【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第149回

2012/9/27
「どしゃ降りの万博」

 J1第25節、G大阪×新潟。
 残念ながら僕は留守番部隊だ。アラームをセットしてBS-TBSの生中継を待つ。それまでは仕事部屋にこもって単行本(河出書房新社から山田うどん本を出します)の追い込み。といってもアラームより早く現地サポからメールがばんばん入り、着信音でキックオフが近づいたのがわかった。大阪は大雨だ。今年は西日本で集中豪雨が続くなぁ。

 18時55分にアイフォンのアラームが鳴った。長いことPCの画面を見続けていたので目がしょぼしょぼする。洗面所で顔を洗った。しゃっきりしないとダメだ。この試合は僕がアルビレックス新潟を書きはじめて最重要な一戦ではないか。本当は新幹線に乗りたかった。万博競技場は雨を避ける手だてがないけれど、行かないと話にならない。台東区のマンションで目なんかこすってる場合じゃないのだ。

 BS-TBS放送開始。ガンバが見慣れないユニホームを着てると思ったら、この1試合だけのために作ったそうだ(!)。 公式サイトではサポーターに「蹴結」を呼びかけている。残留争いの直接対決をイベント化して、ホームの力を最大限に発揮しようというアイデアか。僕は何でガンバがこんな位置にいるのかさっぱりわからない。代表級の選手が揃う。外国人も引いて来れる。育成から好素材が輩出する。何といってもうらやましいのは資金力だ。たぶん大方の読者も何で自分らがよりによってガンバと残留争いしてるのか、わかんないだろう。

 新潟はスタメンに左SB キム・ジンスが復帰した。右サイドは田中亜土夢と村上。菊地は今日もベンチに入っていない。TBSのカメラを通して選手の緊張が伝わってくる。大勝負だ。このメンツならキム・ジンスはじゃんじゃん上がれと指令を受けてるだろう。

 キックオフ。選手が硬い。雨は相当降ってるようだ。大丈夫かなぁと心配してたらガンバのリズムになりだした。新潟は何でこんなにコチコチなのか。大一番に気が入り過ぎて、身体が動かないのか。それでなくとも雨の試合は選手の技術をはっきり映し出す。で、ガンバはやっぱりボール扱いが巧い。劣勢だった。誰か流れを変えてくれ。この感じだとガンバの試合だ。やられるのは時間の問題だ。

 早々とやられた。前半14分、FKのはね返りをもらったレアンドロのゴール。これはショックが大きかった。一体、何点とられることかと思う。気押されした新潟は守戦に専念してしまう。その様子はどう見えたかというと「2点めをとられたら終わりだ」という心理だ。今度は臆病さ(良く解釈すれば慎重さ)がチームを縛りはじめる。

 が、守っても絶体絶命のシーンがあったりした。勢いづいたガンバを守戦でしのぎ続けられるものじゃない。オフサイド判定に助けられたりしながら、どうにかこうにか紙一重を防いで1失点のまま前半終了。何と前半、新潟はシュート0本だ。僕は憂鬱なハーフタイムを過ごした。暗い気持ちだ。このまま行ったら3対0でガンバが勝つだろう。ちっきしょう、編集者にウソをついて大阪行くんだった。

 だから後半キックオフは覚悟して迎えた。何を見ても取り乱したくない。そうしたら新潟が一変していた。何だこれは。めちゃめちゃアグレッシブじゃん。そうだそうだ、前任の黒崎監督時代から口を酸っぱくして言い続けてきた「アグレッシブ」だ。これがないと新潟の良さが出ない。これがないとサッカーにならない。柳下監督、こりゃロッカーで相当ネジ巻いたな。

 試合後の会見コメントによると柳下監督は選手らにこう語りかけたらしい。サッカーを怖がっている。ガンバを怖がっている奴がいたら言ってくれ、交代するから。

 グゥの音も出ない言葉だ。パニックにすくんでしまったチームに活を入れる。アルビサポ用語で言えば「ちゃぶ台をひっくり返す」か「腹パンチを入れる」か。いずれにしてもこれでチームが目覚めた。そりゃそうなんよ、ずぶ濡れのサポだってあんな「座して死を待つ」みたいな試合見たくない。勝ち負けはともかく勝負してほしい。練習で作ったものを仕掛けに行ってほしい。

 目覚めた新潟は果敢だった。ちょっとびっくりするほど流れが変わる。この日は後半投入された藤田征也が素晴しかった。三門の惜しいシュートがあった。ガンバは動きが落ちた。DFラインが下がって新潟が押し込む格好。だけど、ゴールが奪えない。時計が刻々と進んでいく。

 が、圧力をかけ続けた効果があった。ロスタイム、敵DF・岩下敬輔がエリア内でミシェウを倒し、PK判定。PKをブルーノ・ロペスが決めて同点(ブルーノは何と5月以来のゴール!)。すぐボールをひっつかんで試合を続行しようとしたのは新潟側だった。後日の報道によるとガンバサポはこの光景を問題としたらしい。残り時間、勝とうとする姿勢を見せたのは相手のチームだったと彼らは主張する。

 それはその通りで、同点ゴール直後、ブルーノが抜け出して敵GKと1対1になる絶好のチャンスがあった。あれが何故、決まらないかなぁ。僕はもう、ソファーベッドに倒れたよ。あれを決めたらガンバを葬れた。新潟とG大阪、ともに前後半で全く異なる姿を見せ、勝ち点1を分け合う。ま、僕は後半盛り返せたほうが次につながると信じる。やればできることがわかった。

 読者よ、柳下監督の言葉は僕らにも当てはまることかもしれないよ。勇気を出そう。本当に次のホームゲーム、友達や同僚や親戚を拝みたおして連れてきてくれないか。ダメモトで商店会やお店に手書きでいいから「アルビ踏ん張れ! 応援してるぞ!」って貼るように言ってみてくれないか。「オール新潟」に一歩でも近づけよう。幸運なことにまだ9試合あるんだ。ここから巻き返そうぜ。


附記1、現地組の皆さん、おつかれ様でした。ちょっと視界がきかないくらいの雨でしたね。ロスタイムのPKは試合の流れ、選手の奮闘を別とすれば、ちょっとサッカーの神様からのプレゼントみたいな感じもありましたね。「おー、はるばる新潟から来て雨に打たれておる。このサポを手ぶらで帰すのは酷じゃな」って。

2、次節・磐田戦も僕はTV観戦です。次、行けるのは名古屋戦だな。『アルビレックス散歩道2011』の発売予定日なので、久々にサッカー講座を組んでいただけるようです。あと試合前、人気芸人さんとスタジアムトークのオファーもいただきました。んで、どうも一泊して翌日、セーローでスカパー『アルビレックスタイムズ』の収録らしい。どうか皆さん、河出書房新社にはこの件、内密にしてください。

3、あと僕、10月からTBSラジオで『えのきどいちろうの水曜ウォンテッド!』(水曜20時から生放送)って新番組始まるんですけど、昨日打ち合わせで聞いたらBSNでネットしてくれるみたいですよ。あんまりスポーツネタにならない気もするけど、よかったら聴いてください。


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