【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第215回
2014/6/12
「中断前の試合」
ナビスコカップ第7節(Bグループ)、大宮×新潟。
W杯中断前の最後の試合。「W杯」と書いた以上、当コラムもキム・ジンスの残念なニュースに触れざるを得ない。先週分の原稿を入れた後、衝撃的な情報が飛び込んできた。ジンス、ケガで韓国代表から離脱…。真偽が未確認なので、コラム内容を変更しての対応は見送ることにした。どうも韓国での報道が先行しているようだ。しばらくして韓国サッカー協会の公式リリースがあって、新潟日報のウェブにも速報が出た。
詳細はわからないのだ。リーグで痛めた箇所を悪化させてしまったのか、回復が思わしくないのか。いずれにしてもホン・ミョンボ監督はお気に入りのサイドバックをブラジルへ連れていかない決断を下した。僕はつい先日、ビッグスワンのファンの前で「新潟代表として戦ってくる」とスピーチしてくれたジンスの顔を思い出した。残念すぎる。残念なんて言葉じゃ片付かないよ。こんなひどいことってあるんだな。
その後はたぶん読者と変わらない。ジンスがソン・ジュフンに与えたという激励の言葉「監督から言われたことをやれば試合に出られるし、ワールドカップにもつながる」に胸が詰まり、栗原広報のダイアリーに涙した。そして、あきらめきれずに去年の親善試合・韓国×ブラジル(2013年10月12日、ソウル・ワールドカップスタジアム)の録画を見直したりした。去年見たときはフッキとジンス、柳下正明監督と縁がある2人のプレーヤーについて思いをめぐらしたものだ。
ジンスはしばらく韓国で心身の休養を取り、その後、チームに合流するだろう。「新潟の代表」を温かく迎えてやってほしい。そして、クラブに関わるすべての人間はACLへ出ていく理由がもうひとつ増えたことを自覚すべきだろう。ジンスを「新潟の代表」として世界に出してやろう。
さて、ナビスコに話は戻る。中断前、最後の一戦。状況を整理すると大宮は既にグループリーグ敗退を決めている。新潟はこの試合に6点差以上で勝ち、かつ他がしくじってくれた場合にかぎり、勝ち抜けのチャンスがあるという「一縷(いちる)の望み」状態。
試合直前、気温がアイフォンの表示で「33℃」だった。真夏日だ。NHKのニュースは朝から熱中症予防・対策を呼びかけていた。例年、最初に気温が上がる時期は身体が慣れていないため、各地で倒れる人が続出する。グループリーグ最終節だから、全会場15時キックオフで統一されている。これは選手もきついけど、サポーターが心配だ。大丈夫かなぁ。炎天下→西日、新潟側応援席は最悪のコンディションだと思う。
試合。これがねぇ、まぁ気温も気温だし、しょうがないのかもわかんないけど、6点取りに行く試合じゃなかった。フツーの大宮戦。つまり、スコアレスドロー。ソン・ジュフンや大野和成、それから鈴木武蔵と若手がスタメンに名を連ねる。が、迫力があったのはレオ・シルバ(ついにキャプテンマークを巻いた!)や田中達也といった「実力者」のほうだったなぁ。こういう試合はワカゾーにガンガン行ってほしいのよ。ぶっちゃけ失うものないでしょ。負けたっていいじゃん。「3点取ったけど4失点討ち死に」で、皆、納得するゲームだと思うな。
それが普段通りの試合運びで、普段通り決定力に欠けた。何もそんな形でシーズン前半戦の集大成を見せてくれなくていいのに。てか、PKを守田達弥が止めなかったら負けていた。あの右へ飛ぶ読みがピタリ当たって、片手で防いでみせたシーンがいちばん盛り上がりましたね。GJ守田!
相手に退場者が出て、逆に得点の気配は遠のいてしまった。10人の大宮は粘りに粘って、カウンター勝負に徹する。正直に言って大宮ペースの試合だった。大宮は泉澤仁が頑張ったり、充分収穫あったと思うよ。新潟はいいところを見つけるのに苦労する。
監督会見に出た後、取材パスを返却し、スタジアムを後にしたのだった。で、少々足取り重く、氷川神社の参道あたりを歩いていたら関東在住のサポーター4、5人に出くわした。これから大宮ソニックシティでアルビレックス新潟後援会の関東支部の集まりだという。
皆、汗まみれだよ。そして、日焼けして茹でタコみたいに真っ赤になっている。僕は彼らの姿をクラブ関係者に見てもらいたいと思った。そういう意味では後援会イベントはちょうどよかった。
一体何の罰ゲームだよ。この人たちの気持ちに応えてやってほしい。勝ち負けじゃないんだ。炎天に焼かれ、それでも目をこらし、チームを見つめている。彼らはアルビレックス新潟を本当に大事に思ってくれてるんだ。絶対に忘れちゃいけないよ。
附記1、僕は思うんですけど、Jリーグの試合会場ってシャワー施設があってもいいですよね。まぁ、何万人って規模に対応しきれないってところかなぁ。この日はナイター開催だったらよかったですね。記者席は屋根が日よけになってくれるんだけど、僕もかなりぐったりしました。
2、中村慎太郎さんのデビュー作『サポーターをめぐる冒険』(中村慎太郎・著、ころから・刊)のオビ文(カバー帯についてる推薦の言葉ですね)を書きました。中村さんはブログ記事「Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった」が15万ビューを記録し、一躍注目を集めたライターです。単行本は6月11日発売ですね。よかったらご覧ください。
3、親善試合のコスタリカ戦見て思ったんですけど、絶対、酒井高徳には出てきてもらわないと困りますね。左SBのセカンドチョイスが今野泰幸って心配ですよ。やっぱり本職じゃないから対応がちょっと遅れるんですよね。
4、やっとブラジル行きの旅程が出て、「8日成田出発→(日本時間の)10日朝にレシフェ到着」に頭くらくらきました。パリ経由&リオ経由トランジット込みで41時間かかるでやんの。やっぱ凄ぇ! もう青春18キップなんて一日で済んでラクチンじゃないかという領域ですね。来週からスカパーのサッカー番組『プロホガソン』に出演します。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
ナビスコカップ第7節(Bグループ)、大宮×新潟。
W杯中断前の最後の試合。「W杯」と書いた以上、当コラムもキム・ジンスの残念なニュースに触れざるを得ない。先週分の原稿を入れた後、衝撃的な情報が飛び込んできた。ジンス、ケガで韓国代表から離脱…。真偽が未確認なので、コラム内容を変更しての対応は見送ることにした。どうも韓国での報道が先行しているようだ。しばらくして韓国サッカー協会の公式リリースがあって、新潟日報のウェブにも速報が出た。
詳細はわからないのだ。リーグで痛めた箇所を悪化させてしまったのか、回復が思わしくないのか。いずれにしてもホン・ミョンボ監督はお気に入りのサイドバックをブラジルへ連れていかない決断を下した。僕はつい先日、ビッグスワンのファンの前で「新潟代表として戦ってくる」とスピーチしてくれたジンスの顔を思い出した。残念すぎる。残念なんて言葉じゃ片付かないよ。こんなひどいことってあるんだな。
その後はたぶん読者と変わらない。ジンスがソン・ジュフンに与えたという激励の言葉「監督から言われたことをやれば試合に出られるし、ワールドカップにもつながる」に胸が詰まり、栗原広報のダイアリーに涙した。そして、あきらめきれずに去年の親善試合・韓国×ブラジル(2013年10月12日、ソウル・ワールドカップスタジアム)の録画を見直したりした。去年見たときはフッキとジンス、柳下正明監督と縁がある2人のプレーヤーについて思いをめぐらしたものだ。
ジンスはしばらく韓国で心身の休養を取り、その後、チームに合流するだろう。「新潟の代表」を温かく迎えてやってほしい。そして、クラブに関わるすべての人間はACLへ出ていく理由がもうひとつ増えたことを自覚すべきだろう。ジンスを「新潟の代表」として世界に出してやろう。
さて、ナビスコに話は戻る。中断前、最後の一戦。状況を整理すると大宮は既にグループリーグ敗退を決めている。新潟はこの試合に6点差以上で勝ち、かつ他がしくじってくれた場合にかぎり、勝ち抜けのチャンスがあるという「一縷(いちる)の望み」状態。
試合直前、気温がアイフォンの表示で「33℃」だった。真夏日だ。NHKのニュースは朝から熱中症予防・対策を呼びかけていた。例年、最初に気温が上がる時期は身体が慣れていないため、各地で倒れる人が続出する。グループリーグ最終節だから、全会場15時キックオフで統一されている。これは選手もきついけど、サポーターが心配だ。大丈夫かなぁ。炎天下→西日、新潟側応援席は最悪のコンディションだと思う。
試合。これがねぇ、まぁ気温も気温だし、しょうがないのかもわかんないけど、6点取りに行く試合じゃなかった。フツーの大宮戦。つまり、スコアレスドロー。ソン・ジュフンや大野和成、それから鈴木武蔵と若手がスタメンに名を連ねる。が、迫力があったのはレオ・シルバ(ついにキャプテンマークを巻いた!)や田中達也といった「実力者」のほうだったなぁ。こういう試合はワカゾーにガンガン行ってほしいのよ。ぶっちゃけ失うものないでしょ。負けたっていいじゃん。「3点取ったけど4失点討ち死に」で、皆、納得するゲームだと思うな。
それが普段通りの試合運びで、普段通り決定力に欠けた。何もそんな形でシーズン前半戦の集大成を見せてくれなくていいのに。てか、PKを守田達弥が止めなかったら負けていた。あの右へ飛ぶ読みがピタリ当たって、片手で防いでみせたシーンがいちばん盛り上がりましたね。GJ守田!
相手に退場者が出て、逆に得点の気配は遠のいてしまった。10人の大宮は粘りに粘って、カウンター勝負に徹する。正直に言って大宮ペースの試合だった。大宮は泉澤仁が頑張ったり、充分収穫あったと思うよ。新潟はいいところを見つけるのに苦労する。
監督会見に出た後、取材パスを返却し、スタジアムを後にしたのだった。で、少々足取り重く、氷川神社の参道あたりを歩いていたら関東在住のサポーター4、5人に出くわした。これから大宮ソニックシティでアルビレックス新潟後援会の関東支部の集まりだという。
皆、汗まみれだよ。そして、日焼けして茹でタコみたいに真っ赤になっている。僕は彼らの姿をクラブ関係者に見てもらいたいと思った。そういう意味では後援会イベントはちょうどよかった。
一体何の罰ゲームだよ。この人たちの気持ちに応えてやってほしい。勝ち負けじゃないんだ。炎天に焼かれ、それでも目をこらし、チームを見つめている。彼らはアルビレックス新潟を本当に大事に思ってくれてるんだ。絶対に忘れちゃいけないよ。
附記1、僕は思うんですけど、Jリーグの試合会場ってシャワー施設があってもいいですよね。まぁ、何万人って規模に対応しきれないってところかなぁ。この日はナイター開催だったらよかったですね。記者席は屋根が日よけになってくれるんだけど、僕もかなりぐったりしました。
2、中村慎太郎さんのデビュー作『サポーターをめぐる冒険』(中村慎太郎・著、ころから・刊)のオビ文(カバー帯についてる推薦の言葉ですね)を書きました。中村さんはブログ記事「Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった」が15万ビューを記録し、一躍注目を集めたライターです。単行本は6月11日発売ですね。よかったらご覧ください。
3、親善試合のコスタリカ戦見て思ったんですけど、絶対、酒井高徳には出てきてもらわないと困りますね。左SBのセカンドチョイスが今野泰幸って心配ですよ。やっぱり本職じゃないから対応がちょっと遅れるんですよね。
4、やっとブラジル行きの旅程が出て、「8日成田出発→(日本時間の)10日朝にレシフェ到着」に頭くらくらきました。パリ経由&リオ経由トランジット込みで41時間かかるでやんの。やっぱ凄ぇ! もう青春18キップなんて一日で済んでラクチンじゃないかという領域ですね。来週からスカパーのサッカー番組『プロホガソン』に出演します。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
