【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第87回(後編)

2011/4/21
 45分×4の練習試合、1本目&2本目はサブ組というかサテライト組の対戦。これは防戦一方の内容だった。新潟は選手層が薄いなぁとあらためて思う。大宮は半数くらいが「去年までならフツーにスタメン張ってた選手」だ。バックアップがこれだけ違うのか。ていうか、大宮は気がつくと層が厚くなっている。友人と「今年の大宮はクラブ史上、最高の陣容ではないか」と話した。開幕節のアウェー鹿島戦も(終盤、追いつかれはしたものの)互角にやり合った試合だった。充分な補強をしたチームを鈴木淳監督が率いている。そのもたらす意味を誰より知るのが新潟サポだろう。2本目終了間際、大宮の集中が切れたところでどうにか1対1のドローに持ち込む。

 3本目&4本目。レギュラー組が出てきて会場が大いに沸く。これはもう、さっきまでと全然違うスリリングな内容。特に3本目は最高のスパーリングだった。難しいのは練習試合のレフェリングだなぁと思う。左サイドから抜ける絶好のシーンで一発レッドでもおかしくない止められ方をするが、それじゃ、10人相手の試合を新潟が望むのかという問題だ。練習試合の意味がなくなる。しかし、そこを流すことで「基準のゆるい試合」のようなものが出来上がりもする。4本目の後半、ミシェウとイ・チョンスの小競り合いで試合が荒れてしまったのは、そういう関係もあるかなぁと想像した。

 公式戦ではないから詳細は省く。試合勘を養う目的は十二分に果たせたと思う。現場はモチベーション、コンディションの維持がものすごく難しいなかで、2週後の「再開幕」に臨もうとしている。本来であれば開幕・福岡戦を勝って、その勢いを借りながらチームをグッと引き締めていくような時期だった。これはもう一度、最初からやり直しだろう。空白期間の影響は、新潟のような「モデルチェンジしたチーム」に大きい気がする。

 ともあれ「再開幕」は近づいている。1、2本目では登録したてのGK・小澤英明、それから新潟復帰の菊地直哉を見た。あと謎の「35番」キム・スンイルも2週続けて見ることができた。3、4本目には小林慶行も戻った。少しずつシーズン再開の実感が湧いてくる。あらゆる困難や不安のなかで、僕らは3・11に止まってしまった時計をもう一度動かそうとしている。


附記1、当日、トレーニングマッチの間はくもりときどき小雨まじり。終わった途端、低気圧が来て強風と雨でした。放射性物質の心配は、実際のところ人によって濃淡があり、僕の印象では出版関係者とか、情報収集力のある人ほど海外の報道やなんかを調べたりしてナーバスになってる感じです。まぁ、福島原発の事故評価はその後「チェルノブイリと同じレベル7」に引き上げられたくらいのもので、無理もない話ではあるんだけど、ちょっと神経症気味の人が増えてるかなぁ。

2、と言ってる僕も週末は休もうと思います。楽しみにしているのは金曜に上野・鈴本演芸場で行なわれる「落語協会復興支援寄席」。それから土日は会津の東山温泉でも行ってこようかなと思います。たぶん風評被害で鶴ヶ城の桜を見に行く観光客も激減でしょう。だもんで富山のチャリティーマッチはサボります。

3、ジョン・パウロに続いて、マルキーニョス(仙台)ウーゴ(山形)ファビーニョ(湘南)と外国人選手の「震災退団」が相次ぎますね。まぁ、余震がこれだけ続き、原発事故が「レベル7」じゃしょうがないと思います。特に「レベル7」は今週発表されたことなので、もしかするともっと多くの選手が日本でのプレーを断念するかもしれない。J各クラブは外国人選手との対話に注力したいですね。異国で働いてるだけで彼らは生活弱者であり、情報弱者なんだと思います。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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