【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第157回
2012/11/22
「行こうぜ、この先へ」
J1第31節、清水×新潟。
先週水曜日、ナイター開催されたアウェー戦だ。何故、変則開催になったかというと11月3日(土)、毎年恒例のナビスコ決勝が行われた関係だ。清水はまさにその決勝戦を(延長戦まで)戦って、鹿島に敗れている。試合間隔をいうと清水の中3日に対し、新潟は中10日空いた。これはどっちが有利か難しいところで、メディア的には「清水は若いチームだからあんまり影響ないだろう」という見方が一般的だった。むしろ、練習試合をこなしてるとはいえ、新潟の試合勘のほうに影響が大きいかもしれなかった。
が、僕はチャンスは大ありだと踏んでいた。今、新潟の強みは柳下監督のスカウティングに基づいた徹底的な「対敵戦術」だ。その準備の期間が多くとれ、意識づけを施すことができた。対して清水はナビスコ決勝・鹿島戦に照準をしぼっていただろう。若い選手らは身体の疲れはリカバーできるかもしれないが、「対新潟」の徹底に時間が足りない気がする。まぁ、そんなことを言って勢いで持っていかれる可能性も充分あるが、つけ入るスキもあるだろう。ともあれ、「勝って未来をひらかねばならない試合」と「大一番の次の試合」という両軍の位相の違いは歴然としていた。
新潟は守戦になる。とにかく前半0点にしのいで、数少ないチャンスに賭けるしかない。当日、強風だったのは柳下さん、ちょっと気になったと思う。意思統一したイメージと状況があまり変わってほしくない。不確実なファクターは少なければ少ないほど好ましい。まぁ、ここまで来たらそんなこと関係ないのかもわからないが。
日本平の新潟応援席はかなり埋まっていた。皆、90分しのぎ続ける試合になると覚悟した連中だ。精鋭中の精鋭だ。気づくと僕はチームより先にスカパー映像の新潟サポに「たのむぞ」とつぶやいている。先週書いたがこの日は仕事で動けず、(結果を先に知って)録画映像を見ているのだ。なのに緊張していた。早い話、僕はあそこにいたかったのだと思う。日本平の寒風に吹きさらされて、チームとともに守戦に耐えたかったんだと思う。
試合は想像を上まわるぴーんと張りつめたものだった。風上の清水が、開始からほぼ一方的にポゼッションを握って軽快に攻めてくる。といって新潟はハイプレスに行かないので、これは織り込み済の展開か。今日は右サイドハーフにアラン・ミネイロが起用された。守りのスペシャリストとはいえないアランがどう振舞うかで、おおよその戦術は見えてくる。「対清水」の意識づけだ。ある程度、サイドは来てもらって構わないという感じじゃなかったか。その代わり、個々の集中力は切らさない。アランは真面目にマークを続けていた。
が、清水は怖い。何度も左から大前元紀が攻めてくる。いつ見ても大前のほっぺはぷっくりしている。願わくばその童顔を怖い場面では見たくないものだ。しばらくハーフコートゲームのような自陣での応酬が続いてヒヤヒヤする。まぁ、どうにか清水の第一波をしのぎ切った。前半の途中、28分過ぎの田中亜土夢のミドル辺りから新潟にリズムが生まれだす。
この試合、特筆もんだったのは三門の守備だ。もう、あぁなると「効いてる」なんて生易しいものじゃない。スーパーな働き。三門は柳下監督になってどんどん凄みが増している。僕はそろそろザッケローニ監督が気づいてもいい頃じゃないかと思うのだ。ここに代表の抱える問題のひとつを解決できる男がいる。
後半、清水・ゴトビ監督は八反田に代えて小林大悟を入れてくる。小林大悟は僕の好きな選手だ。大宮サッカー場の改築の頃、よく小林大悟を見に駒場へ取材に行った。が、こんな場面で出てくると実に厄介だ。願わくばそのダンディ顔も怖い場面では見たくない。
怖い場面で見てしまった。後半8分過ぎ、センターサークル付近でのボールロストから典型的なショートカウンター。完全にやられた。最後は小林大悟がスラし気味のヘディング。これは幸運なことにポストを叩いた。このシーンが一番危険だったんだけど、それ以外にも小さなミスの積み重ねで危ない場面を作られた。ま、90分間最善のプレーをしつづけるのは人間には難しいかもしれない。が、ミスは命取りだ。ミスにはわかりやすいミスもあるし、味方を窮屈にしてしまう「ミスに見えないミス」もある。ま、練習できっちりやり切ることだなぁ。大事なとこでハッキリ出るからねぇ。
そして得点シーンだ。小林大悟の決定機でゾゾッと来た新潟は頑張って押し返していた。その第二波くらいがCKを誘って、アランのCK→ブルーノつぶれて浮き球がこぼれる→石川魂のヘッド。石川直樹が気持ちを見せてくれた! 闘魂! 闘魂としか言いようがない。ゴールを決めた石川が広告板を飛び越え、新潟ゴール裏のサポーター、リザーブ選手のもとへ駆ける。最高に美しい情景。このチームは生きている。
その後はミシェウに追加点のチャンスがあったりしたんだけど、トータルでは守り勝った。本当に集中を切らさない良い試合をした。終盤、黒河が何度もチームを救ったなぁ。だから、ぜんぜん危なげなく勝ったということじゃない。が、やり切った。感動したよ。サポもロスタイム4分、もう窒息しそうだったと思う。
僕らはこれを続けていくしかない。他チームがどうだろうとこれを続けていくしかない。極限のなかでありありと姿を見せるもの。人を魅了して止まないもの。フットボールの実相。もう、これは誰も逃げられないよ。行こうぜ、この先へ。行こうぜ、自分の足で。
附記1、W杯アジア最終予選のオマーン戦、酒井高徳がいい仕事をしましたね。こうやって少しずつ代表のなかで存在感が増していくといいです。だけど、西アジアの気候はものすごいですね。よく猛暑のなかで最後粘れたと思います。
2、日本海側、天候が大荒れですね。川崎戦はどうだろう。ま、何がどうだって行くんだけど。
3、今週はヨココム主催の第30回フットボール道場(@信濃町・ティアスサナ)に顔を出してきました。木村元彦さんの回でテーマは「争うは本意ならねど/Jリーグ冤罪問題その後」です。我那覇和樹選手のドーピング冤罪事件については『争うは本意ならねど』(木村元彦・著、集英社インターナショナル)に詳しいのですが、今回はその詳細を元Jリーグ理事・三ツ谷洋子さんに話をうかがったりして、大変有意義なひとときでした。木村元彦さん、「このテーマだったら足代とかいりません、どこへでも行きます」だってよ。オフになったら新潟へ呼べばいいよ。それ、僕も行くし。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第31節、清水×新潟。
先週水曜日、ナイター開催されたアウェー戦だ。何故、変則開催になったかというと11月3日(土)、毎年恒例のナビスコ決勝が行われた関係だ。清水はまさにその決勝戦を(延長戦まで)戦って、鹿島に敗れている。試合間隔をいうと清水の中3日に対し、新潟は中10日空いた。これはどっちが有利か難しいところで、メディア的には「清水は若いチームだからあんまり影響ないだろう」という見方が一般的だった。むしろ、練習試合をこなしてるとはいえ、新潟の試合勘のほうに影響が大きいかもしれなかった。
が、僕はチャンスは大ありだと踏んでいた。今、新潟の強みは柳下監督のスカウティングに基づいた徹底的な「対敵戦術」だ。その準備の期間が多くとれ、意識づけを施すことができた。対して清水はナビスコ決勝・鹿島戦に照準をしぼっていただろう。若い選手らは身体の疲れはリカバーできるかもしれないが、「対新潟」の徹底に時間が足りない気がする。まぁ、そんなことを言って勢いで持っていかれる可能性も充分あるが、つけ入るスキもあるだろう。ともあれ、「勝って未来をひらかねばならない試合」と「大一番の次の試合」という両軍の位相の違いは歴然としていた。
新潟は守戦になる。とにかく前半0点にしのいで、数少ないチャンスに賭けるしかない。当日、強風だったのは柳下さん、ちょっと気になったと思う。意思統一したイメージと状況があまり変わってほしくない。不確実なファクターは少なければ少ないほど好ましい。まぁ、ここまで来たらそんなこと関係ないのかもわからないが。
日本平の新潟応援席はかなり埋まっていた。皆、90分しのぎ続ける試合になると覚悟した連中だ。精鋭中の精鋭だ。気づくと僕はチームより先にスカパー映像の新潟サポに「たのむぞ」とつぶやいている。先週書いたがこの日は仕事で動けず、(結果を先に知って)録画映像を見ているのだ。なのに緊張していた。早い話、僕はあそこにいたかったのだと思う。日本平の寒風に吹きさらされて、チームとともに守戦に耐えたかったんだと思う。
試合は想像を上まわるぴーんと張りつめたものだった。風上の清水が、開始からほぼ一方的にポゼッションを握って軽快に攻めてくる。といって新潟はハイプレスに行かないので、これは織り込み済の展開か。今日は右サイドハーフにアラン・ミネイロが起用された。守りのスペシャリストとはいえないアランがどう振舞うかで、おおよその戦術は見えてくる。「対清水」の意識づけだ。ある程度、サイドは来てもらって構わないという感じじゃなかったか。その代わり、個々の集中力は切らさない。アランは真面目にマークを続けていた。
が、清水は怖い。何度も左から大前元紀が攻めてくる。いつ見ても大前のほっぺはぷっくりしている。願わくばその童顔を怖い場面では見たくないものだ。しばらくハーフコートゲームのような自陣での応酬が続いてヒヤヒヤする。まぁ、どうにか清水の第一波をしのぎ切った。前半の途中、28分過ぎの田中亜土夢のミドル辺りから新潟にリズムが生まれだす。
この試合、特筆もんだったのは三門の守備だ。もう、あぁなると「効いてる」なんて生易しいものじゃない。スーパーな働き。三門は柳下監督になってどんどん凄みが増している。僕はそろそろザッケローニ監督が気づいてもいい頃じゃないかと思うのだ。ここに代表の抱える問題のひとつを解決できる男がいる。
後半、清水・ゴトビ監督は八反田に代えて小林大悟を入れてくる。小林大悟は僕の好きな選手だ。大宮サッカー場の改築の頃、よく小林大悟を見に駒場へ取材に行った。が、こんな場面で出てくると実に厄介だ。願わくばそのダンディ顔も怖い場面では見たくない。
怖い場面で見てしまった。後半8分過ぎ、センターサークル付近でのボールロストから典型的なショートカウンター。完全にやられた。最後は小林大悟がスラし気味のヘディング。これは幸運なことにポストを叩いた。このシーンが一番危険だったんだけど、それ以外にも小さなミスの積み重ねで危ない場面を作られた。ま、90分間最善のプレーをしつづけるのは人間には難しいかもしれない。が、ミスは命取りだ。ミスにはわかりやすいミスもあるし、味方を窮屈にしてしまう「ミスに見えないミス」もある。ま、練習できっちりやり切ることだなぁ。大事なとこでハッキリ出るからねぇ。
そして得点シーンだ。小林大悟の決定機でゾゾッと来た新潟は頑張って押し返していた。その第二波くらいがCKを誘って、アランのCK→ブルーノつぶれて浮き球がこぼれる→石川魂のヘッド。石川直樹が気持ちを見せてくれた! 闘魂! 闘魂としか言いようがない。ゴールを決めた石川が広告板を飛び越え、新潟ゴール裏のサポーター、リザーブ選手のもとへ駆ける。最高に美しい情景。このチームは生きている。
その後はミシェウに追加点のチャンスがあったりしたんだけど、トータルでは守り勝った。本当に集中を切らさない良い試合をした。終盤、黒河が何度もチームを救ったなぁ。だから、ぜんぜん危なげなく勝ったということじゃない。が、やり切った。感動したよ。サポもロスタイム4分、もう窒息しそうだったと思う。
僕らはこれを続けていくしかない。他チームがどうだろうとこれを続けていくしかない。極限のなかでありありと姿を見せるもの。人を魅了して止まないもの。フットボールの実相。もう、これは誰も逃げられないよ。行こうぜ、この先へ。行こうぜ、自分の足で。
附記1、W杯アジア最終予選のオマーン戦、酒井高徳がいい仕事をしましたね。こうやって少しずつ代表のなかで存在感が増していくといいです。だけど、西アジアの気候はものすごいですね。よく猛暑のなかで最後粘れたと思います。
2、日本海側、天候が大荒れですね。川崎戦はどうだろう。ま、何がどうだって行くんだけど。
3、今週はヨココム主催の第30回フットボール道場(@信濃町・ティアスサナ)に顔を出してきました。木村元彦さんの回でテーマは「争うは本意ならねど/Jリーグ冤罪問題その後」です。我那覇和樹選手のドーピング冤罪事件については『争うは本意ならねど』(木村元彦・著、集英社インターナショナル)に詳しいのですが、今回はその詳細を元Jリーグ理事・三ツ谷洋子さんに話をうかがったりして、大変有意義なひとときでした。木村元彦さん、「このテーマだったら足代とかいりません、どこへでも行きます」だってよ。オフになったら新潟へ呼べばいいよ。それ、僕も行くし。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
