【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第162回
2013/3/21
「開幕連敗」
J1第2節・新潟×広島。
ホーム開幕戦には青春18きっぷ利用でキックオフ30分前に到着。朝5時13分上野発だった。これより早い電車ないんだよね。春の青春18きっぷは、越後湯沢でスノボ抱えた若者と乗り合わせたりしてなかなか新鮮。南越後の雪景色が圧巻だったなぁ。ありゃ魚沼とか、水がいいわけだよ。スノーボーダーの女の子が車窓の何重にも層を成した積雪を見て「ミルフィーユみたい!」と声を上げる。
当日午前は雪予報だったが、新潟駅に到着して晴れにひと安心。せっかく映画『DRAGONBALL Z/神と神』(3月30日公開)とのコラボポスターまで製作して盛り上げてるホーム開幕戦だ。対戦相手は前年王者の広島だ。天候にも恵まれてほしい。そうしたら古手のサポが「こんなに晴れて暖かいホーム開幕は初めてじゃないですか」と言うほどの好天になった。
カードは最高。しかも両軍、開幕節を落としてるから重要。ウキウキですね。僕は戦前から柳下監督がどういう対敵戦術をとるのか興味津々だ。広島のサッカーは完成期にある。今年、続けて結果を出したら(かつての磐田、鹿島のような)本当に強いチームになりそうだ。それをどう封じて、仕留めるか。
試合。広島はキックオフ直後は出方をうかがってきた。自陣でボールを回し、ポーンとロングボールを放り込んでくる。それを何度か繰り返した。新潟がセレッソ戦のようなハイプレスでくるかどうか見たのだろうか。それとも単に陣形が整ってるところで無理をしなかったのか。新潟はハイプレスに行かない。1トップ2シャドーにマンマークを張り付けて仕事をさせない守備戦術。
ピーンと緊張したなかでつばぜり合いが続く。見た目は互角だが、広島の太刀筋のほうが鋭いのだろう。というのはSBの藤田がファウルで止めているからだ。そんなあわてた止め方しなくてもと思う間もなく、前半21分、二度めのファウルで退場になってしまった。あれは何だったのだろう。監督コメント(試合後)のように「ひとりゲームに入っていけてない選手がいた」ということか。与えられた守備のタスクが藤田には重かったのか。集中力やメンタルの問題なら(藤田個人に)そのようにアプローチすべきだし、選択した戦術のなかで藤田に負荷がかかり過ぎるなら今後、SBでの起用は見合わせたほうがいい。
いずれにしても序盤で10人対11人の試合になってしまった。新潟は田中達也を下げて菊地を入れる。守備戦術は続行だ。ただ攻め手がなくなってしまった。僕はこの試合、すんごい頑張ってスコアレスドローじゃないかと想像する。田中達也が下がるといきなり怖さがなくなる。広島の持ち味は消しているが、消し切れるだろうか。得点のチャンスは少ないだろう。数的不利がカンケイなくなるセットプレーに期待すべきか。
今シーズンはキム・クナンがいる。そこに賭けて粘り抜くしかないだろう。と思ったら意外と何とかやっている。前半を終えて、このまま0対0で試合が推移しないかなぁと期待を抱く。広島相手にスコアレスドローなら上等だ。もし、FKのチャンスがもらえたりして、一発勝負で勝てたりしたら文句ない。後半はもっときついだろう。きついのはわかってるが、ここはホームだ。ビッグスワンの声援が選手を最後までもたせてくれないかなぁ。心なしかゴール裏がおとなしく感じる。今日の試合みたいに応援しがいのある展開はないんだけどね。
その後も粘ってたんだ。粘ってたんだけど後半30分、CKから森崎浩司が入れ、千葉が落としたところを石原が倒れ込みながらのオーバーヘッドでゴール。先にセットプレーからやられた。場内はアルビレックスコールが始まるが、どうも皆、意気消沈している。確かに去年ならこれで決まりだった。人数がひとり足りない以上、どう転んでもノーチャンスだ。
それが今年はいったんは盛り返す。これは大違いだよ。同36分、CKからキム・クナンがズドーン! 高ぇ! また田中亜土夢のCKがドンピシャだった。今季、チーム初ゴールはクナンのヘッドだ。これは新潟の武器になる。広島としては警戒していて、それでもやられた感覚か。
ただちょっと追いつくのが早かったかなと時計を見た。けっこう新潟はいっぱいいっぱいだ。既に足のつった大井が退き、CBに浜田が入っている。陣形が伸びて、選手の距離も遠い。ロスタイム入れて10何分、しのげるだろうか。
決勝点は同39分、FKから千葉和彦のヘッドだった。相手選手とGK・黒河が接触し、倒れたところを決められる。千葉はこの試合、1ゴール1アシストだ。古巣に見事な恩返しってやつか。返してくんなくていいんだけどなぁ。1対2でタイムアップ。新潟はJ1唯一の連敗チームになってしまった。
収穫はある。完成度の高い広島攻撃陣を流れのなかでは封じ込めた。これは自信を持っていいことだ。先制点を奪われた後もよく戦った。前年王者を向こうにまわして10人でやり抜いたんだ。闘志とやり方に関する選手らの信頼をホームの観客に示した。
結果を早くつけてやりたい。今のチームは勝てば強くなる。あと藤田の今後を見たいなぁ。この日は眠れないくらい悔しかったろう。悔しくて当たり前だ。それはひとつも恥ずかしいことじゃない。次だよ。次にチャンスをもらったとき、新しい姿を見せてくれ。ビッグスワンの観客はそれをちゃんと見てる。
附記1、僕はちょっと「ブルーノ・ロペスしみじみ愛好会」の会員でしたね。10人になって1トップだったからブルーノが目立ちゃったでしょ。必死に追うブルーノ。マークされても可能性にかけるブルーノ。トラップが大きすぎて相手に渡しちゃうブルーノ。コメントがいつも真面目なブルーノ。ドラゴンボールのポスターが嬉しいブルーノ。新潟ではいちばん長いブラジル人になったからレオ・シルバよろしくねブルーノ。早く得点を挙げてもらって、会員みんなで弾けたいです。
2、青春18移動しながら、自分は「新潟に住んだことないのになぜかアルビ同盟」の会員だなぁと思いました。頭文字をとってNNNA(呼び方としては「んんなぁ」ですか)。僕が会ったことある人だけで4、5人はいるんですよ。就職やなんかで新潟を離れたのでもない。新潟大学とかに4年間在籍したのでもない。もちろん親の郷里でもない。地縁とは無関係になぜかゴール裏にいるような人が。「ビッグスワンの雰囲気が好き」なんか言って。いわば地域密着の常識を大胆に踏み外してる猛者です。会員みんなで弾けたいです。
3、シネ・ウインドは『サイド・バイ・サイド/フィルムからデジタルシネマへ』(クリス・ケニーリー監督)を見ました。プロデューサー兼ホスト役がキアヌ・リーブスのドキュメンタリーなんですが、出てくる人がビッグネーム揃いですごかった。マーティン・スコセッシとかジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・リンチ等々、数え切れない映画人が現場の声を聞かせてくれる。僕はデジタル化によって、撮影監督からカラリストに映像の最終決定権が移行するくだりが面白かった。見て勉強になりました。あ、シネ・ウインドはまだ会員になってない。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1第2節・新潟×広島。
ホーム開幕戦には青春18きっぷ利用でキックオフ30分前に到着。朝5時13分上野発だった。これより早い電車ないんだよね。春の青春18きっぷは、越後湯沢でスノボ抱えた若者と乗り合わせたりしてなかなか新鮮。南越後の雪景色が圧巻だったなぁ。ありゃ魚沼とか、水がいいわけだよ。スノーボーダーの女の子が車窓の何重にも層を成した積雪を見て「ミルフィーユみたい!」と声を上げる。
当日午前は雪予報だったが、新潟駅に到着して晴れにひと安心。せっかく映画『DRAGONBALL Z/神と神』(3月30日公開)とのコラボポスターまで製作して盛り上げてるホーム開幕戦だ。対戦相手は前年王者の広島だ。天候にも恵まれてほしい。そうしたら古手のサポが「こんなに晴れて暖かいホーム開幕は初めてじゃないですか」と言うほどの好天になった。
カードは最高。しかも両軍、開幕節を落としてるから重要。ウキウキですね。僕は戦前から柳下監督がどういう対敵戦術をとるのか興味津々だ。広島のサッカーは完成期にある。今年、続けて結果を出したら(かつての磐田、鹿島のような)本当に強いチームになりそうだ。それをどう封じて、仕留めるか。
試合。広島はキックオフ直後は出方をうかがってきた。自陣でボールを回し、ポーンとロングボールを放り込んでくる。それを何度か繰り返した。新潟がセレッソ戦のようなハイプレスでくるかどうか見たのだろうか。それとも単に陣形が整ってるところで無理をしなかったのか。新潟はハイプレスに行かない。1トップ2シャドーにマンマークを張り付けて仕事をさせない守備戦術。
ピーンと緊張したなかでつばぜり合いが続く。見た目は互角だが、広島の太刀筋のほうが鋭いのだろう。というのはSBの藤田がファウルで止めているからだ。そんなあわてた止め方しなくてもと思う間もなく、前半21分、二度めのファウルで退場になってしまった。あれは何だったのだろう。監督コメント(試合後)のように「ひとりゲームに入っていけてない選手がいた」ということか。与えられた守備のタスクが藤田には重かったのか。集中力やメンタルの問題なら(藤田個人に)そのようにアプローチすべきだし、選択した戦術のなかで藤田に負荷がかかり過ぎるなら今後、SBでの起用は見合わせたほうがいい。
いずれにしても序盤で10人対11人の試合になってしまった。新潟は田中達也を下げて菊地を入れる。守備戦術は続行だ。ただ攻め手がなくなってしまった。僕はこの試合、すんごい頑張ってスコアレスドローじゃないかと想像する。田中達也が下がるといきなり怖さがなくなる。広島の持ち味は消しているが、消し切れるだろうか。得点のチャンスは少ないだろう。数的不利がカンケイなくなるセットプレーに期待すべきか。
今シーズンはキム・クナンがいる。そこに賭けて粘り抜くしかないだろう。と思ったら意外と何とかやっている。前半を終えて、このまま0対0で試合が推移しないかなぁと期待を抱く。広島相手にスコアレスドローなら上等だ。もし、FKのチャンスがもらえたりして、一発勝負で勝てたりしたら文句ない。後半はもっときついだろう。きついのはわかってるが、ここはホームだ。ビッグスワンの声援が選手を最後までもたせてくれないかなぁ。心なしかゴール裏がおとなしく感じる。今日の試合みたいに応援しがいのある展開はないんだけどね。
その後も粘ってたんだ。粘ってたんだけど後半30分、CKから森崎浩司が入れ、千葉が落としたところを石原が倒れ込みながらのオーバーヘッドでゴール。先にセットプレーからやられた。場内はアルビレックスコールが始まるが、どうも皆、意気消沈している。確かに去年ならこれで決まりだった。人数がひとり足りない以上、どう転んでもノーチャンスだ。
それが今年はいったんは盛り返す。これは大違いだよ。同36分、CKからキム・クナンがズドーン! 高ぇ! また田中亜土夢のCKがドンピシャだった。今季、チーム初ゴールはクナンのヘッドだ。これは新潟の武器になる。広島としては警戒していて、それでもやられた感覚か。
ただちょっと追いつくのが早かったかなと時計を見た。けっこう新潟はいっぱいいっぱいだ。既に足のつった大井が退き、CBに浜田が入っている。陣形が伸びて、選手の距離も遠い。ロスタイム入れて10何分、しのげるだろうか。
決勝点は同39分、FKから千葉和彦のヘッドだった。相手選手とGK・黒河が接触し、倒れたところを決められる。千葉はこの試合、1ゴール1アシストだ。古巣に見事な恩返しってやつか。返してくんなくていいんだけどなぁ。1対2でタイムアップ。新潟はJ1唯一の連敗チームになってしまった。
収穫はある。完成度の高い広島攻撃陣を流れのなかでは封じ込めた。これは自信を持っていいことだ。先制点を奪われた後もよく戦った。前年王者を向こうにまわして10人でやり抜いたんだ。闘志とやり方に関する選手らの信頼をホームの観客に示した。
結果を早くつけてやりたい。今のチームは勝てば強くなる。あと藤田の今後を見たいなぁ。この日は眠れないくらい悔しかったろう。悔しくて当たり前だ。それはひとつも恥ずかしいことじゃない。次だよ。次にチャンスをもらったとき、新しい姿を見せてくれ。ビッグスワンの観客はそれをちゃんと見てる。
附記1、僕はちょっと「ブルーノ・ロペスしみじみ愛好会」の会員でしたね。10人になって1トップだったからブルーノが目立ちゃったでしょ。必死に追うブルーノ。マークされても可能性にかけるブルーノ。トラップが大きすぎて相手に渡しちゃうブルーノ。コメントがいつも真面目なブルーノ。ドラゴンボールのポスターが嬉しいブルーノ。新潟ではいちばん長いブラジル人になったからレオ・シルバよろしくねブルーノ。早く得点を挙げてもらって、会員みんなで弾けたいです。
2、青春18移動しながら、自分は「新潟に住んだことないのになぜかアルビ同盟」の会員だなぁと思いました。頭文字をとってNNNA(呼び方としては「んんなぁ」ですか)。僕が会ったことある人だけで4、5人はいるんですよ。就職やなんかで新潟を離れたのでもない。新潟大学とかに4年間在籍したのでもない。もちろん親の郷里でもない。地縁とは無関係になぜかゴール裏にいるような人が。「ビッグスワンの雰囲気が好き」なんか言って。いわば地域密着の常識を大胆に踏み外してる猛者です。会員みんなで弾けたいです。
3、シネ・ウインドは『サイド・バイ・サイド/フィルムからデジタルシネマへ』(クリス・ケニーリー監督)を見ました。プロデューサー兼ホスト役がキアヌ・リーブスのドキュメンタリーなんですが、出てくる人がビッグネーム揃いですごかった。マーティン・スコセッシとかジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・リンチ等々、数え切れない映画人が現場の声を聞かせてくれる。僕はデジタル化によって、撮影監督からカラリストに映像の最終決定権が移行するくだりが面白かった。見て勉強になりました。あ、シネ・ウインドはまだ会員になってない。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
