【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第217回

2014/6/26
「プロホガソン日記 その1」

6月11日 レシフェに到着して3日め。レシフェはポルトガル語で「サンゴ礁」の意味。ホテルの辺りはワイキキみたいな観光地だ。毎朝、1時間くらい海岸沿いの遊歩道をウォーキングして太陽を浴びたせいで、時差ボケが直ったのはいいんだけど顔がめっちゃ焼けた。まぁ、タレントさんじゃないから画面の映り目は気にしないけど。『プロホガソン』というスカパーのサッカー番組の仕事で初めてブラジルへ来た。レシフェを基地にして、サルバドールとナタールへも出かける予定だ。街はW杯前日だっていうのに何となくフツーの印象。今日、チュニジアから取材に来たというスポーツ記者と話してたら、彼も同じことを言ってた。「何故かわかんないけど、W杯っぽい雰囲気を感じないよ」と。
 
 スタッフの間で話題なのは昨日、マイクロバスの運転手さんに連れられて地元クラブ、サンタクルスFCのスタジアム見学に行って、そのとき、オフィシャルショップで買ったTシャツ。ディレクターのH君が買ったんだけど、ものすごいんだ。全体はカナリアイエロー、左そでにブラジル国旗が貼っつけてある。で、胸のところだけサンタクルスFCのクらブカラーとエンブレムが入ってるんだね。これはどういうことかというと、遠目にはカナリアイエローだからセレソンを応援してるように見えるけど、本心はあくまでサンタクルスだぜ、というTシャツなんだなぁ。これサンタクルスFCが勝手にやってることなんだけど、日本で同じことしたらアディダスにめっちゃ怒られると思う。
 
 だけどH君、街でやたらと声をかけられるようになった。「お、サンタクルスか!」「OK、サンタクルス! いい日本人だ」とか。まぁ、ライバルチームのファンからは「おい、わかって着てんのか? ダッサイんだぞサンタクルスなんて!」という声のかけられ方になる。どうもサンタクルスは庶民のチームなんだね。マイクロバスの運転手さんはもっとはっきり「俺たちサンタクルスは貧乏人のチームなんだよ」と言う。リオで言ったらフラメンゴがそんな立ち位置だね。で、ライバルのフルミネンセが金持ちのチームって役回り。だから、街でH君に声かけてくるサンタクルスファンは熱いんだよ。
 
 「おい、お前な、それ着てるかぎりレシフェの街を夜歩いてても絶対に泥棒にはあわないぜ。その代わり、今、レストランから出るとき店員にボディチェックされるはずだ。何
でかっていうとお前が泥棒に見えるからな(笑)」

6月12日 解説者のマリーニョさん合流。いよいよ開幕日だ。ということは『プロホガソン』の放送開始日でもある。午前中からリハをやって、色々、不明点・疑問点が出てきて、スタッフがナーバスになってる。まぁ、現場っていうのはそういうものなんだけど。僕が出演したパート(スカイプ映像で出演)も東陽町のスタジオの意図と、レシフェのディレクターサイドの意図がビミョーにずれてたりして、まぁ、だんだん良くしていこうと話し合う。
 
 てか、そんなことより開幕戦だ。近所の市場でネイマールのバッタもんユニホームを購入。試合はマリーニョさん、スタッフと一緒に近所のPV会場へ出かける。会場にはステージがあって、到着するなり「フッホ」という地元音楽のバンド演奏が始まって、皆、踊り出す。おばちゃんが国旗カラーのドレス姿とかでめっちゃ踊ってる。うはー、こりゃ楽しい。夏祭りみたいな雰囲気。大型モニターにサンパウロの会場が映し出されると、皆、大声を上げる。
 
 試合はクロアチアが相当がんばってた。積極的に攻めて、ブラジルのオウンゴールを誘う。一瞬、会場が静まり返るが、ネイマールの同点ゴールからは本当に大騒ぎ。いや、僕はね、サッカーってあんなに騒いでいいんだって思った。僕が思ってた「声出てる」みたいなのとケタが違う。すっごい楽しいよ。ワールドカップが始まった!

6月14日 日本vsコートジボアール戦当日。昨日からレシフェは日本人がどっと増えた。日課としている朝のウォーキングでも、昨日はジョギング中の三浦カズ選手、今朝は同じく原博実・技術委員長とすれ違った。やっぱりテンションが上がるね。日本時間では翌15日(日曜)の10時キックオフだけど、こちらは土曜日の22時開始だ。もちろん日本のテレビ放映に合わせて調整されたんだね。心配なのは試合が終わって深夜、町はずれのアレーナ・ペルナンブーコから市街へ戻るアクセスだ。報道されてるよりはずっと治安の保たれた街だけど、例えば40時間級のフライトでよれよれになったサポーターが、更によれよれになって真夜中ホテルへ帰着するのだ。しかも、雨予報だ。どうやらどしゃ降りになりそうな感じだ。
 
 僕らスカパーチームは市内の大型ショッピングモールからシャトルバスで会場へ向かう。乗ったら日本人は僕らだけで、他は全員ブラジル人だった。皆、テンションが高い。「ニッポンガンバ~レ! ニッポンガンバ~レ!」と立ちあがって叫ぶ人、笑い声、拍手。僕らもウキウキですよ。そうしたらバスがなかなか市街地を出ていかない。乗客のブラジル人が「これおかしい。ぐるぐる回ってる」と言い出す。「道知らないんじゃないの?」「ドライバー、日本人?」。で、バスじゅう大爆笑。「もしかして街の名所をまわってから向かうつもり?」「何にもねーのに!」。また大爆笑。シャトルバスは一体感がすごかった。

 たまたま雨が小止みになったタイミングで会場到着。さぁ、そこからが大変だった。キックオフまで2時間切ってるのに観客がゲートに入れない。雨でぬかるんだゲート周辺に人がたまってく一方だ。しばらくしてようやく一部のゲートが開くと今度はそこに人が殺到して、かなり危険な状態だった。後に報道されたところによるとセキュリティチェックの金属探知機がトラブルに見舞われたとのこと。開けたゲートと開けなかったゲートが出来たようだ。あれはひとつ間違ったら将棋倒しでケガ人が出かねなかった。
 
 試合については皆さんご存知の通り、1対2の逆転負けだ。ドイツ大会の初戦・オーストラリア戦のカイザースラウテルンを思い出した。一緒に見たマリーニョさんは「日本は心理的に不安になると弱いね。ドログバを怖がり過ぎたね」と言う。それにしてもドログバは化け物だった。五分で競りに行った本田がふっ飛ばされて一度も勝てない。
 
 で、試合後が大変だったんだよ。皆、敗戦で意気消沈している。で、会場の外はどしゃ降りだ。バス待ちの列は長く伸びて、僕らは1時間、カッパ姿で雨のなかに立っていた。モールまで帰り着いたのが深夜2時頃、そこから僕らはチャーターしたマイクロバスでホテルへ戻ったけど、一般のサポは更にタクシー待ちの列に並んでいた。ホテルに着いたら2時半過ぎ、タクシー使ってたら3時をまわったんじゃないか。Gパンがびしょ濡れで、身体が冷え切っている。風邪ひかないといいなぁ。


附記1、地球の裏側にもモバアルメールが届いて、キム・ジンス選手のホッフェンハイム移籍と山本康裕選手のレンタル加入を知りました。ジンスありがとう&がんばれ! 山本康裕たのんだぜ!

2、驚いたのはiPhoneのアプリで「TUNEIN RADIO」っていうのがあるんですけど、空き時間にいじってたらFMしばたが聴けて、夜7時から(つまり日本時間の朝7時から)加藤恵里花さんがしゃべってたんだよね。びっくりした。会ったことあるもん。すっごい面白かったなぁ。ブラジルで聴く「新発田市あやめまつり」の話題ですよ。

3、ご一緒しているマリーニョさん(横浜FMの前身、日産の名プレーヤーでした)はミナスジェライス州の出身なんですよ。子供の頃から地元のアトレチコ・ミネイロの大ファンだったにもかかわらず、15歳でライバルチーム・クルゼイロの入団テストに合格し、選手生活をスタートされている。そりゃ同郷の後輩、アラン・ミネイロについて聞きたくなるじゃないですか。マリーニョさんは声をかけてみたことがあるそうです。「真面目な男だった。素朴なミナスの男だな」とのことです。ミナスは内陸の農業地帯ですね。マリーニョさん家はチーズや牛乳が自家製だったというから、岩手や長野みたいな感じでしょうか。アランはそういう土地から来てたんだね。大先輩に声かけられてさぞや緊張したことでしょう。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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