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【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第158回

2012/11/29
 「同じ雨に打たれて」

 J1第32節、新潟×川崎。
 ロスタイム、レナトのパスを受けた小林悠が決勝点を叩き込んだ瞬間だ。そこから記憶がストップモーションのようになっている。歓喜に沸く川崎応援席。僕の2列前の男はそれまでじっと黙っていたが、川崎サポだった。飛び上がって拳を突き上げる。黒河が下を向く。藤田の顔が硬直する。柳下監督はベンチへきびすを返し、選手交代の指示を出す。本間に代えて矢野だ。最後の勝負だ。石川が上がっていく。時間がない。ボールがおさまらずタイムアップの笛を聴く。呆然とピッチを見つめる新潟サポーター。

 悲しかった。雨に濡れながら僕もピッチの選手整列を見ていた筈だけど、実際は何も見ていなかった。言葉がない。新潟は今季何度めだろう、乾坤一擲の大勝負に敗れた。ホームでは負けたことのなかった川崎に奈落の底へ突き落とされた。

 前節・清水戦の勝利は一縷の望みをもたらしたのだ。残留ラインが手の届くところにあった。正午過ぎ、ビッグスワン正門前には鳥栖戦を上回るサポーターが集結した。スタジアムの歩道デッキからもサポーターが大挙、声を上げる。チームバスはその歌声のなか、会場入りする。あれほどの思いが実らない。あれほどの祈りが届かない。それが残酷なフットボールの実相なのか。

 まるで意識が飛んでしまったように、次に気がついたとき、僕はゴール裏のピッチレベルにいた。選手らがやって来て、サポーターに対峙する。歌声が聴こえる。試合前、スワン正門で歌った『アイシテル新潟』。奈落の底へ突き落とされたチームを皆、見捨てない。俺たちがついてるさ新潟。まだ終わっていないと選手らに声をぶつける。

 戦う君の唄を戦わない奴等が笑うだろう。歌のフレーズが脳裏をよぎる。皆の声は僕自身のことも励ましている。いつもは僕が励ましてると思うだろう。『アイシテル新潟』の音圧が全身を震わせる。スタンド最前列の男が「えのきどさん、あきらめちゃ駄目だよな!?」と叫ぶ。試合前の入り待ちのとき、交差点近くで呼びかけを繰り返してた人だ。僕は左胸を二度叩いてうなずく。彼も左胸を叩いた。当たり前だ。戦うために僕らはここにいる。

 試合は最善を尽くしたと評価したい。川崎の持ち味を封じ、プラン通りの戦いができていた。後半20分、村上が2枚めのイエローで退場してからも10人で互角に戦った。最後はレナトの個人技にやられた格好だけど、局面は0対0のドローなら新潟は苦しくて、川崎は痛くもかゆくもない状況だった。実質、0対1で負けてるようなものだ。時間の経過とともに新潟は追いつめられていく。勝ちたい、勝たなければならない、そこを逆に突かれた。この日、ガンバ、神戸等が揃って勝利をおさめ、残留ラインは絶望的に遠のいた。

 終了後の監督会見で風間八宏、柳下正明両監督の表情が対照的に見えた。最初に登場したアウェー側、風間監督は頭に来ていた。試合は最悪、結果は最高だったと早口でコメントする。僕は10年前、スカパーで風間さんと何度もご一緒したからこの人の感情は手にとるようにわかる。この試合が本当に気に入らないのだ。会見場で「何でここにいるの?」という顔をされた。まぁ、そうだなぁ。久々に会った場所がビッグスワンだもんなぁ。

 柳下監督はスッキリしていた。気力がみなぎり、こう、後光がさすように輝いて見える。やれることをやり切るだけ、残り2戦も勝ちにいくだけと目標が定まっている。まぁ、監督さんの立場としては状況はシンプルだろう。柳下さんは絶対に折れない人だなぁと確信した。つらいだの参っただの情緒的な話は必要ない。最善を尽くして勝つだけだ。

 それにしても新潟は連勝がない。それからホームで勝てない。今節、「初の連勝」「ホーム3勝め」を狙っていたという大状況が今季の低迷を物語っている。これは何故なんだろうなぁ。以前、柏が降格したとき、選手らが殺伐とした日立台の雰囲気を嫌がるというか、怖がってさえいるような印象だった。ビッグスワンはぜんぜんそんな風じゃない。「史上最大の入り待ち」作戦が選手に無用のプレッシャーをかけているんじゃないかという人がいるけれど、あれがプレッシャーだったらサッカーやめたほうがいい。少なくとも僕は今のビッグスワンより愛情にあふれ、温かいスタジアムを見たことがない。

 会場を出てバス乗り場まで雨のなかを歩く。僕は同じ雨に打たれることしかできない。今は檄文をものにすることも、建設的な提言をすることもできないよ。君と同じだ。最後まで逃げない。可能性が1パーセントでもあるなら戦う。それだけのことだ。

 駅までつり革につかまって立つことにして、客待ちのバスに乗り込むと知り合いのサポが座っていた。軽口を言って笑わせようとするが、皆、傷つき疲れた顔をしている。たぶん僕もそう見えたことだろう。皆との他愛ないやりとりはこのときも僕自身を励ましていた。


附記1、週末、仕事で仙台へ行けないのが申し訳ないです。仙台も優勝かかってるから必死ですね。

2、ちょっと笑える話を書きましょう。川崎戦の後、みんな凹んだんだけどその凹みを天の神様が修復するかのように凸の運命を授けられた男がいます。エイヤードの丸山英輝さんです。僕は19時台の新幹線を取ってて、丸山さんとは駅で別れたんですよ。丸山さんは20時台の新幹線だった。で、丸山さん乗ったら車内がガラガラだったんだね。丸山さんとあとは中年のご夫婦の3人しか車両にいない。これは空いててよかったなぁ、こんなこともあるんだなぁと思ってたら長岡駅で団体が乗り込んできた。その団体がですね、AKB48だったんです(!)。長岡でPV撮ってたらしいんだね。『この空の花』の大林宣彦監督で。ありえますか、自分と中年ご夫婦以外がAKB48の新幹線! 高橋みなみ総監督がちゃんと総監督として「みんな席ある~?」と声をかけてまわってる。中年ご夫婦がもし、中高生の息子さん連れてたらその晩、熱出したと思う。しかし、AKB48って団体移動としてはアルビレックス新潟より規模が大きくなるんですね。

3、12月2日、最終節の翌日、北書店でイベントをやることになりました。ちょっとあんまり詳細わかってないけど(北書店で検索して下さい)、楽しい会にしたいですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

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