【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第90回
2011/5/12
「関西クラブ2連戦」
J1第8節、C大阪×新潟。
GWシリーズ第1弾(昭和の日)。前節同様、開始早々3分に先取点を奪う。酒井のヒールパスをもらったブルーノ・ロペスが豪快なゴールを決めた。何しろNHK解説の宮澤ミッシェルさんが新潟側の見どころを言う前である。宮澤ミッシェルさん、「今、言おうと思ったのに」みたいなことになってた。
面白いとこですよね。早々と得点ってこんなにいいことはないのに、(たぶん)新潟ゴール裏は少し不安な気持ちになる。まぁ、先週、そんな試合を見たせいでもあるんだけど、僕の考えでは新潟サポはかなり心配性です。いや、新潟サポに限らないのかなぁ。何か早すぎたんじゃないかと思ったりする。寝た子を起こすようなことにならなければいい。去年、結果を残したセレッソは今季まだ本来の力を出していない。
冷静に考えれば序盤の先制点というのは、ヨーイドンで1点リードしたところから試合を始めるようなものです。有利なんてもんじゃない。落ち着いて、相手が出てきたところを仕留めれば追加点も容易の筈だ。けれど、何か落ち着かない気分になる。
で、ピッチのなかはどうかというと、お互いなかったことのようにして試合が進んでいくんだなぁ。先取点を奪った新潟はまだこの1点を守る気になってもしょうがない。奪われたセレッソはあわてて前がかりになるのが下の下でしょう。まず、自分らのペースを取り戻そうとする。すごい面白い状態ですよ。1点はあるんだけど、ないんだなぁ。
前半42分、ピンパォンから乾のタテ展開で試合がふりだしに戻される。うわ、やっぱりかと僕ら思うんだけど、あれ、思ってる側が招いてる側面あるね。いや、サッカー的には一瞬のスキをついたファインゴールであり、招くも招かないも、予測不能な速攻を食らったんだけど。
しかし、セレッソはまだピンパォンがフィットしてないというか、化学変化が起きてないチームに見えたなぁ。去年のチームの方が理にかなったことをしていた。あれなら新潟は対応できるでしょう。そう大ヤケドはしない。対して守備面ではヨンチョルが徹底的にマークされてた。試合としては双方、深手を負わない痛みわけといったところ。僕は「今の新潟はセレッソ相手にこのくらいゲーム作れるんだ」というところが興味深かった。このチーム、充分いけると思う。
J1第9節、新潟×神戸。
GW第2弾(憲法記念日)のホーム開催。分のいい相手だ。震災中断明け、2引き分けからそろそろエンジンをかけていきたい。震災といえば新潟、神戸はともに過去、大地震を経験している土地柄だ。好試合を期待したい。今、このときに元「被災地のクラブ」が元気いっぱいのところを見せないでどうするってくらいのもんだ。
神戸はスタメンをいじってきた。特に注目したいのは2トップの一角を任された森岡亮太。2011年シーズンは震災に目が奪われているけれど、気がついてみると各チーム、世代交代期にある。若手がどんどん起用されている。ビッグネームを押しのけて話題をさらう。開幕前の順位予想の類は、単に名前のある誰それがどこへ移籍したとか補強したとか、そうしたプラスマイナスで語られるきらいが多い。その見方で捕捉できないのは、ひとつは「チーム」の、もうひとつは「若手」の成長だ。J初スタメンだという森岡を警戒したい。
対して新潟は木暮が今季、初スタメン。こういうとこですよ。一番伸びて欲しいところ。伸びて欲しいし、実際問題、チームの浮沈のカギを握る「アテにしてるところ」でもある。もう、20代前半の選手が主力の自覚を持つべき状況だと思うんですよ。
この試合は「20代前半=主力」の旗頭、チョ・ヨンチョルに試練があった。ひと試合で2度PK失敗だ。PKっていうのは不思議なもので、背負っているものが大きい選手ほど外す傾向がある。まぁ、その頂点はW杯アメリカ大会決勝のロベルト・バッジョだろうか。韓国から来た22歳の若者は今や新潟のエースに成長した。更に凄みのある選手になってもらうために、この後も蹴らせないといけない。エースに逃げるとこはどこにもない。
といって流れのなかでヨンチョルは効いていた。もう、とにかく徹底的にマークされるなか、存在が消えない。終盤、イ・ジェミン退場のきっかけを作ったところはお見事だった。まんまと術中にはめた。試合全体は前節・C大阪戦と同じで「双方、深手は負わない」均衡した推移だったが、常に一手ずつ新潟の攻め手が勝る。GWの関西クラブ2連戦は、あぁ、充分やり合えるなという感触をもたらしたのじゃないか。
決勝点は後半29分、ヨンチョルがヒールで戻したところへブルーノ・ロペスがどっかーんとボレーをかます。サイドは逆だったが、セレッソ戦のゴートクとのからみにそっくりの形。決定力ありますよ、FW番長。マジメに走るし、これは当たりでしょう。強化部は実にいいとこを引いてくる。
附記1、菊地選手が意外と長期離脱になってしまいました。試合数のわりにケガ人が多いですよね。まぁ、その意味でもセレッソ戦で頭を打った酒井高徳が何事もなくてよかった。
2、ブルーノ・ロペス、神戸戦で靴脱げましたね。タイムアップぎりぎりに脱げたりして、どこかよそのクラブの王子が拾わなくてよかった。召使らに靴にぴったり合うブラジル人を探させますよ。
3、って冗談は中東のクラブを考えるとシャレにならんでしょうか? あっちは本当に王族がいるからなぁ。とりあえず靴が脱げないようにしましょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第8節、C大阪×新潟。
GWシリーズ第1弾(昭和の日)。前節同様、開始早々3分に先取点を奪う。酒井のヒールパスをもらったブルーノ・ロペスが豪快なゴールを決めた。何しろNHK解説の宮澤ミッシェルさんが新潟側の見どころを言う前である。宮澤ミッシェルさん、「今、言おうと思ったのに」みたいなことになってた。
面白いとこですよね。早々と得点ってこんなにいいことはないのに、(たぶん)新潟ゴール裏は少し不安な気持ちになる。まぁ、先週、そんな試合を見たせいでもあるんだけど、僕の考えでは新潟サポはかなり心配性です。いや、新潟サポに限らないのかなぁ。何か早すぎたんじゃないかと思ったりする。寝た子を起こすようなことにならなければいい。去年、結果を残したセレッソは今季まだ本来の力を出していない。
冷静に考えれば序盤の先制点というのは、ヨーイドンで1点リードしたところから試合を始めるようなものです。有利なんてもんじゃない。落ち着いて、相手が出てきたところを仕留めれば追加点も容易の筈だ。けれど、何か落ち着かない気分になる。
で、ピッチのなかはどうかというと、お互いなかったことのようにして試合が進んでいくんだなぁ。先取点を奪った新潟はまだこの1点を守る気になってもしょうがない。奪われたセレッソはあわてて前がかりになるのが下の下でしょう。まず、自分らのペースを取り戻そうとする。すごい面白い状態ですよ。1点はあるんだけど、ないんだなぁ。
前半42分、ピンパォンから乾のタテ展開で試合がふりだしに戻される。うわ、やっぱりかと僕ら思うんだけど、あれ、思ってる側が招いてる側面あるね。いや、サッカー的には一瞬のスキをついたファインゴールであり、招くも招かないも、予測不能な速攻を食らったんだけど。
しかし、セレッソはまだピンパォンがフィットしてないというか、化学変化が起きてないチームに見えたなぁ。去年のチームの方が理にかなったことをしていた。あれなら新潟は対応できるでしょう。そう大ヤケドはしない。対して守備面ではヨンチョルが徹底的にマークされてた。試合としては双方、深手を負わない痛みわけといったところ。僕は「今の新潟はセレッソ相手にこのくらいゲーム作れるんだ」というところが興味深かった。このチーム、充分いけると思う。
J1第9節、新潟×神戸。
GW第2弾(憲法記念日)のホーム開催。分のいい相手だ。震災中断明け、2引き分けからそろそろエンジンをかけていきたい。震災といえば新潟、神戸はともに過去、大地震を経験している土地柄だ。好試合を期待したい。今、このときに元「被災地のクラブ」が元気いっぱいのところを見せないでどうするってくらいのもんだ。
神戸はスタメンをいじってきた。特に注目したいのは2トップの一角を任された森岡亮太。2011年シーズンは震災に目が奪われているけれど、気がついてみると各チーム、世代交代期にある。若手がどんどん起用されている。ビッグネームを押しのけて話題をさらう。開幕前の順位予想の類は、単に名前のある誰それがどこへ移籍したとか補強したとか、そうしたプラスマイナスで語られるきらいが多い。その見方で捕捉できないのは、ひとつは「チーム」の、もうひとつは「若手」の成長だ。J初スタメンだという森岡を警戒したい。
対して新潟は木暮が今季、初スタメン。こういうとこですよ。一番伸びて欲しいところ。伸びて欲しいし、実際問題、チームの浮沈のカギを握る「アテにしてるところ」でもある。もう、20代前半の選手が主力の自覚を持つべき状況だと思うんですよ。
この試合は「20代前半=主力」の旗頭、チョ・ヨンチョルに試練があった。ひと試合で2度PK失敗だ。PKっていうのは不思議なもので、背負っているものが大きい選手ほど外す傾向がある。まぁ、その頂点はW杯アメリカ大会決勝のロベルト・バッジョだろうか。韓国から来た22歳の若者は今や新潟のエースに成長した。更に凄みのある選手になってもらうために、この後も蹴らせないといけない。エースに逃げるとこはどこにもない。
といって流れのなかでヨンチョルは効いていた。もう、とにかく徹底的にマークされるなか、存在が消えない。終盤、イ・ジェミン退場のきっかけを作ったところはお見事だった。まんまと術中にはめた。試合全体は前節・C大阪戦と同じで「双方、深手は負わない」均衡した推移だったが、常に一手ずつ新潟の攻め手が勝る。GWの関西クラブ2連戦は、あぁ、充分やり合えるなという感触をもたらしたのじゃないか。
決勝点は後半29分、ヨンチョルがヒールで戻したところへブルーノ・ロペスがどっかーんとボレーをかます。サイドは逆だったが、セレッソ戦のゴートクとのからみにそっくりの形。決定力ありますよ、FW番長。マジメに走るし、これは当たりでしょう。強化部は実にいいとこを引いてくる。
附記1、菊地選手が意外と長期離脱になってしまいました。試合数のわりにケガ人が多いですよね。まぁ、その意味でもセレッソ戦で頭を打った酒井高徳が何事もなくてよかった。
2、ブルーノ・ロペス、神戸戦で靴脱げましたね。タイムアップぎりぎりに脱げたりして、どこかよそのクラブの王子が拾わなくてよかった。召使らに靴にぴったり合うブラジル人を探させますよ。
3、って冗談は中東のクラブを考えるとシャレにならんでしょうか? あっちは本当に王族がいるからなぁ。とりあえず靴が脱げないようにしましょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!