【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第142回

2012/8/9
 「逆襲の夏」

 J1第19節、FC東京×新潟。
 真夏の首都圏開催ゲーム。早めに家を出て、新宿で『旅と鉄道』誌の編集者と打ち合わせをしたんだけど、駅コンコースの人混みがもわもわ暑くて息苦しい。気象庁発表の気温で言えば、関西のほうが常に2、3℃高いけど、首都圏だってどうにかなりそうな暑さだ。熱源が多いせいか夜になっても気温が下がらないんだなぁ。この季節はスタンドで見てるだけでぐったりする。見てるだけであぁなんだから、サッカーする人はホントに大変だ。

 チームの浮沈のかかる夏場の日程、新潟はかなり恵まれたと思っている。酷暑の関西アウェーが組まれていない。次に関西へ行くのは9月中旬だ。遠征は今日の味スタと、8月の三ツ沢&カシマ。今日がいちばん暑いのじゃないか。三ッ沢はともかく、カシマは夜になると結構しのぎやすい。移動も関東なら新幹線が使えてだいぶラクだろう。で、残りはホームだ。新潟市も猛暑が報じられるが、勝手知ったる我が家で試合できるのは疲労度がぜんぜん違う。

 つまり、やってもらわなきゃ困る条件だ。たのむぜアルビレックス新潟。しかも、相手はロンドン五輪に2人(権田、徳永)取られて、ケガ人もいて、その上、ナビスコ仙台戦(アウェー)から中2日のFC東京だ。

 スタジアム入りして記者席で知ってる顔を探したら、スカパー関係者やなんかを2、3人を見かけた程度だった。なるほどなぁ、サッカーライターの主力はロンドンへ行ってるんだ。僕は大住良之さん、後藤健生さんに柳下アルビを見てもらうチャンスだぐらいに思っていたんだけど。考えたらそりゃロンドンだ。僕は以前、サッカー誌の仕事をしていた頃、ユーロ等で記者席の人数が少ないとき、居残り部隊として頑張ろうと思ったものだった。手薄になりそうなJ2の試合へ行ってみたり。ライターだって主力が上がってスペースができたら、そこは誰か埋めないといけないだろう。

 よし、今日も俺が見ることにする。Jの動向を示してくれそうな試合だ。前回、ビッグスワンで対戦したときはFC東京の完勝だった。ポポヴィッチ監督の志向するパスサッカーはサッカー誌で大きく取り上げられ、注目を浴びていた。最近は苦しんでいるようだ。ポポヴィッチさんなり、FC東京の選手なりにほんのわずかでも不満や弱気が兆(きざ)していると助かる。何で俺たち、人が足りないのに主力を2人も抜かれるんだ? こんな暑い日本の気候でサッカーをやるなんてクレージーだ! こっちは中2日で相手は中2週?

 試合。始まってすぐ「こりゃ勝たないとなんない試合だな」とひとりごとを言う。FC東京の選手が見るからに重い。新潟は2週間の休養でフレッシュそのもの。こんなに違うんだなぁ。それはコンデション面が第一義だが、もうひとつ意欲の差ではないかと思った。新潟は今、つかまえかけてるきっかけをモノにしなければ終わる。そして、つかまえかけているものに魅力を感じている。柳下さんからこと細かにダメ出しを食らって、皆、修正点がハッキリした。

 それは「サッカーが苦行のチーム」と「サッカーが面白いチーム」の試合のようだった。FC東京は前半、完全に省エネで来た。シュート自体、ほとんど打たれていない。加えて新潟の守備が実に良くなった。開幕以来、大崩れしてないじゃないかとスコア一覧をプリントアウトして持って来られると「はぁ、そうですね」なのだが、今の新潟の守備はシーズン序盤と全く違う。連動性があるのだ。これは練習でこっぴどくダメ出しを食らっている成果だろう。

 まぁ、これは負ける要素はあんまりない試合だなと思って、連動性の部分を丹念に見た。今、スタジアムでそれを見るといいですよ。誰かが行って、他の誰かがどうフォローやカバーに動くか。今、言ってるのは守備戦術(のグループ戦術)だけど、攻撃でも同じですね。ボール持ってない選手がどう動くか。毎試合、チームが仕上がっていくのがよくわかります。

 負ける要素があるとすると決定力だけなんだな。例えばルーカス、あるいはリザーブのエジミウソン(この週からJに復帰!)辺りにスーパーな仕事をされる展開。それ以外はホントに申し訳ないが、ちょうどいい「実戦形式」だった。相手がそんなに来ない、スペースも時間もある状態でどう試合を組み立てるか。セカンドを拾ったらどう攻撃に結びつけるか。いや、「実戦形式」呼ばわりが失礼なのは重々承知しているのだが、FC東京がそれくらい動けない。

 前半32分、三門の先制ゴールが決まると勢いの差は如実になった。新潟はこの時間帯に2、3点取って試合を決めてしまうべきだった。惜しいシーンが続いた。ここで点を取り切れるチームになることが次の課題になる。もう、惜しいシーンでは足りない。結果を出して行かないと。

 後半になってFC東京はエジミウソン、梶山陽平(ケガ明けの復帰戦)と攻撃の駒を投入、ようやくスイッチが入った。やっぱり走ってパスコースを作り始めると厄介だ。勝負という意味ではここがポイントだった。ここを抑え切ったことが試合の流れを決める。後半22分、交代出場のアラン・ミネイロが追加点を決め、勝負あった。もう、最後の頃はFC東京の陣形が間伸びして、戦意喪失だった。

 2点取れたのが収穫だ。これからは「チャンスの時間帯」と「交代投入の勝負どころ」で2得点を基準としたい。まぁ、そういうのは試合展開によるからひと括りにできないが、得点のイメージを僕らも持ちたい。「1点しか取れない新潟」は卒業するべきだ。

 チームは14位に浮上、とりあえず降格圏を脱した。といって試合後の会見で柳下さんもコメントしていたように、今の時点でそんなことに浮かれてはいられない。「逆襲の夏」にしよう。今、頑張らないでいつ頑張る。


附記1、ナイスゲームでした。三門選手がバツグンでしたね。あと、田中亜土夢が攻守に加え「村上が両足つりました」と言いに行く大活躍。もう、フォア・ザ・チームの鑑(かがみ)ですね。おかげで柳下さんもアランを投入できた。

2、ロンドンの男女・五輪代表が素晴しいです。特に男子初戦のスペイン戦はしびれた。ダイスケは成長してますね。あのクラスを抑えたのは自信ついたと思いますよ。

3、次節・柏戦は好調チームを迎えての大一番なんですけど、当日・日本時間20時キックオフで男子代表の準々決勝・エジプト戦が組まれています。これは試合後、ビッグスワンで「即席パブリックビューイング」を実現したいですね。エジプト戦の後半を皆で応援できますよ。たぶんクラブは権利関係があって、事前告知や販売行為ができないと思うんだ。だから僕も、やってくんないかなぁ、クラブはやってくれると信じる、と言うにとどめます。

4、しかし実現したら右サイドバックの酒井が高徳か宏樹かで、又、柏サポとひと盛り上がりありますね(笑)。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー