【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第144回

2012/8/23
 「2列めからの飛び出し」

 J1第21節、横浜FM×新潟。
 三ツ沢のプレスルームでもらったメンバー表を見てすごいなぁと思う。横浜FMのスタメンの平均年齢が30.09歳になっている。まぁ、今季帰参を果たしたドゥトラを筆頭にマルキーニョス、中澤佑二、中村俊輔、大黒将志、富澤清太郎と30代が6人いる。やっぱりドゥトラの39歳が効いている。小野裕二の19歳だけではどうにもならない。

 通り雨になるかもしれない。気温は大したことないが、湿度がサウナ級に高い。このコンディションが「30.09歳」に作用してくれればいいが、そううまく行くかどうか。横浜FMはリーグ戦、ここしばらく引き分けているが、何しろ4月以来負けてないチームだ。勝負強い。仕事のできるベテランがいる。

 ちなみに新潟スタメンの平均年齢は26.09歳だ。30代はミシェウさんただひとり。とりあえず運動量で負けるわけにいかないだろう。今節はブルーノ、矢野、本間が累積欠場の為、平井が先発出場、左SBに村上が入り、菊地がボランチにまわった(戻った?)。ブルーノの献身的な追い回し、本間の潮目を見る能力といった新潟のベース部分が欠けることでチームは機能を失うだろうか。

 前半、落ち着いたいい入りだなと感心する。このところ新潟は試合の入りがすごくいいと思いませんか。形は色んなのがあって、がんがんプレスに行く場合も、相手のプレスをかわしてボールをまわしてリズムをつかもうとする場合も、こう非常にスッキリした感じを受ける。散漫な入りが見られない。戦術的な意思統一ということかもしれないけど、ぎゅーっと弓を引っ張ったような、みなぎった感覚で試合が始まる。見る側としては期待感大だ。

 守りに関しては特に前半、問題は感じなかった。横浜FM・マルキーニョスや中村俊輔が形を作って来るが、きっちり対応できている。何だよ、やれるんじゃん。前線の平井はブルーノみたいには追わない。フル出場があんまりないから体力的にも心配なのかなと思う。それに平井の良さは勝負をかけたときの動きだ。ブルーノのような怪物と下手に張り合ってつぶれないほうがいい。慣れないポストプレーをこなそうという意識も見られる。

 ミシェウが再三、平井を生かそうとしていた。それが実ったのは前半17分過ぎ、右サイドで受けて、上がってく平井の足元に縦パスを通す。平井は右へ持ち込んでこれをキープ、味方の上がりを待つ。で、そこへ駆け込んだのが田中亜土夢だ。18分、平井の折り返しをもらった亜土夢が電光石火の先制ゴール! 柳下監督が意識づけようとしている「2列めからの飛び出し」がきっちり決まった。

 前半はそのまま0対1で終了、先制点は大きいが、それ以上に積極的な守備が光った。この試合はある程度、相手にボールを持たれるのは仕方ない。持たせて新潟ペースという面もある。相手が作ってくるところをどう未然につぶして行くか、それを攻撃に結びつけるかだと思う。敵将・樋口靖洋監督のハーフタイムコメントは「1点ビハインドだが、盛り返すパワーを持って入ろう」。新潟・柳下監督は「後半も前半のような流れになる。全体を高く保つこと」。横浜FMは圧をかけてくる、守戦の展開になるのは織り込んどけということだ。

 果たして横浜FMはギアを上げてきた。後半はエリア内でダイレクトで打たれるシーン(小野のヘディング、マルキーニョスのボレー)が続く。ちょっと押し込まれる時間帯が続いて、嫌なムードだった。柳下監督は後半10分、アラン・ミネイロを下げて大宮から獲得したばかりの坪内秀介を入れた。坪内は守備のユーティリティプレーヤー、前橋育英出身だから亜土夢の先輩に当たる。ちなみに『2012 J1&J2リーグ選手名鑑』(ベースボールマガジン社)を見ると今季の目標は「かぜをひかない。」らしい。

 坪内は左SBに入り、村上が本職の右SBに戻る。風邪をひくな、ようこそ坪内! この押し込まれ気味をどうにかする働きを見せてくれ。が、押し込まれた展開はやっぱり続いて、敵のCKが頻発する。横浜FMには日本一のキッカー、中村俊輔がいる。ターゲットは中澤、栗原、富澤と揃っている。これは勘弁してほしい。うちはブルーノ、矢野が出場停止、鈴木大輔はロンドン五輪と高さが足りんのよ。

 後半17分、やられた。CKから中澤のヘッド。大外から飛び込んでくる打点の高い一発。あんたらそれをここでやらずに何故、ドイツW杯でやってくれなかった? それくらいの豪快な同点弾。やっぱり、横浜FMのストロングはセットプレーだ。これをやらせたら誰が見ても天下一品。

 が、気落ちしてる時間はなかった。追いつかれた直後、三門→ミシェウ→三門のワンツーからマイナスに折り返して平井、という決定機を作る。これは平井が合わず、スルーした形になり坪内のシュート(コース外れる)で終わった。後半20分、亜土夢の勝ち越しゴールはほぼその形を繰り返したもの。ミシェウがキープして、右サイドのスペースにボールを出す。三門はけんめいに走ってそれを折り返す。エリアに走りこんできた亜土夢が今日、2点めのビューティフルゴール! 

 攻めの形ができてきたというのはこういうところだ。ミシェウは三門の上がりを信じてスペースに出した。三門は亜土夢の上がりを信じて折り返した。時間帯がいい。追い着かれてすぐ突き放した。亜土夢は駆け寄るミシェウを振り切って、新潟サポの前へ歓喜の「鉄腕アトム」ダイビング! これは勝ったと思いました。横浜FMとしても流れのなかで2失点は久々じゃなかったかな。

 そうしたらやられたんよ、更にFKから2失点(後半24分・マルキーニョス、同42分・中澤)。まいったなぁ。「30.09歳」は仕事の確かさのほうに出たらしい。ま、自陣でプレーしすぎ、かつセットプレーを与えすぎたんだと思う。サッカーの試合としては(湿度80パーのわりに)大変面白かった。が、勝ち点1すら持ち帰れなかったところは反省材料だ。

 前節の柏戦といい、勝てる目があった試合はきちんと拾っていかないと、後々、祟(たた)ることになりかねない。内容はよかった。もっと上位を狙ってもいいサッカーだ。が、現実面を見ると勝ち点0の試合だった。次節・広島戦に期待しましょう。次はメンバーが揃いますよ。


附記1、この日は未明にロンドン五輪男子サッカーが銅メダルを逃して、アルビサポからすると「1日2連敗」って感じの、悔しい日でした。まぁ、だけど女子が日本サッカー史上初の銀メダル、男子が4位入賞って素晴しい成果だと思います。ダイスケおつかれさん!

2、新潟明訓、甲子園初戦突破おめでとうございます。雨天でスケジュールが順延されて、次は広島戦の土曜日に重なりそうですね。僕は伝説の「ビッグスワンで甲子園経過(結果)のアナウンス」っていうのを楽しみにしています。それこそがローカリズムですよね。野球だサッカーだじゃないですよ。

3、広島戦の後は新潟に2泊する予定です。日曜は市陸のイベントを見に行く一方、田中亜土夢選手の単行本用インタビューを収録する方向(あ、散歩道単行本、今年も出るみたいですよ)。月曜は新潟日報社へ乗り込んで、空いたデスクをお借りして連載コラムの入稿です。まだ運動部へご挨拶に行ってなかった。週明けは高校総体も終わって、日報運動部もひと息ついてるんじゃないかな。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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