【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第129回

2012/5/10
 「審判さんと行司さん」

 J1第8節、新潟×仙台。
 終了間際、PKをとられ、それが決勝点になった悔しい試合だ。問題の場面は後半44分、エリア内でくさびを受けた仙台・ウィルソンに鈴木大輔が身体を当てにいき、ファウル判定となったシーン。まぁ、きびしいと言えばきびしいジャッジだ。当てにいくのはDFの仕事である。あるいはジャンプした拍子に大輔の手がからまったように見えるから、そこをとられたのかもしれない。

 サポーターは中村太主審に大ブーイングを浴びせる。もちろんマナーとしてはよくありませんよ。まぁ、試合序盤の石川直樹のファインゴールを取り消され(オフサイド判定)、前半ラストはピッチへ戻るのに許可を得なかったらしい矢野にイエローカードと、不満がたまっていた。そして仕上げが試合を決定づけるPK判定だ。この主審は新潟県に何か恨みでもあるのか。おぉ、抗議にいったブルーノ・ロペスが2枚めイエローもらって退場だ。何だこりゃ接戦が台無しじゃないか。大体、こういう心理過程だったと思う。

 僕の考えを言うと、厳密すぎるきらいはあるけど正しい判定だと思います。PKはとらないジャッジもあり得るかなり微妙なセンだけど、とる審判がいるのは理解できる。だから、まぁ、後は「審判は陰の演出家」みたいな話ですね。せっかく拮抗してた流れを断ち切って、ああいう決着でいいのか。だけど、これは大っぴらな話じゃないでしょう。印象批評として例えば「コッリーナさんは試合の流れを壊さない陰の名演出家でもあった」というのは成立します。だけど、表だって要求することじゃない。大体、審判に表だって演出されちゃったらサッカーつまんないですよ。

 まぁ、「判定に泣かされる」とうのはサッカーにはよくある話です。反対に判定で幸運が転がり込むこともある。そこはトントンだと思うようにしないと、サッカーが窮屈なほうへ行くんじゃないかなと思います。例えば審判の人数を増やすとか、TVジャッジを導入するとか、論者によってはそういう考えの人もいますね。これは「正しい」をプライオリティーの最上位におく考え方です。ひとつの見識だと思います。だけど、「正しい」でガチガチになるのはあんまり僕の好みじゃない。

 もちろん正しくなくていいなんて言ってるんじゃないですよ。そこにはフェアな基準があるべきだと思う。だけどアレですね、究極のところで僕は「友達が原っぱに何人いて、2で割ると何人ずつのチームになって、残っちゃったヤツが審判やってくれてる」みたいな姿を理想だと思ってるんですね。「あ、ゴメンそろそろ審判代わるわ」とか。プロの試合は原っぱの草サッカーではあり得ないんだけど、審判もサッカーファミリーの大事な仲間だと思いたい。

 書きだしたら長くなったんでついでに脱線させることにしますが、以前、僕は「相撲方式の導入」っていうネタを考えたことがあります。日本サッカー協会が世界に向けて審判制度の変更を訴えるらしいんだなぁ。それがさすがは日本オリジナルのアイデアで、審判の「行司化」という驚くべき改変なんだ。読者はお相撲の行司について考えてみたことがありますか。あの人たちは「審判」でしょうか。土俵上にものすごく派手な衣装着て立ってるんですよ。相撲関係者でいちばん派手ですよね。

 相撲の不思議なとこは「行司差し違え」が公認されているところです。行司が「審判」だとしたら、誤審があらかじめ織り込まれている。だから、サッカーの試合でも突然、紋付着た親方がピッチへ出てくるわけですよ。アレだね、ピッチのまわりの広告板のとこにでもあぐらかいて座ってたんだね。そんで本当にPKかPKじゃないか審議に入る。で、マイク持って「軍配通りPK!」とか、「行司差し違えにより取り直し」とか発表する。サッカーの場合は「取り直し」がどこからやったらいいか難しいですよ。しょうがないからキックオフからもう一度だなぁ。ヘタをすると4時間近い試合も出て、選手バテバテ、TV局も頭を抱える。

 だからお相撲の行司は「審判」に見えて「審判」じゃないんでしょうね。土俵のまわりに座ってる親方が「審判」でしょう。じゃ、行司は何やってるのかというと進行役なのかなぁ。進行役であり、かつ仮判定を下す「仮審判」でもある。ま、相撲方式の導入されたサッカーは、いちいち試合が止まって大変でしょう。あと土俵と違ってピッチは広大だから、遠くの親方が物言いに入ってきても皆、気づかずプレーが続行されてしまうという難点もある。これはFIFAから却下されるな、日本サッカー協会。

 では、肝心の試合の話。僕は前半はすごく面白く感じた。新潟のスタメンは現時点で考えられるベスト布陣。田中亜土夢を左サイドにおいて、たぶん仙台・太田吉彰とマッチアップさせようという狙い。首位を快走する仙台と下位でもがく新潟と、前半の戦いで大きな差があったかというと別にない。互角にやれている。それどころかコンセプトの似たチームだった。堅守をベースに奪ったら速く。新潟はこの試合、闘志がうかがえた。ここ何年、首位をとっちめるのはお家芸だ。それに仙台にはまだビッグスワンで負けたことがない。

 僕は土台はこういうことだと思うのだ。充分戦える。ただ後半、仕掛けに入って仙台との差がハッキリ見えた。太田の持ち上がりをスイッチに仙台は圧力をかけてくる。新潟はタテの連携が弱い。これは整理してほしい。偶然性にたよらず必然の形を作らねばならない。

 そのためにはボールのおさまりどころをきっちりさせたい。チームとして仕掛けが作れていない。サイド攻撃も、ボランチの攻撃参加も、仕掛けの形があいまいだと不徹底になる。件(くだん)のPK判定がなければ引き分けに持ち込めたかもしれない試合だった。が、0対0に優勢勝ちがあれば仙台だった。新潟の課題は「得点力不足」だけれど、その前に「決定機不足」「シュート不足」でもあると思う。

 ともあれ、もしかするとポジティブに転がる目のあった試合を落してしまった。GWの連戦でこれがどう出るか。試合後、悔しさをにじませ場内一周する選手らをサポーターがチャントで出迎える。この瞬間は僕も生身の人間だから感情のほうが勝った。苦境に立つチームがあらゆる不運、理不尽をはね返して反撃に転じる、そんな物語を見たいと願った。

附記1、今週は木曜日、9節・広島戦が組まれていて、例によって栗原広報がいっぱいいっぱいです。なので、広島戦の試合前にアップしてもらう想定で、水曜夜、入稿しました。申し訳ないですが広島戦の結果は反映しません。悪しからずご了承ください。

2、つまり読者は広島戦当日なんですよね、森保監督のサンフレッチェとぶつかる。開幕時、黒崎さんが楽しみにしてる旨、コメントしてましたね。ま、当時はこんな苦しいとこで当たるとは思ってなかったんですけど。

3、今週の日報コラムですが、本文中、「中村大主審」とあるのは「中村太主審」の間違いです。慎んで訂正します。たぶん無意識のうちに点がとりたかったんでしょう。それか点をとり返そうとしたかだなぁ、よくないなぁ。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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