【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第100回
2011/7/21
「逆転」
J1第3節、鹿島×新潟。
震災中断期間の未消化試合。まず何よりカシマスタジアムで再び試合ができることをサッカーファンとして喜びたい。スタジアムの修復をはじめ、鹿島アントラーズの関係各位、選手、サポーターの努力は拍手に値する。特に岩手出身、小笠原満男選手の行動力には胸が熱くなった。
それにしても第3節である。これ、後になってわかんなくなんないかなぁ。順番通り行くと1節・福岡、2節・山形に連勝して、勢いにのってカシマへ乗り込んだ風に見える。が、実際は4節を前倒しで消化し(しかも負けて)中2日で猛暑のナイターである。キックオフ時の気温30℃、湿度は70パー超。フツーに考えて新潟はきびしい。体力的な回復も、ロングボール作戦に敗れた甲府戦の戦術的整理も。一方、鹿島は1週間空けてこの試合を迎えられた。
といって黒崎アルビにとって鹿島戦は特別な試合だ。去年、このスタジアムで真っ向勝負を挑み、凄まじいドロー(2対2)を演じたところからチームが浮上している。黒崎監督、サントスコーチ、そして今やチームの精神的支柱となったGK・小澤英明にとって忘れがたい古巣だ。中2日がどうのと寝言言ってる場合じゃない。ベストゲームで鹿島を葬ること。僕は理屈も何もこえた、黒崎組のこの気風は大事なことだと思いますよ。
試合。新潟は守りから入るゲームプラン。まぁ、暑さがとんでもないから「前半0対0、後半勝負」は両軍念頭にあったと思う。勝負手として新潟はチョ・ヨンチョル、ミシェウ、鹿島はフェリペガブリエル、小笠原を温存。まずは探りあいの緊張感あふれる前半となった。
新潟はこの試合、菊地をCB起用する。これはヒットだと思った。局面の読みが素晴らしい。菊地の復調は本当に明るい材料。鹿島が想像より元気がなかったこともあるが、新潟の守備対応に全く危なげがない。かと思うとブルーノ・ロペス、川又がロングボール一発を狙っている。前半攻められたことから低く評価する向きもあろうかと思うが、僕にはどっしりした構えに見えた。
問題は後半だ。「中2日のチームが中1週間のチームに走り負ける」事態は大いにあり得る。まして「終盤の競り合いに弱い新潟」と「強い鹿島」の試合だ。後半11分、エリアぎりぎりで三門がファウルをとられ、PKにより先に失点(得点者、野沢拓也)。GK小澤はコースは読んでいたが、わずかに届かなかった。
たぶんここが分岐点だと思う。選手もサポーターもここで下を向いたら一巻の終わりだ。前節(ではなく正確には次節なんですけど。わかりにくいですね、甲府戦です)の負けをひきずって、短期間の切り替えが効かず、奈落の底へ落ちてゆく。悪循環だ。この先、いつか「カシマスタジアム、1対0」の瞬間を振り返ってみるといい。奈落の闇を垣間(かいま)見た瞬間を。そして選手がどう戦ったか、サポーターがどう声を出したか思い出してみるといい。この先、どんなに苦しくても必ず勇気がわいてくる。
猛暑のなかで選手らを支えたのはきっと総毛立つような危機感だ。誰も下なんか向かない。反撃のきっかけを作ったのが田中亜土夢であったことに僕は感動する。この1週間で天国と地獄を味わった選手が意思をもってチャレンジした。エリアでボールを受けてつっかける。西のファウルを誘った。何と今度はこっちのPK。後半14分、ブルーノ・ロペスが難なく決めて同点。
すかさず黒崎監督は小林慶行に代えてチョ・ヨンチョルをピッチに送る(後半20分)。これは刺客だ。トイメンの鹿島・西はもう反則が犯せない。中2日のチームが中1週間のチームを圧倒しはじめる。但し、これが決められるかどうか。新潟は終盤やられることはあっても、決めて、逆転勝ちなんてなかなか見せてくれないチームだ。言い換えれば、決めれば意味を持つ。逆転勝ちはサッカーチーム最大のカンフル剤だ。
両軍監督が勝負手を切り、試合は終盤戦へ。鹿島の動きが目に見えて悪くなっている。後半43分、交代で入ったミシェウがリフティングをまじえて右からクロスを入れる。ニアに走りこんできたヨンチョルは全くのどフリー。ヘディングの決勝ゴールだ。すげぇ、戻っていきなり大仕事をやってのけた。鹿島DFは完全なボールウォッチャーになっていた。
起死回生の逆転勝利というべきだろう。サッカーの質に関して課題はまだまだ残る。が、連戦&猛暑のコンディション下で新潟は根性を見せた。強豪・鹿島にこの3シーズン負け知らずというのは、大いに胸を張っていいことだ。
附記1、新潟は開幕3連勝です。ただ4節、もう負けちゃってるのが残念なんですけど。しかし、大きな勝ちですね。辛抱して勝つという新潟らしい試合だったのも嬉しい。ヨンチョル、ミシェウ、菊地と戦列復帰組が真価を発揮しました。それからその間を支えた田中亜土夢、川又堅碁が成長した姿を見せたと思います。ま、ケンゴのゴールはまだおあずけなんだけど。
2、あぁ、三門が素晴らしかったですね。MVP級といっていい働きでした。
3、はんにゃむーほんにゃむー、はんにゃむーほんにゃむー、新しいの出ましたー。浦佐夏まつり(白山神社例大祭)始まるころ〜、浦佐の皆さん楽しみですね〜、川の字、叉の字、堅の字、あとひとつがうーん、難しい字〜。今度こそ初ゴール決まっておめでとう〜。黒の字、崎の字、がっちり抱き合う〜であろう。おお、気絶してる間に叉、お筆先が勝手に。一体、浦佐夏まつりっていつ始まるのですか?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第3節、鹿島×新潟。
震災中断期間の未消化試合。まず何よりカシマスタジアムで再び試合ができることをサッカーファンとして喜びたい。スタジアムの修復をはじめ、鹿島アントラーズの関係各位、選手、サポーターの努力は拍手に値する。特に岩手出身、小笠原満男選手の行動力には胸が熱くなった。
それにしても第3節である。これ、後になってわかんなくなんないかなぁ。順番通り行くと1節・福岡、2節・山形に連勝して、勢いにのってカシマへ乗り込んだ風に見える。が、実際は4節を前倒しで消化し(しかも負けて)中2日で猛暑のナイターである。キックオフ時の気温30℃、湿度は70パー超。フツーに考えて新潟はきびしい。体力的な回復も、ロングボール作戦に敗れた甲府戦の戦術的整理も。一方、鹿島は1週間空けてこの試合を迎えられた。
といって黒崎アルビにとって鹿島戦は特別な試合だ。去年、このスタジアムで真っ向勝負を挑み、凄まじいドロー(2対2)を演じたところからチームが浮上している。黒崎監督、サントスコーチ、そして今やチームの精神的支柱となったGK・小澤英明にとって忘れがたい古巣だ。中2日がどうのと寝言言ってる場合じゃない。ベストゲームで鹿島を葬ること。僕は理屈も何もこえた、黒崎組のこの気風は大事なことだと思いますよ。
試合。新潟は守りから入るゲームプラン。まぁ、暑さがとんでもないから「前半0対0、後半勝負」は両軍念頭にあったと思う。勝負手として新潟はチョ・ヨンチョル、ミシェウ、鹿島はフェリペガブリエル、小笠原を温存。まずは探りあいの緊張感あふれる前半となった。
新潟はこの試合、菊地をCB起用する。これはヒットだと思った。局面の読みが素晴らしい。菊地の復調は本当に明るい材料。鹿島が想像より元気がなかったこともあるが、新潟の守備対応に全く危なげがない。かと思うとブルーノ・ロペス、川又がロングボール一発を狙っている。前半攻められたことから低く評価する向きもあろうかと思うが、僕にはどっしりした構えに見えた。
問題は後半だ。「中2日のチームが中1週間のチームに走り負ける」事態は大いにあり得る。まして「終盤の競り合いに弱い新潟」と「強い鹿島」の試合だ。後半11分、エリアぎりぎりで三門がファウルをとられ、PKにより先に失点(得点者、野沢拓也)。GK小澤はコースは読んでいたが、わずかに届かなかった。
たぶんここが分岐点だと思う。選手もサポーターもここで下を向いたら一巻の終わりだ。前節(ではなく正確には次節なんですけど。わかりにくいですね、甲府戦です)の負けをひきずって、短期間の切り替えが効かず、奈落の底へ落ちてゆく。悪循環だ。この先、いつか「カシマスタジアム、1対0」の瞬間を振り返ってみるといい。奈落の闇を垣間(かいま)見た瞬間を。そして選手がどう戦ったか、サポーターがどう声を出したか思い出してみるといい。この先、どんなに苦しくても必ず勇気がわいてくる。
猛暑のなかで選手らを支えたのはきっと総毛立つような危機感だ。誰も下なんか向かない。反撃のきっかけを作ったのが田中亜土夢であったことに僕は感動する。この1週間で天国と地獄を味わった選手が意思をもってチャレンジした。エリアでボールを受けてつっかける。西のファウルを誘った。何と今度はこっちのPK。後半14分、ブルーノ・ロペスが難なく決めて同点。
すかさず黒崎監督は小林慶行に代えてチョ・ヨンチョルをピッチに送る(後半20分)。これは刺客だ。トイメンの鹿島・西はもう反則が犯せない。中2日のチームが中1週間のチームを圧倒しはじめる。但し、これが決められるかどうか。新潟は終盤やられることはあっても、決めて、逆転勝ちなんてなかなか見せてくれないチームだ。言い換えれば、決めれば意味を持つ。逆転勝ちはサッカーチーム最大のカンフル剤だ。
両軍監督が勝負手を切り、試合は終盤戦へ。鹿島の動きが目に見えて悪くなっている。後半43分、交代で入ったミシェウがリフティングをまじえて右からクロスを入れる。ニアに走りこんできたヨンチョルは全くのどフリー。ヘディングの決勝ゴールだ。すげぇ、戻っていきなり大仕事をやってのけた。鹿島DFは完全なボールウォッチャーになっていた。
起死回生の逆転勝利というべきだろう。サッカーの質に関して課題はまだまだ残る。が、連戦&猛暑のコンディション下で新潟は根性を見せた。強豪・鹿島にこの3シーズン負け知らずというのは、大いに胸を張っていいことだ。
附記1、新潟は開幕3連勝です。ただ4節、もう負けちゃってるのが残念なんですけど。しかし、大きな勝ちですね。辛抱して勝つという新潟らしい試合だったのも嬉しい。ヨンチョル、ミシェウ、菊地と戦列復帰組が真価を発揮しました。それからその間を支えた田中亜土夢、川又堅碁が成長した姿を見せたと思います。ま、ケンゴのゴールはまだおあずけなんだけど。
2、あぁ、三門が素晴らしかったですね。MVP級といっていい働きでした。
3、はんにゃむーほんにゃむー、はんにゃむーほんにゃむー、新しいの出ましたー。浦佐夏まつり(白山神社例大祭)始まるころ〜、浦佐の皆さん楽しみですね〜、川の字、叉の字、堅の字、あとひとつがうーん、難しい字〜。今度こそ初ゴール決まっておめでとう〜。黒の字、崎の字、がっちり抱き合う〜であろう。おお、気絶してる間に叉、お筆先が勝手に。一体、浦佐夏まつりっていつ始まるのですか?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!