【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第141回

2012/8/2
「後半戦スタート」

 J1第18節、新潟×浦和。
 今週は予告通り10日以上前の浦和戦レビューである。さぁ、後半戦だ。上げていこう。ゴートク&ダイスケのロンドン五輪も気になるけれど、アルビレックス新潟は夏が正念場だ。僕は浦和戦が試金石だと思っていた。柳下監督を迎えてポジティブな変化を見せるチームがホンモノかどうか。チームの意識は変わったのか。ビッグスワンの意識は変わったのか。それを見る意味で浦和は最適な相手だ。何しろ相性が悪い。そして好調だ。乗り込んで来るサポーターも多い。

 もうひとつ言うと湿度の高い日の試合だった。浦和の攻撃陣の面倒を見るには運動量が欠かせない。最後まで戦えるか。それは戦術的に動けるかということだ。集中を切らさず、チームタスクを完遂できるか。抜けがあったら今の浦和にはカンタンにやられるだろうと思った。DFラインに切り込んでくる奴を徹底的につぶさなきゃならない。それも出来たら瀬戸際は勘弁してほしい。常に未然に防ぐような、先手を打った戦い方が望ましい。

 もう誰が考えても打ち合いになったら負けだ。ロースコア上等! あちこちでグシャッと音がするような死闘をイメージした。か、終わった途端、両軍がぶっ倒れる戦闘だ。もうひとつの関心はそのロースコアの死闘をスタンドが支持するかにもあった。派手なゴールシーンがない試合は(内容がどうであれ)ウケが悪い。そしてこの先、スタンドの盛り上がりがチームの運命を決めるのだ。特に上昇気流に乗れるかどうか、一戦一戦ヒリヒリすることになる夏休み期間、観客動員の流れはこの浦和戦が作るだろう。

 では、どうだったか。もう、10日以上経過してるのだから結論から言おう。僕はいけると思った。これは僕だけじゃないだろう。試合後の選手もいけるって顔をしていた。ピッチに倒れ込む選手は敵軍のほうがずっと多かった。ビッグスワンもチームを支持していた。0対0のスコアながら選手らの奮戦にしびれていた。こういう光景が見たかったのだ。観客も含め、全員が戦うムード。そして、結果にとらわれず前を向く意識。僕は軽々にJ1残留できますよなんて言うつもりはない。この先、死ぬほど大変だ。だけどね、もう新潟はみっともない戦いはしないだろう。

 この日、チームが証明して見せたのは「どんなに好調なチームと当たっても、やることをやれば充分、互角にやり合える」という事柄だ。新潟はガチガチに引いてスコアレスドローを狙ったわけじゃない。敵を分析し、理にかなった守り方をした。その守備戦術をやり抜いた。チームに信頼感があった。選手の関係性や距離感にそれが見てとれた。

 皆、やり方がわかったのだと思う。やり方が定まったでもいい。もう、この先はそのやり方が完遂できたかできなかったか、徹底できたかできなかったかというレベルがあるだけだ。例えばアラン・ミネイロの生かし方、補い方が格段に進歩した。アランは攻撃面では面白い存在だけど、守備はあい変らず危なっかしい。それはカバーするのだ。

 この試合に限らないけれど、三門の存在感が素晴しい。今季は勝負どころで無駄に動いて穴を開けてしまうシーンが目についた。順調に伸びてきた選手だけど、運動量に頼って戦術眼が見劣りするのかなぁくらいに思っていたのだ。ぜんぜん違う。今の三門の充実度はリーグでもピカ1じゃないか。やり方がわかったのだと思う。

 攻撃面ではサイド攻撃の形ができてきた。又、遠めからでもシュートを打つ意識が見える。無得点に終わった試合だけど、以前とはだいぶ変わった。この先、這い上がっていくには一にも二にも得点だ。どこをチームの得点源にするべきか。ゴールの匂いがするのは誰か。

 僕が今、雰囲気を感じるのは田中亜土夢だ。もう毎試合と言っていい。あと少しというシーンを必ず見せている。亜土夢は柳下さんじゃないが、ゴール前であわてるところがある。守備も含め、色んなタスクを担っているのを思うとちょっと可哀想な言い草だけど、逆に言うとまだ成長する要素があるのだ。あの「あと少し」の半分を決めろ。チームはぐっと楽になる。

 アランは振り幅の小さい強烈なシュートが打てる。ゴール前に持ち込む特徴が敵DFのバランスを崩す作用もある。が、得点源という感じは今のところない。意外性の選手という域。使って慣らしていくしかないと思う。その点、去年の得点源だったブルーノ・ロペスに最近、面白いニュアンスを感じる。今季はパフォーマンスが落ちたと評価していいだろう。危機感を浮かべている。プロ野球で「シーズン後半の助っ人外国人」と言うけれど、うまいこと帳尻合わせてゴールを量産してくれると助かる。ブルーノは面白い個性で案外、そういう機微を感じてるフシがある。鈴木武蔵が出てきたときもちょっと笑っちゃうくらいクールだった。

 で、まだフタが開いてない最大の得点源が平井将生だねぇ。平井の生かし方、補い方をマスターしたい。このところさすがだなぁというシュートを見せるようになっている。ハマれば量産があるのは実績で証明済み。僕はレンタルで来た以上、自分がガンバを沈めるくらいの意識があってプロ選手だと思う。まぁ、人情的には他が落ちるのが最も望ましいだろうけど、ピッチに出たら関係ない。平井のプレーヤーとしての誇りだよね。まだ新潟に来た意味をプレーで示していないはずだ。ゴールを量産して、日の丸つけてブラジルへ行けばいい。

 まだチームは降格圏を脱していない。楽観は許されない。ぎりぎりの戦いを続けることになる。でもさ、次の試合がこんなに楽しみなんだよ。情勢は良かぁないけど、悪くない。ここから4ヶ月ちょい、俺たちのサッカー人生すっごい面白いんじゃないか。浦和戦はそんな試合だったよ。


附記1、これを書いてる現在時刻は26日に日付が変わるところ、なでしこジャパンの初戦・カナダ戦まで1時間です。いよいよロンドン五輪ですね。僕は一体、どういう生活リズムになるんだろう。本格的に動画配信が実施される最初のオリンピックっていうのも興味深いですね。

2、東京暑いです。週末は覚悟して来てください。僕は先週、北海道新聞のイベントで札幌に滞在したんで、カラッとした気候が恋しいです。今回も意味なくコンサドーレ札幌の午前練を見学してきました。新加入のブラジル人が合流してましたよ。

3、土曜日のFC東京戦は隅田川花火とかぶるんですよ。例年、妹一家が遊びに来るんだけど、今年は断りました。僕んちの辺は交通規制になっちゃうから、早めに家を出ないと身動きとれないんですよね。味スタ入りが異様に早い気がします。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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