【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第86回(前編)

2011/4/14
「サッカーのある日曜日」

 トレーニングマッチ、新潟×草津。
 高速バスを降りたら新潟駅前でアルビサポが3人、募金を呼びかけていた。新潟県内の避難所には現在、1万人弱の被災者が身を寄せている。アルビサポ有志のグループはこの生活支援に行動を起こしたのだ。ネットで動きを知ったとき、なるほどなーと感心した。いわゆる「義援金」は分配委員会を作らねばならず、被災者のもとにお金が届くのに時間がかかる。もちろん被災者全てを助けたい気持ちは山山だけど、その公平性は犠牲にしてでも、とにかく県内に避難してきた人を大急ぎで支援しようという発想だ。スピード勝負だ。生活物資の集積と募金の2本立てで作戦が立てられる。生活物資はアルビレッジに集められた。この土日は市内各所で募金を呼びかける日だった。

 募金に応じ、「頑張ってください」と声をかける。僕も日光アイスバックスの選手らと(僕らの場合は「義援金」だったが)、栃木県日光市、鹿沼市で街頭募金を呼びかけた。あれはちょっと声をかけてもらえると元気が出るのだ。僕は「東日本大震災義援金募金にご協力お願いします」が早口言葉のようでどうしてもカンでしまうのだった。これはまずいと思って途中から言いやすいフレーズ、「被災地を助けましょう」に変えてみた。一日、声を出し続けるとかなりぐったりした。

 それでもアルビサポの気持ちは明るかったと思う。今日はサッカーのある日曜日だ。ビッグスワンにチームが帰ってくる。震災の影響で地元開幕戦は6週間も延期になったけれど、今日は45分×3のトレーニングマッチが見られる。駅南、オレンジローソンの辺りで知人を探していたら、さっきのアルビサポが募金を切り上げ、タクシーに乗り込むところに出くわした。

 「おつかれさまです」
 「もう、1万人くらい入ってるってメール来ましたよ」
 「うわ、すごいなぁ。やっぱりサッカーのある日曜はいいですね」
 「ホントですね。早く取り戻したいです」

 皆、同じことを考えている。当たり前の日常。それがどんなにかけがえのないものだったか。それを例えばもう一度再生し、例えばあるべき姿に維持し、成立させるのがどんなに大変なことか。

 ビッグスワンに到着するとWゲートに長い列ができている。天気予報はくもりだったが、陽がさしている。スタンドはN、S、Wの1階だけを開放、入場無料だ。関係者口から入るとビッグスワン玄関ロビーに避難所情報の案内デスクが設置されていた。東京に住んでいると味の素スタジアムの会議室が避難所として活用されているのは知っていても、ビッグスワンが役立っているのは情報が来ない。

 試合前のスタンドを一望して、胸が熱くなる。同じ時代を生き、同じ困難に向き合い、それでもサッカーのある日曜日を待望していた人がこんなにいる。あとで知り合いのサポーターに聞いたら、「あけましておめでとう」「今シーズンもよろしく」「ところで富山行く?」という挨拶がそこここで繰り広げられたという。選手入場時にはゴール裏が、中越地震のときの断幕「地震なんかに負けねぇぞ!!」を掲げた。これが新潟の意思だ。不屈の闘魂だ。

後編に続く


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