【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第198回

2013/11/28
 「味スタ西」

 Jユースカップ準々決勝、札幌U-18×新潟ユース。
 ポカポカ陽気に恵まれた晩秋の日曜日(こういうのを小春日和っていうんだっけか?)、午前中から動きだして京王線・飛田給駅に降り立つ。Jユースカップの決勝トーナメントだ。上野展裕監督率いるアルビレックス新潟ユースが9月10日、FC東京U-18との2回戦を突破し、準々決勝に歩を進めていた。これは見に行くでしょ。

 ネットで調べたらどうも「11時キックオフ・味スタ西」らしかった。「味スタ西」は普段の味スタではなくて、甲州街道をもう少し奥まって病院や警察学校があるほうへ進んだところ。メインスタンドだけの小ぶりな陸上競技場&サッカー場だ。まぎらわしいのは決勝トーナメント開催競技場に「味スタ西」と「味フィ西」が存在することだった。正式名称は「味の素スタジアム西競技場」と「味の素フィールド西が丘」。どちらも味の素がネーミングライツを取得していて、かつ「西」の文字が入ってるから混乱する。「味フィ西」のほうは要するに西が丘ですね。今日はなでしこリーグの入れ替え戦・吉備国際大×スフィーダ世田谷が行われる。

 僕はこの日、16時半から日光アイスバックスの公式戦(於・新横浜スケートセンター)でした。だからユースの試合見て、飛田給でお昼食べて、余裕で橋本経由JR横浜線ですね。ホッケーの予定が入ってなければ丸一日、飛田給でサッカー三昧って手もありました。11時からこの試合でしょ。14時から準々決勝のもうひと試合、広島ユース×鹿島ユース。ここまでは無料ですよ。で、17時から味スタに会場を変えてJ2第41節、東京V×徳島。新潟サポ的には千代反田充に逢うチャンスでしょうか。実にトリプルヘッダーなんだなぁ。

 スタジアムへたどり着くと何しろメインだけだから札幌サポと呉越同舟っぽい座席構成。札幌側の赤いゾーンのなかを抜けていかないと新潟側へ行けない。コンサもアルビもサポーター気質はおっとりしてるけど、さすがにトップチームだったらこの導線はあり得ない。僕は「同じサイドのゴール裏」を連想した。赤黒とオレンジに分かれていても、「若者の未来」を応援する同じサイドにいる感覚だ。

 チャントを書いた紙を試合前、配ってくれたサポーターがいて、お、チームチャントは華原朋美の『I BELIEVE』の替え歌か、選手チャントも主だったところは決まってるんだ、と楽しくなる。こういうのは気分出るよね。僕なんか実際問題、ユースチームを見るのは今日が初めてだけど、こう、身内っぽい感情に包まれる。辺りを見るとどうやら選手らのご家族がかたまってる一角があり、たぶんお母さんかなぁってグループがいっしょうけんめい声援を送ってる。

 ピッチに選手らが姿を現して、やっぱりトップ昇格が決まった酒井高聖に目が行く。183センチ、75キロということだけど、骨太でガッチリした印象。今日はCBだ。1列前もあるらしい。ちなみに試合前夜は日本代表の欧州遠征・オランダ戦で、お兄さんの高徳(途中出場)がアリエン・ロッベンとマッチアップした。まぁ、普段ブンデスリーガで当たってる相手とはいえ、あらためてすっげーと思った。高聖は100パー、ホテルでお兄さんの活躍を見ただろう。「実の兄がロッベンとマッチアップしてる」状況って僕ら想像するしかない世界だけど、どんな感じなんだろうな。

 試合が始まって何かやたらと明るい気持ちだなぁと思う。20℃くらいの快晴で陽なたぼっこしてるみたいだったこともある。でもね、あの明るさは「前途がある」せいだね。勝敗は勝敗で大事だけど、たとえ負けても選手らには「前途がある」。何だってとり返せるし、やり直しがきく。失敗しても挽回できる。そういう種類の明るさだよ。

 だから去年のシーズン終盤、「後がない」感じがひたすら苦しかったでしょう。あの息苦しさと無縁な感じ。たとえ負けたら終わりのトーナメント戦だろうが、試合局面のなかで押し込まれようが、常に前向きでいられる。なんて思ってたら本当に押し込まれだした。基本、つないでサイド攻撃を仕掛けてくる札幌に対して、新潟は奪ってカウンター。ていうか次第にカウンターの機会も少なくなってきた。

 バイタルエリアにちょっと入れ過ぎかな。まぁ、酒井高聖をはじめ皆、球際が強いから何とかしのいでいる。しのいでいるんだけど、これはいつかやられるだろう。頑張ってたけどねぇ。ずっと頑張ってたんだけど、後半28分、こぼれ球を札幌・蒲生幹に左足で決められる。これが決勝点だからね。粘り強く戦ってたんだ。あとちょっと辛抱し切れなかった感じかな。

 新潟最大のチャンスは後半37分、渡邉新太が一発でDFのウラへ抜けたシーン。決定機が少なかった。ハーフタイムに顔見知りのサポに聞いたら、2回戦のFC東京戦はもっとハラハラし通しだったっていうから、これはこの日の出来じゃなくてチームの芸風なんだね。ユースチームも堅守速攻なんだ。1-0で敗れベスト4には進めなかった。でも、僕らは陽射しのなか上着を脱いで声援を続けたんだ。最高に楽しかったよ。


附記1、メンバー表を見て、選手名に感じ入りました。「飯野七聖(ななせ)」はまだ大丈夫だけど「宮崎幾笑(きわら)」は読めないな。うっかり「いくえ」と読んじゃいそうだ。

2、帰り道、仰天したのは田村貢社長がフツーに歩いてたこと。「今日はこのままサクッと新潟へ帰ります」と笑ってたけど、何とユースの試合にひとりで来てた。自分のことを棚に上げて言いますが、どんだけ好きなんだ。もうこれはJ1昇格10周年イベントの成功を祈らずにいられません。

3、今週、内田潤選手が契約満了とのモバアルメールが届き、しんみりしました。見事ケガから戻ってきたんだけどなぁ。残り3節、プレーする姿が見られるといいですね。

4、日本代表のベルギー戦は録画したもののまだ見てないんですよ。W杯欧州予選プレーオフはクリスチャーノ・ロナウド(ポルトガル)すご過ぎますね。あとフランスが奇跡を起こすとはなぁ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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