【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第213回

2014/5/29
 「中断前」

 J1第14節、新潟×名古屋。
 リーグ戦としてはW杯中断前のラストゲームである。試合に先立って韓国代表に選出されたキム・ジンスのスピーチ(「自分自身としては新潟代表としてW杯出て戦います」に拍手喝采!)が行われた。逆に言うと新潟、名古屋ともにブラジルW杯日本代表はゼロなのだ。幸い両チームとも元所属のプレーヤーがいるからW杯を身近に感じることができるけれど。

 4年前のことをどうしても思い出す。南ア大会で新潟はクラブ史上初めて代表選手を送り出した。そのときのヒーロー・矢野貴章は皮肉なことに今日、敵軍のユニホームを着てサイドバックでスタメンを張る。名古屋は楢崎正剛が代表入りしていないんだなぁ。そんなW杯は久しくなかった。あと闘莉王もほとんどザックに試されなかった。出身国でのW杯に期するところ大だったはずだ。

 もちろん新潟サポは「ふっ切れた川又堅碁」の爆発を待っている。ブラジル行きは届かぬ夢だった。それならリーグ戦で暴れるまでだ。キャラクター的にどうしても自分を追い込むところがあり、(ケガでスタートした)2014年シーズンは苦しかった。もう、本来の自分をとり戻すときだ。

 両軍スタメンを見渡すと名古屋はケネディをはじめケガ人続出である。4月頃、「1チーム作れるケガ人の数」と評判になった。ま、玉田圭司や楢崎のようにケガ明けで戦列復帰する選手もいる。一方、新潟は成岡翔、キム・ジンスがスタメンを外れた。ともにケガだが、深刻なものでなく大事を取っての欠場。FWは川又堅碁と田中達也(久しぶり!)のコンビ、サイドハーフは右が田中亜土夢、左が岡本英也、そして左サイドバックは大野和成が務める。

 試合。そういえば名古屋のスピードスター・永井謙佑もブラジルへ行かないんだなぁと思っていたのだ。プロ入り当時、永井のブラジル行きを誰もが予感したものだ。そういうことを思っちゃいけませんね。前半5分、いきなりやられた。玉田のキープから小川→枝村→永井と流れるようなコンビネーション。永井がDFのウラへ抜けたときは、もうGK・守田達弥と1対1だ。シュートは股下を通され、更にダメ押しでねじ込まれる。

 が、反撃も早かったのだ。同11分、田中達也が左足を振り抜くスーパーゴール! あんな強烈なの見せられたら達也がW杯へ行かない不運にも思いをはせてしまう。この日はスピードも身体のキレも全盛期と変わらない気がした。素晴しい選手だ。ゴール直前にも川又堅碁の惜しいシュートシーンをお膳立てしている。開始早々スコアが動く展開に皆、わくわくしたのだ。こりゃ派手な試合になるぞ。そうしたら、スコアが動いたのは最初だけだった。

 こう、印象としては「名古屋にうまく丸め込まれた」感じの試合だなぁ。ケガ人のせいもあって、西野朗・新監督のチーム作りも難航してるのだろう。うまいこと丸め込んで、中断期間に逃げ込もうという感じの老獪さ、もしくはマリーシア。僕はこういうのも経験値だと思うな。名古屋は(優勝経験やAFC出場経験で)苦しいところをしのぐ感覚を持っている。

 対して新潟は真っ正直だよね。あ、面白いと思ったのは試合の最後の頃、楢崎がFKの位置をビミョーに前へずらして、スタンドからブーイングを浴び、審判が位置を下げさせるんだけど、また少し前に置いて、ブーイング→やり直しの指示、みたいなやりとりがあったでしょ。あれなんか新潟の真っ正直さがよく出ていたと思うな。チームもサポも真っ正直。僕はチーム状況的に名古屋はドロー御の字ってところじゃないかなと思った。わかんないけどね。もしかすると敵の時間かせぎにつきあった可能性はありますね。

 ただ、まぁ、この試合はシンプルに言って「川又堅碁が再三のチャンスを決めていれば、問題なく勝っていた」ですよね。ハットトリック達成しててもおかしくなかった。もう、ほんのちょっとなんだよね。スーパー決定機に顔を出して、敵に冷や汗かかしてるんだよ。感覚的にわずかにズレちゃってるんだね。そこが合えばホントに大勝してておかしくないゲームだった。まぁ、ズレてる「ズレ」のほうを気にするか、もうちょっとで合うほうに目を向けるかじゃないですか。僕は合ってきたなぁ、中断期間もったいないぜとポジティブに考えます。

 どちらが勝利に値するサッカーをやってたかというと、そりゃ断然、新潟だと思う。だけど、「勝利に値する」と「勝利」の間には距離がある。まぁ、だからこそ勝って欲しかったのだが、なかなかそうカンタンじゃないよね。名古屋も交代選手を中心に最後はひと勝負しに来てた。あれでゴール奪われ、勝ち逃げされてたらショックが計り知れないところだ。

 これでリーグ戦に関してはひと区切り。上位にどのくらいついていけるのかなと思っていたが、まずまず悪くない感じだ。中断期間のミニキャンプに向けて、そしてもちろん後半戦へ向けて、何をすべきかはハッキリしてるね。このチームは「ハードワーク」が旗印だから、フィジカルは相当追い込むだろう。またそれとは別の次元で、課題は得点力だった。点が取れてたら首位に立ってる。「引いて守ってロングボール」みたいな相手に手を焼いたね。

 僕は柳下正明監督の考え方に興味がある。僕はヤンツーさんのサッカー観なり、あるいは経験、読みの部分だと思うんだよね。いいですか、フツーに考えたら昨年、結果が出てるんだ、ショートカウンター戦術をブラッシュアップするよね? リーグでは鳥栖がそんな感じだ。「去年のサッカーを継続させ、磨き上げる」で、上位戦線に割って入ってる。

 開幕前、僕らも今年の新潟は「継続」だと思ったでしょう。それは主力選手がチームに残ったからね。だけど、ヤンツーさんは「継続」を別の形で示したんだ。今季ここまで、ポゼッションを握る「一段進化した新潟」をピッチで展開している。「一段進化した新潟」はまだ本格化してなくて、本当の凄みは中断明けからかな。

 自分らのリズムで崩しにかかるポゼッションサッカーはメリットが大きい。戦績が安定する。サッカーも楽しい。たぶん夏場とか過密日程の疲れ方も違うだろう。僕の空想上の「夢のアルビ」はバリエーションが選択できる感じだな。時と場合で、前めで奪うショートカウンター剣法を使い、あるいはじっくり攻め上がるポゼッション剣法を使う柳生新陰流。いや、「柳」って字が入ってるだけで柳生にしたけど、中断明けにはどんな太刀筋が見れますかいのう。


附記1、正確には「柳下新陰流」? ものすごい荒稽古しそうですね。

2、この日は久々に「新潟に住んでないのにスーパーアルビ好き銀行マン」でおなじみ(?)、Aさんのクルマに乗っけてもらってスワン入りでした。で、もうひとり、サッカーライターの熊崎敬さんも同乗しちゃったんだなぁ。「熊ちゃん」の語る世界のサッカー話が最高でした。あの人、ガーナとか行ってるんだよひとりで。ブラジルもW杯前、ぶらっと1ヶ月下見してきたって。すごいよね。あ、ちなみにこの日は急にスワンに来ることになって、取材申請してないから、チケット買って一般で見てた。

3、それからやっとスワンの記者席で元『週刊サッカーマガジン』編集長・平澤大輔さんと会えました。平澤さん本人は単身赴任で大変だと思うけど、新潟サッカーとしては得難い人材が来てくれたもんですね。並んで観戦したけど、めっちゃアルビ寄りの視点になってて笑った。しかし、平澤さんも大中さんも新潟にいるんだよね。

4、あと『ストライカー』の三村和男さんが(井上という名字に変わって?)、ニューズラインにいらっしゃるそうですね。何かハウジング雑誌の編集長やってるって聞いた。三村さん(って呼んじゃうけど)、すんごいサッカー記者&編集者ですよ。僕はスカパーでやってた番組に「日本一、カズに食い込んでるライター」として出てもらったな。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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