【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第163回
2013/3/28
「勝ち点1」
J1第3節、大宮×新潟。
5月のような陽気だった。僕はNACK5スタジアムへ行くのに東武線の大宮公園駅を利用するのが好きだ。競輪場を過ぎて大きな池を過ぎて、時代がかった遊園地施設を眺めて、木立ちのなかをずんずん歩く。桜がほろこびかけてないかなぁと思ったが、まだだった。さいたま市が開花宣言を出す3日前だ。公園では家族連れが春の訪れを楽しんでいた。スタジアムのチャントがひと足ごとに近づいてくる。
この試合は待ち遠しかった。NACKの至近距離でチームが見られる。あの会場は選手のコーチングの声まで聴こえる。連携の感覚的なニュアンスがダイレクトに伝わってくるだろう。「13年アルビレックス」は結果こそ出ていないが、悪くない印象だ。それが本当にそうか、NACKで実感できそうに思えた。僕はビッグスワンは陸上コースを持つ大規模施設としては相当見やすい方だと思うけれど、臨場感なら小ぶりのサッカー場に限る。視覚聴覚だけじゃなく、息づかいや気配までキャッチできる。
大宮は開幕戦、清水に2-0から追いつかれてドロー、2節・磐田戦は片岡を入れて5バックにして1-0で逃げ切った。実は昨シーズンの24節から「リーグ戦13試合負けなし(6勝7分)」継続中だ。守備が計算できて、ズラタン&ノヴァコヴィッチのスロベニア代表コンビに決定力がある。ベルデニック監督は去年、残留争いをしぶとく勝ち残ったスタイルを踏襲するようだ。つまり、型崩れは期待しにくい。
試合。色んな意味で実に面白かった。まず、純粋なゲームとしても息のつく間もないスリリングな攻防が長く続いた。前半は新潟のペースだったろう。敵が組み立てる前に奪う。セカンドボールの反応がいい。が、押してることは押してるんだが、これが「新潟のペース」と言い切っていいことなのかは難しいなぁと思う。枠へ行く、惜しい感じのシュートが少ない。大宮はボランチ2枚の奪取力&ボックスの組織守備に自信を持っている。ちょっと嫌な感じではあったろうが、決定的なところはやらせていない。たぶん新潟の攻撃陣で最も田中達也を警戒したに違いないが、ゴールの近くでは仕事をさせなかった。
田中達也はキレていた。もう、前節退いた分まで動いてやろうと思ってるくらいの獅子奮迅ぶり。僕は誰よりも達也に点をとらせたい。雰囲気グッとよくなるよ。本人も「アルビ初ゴール」を早く決めて波にのりたいだろう。だけど、この日、至近距離で感じた達也の意思は「チームファースト」だ。自分のことよりもチームを生きものにしたい。その為に動きまわり、スペースで受けておさめる。これは成岡と二人、ミシェウさんの役をやってる。
ミシェウさんの役は必要だ。ボールのおさまりどころ。が、達也が横に流れたり、下がって受けてる分には相手は脅威を感じない。これは難しいね。チームがどう成長するかの分岐点だね。田中達也も成岡もゴール前で仕事のできる選手だ。それを生かす方向性は当然考えたい。といっておさまるのだ。おさまったら誰かがゴール前へ突っ込んでくのを使いたい。いや、これは言葉で言うと二択みたいな印象になるけど、要はバランスだな。どのバランスがいちばんいいか、やりながら探る。
開幕節の当コラムで達也に関して「新潟はエースストライカーを得た」と書いたけれど、この試合に関しては「エースミシェウさん役を得た」というニュアンスか。今のチームバランスでは「エース・エースストライカー役」はやっぱりブルーノ・ロペスだ。この日、何であれが決まんない~、と皆がのけぞったシーンは大体、ブルーノが作った。
ブルーノは笑ったなぁ。「ブルーノ・ロペスしみじみ愛好会」の者としてはコレクションに新たな1ページが加わった。印象に残るのは前半終了間際、自陣エリア内でヨンチョルから奪ったと思ったら、一目散に敵ゴール前までドリブルで行ったでしょう。どこまで単騎で行くんだ。何がしたいんだ。面白いこと考えるなぁ。あと後半17分過ぎか、カウンターでレオ・シルバがDFのウラへ縦パスを通し、北野が飛び出して、こりゃもらったというシーンがあった。ブルーノは体勢崩しながらのループを選択して、これがへなへなのシュートで終わるんだけど、もうあんたあんた、いつもあんな持ちたがるのに何で今日に限ってすぐ放そうとするん? と思う。北野は出てきてるんだから意表を突いたタイミングとかいらないでしょ。持ってインサイドで流し込めば決まる。
「ブルーノが何点とれるか?」がチーム浮沈のカギだとしたら、今は見た感じ、歯車が狂っている。1年めは得点感覚持ってるなぁと思ったものだ。まぁ、会の者としてはしみじみ愛好しながら大爆発を待ちたい。
で、試合経過をざっくり言うと後半19分、田中達也OUT→川又堅碁IN。流れが変わってくる。何とかしようと同23分、坪内OUT→菊地IN。そうしたら同31分、大宮FKから交代投入のルーキー富山貴光(初ゴール)がスラして、先制される。新潟の最後のカードは同34分、成岡OUT→鈴木武蔵INだ。
僕はこのブルーノ、堅碁、武蔵の前3枚は問題だったと思う。試合後の会見で柳下監督も言及されてたが、全員がウラへ抜けようと同じことをして渋滞が発生していた。あれは何なのか。「田中達也が交代すると怖さがなくなる」どころじゃない。動きが単調だし、互いを生かそうという工夫も足りない。といってパワープレーという感じでもないんだなぁ。僕は「黒崎アルビ」の悪い時期を見ているように感じた。ちなみに黒崎久志・前監督はこの日、テレビ埼玉の生中継に解説者として入っておられた。どうコメントされたろう?
「田中達也が交代すると怖さがなくなる」は開幕3節でほぼハッキリした課題だ。ひとつはブルーノの爆発待ちだが、もうひとつは控えの駒が現状、ガクッと落ちるのだ。いや、僕は堅碁も武蔵も大好きだし、こんなこと言いたくない。持っているものは素晴しいと信じている。じゃ、何がガクッと落ちるのかというと動きの質だ。それから達也や成岡がアタッキングサードでいったんおさめるのが相手にしたらどんなに嫌かということ。ブルーノ、堅碁、武蔵はやっこ凧が3つ並んでぴーんと糸をひっぱってる感じで、何か起きる気がしない。これは負けだなと観念した。
そうしたら面白いものでロスタイムに追いついた。サッカーは奥が深い。コーナー付近で時間を使ってた相手からボールを奪い、カウンター。タイムアップ寸前だからめちゃあわてて、皆、飛び込んでいく。「得点をとったのは、こっちの選手があまりにも変な動きをしたので向こうもかく乱されて困ったという感じだと思う」。試合後、柳下監督の会見コメントに僕はしばらく笑いがおさまらない。得点者はキム・クナン。でっかいやっこ凧はもうひとつ行っていた。堅碁はあのアシストだけがよく、あとは0点(超がんばれ!)。
附記1、地下鉄の駅アナウンスで「発車間際のかけ込みゴールは危険です。次の試合をお待ちください」と文句言われそうなキワキワの同点劇でしたね。本当にラッキーです。でもラッキーだって勝ち点1は大きい。一歩ずつ前進ですよ。
2、三門選手が鼻血出してましたね。サッカー見てると鼻って弱いもんだなと思います。
3、ご覧の通り、今週分にはナビスコ大分戦を反映させませんでした。まぁ、うちは週末、ナビスコお休みだからあわてて書く必要がない。皆さんは今度の土曜どう過ごされますか? 僕は湘南×大宮のナビスコ見せて~、とベルマーレ広報の遠藤さんに頼みました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1第3節、大宮×新潟。
5月のような陽気だった。僕はNACK5スタジアムへ行くのに東武線の大宮公園駅を利用するのが好きだ。競輪場を過ぎて大きな池を過ぎて、時代がかった遊園地施設を眺めて、木立ちのなかをずんずん歩く。桜がほろこびかけてないかなぁと思ったが、まだだった。さいたま市が開花宣言を出す3日前だ。公園では家族連れが春の訪れを楽しんでいた。スタジアムのチャントがひと足ごとに近づいてくる。
この試合は待ち遠しかった。NACKの至近距離でチームが見られる。あの会場は選手のコーチングの声まで聴こえる。連携の感覚的なニュアンスがダイレクトに伝わってくるだろう。「13年アルビレックス」は結果こそ出ていないが、悪くない印象だ。それが本当にそうか、NACKで実感できそうに思えた。僕はビッグスワンは陸上コースを持つ大規模施設としては相当見やすい方だと思うけれど、臨場感なら小ぶりのサッカー場に限る。視覚聴覚だけじゃなく、息づかいや気配までキャッチできる。
大宮は開幕戦、清水に2-0から追いつかれてドロー、2節・磐田戦は片岡を入れて5バックにして1-0で逃げ切った。実は昨シーズンの24節から「リーグ戦13試合負けなし(6勝7分)」継続中だ。守備が計算できて、ズラタン&ノヴァコヴィッチのスロベニア代表コンビに決定力がある。ベルデニック監督は去年、残留争いをしぶとく勝ち残ったスタイルを踏襲するようだ。つまり、型崩れは期待しにくい。
試合。色んな意味で実に面白かった。まず、純粋なゲームとしても息のつく間もないスリリングな攻防が長く続いた。前半は新潟のペースだったろう。敵が組み立てる前に奪う。セカンドボールの反応がいい。が、押してることは押してるんだが、これが「新潟のペース」と言い切っていいことなのかは難しいなぁと思う。枠へ行く、惜しい感じのシュートが少ない。大宮はボランチ2枚の奪取力&ボックスの組織守備に自信を持っている。ちょっと嫌な感じではあったろうが、決定的なところはやらせていない。たぶん新潟の攻撃陣で最も田中達也を警戒したに違いないが、ゴールの近くでは仕事をさせなかった。
田中達也はキレていた。もう、前節退いた分まで動いてやろうと思ってるくらいの獅子奮迅ぶり。僕は誰よりも達也に点をとらせたい。雰囲気グッとよくなるよ。本人も「アルビ初ゴール」を早く決めて波にのりたいだろう。だけど、この日、至近距離で感じた達也の意思は「チームファースト」だ。自分のことよりもチームを生きものにしたい。その為に動きまわり、スペースで受けておさめる。これは成岡と二人、ミシェウさんの役をやってる。
ミシェウさんの役は必要だ。ボールのおさまりどころ。が、達也が横に流れたり、下がって受けてる分には相手は脅威を感じない。これは難しいね。チームがどう成長するかの分岐点だね。田中達也も成岡もゴール前で仕事のできる選手だ。それを生かす方向性は当然考えたい。といっておさまるのだ。おさまったら誰かがゴール前へ突っ込んでくのを使いたい。いや、これは言葉で言うと二択みたいな印象になるけど、要はバランスだな。どのバランスがいちばんいいか、やりながら探る。
開幕節の当コラムで達也に関して「新潟はエースストライカーを得た」と書いたけれど、この試合に関しては「エースミシェウさん役を得た」というニュアンスか。今のチームバランスでは「エース・エースストライカー役」はやっぱりブルーノ・ロペスだ。この日、何であれが決まんない~、と皆がのけぞったシーンは大体、ブルーノが作った。
ブルーノは笑ったなぁ。「ブルーノ・ロペスしみじみ愛好会」の者としてはコレクションに新たな1ページが加わった。印象に残るのは前半終了間際、自陣エリア内でヨンチョルから奪ったと思ったら、一目散に敵ゴール前までドリブルで行ったでしょう。どこまで単騎で行くんだ。何がしたいんだ。面白いこと考えるなぁ。あと後半17分過ぎか、カウンターでレオ・シルバがDFのウラへ縦パスを通し、北野が飛び出して、こりゃもらったというシーンがあった。ブルーノは体勢崩しながらのループを選択して、これがへなへなのシュートで終わるんだけど、もうあんたあんた、いつもあんな持ちたがるのに何で今日に限ってすぐ放そうとするん? と思う。北野は出てきてるんだから意表を突いたタイミングとかいらないでしょ。持ってインサイドで流し込めば決まる。
「ブルーノが何点とれるか?」がチーム浮沈のカギだとしたら、今は見た感じ、歯車が狂っている。1年めは得点感覚持ってるなぁと思ったものだ。まぁ、会の者としてはしみじみ愛好しながら大爆発を待ちたい。
で、試合経過をざっくり言うと後半19分、田中達也OUT→川又堅碁IN。流れが変わってくる。何とかしようと同23分、坪内OUT→菊地IN。そうしたら同31分、大宮FKから交代投入のルーキー富山貴光(初ゴール)がスラして、先制される。新潟の最後のカードは同34分、成岡OUT→鈴木武蔵INだ。
僕はこのブルーノ、堅碁、武蔵の前3枚は問題だったと思う。試合後の会見で柳下監督も言及されてたが、全員がウラへ抜けようと同じことをして渋滞が発生していた。あれは何なのか。「田中達也が交代すると怖さがなくなる」どころじゃない。動きが単調だし、互いを生かそうという工夫も足りない。といってパワープレーという感じでもないんだなぁ。僕は「黒崎アルビ」の悪い時期を見ているように感じた。ちなみに黒崎久志・前監督はこの日、テレビ埼玉の生中継に解説者として入っておられた。どうコメントされたろう?
「田中達也が交代すると怖さがなくなる」は開幕3節でほぼハッキリした課題だ。ひとつはブルーノの爆発待ちだが、もうひとつは控えの駒が現状、ガクッと落ちるのだ。いや、僕は堅碁も武蔵も大好きだし、こんなこと言いたくない。持っているものは素晴しいと信じている。じゃ、何がガクッと落ちるのかというと動きの質だ。それから達也や成岡がアタッキングサードでいったんおさめるのが相手にしたらどんなに嫌かということ。ブルーノ、堅碁、武蔵はやっこ凧が3つ並んでぴーんと糸をひっぱってる感じで、何か起きる気がしない。これは負けだなと観念した。
そうしたら面白いものでロスタイムに追いついた。サッカーは奥が深い。コーナー付近で時間を使ってた相手からボールを奪い、カウンター。タイムアップ寸前だからめちゃあわてて、皆、飛び込んでいく。「得点をとったのは、こっちの選手があまりにも変な動きをしたので向こうもかく乱されて困ったという感じだと思う」。試合後、柳下監督の会見コメントに僕はしばらく笑いがおさまらない。得点者はキム・クナン。でっかいやっこ凧はもうひとつ行っていた。堅碁はあのアシストだけがよく、あとは0点(超がんばれ!)。
附記1、地下鉄の駅アナウンスで「発車間際のかけ込みゴールは危険です。次の試合をお待ちください」と文句言われそうなキワキワの同点劇でしたね。本当にラッキーです。でもラッキーだって勝ち点1は大きい。一歩ずつ前進ですよ。
2、三門選手が鼻血出してましたね。サッカー見てると鼻って弱いもんだなと思います。
3、ご覧の通り、今週分にはナビスコ大分戦を反映させませんでした。まぁ、うちは週末、ナビスコお休みだからあわてて書く必要がない。皆さんは今度の土曜どう過ごされますか? 僕は湘南×大宮のナビスコ見せて~、とベルマーレ広報の遠藤さんに頼みました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
