【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第143回
2012/8/16
「負けなくなってきた」
J1第20節、新潟×柏。
夏の青春18きっぷを利用した。僕はトンネルを抜けた後の上越線車窓の光景が大好きだ。夏の南越後は緑一色。八色駅を通過するときはスイカを連想した。今日はスタジアム前の広場でスイカがふるまわれるそうだ。スタジアムの趣向は「夏祭り」。市内は新潟まつりの期間でもある。ハーフタイムには打ち上げ花火が予定され、ゆかた、甚平の和装の観客にはプレゼントが用意される。
それからスペシャル企画として、試合終了後にロンドン五輪の男子サッカー準々決勝・エジプト戦のパブリックビューイングが実現した。関係各位の尽力に賛辞を惜しまない。こんな素晴しい企画を実現させたのは、日本中のJリーグ会場で新潟だけだ。まとめて言うと今日のビッグスワンは新潟サッカー夏祭りである。
新潟駅前でシャトルバスを利用するとき、あまりの猛暑にクラッと来た。駅南には「2012北信越かがやき総体」のブースが設営されていて、ステージでアマチュアバンドが演奏している。この暑さがどのくらいおさまるのかなと思ったら、鳥屋野潟は風が抜けてしのぎやすい。夕方以降は前節の味スタと全く違った。木々や緑地は「自然のクーラー」というけれど、本当にそんな感じだ。
前年王者・柏は絶好調で乗り込んで来た。シーズン序盤、調子が出なかったのがウソのようだ。今なら何点でも取れる状態。某掲示板にフジテレビの『ほこたて』を模して「最強の矛 ほどほどの盾 さぁ、勝つのはどっちだ?」と書き込んだ人がいて爆笑してしまった。前節、セレッソをボコボコにした攻撃力は実に脅威なのだ。
だけど、やれるんじゃないかと想像していた。好調の浦和を向こうにまわしてもきっちりやり合えたチームだ。例えばの話、柏に0対5で負けて、続いて五輪代表が(鈴木大輔痛恨のミスか何かで)エジプトに敗れたら、新潟サッカー夏祭りもしょんぼりしたものになるだろう。そうはならない気がする。
そうしたら試合が始まり、前半の新潟がすごくよかった。僕はここ数年言われた「マルシオ抜き」「ミシェウ抜き」のゲームのなかでベストの出来じゃないかと思う。累積でミシェウが欠場しているのだ。以前ならタメが作れず、タテに放り込むしかなかったところだ。2トップを組んだブルーノ、アランが頑張っていた。特にアラン・ミネイロのキープでタメが作れたのが大収穫。再三、好機を作った。ていうか「最強の矛」に対し、守りを固めるのでなく、積極的に攻め続けた。
内容は圧倒的に優っているのだが、ゴールだけが決まらない。両サイドの田中亜土夢、藤田征也がいい雰囲気で入って来る。ブルーノ・ロペスがDFの密集から反転して打つ。こんなに押してて得点が生まれないのは嫌な感じだ。案の定、前半終了間際、カウンターから失点してしまう(45分、ジョルジ・ワグネル)。いやー、あそこだけだったんだけど。もったいないね。
だけど、ぜんぜん悪い試合じゃない。自信を持って自分らのやり方を続ければいい。と思ってから「続ければいい」と思えることに驚く。言っとくが相手はノリノリの柏なのだ。J全チーム、今、いちばん当たりたくない相手だ。それが全くヒケを取らないどころか、組み立てて優位に試合をしている。後半、エンジンかけて来るのかな。好試合の予感。くどいけどこれが「ミシェウ抜き」のゲームだってんだから新潟復調も本物だ。
先週書いたゴールの基準。試合のどこかで必ず来る「いい時間帯」に1点。交代等の「仕掛け」で1点。合計2点で勝利の確率をアップさせたいねー、という勝手な胸算用(柏はそんなこと考えないでいいんだろうなぁ)なんだが、その意味では前半、ノーゴールに終わって第1ステップは未遂に終わった。後半スタートからしばらくはお互いに張り切る。ちょっと打開策が必要かなと思ったら、柳下監督が早めに動いた。後半13分、菊地に代えて矢野貴章投入。もう、柏サポからブーイングが起こらない。貴章は完全に新潟の人になったね。
そしたら新潟の至宝・矢野貴章がいきなり結果を出す。後半18分、CKにファーでヘッド一閃。夏場を迎えて貴章(とアラン)の状態が上がってきたのは大変、好材料だ。ゴール基準(えのきど算?)の第2ステップは見事クリア。さぁ、同点だ。いよいよ好試合の予感ですよ。
だもんで後半24分の本間退場劇はホントに残念だった。ちょっときびしい判定じゃなかったかなぁ、ダーレン・デッドマン主審。危険なタックルと見なされたわけだけど、ボールに行ってて、相手は入ってきたように感じた。少なくとも悪質なプレーには思えない。し、こんな好ゲームのバランスを崩しちゃうかなぁ。僕は勝敗はどうあれ、11人どうしの試合が見たかったなぁ。
柳下さんは前線のブルーノを削って、木暮を入れる。で、引き分け狙いでガチガチに守るかというと、重心は下げなかった。まぁ、柏相手だと守りに入ったほうがかえって危ないかもしれない。で、それほど必死に粘ったという印象でなく、余裕を持ってドローを成立させた。退場で1人欠けても、新潟のゲームだった。シュート数でも圧倒した。柏は夏バテが来たのかな。
何だか知らないが負けなくなってきた。それも絶好調の強豪と当たってだ。チームは正味、やっと降格圏を脱して、今、ようやく残留争いを戦えてるくらいのポジションだが、内容が大変ポジティブだと思う。次節、横浜FM戦はどうなるかなぁ。又、相手が好調だ。しかも、こっちは中心選手の欠場が決まっている。予想を言いましょうか。やれちゃうんじゃないでしょうか。
附記1、F.A.(イングランド協会)との審判交流で来日されたダーレン・デッドマン主審でしたけど、権威を見せつける感じのレフェリングだったなぁ。二度ほどボールに当たってたのも思い出に残る。あ、プレーが止まったとき、亜土夢がすかさず水を渡してたのご覧になりました? デッドマン主審も新潟一の好青年に感激しただろうと思いますよ。
2、試合前、八色スイカのこっちではサポーターズCD『ラ・ファミリア』の発売ブースが大盛況でした。僕も何となく売り子をやらされました。知り合いが増えて、とても素通りできません。
3、ロンドン五輪のパブリックビューイングは快挙でしたね。高徳が後半投入されたときの盛り上がりは格別でした。僕ね、ファンサービス企画は川崎が有名だけど、今回は新潟がGJ賞だと思いますよ。先週この欄に書いたでしょ。あの時点で問い合わせたら「水面下で動いてます」って返ってきたからね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第20節、新潟×柏。
夏の青春18きっぷを利用した。僕はトンネルを抜けた後の上越線車窓の光景が大好きだ。夏の南越後は緑一色。八色駅を通過するときはスイカを連想した。今日はスタジアム前の広場でスイカがふるまわれるそうだ。スタジアムの趣向は「夏祭り」。市内は新潟まつりの期間でもある。ハーフタイムには打ち上げ花火が予定され、ゆかた、甚平の和装の観客にはプレゼントが用意される。
それからスペシャル企画として、試合終了後にロンドン五輪の男子サッカー準々決勝・エジプト戦のパブリックビューイングが実現した。関係各位の尽力に賛辞を惜しまない。こんな素晴しい企画を実現させたのは、日本中のJリーグ会場で新潟だけだ。まとめて言うと今日のビッグスワンは新潟サッカー夏祭りである。
新潟駅前でシャトルバスを利用するとき、あまりの猛暑にクラッと来た。駅南には「2012北信越かがやき総体」のブースが設営されていて、ステージでアマチュアバンドが演奏している。この暑さがどのくらいおさまるのかなと思ったら、鳥屋野潟は風が抜けてしのぎやすい。夕方以降は前節の味スタと全く違った。木々や緑地は「自然のクーラー」というけれど、本当にそんな感じだ。
前年王者・柏は絶好調で乗り込んで来た。シーズン序盤、調子が出なかったのがウソのようだ。今なら何点でも取れる状態。某掲示板にフジテレビの『ほこたて』を模して「最強の矛 ほどほどの盾 さぁ、勝つのはどっちだ?」と書き込んだ人がいて爆笑してしまった。前節、セレッソをボコボコにした攻撃力は実に脅威なのだ。
だけど、やれるんじゃないかと想像していた。好調の浦和を向こうにまわしてもきっちりやり合えたチームだ。例えばの話、柏に0対5で負けて、続いて五輪代表が(鈴木大輔痛恨のミスか何かで)エジプトに敗れたら、新潟サッカー夏祭りもしょんぼりしたものになるだろう。そうはならない気がする。
そうしたら試合が始まり、前半の新潟がすごくよかった。僕はここ数年言われた「マルシオ抜き」「ミシェウ抜き」のゲームのなかでベストの出来じゃないかと思う。累積でミシェウが欠場しているのだ。以前ならタメが作れず、タテに放り込むしかなかったところだ。2トップを組んだブルーノ、アランが頑張っていた。特にアラン・ミネイロのキープでタメが作れたのが大収穫。再三、好機を作った。ていうか「最強の矛」に対し、守りを固めるのでなく、積極的に攻め続けた。
内容は圧倒的に優っているのだが、ゴールだけが決まらない。両サイドの田中亜土夢、藤田征也がいい雰囲気で入って来る。ブルーノ・ロペスがDFの密集から反転して打つ。こんなに押してて得点が生まれないのは嫌な感じだ。案の定、前半終了間際、カウンターから失点してしまう(45分、ジョルジ・ワグネル)。いやー、あそこだけだったんだけど。もったいないね。
だけど、ぜんぜん悪い試合じゃない。自信を持って自分らのやり方を続ければいい。と思ってから「続ければいい」と思えることに驚く。言っとくが相手はノリノリの柏なのだ。J全チーム、今、いちばん当たりたくない相手だ。それが全くヒケを取らないどころか、組み立てて優位に試合をしている。後半、エンジンかけて来るのかな。好試合の予感。くどいけどこれが「ミシェウ抜き」のゲームだってんだから新潟復調も本物だ。
先週書いたゴールの基準。試合のどこかで必ず来る「いい時間帯」に1点。交代等の「仕掛け」で1点。合計2点で勝利の確率をアップさせたいねー、という勝手な胸算用(柏はそんなこと考えないでいいんだろうなぁ)なんだが、その意味では前半、ノーゴールに終わって第1ステップは未遂に終わった。後半スタートからしばらくはお互いに張り切る。ちょっと打開策が必要かなと思ったら、柳下監督が早めに動いた。後半13分、菊地に代えて矢野貴章投入。もう、柏サポからブーイングが起こらない。貴章は完全に新潟の人になったね。
そしたら新潟の至宝・矢野貴章がいきなり結果を出す。後半18分、CKにファーでヘッド一閃。夏場を迎えて貴章(とアラン)の状態が上がってきたのは大変、好材料だ。ゴール基準(えのきど算?)の第2ステップは見事クリア。さぁ、同点だ。いよいよ好試合の予感ですよ。
だもんで後半24分の本間退場劇はホントに残念だった。ちょっときびしい判定じゃなかったかなぁ、ダーレン・デッドマン主審。危険なタックルと見なされたわけだけど、ボールに行ってて、相手は入ってきたように感じた。少なくとも悪質なプレーには思えない。し、こんな好ゲームのバランスを崩しちゃうかなぁ。僕は勝敗はどうあれ、11人どうしの試合が見たかったなぁ。
柳下さんは前線のブルーノを削って、木暮を入れる。で、引き分け狙いでガチガチに守るかというと、重心は下げなかった。まぁ、柏相手だと守りに入ったほうがかえって危ないかもしれない。で、それほど必死に粘ったという印象でなく、余裕を持ってドローを成立させた。退場で1人欠けても、新潟のゲームだった。シュート数でも圧倒した。柏は夏バテが来たのかな。
何だか知らないが負けなくなってきた。それも絶好調の強豪と当たってだ。チームは正味、やっと降格圏を脱して、今、ようやく残留争いを戦えてるくらいのポジションだが、内容が大変ポジティブだと思う。次節、横浜FM戦はどうなるかなぁ。又、相手が好調だ。しかも、こっちは中心選手の欠場が決まっている。予想を言いましょうか。やれちゃうんじゃないでしょうか。
附記1、F.A.(イングランド協会)との審判交流で来日されたダーレン・デッドマン主審でしたけど、権威を見せつける感じのレフェリングだったなぁ。二度ほどボールに当たってたのも思い出に残る。あ、プレーが止まったとき、亜土夢がすかさず水を渡してたのご覧になりました? デッドマン主審も新潟一の好青年に感激しただろうと思いますよ。
2、試合前、八色スイカのこっちではサポーターズCD『ラ・ファミリア』の発売ブースが大盛況でした。僕も何となく売り子をやらされました。知り合いが増えて、とても素通りできません。
3、ロンドン五輪のパブリックビューイングは快挙でしたね。高徳が後半投入されたときの盛り上がりは格別でした。僕ね、ファンサービス企画は川崎が有名だけど、今回は新潟がGJ賞だと思いますよ。先週この欄に書いたでしょ。あの時点で問い合わせたら「水面下で動いてます」って返ってきたからね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
