【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第183回
2013/8/15
「花火よりも派手に」
J1第19節、新潟×清水。
ナイスゲーム。新潟の強さが表現できた試合。また結果を求めて結果が出せた試合でもある。今、チームは自信をつけて、変わっていく時期にある。強いから自信がつくのでもあるけれど、自信がつくから強くなるのでもある。「13年アルビレックス」は実戦、練習、中断期間のミニキャンプを活用して、ジワジワと仕上げられてきた。その努力がひとつの段階に達したのだと思う。
「今日は皆、イケイケで、新潟らしい試合ではあった。前からの守備で相手のミスを誘って。ただハマリ過ぎ。もっとFWに当てて、上がりを待って2次攻撃ができるように持っていきたかった」(試合後、成岡翔選手コメント)
本当に成岡のコメント通りだなぁ。新潟はやろうとしたことが見事にハマッた。開始から主導権を握り、自分らのペースで戦った。それができるという事実にまず感動する。2つ要素があると思う。1つには柳下正明監督の対敵戦術だ。これはあい変らず冴えている。スカウティングに基づき、エスパルスのここを突こうという戦術意思がチームとして徹底されていた。これは本当に新潟の強みなんですよ。昨シーズン、「奇跡の残留劇」の土台になったものだ。監督交代してまもなくの頃、田中亜土夢が「ミーティングで柳下さんが言ってた通りになるんですよ。ホントにびっくりします」と言ってたのを思い出す。
そうした対敵戦術の意思統一のほかに、「13年アルビレックス」としての意思統一がある。サッカー誌なんかでシステムとかスタイルとして取り上げられる部分だね。これがどんどんできてきた。ま、わかりやすいところを言うと、今、チームは川又堅碁を生かそうと考えてる。そのなかで川又も持ち味を出そうと考えてる。すごくハッキリしてる。
試合開始早々(正確には前半1分23秒か)、レオ・シルバが敵DFのウラへパスを通そうとして川又がオフサイドになった。その直後には東口順昭からのフィードが川又に届く。これは相手にとってはストレスだ。どの位置からでも奪ったら「川又勝負」でいきますよ、という挨拶みたいなもの。実際にはビルドアップもできるようになってるし、勝負どころで人数をかけた攻め上がりもするんだけど、とにかく相手の意識に「川又勝負」のイメージを植えつけようとしている。これは①、実際に狙う ②、狙ってるぞと意識させて敵DFを釘づけにする、のダブル効果ですね。
ストレスをかけ続けたのが功を奏して、前半18分、エリア内で川又がファウルをもらう。これがPKになって、川又は今季自身10点め、クラブとしてはJ1通算400点めのアニバーサリー・ゴールを決める。やっぱり川又堅碁が決めるとスタジアムの雰囲気が変わるねー。これはね、単純なことだけどでっかいんだ。「よし、いける!」とピッチの選手らが思うこと。「よっしゃ、いける!」とスタンド全体が思うこと。その総和が作りだすもの。先制点を奪ったときのスタジアムの雰囲気は「数えるほどしかホームで勝ててないチーム」のそれではなかったな。
前半は終了間際、又もレオ・シルバからのパスで川又が完全に抜け出し、キーパーと1対1になるシーンがあった。あれは決めないと。結果論ではあるけれど、この日2得点の川又はあれを決めてたらハットトリックだった。今季二度めのハットをビッグスワンで達成なんつったら皆、しびれるぞ。もったいなかったね~。ま、2得点でめっちゃ派手なのにどんだけ欲張りなんだって話だけど。
その2点め。後半25分、田中亜土夢のパスが発端だ。敵DFがクリアミス、あわやオウンゴールかと思ったところへ川又が詰めていた。難なく蹴り込む。シュート自体はイージーかもしれないが、あそこに川又がいたことがすごい。FWとしてノッてる証拠だなぁ。これで今季11得点。アルビレックス新潟史上初めての「2ケタ得点を記録した日本人FW」は、その日のうちに「2ケタ」なんて通過点に過ぎないことを示した。
試合は終盤、動きを見せる。バレーが抜けて、緊急補強としてやって来た清水・ラドンチッチ(かつて甲府でプレーしたモンテネグロ人FWですね)が後半30分、1点返す。ラドンチッチはこの試合がJリーグ再デビューだったが、1トップのシステムにうまくハマッていた。加入いきなりで当たったのは幸運だったかもなぁ。もっと呼吸ができてたら厄介だったんじゃないか。
で、この時点でスコアは2対1だね。試合のアヤという意味ではここがいちばん面白いところ。ケンゴわっしょいわっしょいで押し切れるかと思いきや、1点返されて流れが変わった。さぁ、どうする? 3点めを狙うのか1点差を守るのか? 僕はきびしい展開を覚悟した。ここからガマンして勝つんだろう。だって新潟ってそうだったじゃん。3点めがカンタンに取れたら苦労してないよ。
まぁ基本、その方向で事態は推移する。僕は何とか1点差のままおさめてしまうのだって、大変なチーム力だと思っていた。そうしたらロスタイム、岡本英也が「3点め」をスパッと決めてくれる。これは本当に気持ちがラクになった。しかし、ゴール前の落ち着きは岡本がNO.1だなぁ。「必殺仕事人・ヒデさん」と呼ばせて下さい。
つまり、3対1の完勝ですよ。試合後、ヒーローインタビューの川又堅碁が「ホントに今日は長岡花火があったんすよ。俺やったらそっち行きたいと思うんすけど、こうやって見に来てくれてホントに感謝してるし、又、ビッグスワンでもっともっとゴール決めたいなと思うんで応援よろしくお願いします」とやって笑いを誘った。ケンゴは照れもあるだろうし、もしかすると超のつく花火好きかもしれないし、ニュアンスは想像するしかない。だけどね、君がやってることは花火よりずっと派手なことなんだぜと言いたい。新潟は最高のムードで3連勝!
附記1、この日、新潟の梅雨明けが発表されて、400ゴールはその祝砲って感じだったでしょうか。といっても夏本番にしては涼しかったですね。そしたら今週は猛暑になったから小瀬がどんな感じになるか心配ですよ。本稿執筆の8月7日、甲府の最高気温38℃だって。さすが盆地だなぁ。次節は間違いなくこの夏いちばんの暑さでしょう。サポもチームも頑張ろう!
2、終了間際、ジンスの退場劇がちょっと後味悪かったかなぁ。カードの多い試合だった。次節はレオもジンスもいないですね。ま、スタメンが変わってどうなるかは楽しみでもあります。
3、今週は新潟の知人から茶豆と十全ナスが届きました。夏の贅沢ですよね。それと八色のスイカ。もう、我が家は新潟の夏、全開です。あ、そういえば清水戦は「八色スイカ祭り」だったんですよね。スタッフに聞いたら「八色スイカ祭り」は負け知らずらしい。来年からそこもチェックだなぁ。苦手の浦和戦とか組めませんか?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第19節、新潟×清水。
ナイスゲーム。新潟の強さが表現できた試合。また結果を求めて結果が出せた試合でもある。今、チームは自信をつけて、変わっていく時期にある。強いから自信がつくのでもあるけれど、自信がつくから強くなるのでもある。「13年アルビレックス」は実戦、練習、中断期間のミニキャンプを活用して、ジワジワと仕上げられてきた。その努力がひとつの段階に達したのだと思う。
「今日は皆、イケイケで、新潟らしい試合ではあった。前からの守備で相手のミスを誘って。ただハマリ過ぎ。もっとFWに当てて、上がりを待って2次攻撃ができるように持っていきたかった」(試合後、成岡翔選手コメント)
本当に成岡のコメント通りだなぁ。新潟はやろうとしたことが見事にハマッた。開始から主導権を握り、自分らのペースで戦った。それができるという事実にまず感動する。2つ要素があると思う。1つには柳下正明監督の対敵戦術だ。これはあい変らず冴えている。スカウティングに基づき、エスパルスのここを突こうという戦術意思がチームとして徹底されていた。これは本当に新潟の強みなんですよ。昨シーズン、「奇跡の残留劇」の土台になったものだ。監督交代してまもなくの頃、田中亜土夢が「ミーティングで柳下さんが言ってた通りになるんですよ。ホントにびっくりします」と言ってたのを思い出す。
そうした対敵戦術の意思統一のほかに、「13年アルビレックス」としての意思統一がある。サッカー誌なんかでシステムとかスタイルとして取り上げられる部分だね。これがどんどんできてきた。ま、わかりやすいところを言うと、今、チームは川又堅碁を生かそうと考えてる。そのなかで川又も持ち味を出そうと考えてる。すごくハッキリしてる。
試合開始早々(正確には前半1分23秒か)、レオ・シルバが敵DFのウラへパスを通そうとして川又がオフサイドになった。その直後には東口順昭からのフィードが川又に届く。これは相手にとってはストレスだ。どの位置からでも奪ったら「川又勝負」でいきますよ、という挨拶みたいなもの。実際にはビルドアップもできるようになってるし、勝負どころで人数をかけた攻め上がりもするんだけど、とにかく相手の意識に「川又勝負」のイメージを植えつけようとしている。これは①、実際に狙う ②、狙ってるぞと意識させて敵DFを釘づけにする、のダブル効果ですね。
ストレスをかけ続けたのが功を奏して、前半18分、エリア内で川又がファウルをもらう。これがPKになって、川又は今季自身10点め、クラブとしてはJ1通算400点めのアニバーサリー・ゴールを決める。やっぱり川又堅碁が決めるとスタジアムの雰囲気が変わるねー。これはね、単純なことだけどでっかいんだ。「よし、いける!」とピッチの選手らが思うこと。「よっしゃ、いける!」とスタンド全体が思うこと。その総和が作りだすもの。先制点を奪ったときのスタジアムの雰囲気は「数えるほどしかホームで勝ててないチーム」のそれではなかったな。
前半は終了間際、又もレオ・シルバからのパスで川又が完全に抜け出し、キーパーと1対1になるシーンがあった。あれは決めないと。結果論ではあるけれど、この日2得点の川又はあれを決めてたらハットトリックだった。今季二度めのハットをビッグスワンで達成なんつったら皆、しびれるぞ。もったいなかったね~。ま、2得点でめっちゃ派手なのにどんだけ欲張りなんだって話だけど。
その2点め。後半25分、田中亜土夢のパスが発端だ。敵DFがクリアミス、あわやオウンゴールかと思ったところへ川又が詰めていた。難なく蹴り込む。シュート自体はイージーかもしれないが、あそこに川又がいたことがすごい。FWとしてノッてる証拠だなぁ。これで今季11得点。アルビレックス新潟史上初めての「2ケタ得点を記録した日本人FW」は、その日のうちに「2ケタ」なんて通過点に過ぎないことを示した。
試合は終盤、動きを見せる。バレーが抜けて、緊急補強としてやって来た清水・ラドンチッチ(かつて甲府でプレーしたモンテネグロ人FWですね)が後半30分、1点返す。ラドンチッチはこの試合がJリーグ再デビューだったが、1トップのシステムにうまくハマッていた。加入いきなりで当たったのは幸運だったかもなぁ。もっと呼吸ができてたら厄介だったんじゃないか。
で、この時点でスコアは2対1だね。試合のアヤという意味ではここがいちばん面白いところ。ケンゴわっしょいわっしょいで押し切れるかと思いきや、1点返されて流れが変わった。さぁ、どうする? 3点めを狙うのか1点差を守るのか? 僕はきびしい展開を覚悟した。ここからガマンして勝つんだろう。だって新潟ってそうだったじゃん。3点めがカンタンに取れたら苦労してないよ。
まぁ基本、その方向で事態は推移する。僕は何とか1点差のままおさめてしまうのだって、大変なチーム力だと思っていた。そうしたらロスタイム、岡本英也が「3点め」をスパッと決めてくれる。これは本当に気持ちがラクになった。しかし、ゴール前の落ち着きは岡本がNO.1だなぁ。「必殺仕事人・ヒデさん」と呼ばせて下さい。
つまり、3対1の完勝ですよ。試合後、ヒーローインタビューの川又堅碁が「ホントに今日は長岡花火があったんすよ。俺やったらそっち行きたいと思うんすけど、こうやって見に来てくれてホントに感謝してるし、又、ビッグスワンでもっともっとゴール決めたいなと思うんで応援よろしくお願いします」とやって笑いを誘った。ケンゴは照れもあるだろうし、もしかすると超のつく花火好きかもしれないし、ニュアンスは想像するしかない。だけどね、君がやってることは花火よりずっと派手なことなんだぜと言いたい。新潟は最高のムードで3連勝!
附記1、この日、新潟の梅雨明けが発表されて、400ゴールはその祝砲って感じだったでしょうか。といっても夏本番にしては涼しかったですね。そしたら今週は猛暑になったから小瀬がどんな感じになるか心配ですよ。本稿執筆の8月7日、甲府の最高気温38℃だって。さすが盆地だなぁ。次節は間違いなくこの夏いちばんの暑さでしょう。サポもチームも頑張ろう!
2、終了間際、ジンスの退場劇がちょっと後味悪かったかなぁ。カードの多い試合だった。次節はレオもジンスもいないですね。ま、スタメンが変わってどうなるかは楽しみでもあります。
3、今週は新潟の知人から茶豆と十全ナスが届きました。夏の贅沢ですよね。それと八色のスイカ。もう、我が家は新潟の夏、全開です。あ、そういえば清水戦は「八色スイカ祭り」だったんですよね。スタッフに聞いたら「八色スイカ祭り」は負け知らずらしい。来年からそこもチェックだなぁ。苦手の浦和戦とか組めませんか?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
