スピードだけでマークを置き去りにしてしまう。前半ラスト、ヨンチョルの供給からビッグチャンスが訪れるが、これはブルーノ・ロペスが決めきれない。0対0だが、いけそうな感じで前半終了。
後半、実際にいけた。何て言ったらいいんでしょうか、ザ・ヨンチョルショー?
ヨンチョルは毎年、凄みを増している。福岡のDFを文字通り切り刻む大活躍。マーカーが怖がって飛び込めなくなってたでしょう。新潟の攻めは面白くて、前4枚(ブルーノ・ロペス、ミシェウ、ヨンチョル、三門)は相当フレキシブルに動く。だもんでヨンチョルは右サイドから仕掛けたり、左サイドから仕掛けたり、相手にしたら厄介この上ない。これは去年の「マルシオ、ミシェウ、矢野、ヨンチョル」みたいな自在形なのかな。それともブルーノ・ロペスはあくまで1トップで、後ろ3枚が自在形なのか。まぁ、そこら辺はブルーノ・ロペスがチームにフィットしてきたらハッキリすると思う。
新潟の3得点は全てヨンチョルが演出したもの。後半9分、右から仕掛けて、中に飛び込んだミシェウがゴール。同24分は左から供給、ブルーノ・ロペスが頭で合わせる。同30分、今度は左からシュートを打って、こぼれに藤田が身体ごと飛び込む。ブルーノ・ロペスと藤田がいきなり結果を出す。望みうる最高の形で勝利を手にすることができた。
「11年アルビレックス」の印象を僕なりに記しておきたい。想像していたよりもずっとチームになっている。試合後、現地メディアは「J1の個の力」を強調する報じ方だったけど(叉、それだけヨンチョルはインパクトを残したのだけど)、僕はチームの共通理解が印象深い。攻めにかかるときのスピードアップ、あるいは小林OUT→鈴木INのタイミングの配置替え、ラスト10分の使い方、非常にわかり合ってる感じがした。実際には試行錯誤を繰り返すような段階だと思うのだけど、タテにすばやく展開するイメージはきっと新チームの特徴なのだろう。
興味津々なのはブルーノ・ロペスだ。得点に結びつかなかったが、敵DFをふっ飛ばして強引にシュートへ持ち込んだシーンが忘れられない。これはもしかすると「FW番長」かもしれない。黒崎監督は「やはり、ブラジル人選手のメンタリティというか、本番に強い選手だなというのが第一印象です。もっともっと良くなると思います」と語る。同感だ。ここがもっと機能しはじめたら相当面白いことになる。
附記1、この日、僕は新宿・フィオーリというサッカーバーで開幕を迎えました。すごく面白い空間でした。狭い店内にモニターが並んで、同時キックオフの4試合を放映してるんです。だから他サポと呉越同舟ですね。店内で僕は去年、カシマスタジアム終わりに逢った「自転車で市川まで帰る大学生」と再会を果たしました。ホントは市川っていうのは友達の家だったらしい。少しでも距離を縮めたくて、友達んちに泊まった由。
2、福岡・成岡翔が2枚めのイエローもらって、退場になったときの「事態をどう理解したらいいかわからない」表情に感じ入りました。生涯初だって。めっちゃ張り切ってたんですけどねー。あと、鈴木大輔投入のタイミングかな、モトハルさんが「レフェリー!レフェリー!」と野太い声で呼んでたのが、マイク超拾ってて、感じ入りました。
3、今週に入って、黒河貴矢選手アキレス腱断裂の報に驚きました。2年続けてケガですよね。とにかく一日も早い復帰を祈ります。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式携帯サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
J1第1節、福岡×新潟。
今年は福岡・レベルファイブスタジアムの開幕戦だ。晴天。よく入っていた。開幕戦特有の祝祭ムードに加え、福岡は5年ぶりのJ1復帰である。成岡翔、松浦拓弥、キム・ミンジェら移籍&新加入選手がスタメンに名を連ねている。
新潟の主題は勝利である。勝利が最低ライン。開幕前、評論家各氏の順位予想によれば「マルシオ抜きの新潟は降格戦線を戦うだろう」という話になっている。僕も最初からでかいことを言うつもりはないから、そんなら昇格チームは最初に叩いておかなくちゃいけないねーと思う。
が、開幕戦の主題が勝利という理由は別のところだ。新チームに弾みが欲しい。マルシオ・リシャルデス、永田充、西大伍と主力の抜けたチームは全く新しいバランスになるだろう。最初が肝心だ。こういうとき、いちばん困るのは「内容は悪くないんだけど、結果に結びつかないねー」という状態だろう。トンネルに入る。チームが疑心暗鬼に陥ったりして、本来、持ってる力も出せなくなる。まぁ、黒崎久志監督は去年、それに近い状態から粘り強くチームを立て直していった経験があるから、シーズン序盤の大切さは身にしみているだろう。勝利が最低ラインだ。欲を言わせてもらえば「新戦力の活躍する勝利」が欲しい。
試合の入りは福岡が活発だった。4年目の篠田善之監督は4−2−3−1の左サイド2枚に松浦、キム・ミンジェを起用、トップ下に成岡を使ってきた。攻撃はそこがキーになる。陣形をコンパクトに保って、元気いっぱいだ。どうもロングボール作戦らしい。新潟は慎重に入った。状況としては「受けにまわる」だけど、そんなに悪い感じはしない。まぁ、スタジアム全体が張り切っているようななかでペースを保ち、落ち着いている。15分、キム・ミンジェの突破から大ピンチを招くが、まずまず無難にしのげていたのではないか。センターバックに入った石川直樹、サイドバックの藤田征也ともに充分メドが立つ働きである。この2人の補強の手堅さは新潟の真骨頂というべきだ。
30分すぎから福岡の陣形が間伸びしてくる。まぁ、ちょっと飛ばしすぎたのかもしれない。逆に言えば、運動量において新潟がまさっていた。当然、主導権は新潟へ移る。それまで単発の無理攻めだったものが、有効打を奪い始める。抜群に目立っていたのは、新エースの呼び声高いチョ・ヨンチョルだ。ドリブルで仕掛ける仕掛ける。いや、これは開幕からキレキレだ。フェイントを用いず、スピードだけでマークを置き去りにしてしまう。前半ラスト、ヨンチョルの供給からビッグチャンスが訪れるが、これはブルーノ・ロペスが決めきれない。0対0だが、いけそうな感じで前半終了。
後半、実際にいけた。何て言ったらいいんでしょうか、ザ・ヨンチョルショー?
ヨンチョルは毎年、凄みを増している。福岡のDFを文字通り切り刻む大活躍。マーカーが怖がって飛び込めなくなってたでしょう。新潟の攻めは面白くて、前4枚(ブルーノ・ロペス、ミシェウ、ヨンチョル、三門)は相当フレキシブルに動く。だもんでヨンチョルは右サイドから仕掛けたり、左サイドから仕掛けたり、相手にしたら厄介この上ない。これは去年の「マルシオ、ミシェウ、矢野、ヨンチョル」みたいな自在形なのかな。それともブルーノ・ロペスはあくまで1トップで、後ろ3枚が自在形なのか。まぁ、そこら辺はブルーノ・ロペスがチームにフィットしてきたらハッキリすると思う。
新潟の3得点は全てヨンチョルが演出したもの。後半9分、右から仕掛けて、中に飛び込んだミシェウがゴール。同24分は左から供給、ブルーノ・ロペスが頭で合わせる。同30分、今度は左からシュートを打って、こぼれに藤田が身体ごと飛び込む。ブルーノ・ロペスと藤田がいきなり結果を出す。望みうる最高の形で勝利を手にすることができた。
「11年アルビレックス」の印象を僕なりに記しておきたい。想像していたよりもずっとチームになっている。試合後、現地メディアは「J1の個の力」を強調する報じ方だったけど(叉、それだけヨンチョルはインパクトを残したのだけど)、僕はチームの共通理解が印象深い。攻めにかかるときのスピードアップ、あるいは小林OUT→鈴木INのタイミングの配置替え、ラスト10分の使い方、非常にわかり合ってる感じがした。実際には試行錯誤を繰り返すような段階だと思うのだけど、タテにすばやく展開するイメージはきっと新チームの特徴なのだろう。
興味津々なのはブルーノ・ロペスだ。得点に結びつかなかったが、敵DFをふっ飛ばして強引にシュートへ持ち込んだシーンが忘れられない。これはもしかすると「FW番長」かもしれない。黒崎監督は「やはり、ブラジル人選手のメンタリティというか、本番に強い選手だなというのが第一印象です。もっともっと良くなると思います」と語る。同感だ。ここがもっと機能しはじめたら相当面白いことになる。
附記1、この日、僕は新宿・フィオーリというサッカーバーで開幕を迎えました。すごく面白い空間でした。狭い店内にモニターが並んで、同時キックオフの4試合を放映してるんです。だから他サポと呉越同舟ですね。店内で僕は去年、カシマスタジアム終わりに逢った「自転車で市川まで帰る大学生」と再会を果たしました。ホントは市川っていうのは友達の家だったらしい。少しでも距離を縮めたくて、友達んちに泊まった由。
2、福岡・成岡翔が2枚めのイエローもらって、退場になったときの「事態をどう理解したらいいかわからない」表情に感じ入りました。生涯初だって。めっちゃ張り切ってたんですけどねー。あと、鈴木大輔投入のタイミングかな、モトハルさんが「レフェリー!レフェリー!」と野太い声で呼んでたのが、マイク超拾ってて、感じ入りました。
3、今週に入って、黒河貴矢選手アキレス腱断裂の報に驚きました。2年続けてケガですよね。とにかく一日も早い復帰を祈ります。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式携帯サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。