【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第85回(後編)

2011/4/7
−前編はこちらから−

 そうしたら北尾トロさんが「カズがやったよー!」と大変なテンションだった。「え、あ、そうなの?」。トロさんは「カズがー、カズがー」「キングカズだ」「カズダンスだ」と騒いでいる。言っておくがトロさんはぜんぜんサッカーがわからないのだ。スポーツはNBAバスケのファンみたいだけど、これまでいっぺんもサッカーの話題を聞いたことがない。

 「ゴール決めたの?やったなー、どんな感じ?」と訊いてみたらものすごくあいまいな話だった。「マリオがパスを出して、カズはキーパーかわしてループシュートだよ。やるときはやる男だよ。いちばん肝心なときに決めてくれたよ。そしてカズダンスだよ」。マリオ?それは誰なんだっけ?ニンテンドー?J2にそんな外国人いたっけ?てか、今回、J選抜は外国人選手いた?

 驚くべきことにトロさんはカズダンスの真似を始めてしまった。この人は裁判傍聴ものをはじめ、本当に秀逸な文章を書くけれど、根本的に無邪気だ。副編のヒラカツさんが笑ってる。事務所のカナちゃんも笑ってる。技術のヨシオカさんも笑ってる。僕も笑ってしまった。レアル好きのカナちゃんがスコアと遠藤、岡崎のゴールについて教えてくれた。何かすっごい気が晴れたなぁー。見てもいないのにあんなに嬉しかったことはない。僕にとってはトロさんのカズダンスやスタッフみんなの笑顔がチャリティーマッチのリアルだ。そうか、日本サッカーはやってくれたのかー。

 だもんで「マリオ」が闘莉王であること、キングカズに浮き球のゴールを決められたGKが東口順昭であったことは後になって知った。東口持ってるじゃん。代表初召集で出場を果たし、間違いなく日本サッカー史に残るゴールの一方の当事者になった。あんたそれ、男の勲章だよ。


附記1、長居にJ各チームの断幕が結集し、サポーターが仙台のチャントを歌い続ける光景は感動的でした。応援ってことでいえば、皆、声のかぎりに被災地を応援してるんですよ。そして両軍選手は本当に気持ちが入っていた。素晴らしかった。俺は何度も泣けてきました。

2、カズは奇跡のようにすごいですね。日本サッカーの宝です。

3、当日の模様を報じたスポニチの記事で、募金活動をしたJリーグOB会のラモス瑠偉さんが「買占めするヤツ小さすぎるヨ!東京から逃げるヤツや海外に逃げるヤツも。2度と来るんじゃねぇよ」とコメントしたというのを見たんですが、僕には違和感があります。買占めはともかく、お子さんを心配するような人が一時疎開するのは別にいいんじゃないでしょうか。そういうのが卑怯みたいになっちゃう風潮はよくない。ぜんぜん自由です。まぁ、報道を通してなんで、正確なニュアンスはわかんないんですけど。もしかしてアレですかねぇ、後半部分は「帰化日本人としてオレは逃げない。外交官とか外資のガイジンふざけんな」みたいな複雑な立場表明ですかねぇ。僕はその場合であっても、もちろん外国人の自由だと思いますけど。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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