【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第189回
2013/9/26
「新記録樹立!」
J1第25節、新潟×大宮。
敬老の日を含む3連休の初日。といっても翌日曜日から台風18号の本州直撃で天候は大荒れだった。まともな「ホリデー感」があったのは試合の土曜日だけだったと思う。僕はアイスホッケーチーム、日光アイスバックスの地元開幕シリーズ(3連休で3連戦!)の仕事で栃木県だった。もう、大変だったよ。敬老の日なんてアリーナが雨漏りしちゃって、スタッフ総出で水かき、モップがけ、ふき掃除。栃木県日光市は山あいだからただでさえ雨が多いんだね。結局、開始時刻を1時間半遅らせたりして、どうにか開催にこぎつけた。
大宮戦は(アイスバックスの初戦が終わって)宿に引き上げてからTV観戦した。読者よ、やったぜ。ついに日光市内にスカパーが見られるペンションを発見した。これは念願だった。ま、今はケータイのちっちゃな画面でよければ日本じゅうどこにいてもスカパー録画が見られる時代だ。ケースによってはそれだって重宝するだろう。でもね、やっぱり大画面で見たいじゃん。格別でしたよ、願いが叶って見る大宮戦の生中継。
だから今週の新潟日報コラムは、日光市内のペンションでどしゃ降りの雨音を聞きながら仕上げたんですよ。ペンションの弱点はライティングデスクがないことなんだけど、ぜいたくは言わない。ノートPCをベッドに持ち込んで書いた。
試合。もう、このカードは皆さんお馴じみの「消し合う試合」。歴代、堅守ベースのチームをお互いに組織しており、その激突は必然的にロースコアの試合を生む。相手の攻撃の芽をつむ。中盤でつぶす。ブロックで守る。色んな形があるけれど、要は敵の特徴を消すことだ。で、互いに消し合う。その究極の形がスコアレスドローじゃないか。消し合って何も起きない。凪(な)いだ試合だね。さざ波すら起きないみたいなのが、このカードの伝統かなぁ。
いや、という指摘は何も悪い意味でだけ言ってませんよ。守戦の醍醐味は見る人を選ぶかもわかんないけど、わかる人にはたまらない。何か起きること(それもスーパーな何か!)を「スペクタクル」って言うんだけど、そこに至る過程で未然に防がれて何も起きないっていうのは、つまらない試合じゃなくて、実はスリル満点だ。野球に置き換えたら「スペクタクル」はホームランの飛び出す空中戦、「消し合う試合」は息詰まる投手戦だよ。
で、カードの伝統は監督さんが代わっても続行するらしい。大宮のベルデニック監督電撃解任には仰天しましたね。この試合は小倉勉・新監督(前・大宮テクニカルダイレクター)の4試合めだった。前節、横浜FM戦でチームの連敗を8で止め、小倉アルディージャの初勝利をつかんだばかりだ。同試合では4-1-4-1を実施し、中村俊輔を消したらしい。どうもスカウティングにもとづき、戦術的な守備をして来るようだ。どっかで聞いた話だね。
そしたら、まぁ、ホントに典型的な新潟×大宮戦だった。大宮はスロベニアンズ&ヨンチョルの3トップを採用、スカパー解説の玉乃淳氏は「両側に張ることで新潟サイドバックの上がりを封じる(特にキム・ジンス)」狙いではないかと指摘。確かにサイドバックの攻撃参加がないとダイナミックな攻めが作れない。新潟は左のサイドハーフ・田中亜土夢、サイドバック・ジンスの呼吸が素晴しい。
大宮の守備戦術は奏功してたのかな。0点のまま試合が推移したんだから、機能してたと評すべきなのかもしれない。だが、新潟サポにはこの日のエース・川又堅碁がもうひとつに見えたんじゃないか。それはここ何試合、調子を崩してたのがまだ続いてたのか。それともこの日、スタメンで2トップを組んだ岡本英也とのコンビがまだまだなのか(田中達也と組んでこそ、ケンゴの良さが生きるのか)。あるいはたまたま点が入らなかったのか、ちょっとわからない。ニュアンスは「たまたま」っぽかったけどね。決定機は何度もあった。別に大宮に消された印象でもないけどなぁ。
しかし、驚いたのは試合終盤までずっと大宮のシュート数が0だったことだ。あれは「機能不全に陥ってた」と言っていい状態だ。この原因も大宮側にあるのか、あるいはレオ・シルバに象徴される新潟の守りのせいで機能不全にされていたのか、見極めが難しいとこだな。ま、両方の理由が組み合わさった辺りが順当かもしれないけれど。
そういうわけで0対0だった。新潟が優勢に試合をすすめつつも、得点には至らない。このカード、またスコアレスドローに終わるのかな。裏を返せばお互いワンチャンスで勝負が決する展開だ。
決めたのは田中亜土夢! 後半29分、左足のミドルシュートだ。亜土夢は前半からいいシュートを打ってフィーリングは見せていた。で、お膳立てしたのがホージェル・ガウーショと田中達也だ。ともに交代出場した選手。僕は「好調なチーム」の背景に「好調な監督さん」を見るなぁ。采配ズバリ! ホージェルが供給して達也が落とし、亜土夢がゴール左下に突き刺す。日本で活躍したいホージェルにも、前節・浦和戦のもやもやを払いたい達也にも、もちろんヒーローの亜土夢にも手応えなりプラス材料なりがしっかり残った。全員がこの先、期待できる。名采配じゃないですか。
新潟はクラブ新記録の「ホーム5連勝」! 天皇杯2回戦・新潟経営大戦も勘定に入れれば「公式戦ホーム6連勝」だ! 試合後のTVインタビューで亜土夢が皆の思いを言葉にする。「ホームに強い新潟が帰ってきた」。ちなみにこの日の入場者数は3万3千人だ。少しずつ増えてきた。やっぱり3万超えると盛り上がりが違う。4万人が見たいなぁ。チームは4万集める価値のある試合をしてると思うよ。
附記1、ゴール後の田中亜土夢選手のパフォーマンスに関して、スカパーの落下傘クルーが何にもわかってなかったところが笑った。あれ、テレビ新潟クルーだったらあり得ないでしょ。解説者の玉乃淳さんは「スーパーマン」と言って後で(試合中なのに)猛省。あ、あと「コーナーフラッグのとこにガウーショしか行かなかったでしょ。あれ、ひとりも行かなかったら大変なことになるところでした」「みんな疲れてて行けなかったのかな(えのきど註 ホージェル・ガウーショだけが「鉄腕アトム」パフォーマンスを知らず、亜土夢のスライディングしたところへ続けてすべり込んだ。いわばホージェルだけ空気が読めなかった結果だ。玉乃さんはそれを「歓喜の瞬間、チームメイトが祝福に駆け寄ってくれない状態」ととらえ、好調チームで仲良さそうなのに何だろう? と思った。で、愉快なことに「皆、疲れてコーナーまで行けないのじゃないか」と考えてみる。それならば交代出場のフレッシュなホージェルだけが行ったことに説明がつくじゃないか)」とも言ってた。一体、誰ひとり駆け寄らなかった場合に起きる「大変なこと」って何だろう? 玉乃さんは2回、それを言ったぞ(笑)。
2、で、ヒーローインタビューでリポーターの高木聖佳さんに「あのパフォーマンスがやりたかったというのは?」と聞き返されて、「鉄腕アトムです」と説明しなきゃならなかった亜土夢がちょっと不憫でした。こうなったらゴールを量産して、せめてスカパーのクルーには覚えてもらいましょう。
3、17日のJリーグ理事会で2015年からのJ1リーグ大会方式の変更(2ステージ制、ポストシーズン導入)が正式に決まりましたね。僕はJリーグ側の考え方についてはちょっと前の『週刊サッカーマガジン』に前・後編のインタビューが載ったでしょ。あれで知った。けど、一般のファン、サポーターに事情説明とかアナウンスの類がほとんどなかったね。横浜FMの小林祐三選手が先週、ツイッターで「知らなかった」とつぶやいてたのも衝撃でした。これは問題でしょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第25節、新潟×大宮。
敬老の日を含む3連休の初日。といっても翌日曜日から台風18号の本州直撃で天候は大荒れだった。まともな「ホリデー感」があったのは試合の土曜日だけだったと思う。僕はアイスホッケーチーム、日光アイスバックスの地元開幕シリーズ(3連休で3連戦!)の仕事で栃木県だった。もう、大変だったよ。敬老の日なんてアリーナが雨漏りしちゃって、スタッフ総出で水かき、モップがけ、ふき掃除。栃木県日光市は山あいだからただでさえ雨が多いんだね。結局、開始時刻を1時間半遅らせたりして、どうにか開催にこぎつけた。
大宮戦は(アイスバックスの初戦が終わって)宿に引き上げてからTV観戦した。読者よ、やったぜ。ついに日光市内にスカパーが見られるペンションを発見した。これは念願だった。ま、今はケータイのちっちゃな画面でよければ日本じゅうどこにいてもスカパー録画が見られる時代だ。ケースによってはそれだって重宝するだろう。でもね、やっぱり大画面で見たいじゃん。格別でしたよ、願いが叶って見る大宮戦の生中継。
だから今週の新潟日報コラムは、日光市内のペンションでどしゃ降りの雨音を聞きながら仕上げたんですよ。ペンションの弱点はライティングデスクがないことなんだけど、ぜいたくは言わない。ノートPCをベッドに持ち込んで書いた。
試合。もう、このカードは皆さんお馴じみの「消し合う試合」。歴代、堅守ベースのチームをお互いに組織しており、その激突は必然的にロースコアの試合を生む。相手の攻撃の芽をつむ。中盤でつぶす。ブロックで守る。色んな形があるけれど、要は敵の特徴を消すことだ。で、互いに消し合う。その究極の形がスコアレスドローじゃないか。消し合って何も起きない。凪(な)いだ試合だね。さざ波すら起きないみたいなのが、このカードの伝統かなぁ。
いや、という指摘は何も悪い意味でだけ言ってませんよ。守戦の醍醐味は見る人を選ぶかもわかんないけど、わかる人にはたまらない。何か起きること(それもスーパーな何か!)を「スペクタクル」って言うんだけど、そこに至る過程で未然に防がれて何も起きないっていうのは、つまらない試合じゃなくて、実はスリル満点だ。野球に置き換えたら「スペクタクル」はホームランの飛び出す空中戦、「消し合う試合」は息詰まる投手戦だよ。
で、カードの伝統は監督さんが代わっても続行するらしい。大宮のベルデニック監督電撃解任には仰天しましたね。この試合は小倉勉・新監督(前・大宮テクニカルダイレクター)の4試合めだった。前節、横浜FM戦でチームの連敗を8で止め、小倉アルディージャの初勝利をつかんだばかりだ。同試合では4-1-4-1を実施し、中村俊輔を消したらしい。どうもスカウティングにもとづき、戦術的な守備をして来るようだ。どっかで聞いた話だね。
そしたら、まぁ、ホントに典型的な新潟×大宮戦だった。大宮はスロベニアンズ&ヨンチョルの3トップを採用、スカパー解説の玉乃淳氏は「両側に張ることで新潟サイドバックの上がりを封じる(特にキム・ジンス)」狙いではないかと指摘。確かにサイドバックの攻撃参加がないとダイナミックな攻めが作れない。新潟は左のサイドハーフ・田中亜土夢、サイドバック・ジンスの呼吸が素晴しい。
大宮の守備戦術は奏功してたのかな。0点のまま試合が推移したんだから、機能してたと評すべきなのかもしれない。だが、新潟サポにはこの日のエース・川又堅碁がもうひとつに見えたんじゃないか。それはここ何試合、調子を崩してたのがまだ続いてたのか。それともこの日、スタメンで2トップを組んだ岡本英也とのコンビがまだまだなのか(田中達也と組んでこそ、ケンゴの良さが生きるのか)。あるいはたまたま点が入らなかったのか、ちょっとわからない。ニュアンスは「たまたま」っぽかったけどね。決定機は何度もあった。別に大宮に消された印象でもないけどなぁ。
しかし、驚いたのは試合終盤までずっと大宮のシュート数が0だったことだ。あれは「機能不全に陥ってた」と言っていい状態だ。この原因も大宮側にあるのか、あるいはレオ・シルバに象徴される新潟の守りのせいで機能不全にされていたのか、見極めが難しいとこだな。ま、両方の理由が組み合わさった辺りが順当かもしれないけれど。
そういうわけで0対0だった。新潟が優勢に試合をすすめつつも、得点には至らない。このカード、またスコアレスドローに終わるのかな。裏を返せばお互いワンチャンスで勝負が決する展開だ。
決めたのは田中亜土夢! 後半29分、左足のミドルシュートだ。亜土夢は前半からいいシュートを打ってフィーリングは見せていた。で、お膳立てしたのがホージェル・ガウーショと田中達也だ。ともに交代出場した選手。僕は「好調なチーム」の背景に「好調な監督さん」を見るなぁ。采配ズバリ! ホージェルが供給して達也が落とし、亜土夢がゴール左下に突き刺す。日本で活躍したいホージェルにも、前節・浦和戦のもやもやを払いたい達也にも、もちろんヒーローの亜土夢にも手応えなりプラス材料なりがしっかり残った。全員がこの先、期待できる。名采配じゃないですか。
新潟はクラブ新記録の「ホーム5連勝」! 天皇杯2回戦・新潟経営大戦も勘定に入れれば「公式戦ホーム6連勝」だ! 試合後のTVインタビューで亜土夢が皆の思いを言葉にする。「ホームに強い新潟が帰ってきた」。ちなみにこの日の入場者数は3万3千人だ。少しずつ増えてきた。やっぱり3万超えると盛り上がりが違う。4万人が見たいなぁ。チームは4万集める価値のある試合をしてると思うよ。
附記1、ゴール後の田中亜土夢選手のパフォーマンスに関して、スカパーの落下傘クルーが何にもわかってなかったところが笑った。あれ、テレビ新潟クルーだったらあり得ないでしょ。解説者の玉乃淳さんは「スーパーマン」と言って後で(試合中なのに)猛省。あ、あと「コーナーフラッグのとこにガウーショしか行かなかったでしょ。あれ、ひとりも行かなかったら大変なことになるところでした」「みんな疲れてて行けなかったのかな(えのきど註 ホージェル・ガウーショだけが「鉄腕アトム」パフォーマンスを知らず、亜土夢のスライディングしたところへ続けてすべり込んだ。いわばホージェルだけ空気が読めなかった結果だ。玉乃さんはそれを「歓喜の瞬間、チームメイトが祝福に駆け寄ってくれない状態」ととらえ、好調チームで仲良さそうなのに何だろう? と思った。で、愉快なことに「皆、疲れてコーナーまで行けないのじゃないか」と考えてみる。それならば交代出場のフレッシュなホージェルだけが行ったことに説明がつくじゃないか)」とも言ってた。一体、誰ひとり駆け寄らなかった場合に起きる「大変なこと」って何だろう? 玉乃さんは2回、それを言ったぞ(笑)。
2、で、ヒーローインタビューでリポーターの高木聖佳さんに「あのパフォーマンスがやりたかったというのは?」と聞き返されて、「鉄腕アトムです」と説明しなきゃならなかった亜土夢がちょっと不憫でした。こうなったらゴールを量産して、せめてスカパーのクルーには覚えてもらいましょう。
3、17日のJリーグ理事会で2015年からのJ1リーグ大会方式の変更(2ステージ制、ポストシーズン導入)が正式に決まりましたね。僕はJリーグ側の考え方についてはちょっと前の『週刊サッカーマガジン』に前・後編のインタビューが載ったでしょ。あれで知った。けど、一般のファン、サポーターに事情説明とかアナウンスの類がほとんどなかったね。横浜FMの小林祐三選手が先週、ツイッターで「知らなかった」とつぶやいてたのも衝撃でした。これは問題でしょう。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
