【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第197回
2013/11/21
「久々のアウェー勝利!」
J1第31節、大分×新潟。
成田発のジェットスター便を初めて利用する。最初、ネットで申し込むとき、価格を見て我が目を疑った。最安の片道3千円台はもう締め切られていたけど、5千円台が買えてしまった。LCC(ローコストキャリア)恐るべしだ。高速バスの九州便より安い。もしかすると現在は採算度外視で、認知度を上げていくキャンペーン期間なのかもしれない。LCCは遅れや欠航等の悪評も耳にするけど、この価格は破壊力満点だ。確かに座席スペースは(席数を増やして利益率を上げるため)極端に狭い。機内サービスのコーヒーも有料。だけど問題ないでしょう、国内線すぐ着くもんなぁ。
すぐ着いた大分空港では「毎日が地獄です」と書いた別府温泉Tシャツに笑う。空港でも別府市街でも新潟サポを見かけた。僕と同じ旅程だから2泊3日(つまり、前泊&後泊)の小旅行だ。日曜日の16時キックオフじゃ当日帰る便がない。今季はもう天皇杯で丸亀に行くこともない(そういえば大分トリニータは次の天皇杯・柏戦、カンコースタジアムなんですね。新潟が勝ってたら岡山でケンゴ祭りができたんだなぁ)。遠出のアウェーも今年最後だし、温泉も魅力だ。何よりリーグ戦、天皇杯とビッグスワンで二度敗れてることに納得がいかない。既にJ2降格が決まった大分を皆、「勝ち逃げは許さない!」と地獄の底まで追いかけてきたニュアンスじゃないか。僕は日豊本線で大分を素通りして臼杵市に前泊。
翌日、国宝・臼杵石仏を拝観してからのスタジアム入りだったけど、自分としては気合い充分だった。バス乗り場の列でサポーターと言葉を交わす。向こうにとっても「行きのバスでえのきどと一緒になった」がエンギいいものになるかどうかは試合結果による。こっちもそうだ。こないだ湘南戦のとき、スワン入りが一緒になった「わか」さんいないかなぁ、エンギいいのにと思うが、大分までは来てないか、もしくは車椅子の女性だからシャトルバスは利用しないだろう。今回はシンガポールから大分戦見に来たというご夫婦(名前聞き忘れた!)に出会った。2人とも新潟出身で、現在は転勤先のシンガポールでもっぱらTV観戦(ご実家でスカパーに加入され、それをロケフリで飛ばす)とのこと。居合わせた皆で「大分戦っていうと船越が…」「エジがスーパーサイヤ人になったとき…」等、言いながら大分銀行ドーム到着。願わくばこの出会いがエンギいいものになりますように。
まぁ、このカードはエンギがかつぎたくなるくらい対戦成績が悪い。特にここ数年だな。リーグ戦はJ1、J2トータルで10勝12敗7分、ナビスコ戦は2敗2分だが、2006年以降に限れば1勝もさせてもらっていない。さっきも書いたが、今季も既に2敗だ。これはね、絶対勝たないといけない。
と勢い込んで到着したんだけど、会場の雰囲気が想定と違った。ぴーんと張ったものがないんだよ。僕はかなりびっくりした。プレス受付にいるボランティアさんがおしゃべりに夢中でこっちに気づいてくれない。まぁ、人間っていうのはそういうものだ。降格が決まってバックヤードも緊張感を保てない。観客は相性のいい新潟相手に「今季ホーム初勝利」を期待していた。マッチデープログラムの表紙の見出しは「今日、ホームで勝つ!」。驚くべきことに大分トリニータは今季まだホームで勝ってないのだ。残りホームゲームは今日の新潟戦とラスト川崎戦の2つだけ。
試合はいきなり動いた。前半13分、敵GK・清水圭介のゴールキックが田中達也の背中に当たってそのままゴール! サッカー的には珍事の類い。今季、怠らずチャージをかけ、GKにプレッシャーをかけ続けた達也へサッカーの神様からごほうびが届いた。会場内ははっきりそれとわかるほどテンションが下がる。落胆と失笑。相手チームのことながらちょっとつらいものがある。
新潟はのびのびやれていた。今季2敗の苦手意識みたいなもんは特にないようだ。ここ最近のスタメン布陣(右サイドハーフに岡本英也、ボランチに成岡翔、右サイドバックに三門雄大)は今日がいちばんスムーズに見えた。大分は元気なかったなぁ。プレスがハマり、うまくすると大量得点の試合になりそうだった。川又堅碁は得点王のチャンスがあるから狙ってほしいと思う。
が、なかなか追加点が奪えず、前半40分、松本昌也の同点弾を食らう。おおっ、やっぱり相性ってあるのか、試合はこれで面白くなったなと思ったら、前半44分、川又がきっちり流れを戻した。このところ多いパターンだけど、こぼれが行くところにちゃんといるんだよな。もう、位置取りの勝利。いることの勝利。試合は完全に新潟ペースだ。内容はずっとそうだったけど、結果においてもケンゴがつじつまを合わせた。こういうのがエースの仕事だよね。1対2。
後半、僕の期待は「ケンゴ祭り」だった。ゴールラッシュをかけて、(得点王レースで先を行く)川崎・大久保嘉人を猛追してほしい。が、追加点はケンゴではなかった。後半11分、ブレ球のミドルを豪快に決めたのは田中亜土夢だ。あれは年一クラスのファインゴールだ。試合後、本人に聞いたら対談企画でサッカー解説者・梅山修さんに「残り試合でミドルシュート決めます!」と約束していたらしい。梅山さんもっとじゃんじゃん約束しちゃって下さいよ。
試合は1対3でがっちりモノにした。内容も素晴しかった。大分戦の勝ちだけでなく、そもそも久々のアウェー勝利だからホントなら弾けたい。けど、後味がもうひとつよくないんだ。それは翌日、地元紙・大分合同新聞の記事(見出しは「自滅」)を読んだときにも感じたことだ。
「自滅だった。まさかのミスで先制を許し、終盤までペースをつかめないまま3失点。あまりのふがいなさに、試合後のドームにはブーイングが響いた。『自らゲームプランを大きく変えてしまった』。田坂和昭監督も予想だにしなかった展開を悔やんだ。前半13分、相手CKをしのぎ、まさに攻撃に転じようとした瞬間だった。ゴールキックが相手選手に当たり、跳ね返ったボールが自陣ゴールへ。あっけない失点にドーム内は静まり返った。」(同記事より)
トリニータを包む空気がすごくネガティブなのだ。それは寂しいことだ。田中達也の「背中ゴール」は珍事だけど、悔やむことでも恥辱でもないでしょう。サッカーでは起き得ることだ。トリニータは切り替えて食らいついてきた。あの時点ではぜんぜん「自滅」なんかしてない。
勝負事だからもちろん勝つことも負けることもある。僕はナビスコを獲って地方クラブに勇気をくれた大分トリニータに敬意を持ちたい。サッカーで傷つく人を見るのは寂しいことだ。友よ、必ずまた会おう! また戦おう! そのときはもういっぺん3-1くらいでやっつけるよ。僕らは僕らの旅を続ける。大分トリニータの旅に夢多かれ!
附記1、帰りに寄った大分空港ロビーに「トリニータ神社」を模した寄せ書きスペースが設置されていて、「がんばれ大分! またJ1で逢いましょう」といった新潟サポの書き込みを見かけました。思いは同じですね。
2、この日、ジュビロ磐田が降格を決めました。ヤンツーさんの心中いかばかりか。
3、翌月曜日は高崎山&地獄めぐりと別府観光でした。オレンジの人多かったなぁ。僕が感心したのは地獄を取り仕切る組合がちゃんとあって「別府地獄組合」というのでした。「当地獄敷地内での客引行為は、一切お断りします。別府地獄組合」だって。たぶん組合のネーミングでは日本最高峰だね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第31節、大分×新潟。
成田発のジェットスター便を初めて利用する。最初、ネットで申し込むとき、価格を見て我が目を疑った。最安の片道3千円台はもう締め切られていたけど、5千円台が買えてしまった。LCC(ローコストキャリア)恐るべしだ。高速バスの九州便より安い。もしかすると現在は採算度外視で、認知度を上げていくキャンペーン期間なのかもしれない。LCCは遅れや欠航等の悪評も耳にするけど、この価格は破壊力満点だ。確かに座席スペースは(席数を増やして利益率を上げるため)極端に狭い。機内サービスのコーヒーも有料。だけど問題ないでしょう、国内線すぐ着くもんなぁ。
すぐ着いた大分空港では「毎日が地獄です」と書いた別府温泉Tシャツに笑う。空港でも別府市街でも新潟サポを見かけた。僕と同じ旅程だから2泊3日(つまり、前泊&後泊)の小旅行だ。日曜日の16時キックオフじゃ当日帰る便がない。今季はもう天皇杯で丸亀に行くこともない(そういえば大分トリニータは次の天皇杯・柏戦、カンコースタジアムなんですね。新潟が勝ってたら岡山でケンゴ祭りができたんだなぁ)。遠出のアウェーも今年最後だし、温泉も魅力だ。何よりリーグ戦、天皇杯とビッグスワンで二度敗れてることに納得がいかない。既にJ2降格が決まった大分を皆、「勝ち逃げは許さない!」と地獄の底まで追いかけてきたニュアンスじゃないか。僕は日豊本線で大分を素通りして臼杵市に前泊。
翌日、国宝・臼杵石仏を拝観してからのスタジアム入りだったけど、自分としては気合い充分だった。バス乗り場の列でサポーターと言葉を交わす。向こうにとっても「行きのバスでえのきどと一緒になった」がエンギいいものになるかどうかは試合結果による。こっちもそうだ。こないだ湘南戦のとき、スワン入りが一緒になった「わか」さんいないかなぁ、エンギいいのにと思うが、大分までは来てないか、もしくは車椅子の女性だからシャトルバスは利用しないだろう。今回はシンガポールから大分戦見に来たというご夫婦(名前聞き忘れた!)に出会った。2人とも新潟出身で、現在は転勤先のシンガポールでもっぱらTV観戦(ご実家でスカパーに加入され、それをロケフリで飛ばす)とのこと。居合わせた皆で「大分戦っていうと船越が…」「エジがスーパーサイヤ人になったとき…」等、言いながら大分銀行ドーム到着。願わくばこの出会いがエンギいいものになりますように。
まぁ、このカードはエンギがかつぎたくなるくらい対戦成績が悪い。特にここ数年だな。リーグ戦はJ1、J2トータルで10勝12敗7分、ナビスコ戦は2敗2分だが、2006年以降に限れば1勝もさせてもらっていない。さっきも書いたが、今季も既に2敗だ。これはね、絶対勝たないといけない。
と勢い込んで到着したんだけど、会場の雰囲気が想定と違った。ぴーんと張ったものがないんだよ。僕はかなりびっくりした。プレス受付にいるボランティアさんがおしゃべりに夢中でこっちに気づいてくれない。まぁ、人間っていうのはそういうものだ。降格が決まってバックヤードも緊張感を保てない。観客は相性のいい新潟相手に「今季ホーム初勝利」を期待していた。マッチデープログラムの表紙の見出しは「今日、ホームで勝つ!」。驚くべきことに大分トリニータは今季まだホームで勝ってないのだ。残りホームゲームは今日の新潟戦とラスト川崎戦の2つだけ。
試合はいきなり動いた。前半13分、敵GK・清水圭介のゴールキックが田中達也の背中に当たってそのままゴール! サッカー的には珍事の類い。今季、怠らずチャージをかけ、GKにプレッシャーをかけ続けた達也へサッカーの神様からごほうびが届いた。会場内ははっきりそれとわかるほどテンションが下がる。落胆と失笑。相手チームのことながらちょっとつらいものがある。
新潟はのびのびやれていた。今季2敗の苦手意識みたいなもんは特にないようだ。ここ最近のスタメン布陣(右サイドハーフに岡本英也、ボランチに成岡翔、右サイドバックに三門雄大)は今日がいちばんスムーズに見えた。大分は元気なかったなぁ。プレスがハマり、うまくすると大量得点の試合になりそうだった。川又堅碁は得点王のチャンスがあるから狙ってほしいと思う。
が、なかなか追加点が奪えず、前半40分、松本昌也の同点弾を食らう。おおっ、やっぱり相性ってあるのか、試合はこれで面白くなったなと思ったら、前半44分、川又がきっちり流れを戻した。このところ多いパターンだけど、こぼれが行くところにちゃんといるんだよな。もう、位置取りの勝利。いることの勝利。試合は完全に新潟ペースだ。内容はずっとそうだったけど、結果においてもケンゴがつじつまを合わせた。こういうのがエースの仕事だよね。1対2。
後半、僕の期待は「ケンゴ祭り」だった。ゴールラッシュをかけて、(得点王レースで先を行く)川崎・大久保嘉人を猛追してほしい。が、追加点はケンゴではなかった。後半11分、ブレ球のミドルを豪快に決めたのは田中亜土夢だ。あれは年一クラスのファインゴールだ。試合後、本人に聞いたら対談企画でサッカー解説者・梅山修さんに「残り試合でミドルシュート決めます!」と約束していたらしい。梅山さんもっとじゃんじゃん約束しちゃって下さいよ。
試合は1対3でがっちりモノにした。内容も素晴しかった。大分戦の勝ちだけでなく、そもそも久々のアウェー勝利だからホントなら弾けたい。けど、後味がもうひとつよくないんだ。それは翌日、地元紙・大分合同新聞の記事(見出しは「自滅」)を読んだときにも感じたことだ。
「自滅だった。まさかのミスで先制を許し、終盤までペースをつかめないまま3失点。あまりのふがいなさに、試合後のドームにはブーイングが響いた。『自らゲームプランを大きく変えてしまった』。田坂和昭監督も予想だにしなかった展開を悔やんだ。前半13分、相手CKをしのぎ、まさに攻撃に転じようとした瞬間だった。ゴールキックが相手選手に当たり、跳ね返ったボールが自陣ゴールへ。あっけない失点にドーム内は静まり返った。」(同記事より)
トリニータを包む空気がすごくネガティブなのだ。それは寂しいことだ。田中達也の「背中ゴール」は珍事だけど、悔やむことでも恥辱でもないでしょう。サッカーでは起き得ることだ。トリニータは切り替えて食らいついてきた。あの時点ではぜんぜん「自滅」なんかしてない。
勝負事だからもちろん勝つことも負けることもある。僕はナビスコを獲って地方クラブに勇気をくれた大分トリニータに敬意を持ちたい。サッカーで傷つく人を見るのは寂しいことだ。友よ、必ずまた会おう! また戦おう! そのときはもういっぺん3-1くらいでやっつけるよ。僕らは僕らの旅を続ける。大分トリニータの旅に夢多かれ!
附記1、帰りに寄った大分空港ロビーに「トリニータ神社」を模した寄せ書きスペースが設置されていて、「がんばれ大分! またJ1で逢いましょう」といった新潟サポの書き込みを見かけました。思いは同じですね。
2、この日、ジュビロ磐田が降格を決めました。ヤンツーさんの心中いかばかりか。
3、翌月曜日は高崎山&地獄めぐりと別府観光でした。オレンジの人多かったなぁ。僕が感心したのは地獄を取り仕切る組合がちゃんとあって「別府地獄組合」というのでした。「当地獄敷地内での客引行為は、一切お断りします。別府地獄組合」だって。たぶん組合のネーミングでは日本最高峰だね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
