【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第182回

2013/8/8
 「成長」

 J1第18節、新潟×C大阪。
 東アジアカップの中断明け(しかし、オーストラリアはなぜ「東アジア」カップに出てたのか。もちろん強化の意味では歓迎だけど)、J1再開の一戦はミッドウィークのホームゲームだ。夏休み真只中。中2日空いて土曜日にもホーム・清水戦が組まれているから今季「アルビレックス夏祭り」のピークはここかな。皆、わっしょいわっしょい盛り上がれるといい。

 ちなみに知人の関東サポは早めの夏休みをとって、2試合の間に長岡花火を楽しむというスケジュールを立てた。ドリームコースだねぇ。茶豆とビールも準備オッケー。ただ気がかりなのは雨だ。試合前日(7月30日)、長岡は大雨の被害に遭っている。花火の時期の水害は一昨年を連想させる。

 というわけで「夏祭り」なのか、まだ梅雨なのか(北陸、東北と同様、新潟は梅雨明けがまだ発表されていない)、よくわからない季節感ではある。おそらく雨天試合になるだろう。しかし、そんなことはともかくこのセレッソ戦は取りたい。後半戦を占う意味でも、ホームゲームの勝率を上げる意味でも、中2日でやって来る清水戦の動員のためにも絶対、結果が欲しい。ポイントになる試合ってやつだ。

 セレッソは中断期間にマンチェスター・ユナイテッド戦(「ヤンマープレミアムカップ」と銘打たれる。7月26日、長居)を消化している。何と「新潟の前に戦った相手はマンU」という状態だ。まぁ、香川真司の凱旋試合という趣向だったわけだが、こう普段のリーグ戦へ戻る心理はどんなもんだろう。「夢から覚めて現実へ」という感じでちょっと下がるのか、「それはそれ、これはこれ」と無関係なのか、案外「いい刺激をもらった、さぁ頑張るぞ」と上がるのか。報道によるとセレッソの18歳・南野拓実がマンUの選手らから絶賛されたらしくて、これは確実に上がっているなぁ。

 この手の「引っ越し興行」は、とかく欧州ビッグクラブの世界戦略だとか資金集めだとか批判されることが多い。先方もオフ期間であり、モチベーションもへったくれもないのがフツーだ。だけど、件(くだん)の親善試合はセレッソ側から見て大変メリットのあったものじゃないかと思った。「クルピ監督の起用を発端にシンジは世界へ駆け上がっていったのだ」的なクラブ神話を確認し、強化することができる。

 それから東アジアカップでは柿谷曜一朗が男を上げた。初優勝の立役者と言っていいだろう。セレッソには柿谷のほか、山口螢、扇原貴宏と東アジアカップ代表組が揃っている。だからセレッソサポにとってはたまらん「中断期間」だったと思うのだ。ちなみにセレッソの3人と、韓国代表のキム・ジンスは日曜日(7月28日)に日韓戦を戦ったばかりだというのに、元気にスタメンに名を連ねた。柿谷の欧州移籍を匂わす報道もさっそく出て、この試合は注目を集めている。

 試合。気温28℃、湿度75パー。もう、むわむわの湿気のなかでキックオフだ。両軍入りは重い。セレッソの主力に東アジアカップの疲れもあったと思うが、主な理由は湿気じゃないか。探るようなビミョーな時間帯が続く。ま、ボクシングに例えるとジャブを突き合う時間帯。新潟もだいぶ応酬できるようになった(去年の一時期までは、ガードを固めてワンチャンスに賭けるみたいなスタイルだった)が、このままだとセレッソに分がある。

 新潟側から言うと「レオ・シルバ周り」、セレッソ側から言うと「シンプリシオ周り」が激戦区になっていた。まぁ、だから中盤の応酬は見応えありました。一瞬も目が離せない。サッカーの魅力はエリア内でのスペクタクルばかり語られるけど、そうじゃないね。この日の中盤の応酬は今、Jリーグで見られる最高峰の水準だろう。ただヒヤヒヤもするんだよ。どうしても身びいきがあるから、どこかで決定的なポカをするんじゃないかと思って、心配しながら見守っていたな。

 どうだろうね、ほぼ互角でハーフタイム入り? いい攻めすんなぁと思ったのはセレッソだけど、新潟も川又堅碁を中心に何かバッタバタに攻め込むシーンがあった。ま、図式を言えば「巧さのセレッソ、迫力のアルビ」なんだろうから、それでいいんだね。カッコいいことしなくていい。うちの持ち味でやり切るだけ。柳下さんも監督会見で語ったけど「ガマン比べ」だ。

 で、「ガマン比べ」に勝ったんだと思うよ。後半27分、セットプレーから決勝ゴールを奪う。三門雄大のCKがバッチリ入って、エース・川又堅碁がヘッド一閃。これを敵GK、キム・ジンヒョンがこぼして、詰めていた大井健太郎が蹴り込む! まぁ、「フィニッシュブロー」の部分はそうなんだけどね、ボクシングの試合はKOじゃなく判定勝ちだったと思うよ。「あのワンパンチが炸裂した」みたいな展開じゃなくて、粘り強く戦った勝利。僕は内容ある、いい勝利だと思ったな。

 振り返って考えれば、この試合は開幕戦のリベンジマッチだね。徹底したハイプレスでセレッソを苦しめ、最後、わずかなスキを突かれて柿谷に「フィニッシュブロー」を食らった。まずはホームできっちりお返しができてよかった。スコアもちょうど裏返しだね。スカッとした。

 それとね、チームの成長を感じたんだ。それは主に「ペース配分」と「勝負どころ、勘どころの共有」みたいな部分。うーんとね、野球で「試合が作れるピッチャー」みたいな言い方するときがあるでしょ。あの感じに似てる。例えばコンディションが悪ければ悪いなりに何とかする。それから試合の流れを見て、ここいちばんのとこでカバーしあう。

 ただこれはピッチャーみたいな個人がやってることじゃなくて、「13年アルビレックス」っていうチームがやってることなんだ。開幕戦のときと比べてチームが成長してるんだ。


附記1、中断期間をはさんで「今季初の連勝」です。平日なんで動員は2万人切ってたけど、すごく雰囲気よかったなぁ。ぎゅっとまとまった、ホームっぽい一体感があった。タイムアップと同時くらいに雨がザァーッと来て、それから深夜にかけて凄かったですね。スカパー見れない人続出でしょ?(勝つと『アフターゲームショー』見たいですよね)。僕はムーンライトえちごで帰ってきたんですけど、大雨で2時間近く遅れました。後で聞いたら駅南の辺、冠水したとこあったみたいですね。

2、試合前、ホージェル・ガウーショ選手の入団会見をのぞきました。カッコよくて人気出そうだ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo


ユニフォームパートナー