【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第211回
2014/5/15
「オレンジダービー連戦」
J1第11節、大宮×新潟。
勝てたなぁ。特に前半はどっちがホームかわからなかった。大宮はラドンチッチが機能しなかったのであらためてチーム作りの最中、というニュアンスらしい。前半9分、早々と田中亜土夢のファインゴールが生まれる。新潟はピッチを広く使い、まるで練習試合みたいだった。で、そこからゲームを圧倒的に支配するんだね。大宮は守備ブロックを構築して、ぜんぜんプレスに来ない。試合後、柳下正明監督が「取りに来ないなら、ずっとセンターバック2人で残り35分ボールキープしてもよかった。それくらいやって欲しかった」と振り返ったほどだ。
まぁ、「守りを固めてカウンター」にチーム一丸取り組んでるところなのだろうが、ちょっとあり得ないくらいにスペースが使える。そりゃ攻めたくもなるね。あと「センターバック2人で35分キープ」するには新潟の選手は性格的に真面目すぎる。結果、攻め急いでしまった。ちょっとしたミスから反撃を食らう。前半39分にはクリアミスからズラタンの同点弾を喫する。もったいない失点。
だけど、「センターバック2人で35分キープ」より現実的だったのは「アグレッシブに攻め、追加点を奪う」じゃなかったか。僕には2、3点取って、前半のうちに試合を決めてしまえる感じに見えた。まぁ、そこに落とし穴があって、選手らも皆、同じ思いに駆られたのかもしれない。
ただね、ヤンツーさんが本当に「センターバック2人で35分キープ」すべきと考えたのなら、チームに伝達する方法はあったと思うんだね。何しろ35分間もあったんだからどこかの時点で指示が出せる。だから実際のところは「こんな手もあるんだけどなぁと思って、黙って見てた」ってことでしょ。監督指示がなければ動けないチームにはしたくない。局面局面を自分らで考えさせたい。もっと言えば今はチームの成長にプライオリティ(優先順位)をおく時期で、まだ勝負にキリキリしたくない。今、ムチを入れちゃったら先々バテるよ。おそらくそんなところじゃないすか。
後半は大宮・家長昭博→高橋祥平で逆転(後半9分)され、こりゃまずいぞと思ったら、直後、成岡翔のすっばらしいパスをもらったFW・岡本英也が同点(同11分)にする。で、まぁ、膠着したままタイムアップ。終わってみれば2対2のドローという、このカードらしい決着だ。でも中身的にはいつもよりずっと動きがあったなぁ。
心配なのは川又堅碁だ。1失点めのクリアミスの責任も感じていたと思う。W杯代表メンバー入りを目指し、結果も欲しいだろう。気持ちが入りすぎて、見てるこっちまで肩がこるよ。まぁ、ケンゴの気性はサポーターがいちばんわかってる。気合入れて気合入れて、ガッチガチで、それでももがきまわるのがケンゴだ。結果をつけてやりたいな。がんばれケンゴ、俺たちがついてる!
J1第12節、新潟×清水。
NHK-BS1中継でTV観戦。GW最後の振替休日。よく入ってたなぁ。3万5千はデンカビッグスワン今季最多動員だ。もちろんこういう試合はすっきり勝つのがベスト。「連休だから見に来たお客さん」にまた来たいなと思ってもらいたい。それから「ケンゴの代表入り挑戦」&「話題のレオ・シルバ」で組んでもらったNHK生中継で、クラブ自体の存在感を出したい。新潟は9戦負けなしだがドローが多すぎる。今日はぜってー勝つ!
で、これがいい感じの試合だった。清水はオープンゲームを仕掛けてきた。このところ固めてくる相手が多かったので、軽快なテンポ感にしびれる。決定機は作れてたな。あとは決めるだけ。惜しいとこまで行くんだけど、もうホントにあとちょっとなんだよね。
スタジアムが沸いたのは後半10分、左サイドからキム・ジンスが入れてレオがバイタルで粘る。で、右サイドに顔を出した田中亜土夢に渡す。亜土夢は切り返して敵DFをかわし、左足でニアをぶち抜く。オレンジダービー2戦連続ゴールだ。こういう突破口を開く仕事はすんごい貴重。ピッチ内もスタンドも行けるぞって空気になったよ。
なんだけど追加点が遠かった。くー、川又、岡本の2トップが決めてれば何でもない試合だったんだけどね。再三のチャンスを逃してしまう。そうなると勝利の女神はそっぽを向きかけるね。サッカーでは本当によく見る光景。ロスタイムに入ってそれが現実になってしまう。清水は強引に来ていた。とにかくゴール前に入れて、ヨンアピンが落としたところを平岡康裕がインサイドで蹴り込む。俗にいう「潟った」(新潟が終盤やロスタイム、失点する現象を言う)状態。潟るのは久しぶりじゃないかな。うわー、またまたドローの展開か?
そしたらね、これは僕はかなりグッときたんだけど、ケンゴがあきらめなかったんだ。ケンゴは不器用なヤツだけど、結果はともかく常に最後までやり切っている。勝利の女神はホントに気まぐれで、最後、そんな愚直な選手に微笑んだりするんだ。ミラクルが起きた。ロスタイムも終わり間際、ケンゴが左サイドをドリブルで駆け上がる。もう、いつ主審が笛を吹いてもおかしくなかった。
で、クロスを入れる。新潟はゴール前に3枚上がっているが、敵DFもついて来てる。クロスは清水・ヨンアピンの頭に当たって、ふわっと上へ。それがさ、キーパーの指先をかすめる絶妙のループシュートみたいになって、ゴールに吸い込まれるんだ。決勝点はオウンゴール。頭を抱えてピッチにうずくまるヨンアピンの姿が悲しい。何という劇的な展開だろうか。新潟は勝利でGW連戦を締める。これで10戦負けなし、5位浮上だ。今節、首位に立ったサガン鳥栖までは勝ち点3差。
附記1、清水戦、キム・ジンス選手の負傷退場にはヒヤッとしました。とっさにW杯大丈夫かと思っちゃったもんな。本日、正式に韓国W杯代表入りが発表になりましたね。ジンスの場合は本当に新潟でキャリアアップした選手です。これは応援するしかないでしょう。
2、清水戦TV中継の選手インタビューで、(オウンゴールにもかかわらず)ケンゴにマイクが向けられてたのはよかった。ケンゴは点が決まった瞬間、晴れ晴れとした顔をしたんですよ。下手だろうが不器用だろうがやれることはやった。そしてチームが勝った。そんな顔。
3、清水戦はベンチ前もヒートアップしてましたね。ゴトビさん、ヤンツー監督とチームのハネムーン期間はけっこう長いっすよ。こう「新婚3年め」っていう、よくわからない熱々ぶりです。ひょっとしてこれはハネムーン期間ではなく、一般的にいう「名将と好チーム」なのでは?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第11節、大宮×新潟。
勝てたなぁ。特に前半はどっちがホームかわからなかった。大宮はラドンチッチが機能しなかったのであらためてチーム作りの最中、というニュアンスらしい。前半9分、早々と田中亜土夢のファインゴールが生まれる。新潟はピッチを広く使い、まるで練習試合みたいだった。で、そこからゲームを圧倒的に支配するんだね。大宮は守備ブロックを構築して、ぜんぜんプレスに来ない。試合後、柳下正明監督が「取りに来ないなら、ずっとセンターバック2人で残り35分ボールキープしてもよかった。それくらいやって欲しかった」と振り返ったほどだ。
まぁ、「守りを固めてカウンター」にチーム一丸取り組んでるところなのだろうが、ちょっとあり得ないくらいにスペースが使える。そりゃ攻めたくもなるね。あと「センターバック2人で35分キープ」するには新潟の選手は性格的に真面目すぎる。結果、攻め急いでしまった。ちょっとしたミスから反撃を食らう。前半39分にはクリアミスからズラタンの同点弾を喫する。もったいない失点。
だけど、「センターバック2人で35分キープ」より現実的だったのは「アグレッシブに攻め、追加点を奪う」じゃなかったか。僕には2、3点取って、前半のうちに試合を決めてしまえる感じに見えた。まぁ、そこに落とし穴があって、選手らも皆、同じ思いに駆られたのかもしれない。
ただね、ヤンツーさんが本当に「センターバック2人で35分キープ」すべきと考えたのなら、チームに伝達する方法はあったと思うんだね。何しろ35分間もあったんだからどこかの時点で指示が出せる。だから実際のところは「こんな手もあるんだけどなぁと思って、黙って見てた」ってことでしょ。監督指示がなければ動けないチームにはしたくない。局面局面を自分らで考えさせたい。もっと言えば今はチームの成長にプライオリティ(優先順位)をおく時期で、まだ勝負にキリキリしたくない。今、ムチを入れちゃったら先々バテるよ。おそらくそんなところじゃないすか。
後半は大宮・家長昭博→高橋祥平で逆転(後半9分)され、こりゃまずいぞと思ったら、直後、成岡翔のすっばらしいパスをもらったFW・岡本英也が同点(同11分)にする。で、まぁ、膠着したままタイムアップ。終わってみれば2対2のドローという、このカードらしい決着だ。でも中身的にはいつもよりずっと動きがあったなぁ。
心配なのは川又堅碁だ。1失点めのクリアミスの責任も感じていたと思う。W杯代表メンバー入りを目指し、結果も欲しいだろう。気持ちが入りすぎて、見てるこっちまで肩がこるよ。まぁ、ケンゴの気性はサポーターがいちばんわかってる。気合入れて気合入れて、ガッチガチで、それでももがきまわるのがケンゴだ。結果をつけてやりたいな。がんばれケンゴ、俺たちがついてる!
J1第12節、新潟×清水。
NHK-BS1中継でTV観戦。GW最後の振替休日。よく入ってたなぁ。3万5千はデンカビッグスワン今季最多動員だ。もちろんこういう試合はすっきり勝つのがベスト。「連休だから見に来たお客さん」にまた来たいなと思ってもらいたい。それから「ケンゴの代表入り挑戦」&「話題のレオ・シルバ」で組んでもらったNHK生中継で、クラブ自体の存在感を出したい。新潟は9戦負けなしだがドローが多すぎる。今日はぜってー勝つ!
で、これがいい感じの試合だった。清水はオープンゲームを仕掛けてきた。このところ固めてくる相手が多かったので、軽快なテンポ感にしびれる。決定機は作れてたな。あとは決めるだけ。惜しいとこまで行くんだけど、もうホントにあとちょっとなんだよね。
スタジアムが沸いたのは後半10分、左サイドからキム・ジンスが入れてレオがバイタルで粘る。で、右サイドに顔を出した田中亜土夢に渡す。亜土夢は切り返して敵DFをかわし、左足でニアをぶち抜く。オレンジダービー2戦連続ゴールだ。こういう突破口を開く仕事はすんごい貴重。ピッチ内もスタンドも行けるぞって空気になったよ。
なんだけど追加点が遠かった。くー、川又、岡本の2トップが決めてれば何でもない試合だったんだけどね。再三のチャンスを逃してしまう。そうなると勝利の女神はそっぽを向きかけるね。サッカーでは本当によく見る光景。ロスタイムに入ってそれが現実になってしまう。清水は強引に来ていた。とにかくゴール前に入れて、ヨンアピンが落としたところを平岡康裕がインサイドで蹴り込む。俗にいう「潟った」(新潟が終盤やロスタイム、失点する現象を言う)状態。潟るのは久しぶりじゃないかな。うわー、またまたドローの展開か?
そしたらね、これは僕はかなりグッときたんだけど、ケンゴがあきらめなかったんだ。ケンゴは不器用なヤツだけど、結果はともかく常に最後までやり切っている。勝利の女神はホントに気まぐれで、最後、そんな愚直な選手に微笑んだりするんだ。ミラクルが起きた。ロスタイムも終わり間際、ケンゴが左サイドをドリブルで駆け上がる。もう、いつ主審が笛を吹いてもおかしくなかった。
で、クロスを入れる。新潟はゴール前に3枚上がっているが、敵DFもついて来てる。クロスは清水・ヨンアピンの頭に当たって、ふわっと上へ。それがさ、キーパーの指先をかすめる絶妙のループシュートみたいになって、ゴールに吸い込まれるんだ。決勝点はオウンゴール。頭を抱えてピッチにうずくまるヨンアピンの姿が悲しい。何という劇的な展開だろうか。新潟は勝利でGW連戦を締める。これで10戦負けなし、5位浮上だ。今節、首位に立ったサガン鳥栖までは勝ち点3差。
附記1、清水戦、キム・ジンス選手の負傷退場にはヒヤッとしました。とっさにW杯大丈夫かと思っちゃったもんな。本日、正式に韓国W杯代表入りが発表になりましたね。ジンスの場合は本当に新潟でキャリアアップした選手です。これは応援するしかないでしょう。
2、清水戦TV中継の選手インタビューで、(オウンゴールにもかかわらず)ケンゴにマイクが向けられてたのはよかった。ケンゴは点が決まった瞬間、晴れ晴れとした顔をしたんですよ。下手だろうが不器用だろうがやれることはやった。そしてチームが勝った。そんな顔。
3、清水戦はベンチ前もヒートアップしてましたね。ゴトビさん、ヤンツー監督とチームのハネムーン期間はけっこう長いっすよ。こう「新婚3年め」っていう、よくわからない熱々ぶりです。ひょっとしてこれはハネムーン期間ではなく、一般的にいう「名将と好チーム」なのでは?
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
