【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第224回
2014/8/14
「連敗脱出」
J1第18節、新潟×C大阪。
8月に入ってそろそろ時候のあいさつは「残暑厳しき折」だろう。が、体感的には夏真っ盛りだ。キックオフの19時になっても場内に熱がこもってる。気温30℃を下回らない。セレッソは柿谷曜一郎がスイス・バーゼルへ移籍したけど、南野拓実、山口蛍と人気者が残ってる。もちろんW杯にも出てたウルグアイ代表・フォルランをビッグスワンで見る機会でもある。長岡花火とぶつかった週末に何と3万人がスタンドを埋めた。だから雰囲気は夏祭りだ。
僕は駒沢公園へインターハイ取材に行くつもりが、急きょ方針変更、知人のクルマで新潟へ日帰りすることになった。いや、川又堅碁の移籍報道も気がかりだし、何より連敗中のチームが心配で心配で。到着後、まずEゲート前広場のBBM社ブースを訪ね、元サッカーマガジン編集長・平澤大輔さんに声をかける。平澤さんは八色スイカ配布も手伝ったらしい。何か新潟が板についてきた。「今日は人が多いですね」とすっかり嬉しそうだった。
会場入りして、やっぱりスワンは人が入ってナンボだなぁとしみじみ思う。めっちゃ勝ちそうじゃん。まだコイントスも行われてない時点でそう思う。そりゃ高温多湿のコンディションは過酷だ。新加入の選手ならスワンの応援になじみが少ないかもしれない。だけど、のせられちゃうと思うんだよね。きつくても何故か走れちゃう。何故か気持ちが入る。デンカビッグスワンっていうスタジアムは魔力を持ってる。
選手入場のとき、サポーターの掲げたビッグジャージが「20」番になっていた。あれは選手をアゲると思った。会場のどっかで見ているケンゴ本人もジーンと来ただろう。それだけじゃないんだよね。ピッチで見た他の選手も、よっしゃという気になったはずだ。移籍の是非だとか、ケンゴとのつき合いはどうあれ、選手は「選手が大事にされている」のを見るのが嬉しい。それもまたビッグスワンの魔法のひとつじゃないかなぁと僕は感じる。
今季途中からセレッソを率いているイタリア人監督、マルコ・ペッツァイオリさんも、我らが柳下正明監督も、両軍のチーム状況がよく似ているとコメントしている。突破口を探している。具体的には攻撃に手づまり感がある。開幕前は大きな期待が寄せられ、現在の順位でそれを裏切っている。
試合が始まってどっちもミスが多いなぁと苦笑した。暑いんだなぁ。身体にキレがない。感覚がちょっとずつ狂ってる。お互いチャンスをもらうんだけど決めきれない。「ここは私が」「いやいや、ここは私が」「それでは申し訳ありません、今回は私が。次回お願いします」「いやいや、そのときはそのときで」とレジのところで譲り合ってるみたいだった。
僕は手元の「平澤メモ」を開いた。3連敗の録画を元サカマガ編集長にチェックしてもらったのだ。特に僕の苦手な戦術的な分析をお願いした。そしたら長文メモが送られてきて、これが実に勉強になったので、これから何回かに分けて紹介させていただきたい。僕が試合を見ながら目を走らせたのは「超人が常人に?」という最初の項目だった。
「怒られるかもしれませんが、不調の原因の一つはレオ・シルバにあると感じました。威光に陰りが見えたというか、超人が常人になっていました。疲れがあるのは承知していますが、彼のパスミスからピンチを生んだり、ピンチに直接つながらなくてもパスのリズムが崩れて相手にリズムを渡してしまったりというシーンが多すぎます。激しいプレースタイルの持ち主だからミスはつきものだし、監督やコーチもそこは織り込み済みだとは思いますが、レオに頼ってきたつけが出ているようにも感じられて仕方ありません。もちろん、疲れがとれてまた超人に戻ってくれることを期待しています」(平澤メモ)
これは本当にそう思うんだなぁ。そりゃレオひとりだけがミスしてるわけじゃなく、皆、暑くて疲れてるんだけど、じゃ、どこにミスが出たらいちばん影響デカいかっていったらレオのところなんだ。レオが持ったら皆、信じて動き出す。そこでターンオーバー食らったら大あわてだよ。この日、ミスの多い試合だったという象徴として僕はレオに注目した。レオ・シルバほどの選手が思うようにボールを動かせずノッキングを起こしたり、あるいはサイドチェンジのパスが1メートルずれたりするんだ。
で、僕が「平澤メモ」の力を借りながら検討したいと思うのは、今季のポゼッション志向についてだ。柳下アルビは昨シーズン、ショートカウンター戦法が見事にハマって圧倒的な強さを発揮した。ショートカウンター(プレスをかけ、前めで奪ってすぐ攻撃に結びつける)自体は決して珍しい戦い方ではなく、例えば鈴木淳監督時代にも好チームを生んでいる。前回、僕が「見誤った」と書いたのは、今シーズンの新潟がショートカウンターをお蔵入りさせると想像がつかなかったからだ。
僕の想像はA「カウンター戦法をブラッシュアップする」だった。それは二度じっくり取り組むチャンスがありそうだぞと思った。今季は開幕前だけでなく、W杯期間中にもういっぺんキャンプが張れる。中断前の戦い方を見て、なるほどポゼッションとる戦法にも挑戦するんだな、そりゃカウンターだけじゃ安定した成績は残せないもんな、と考えた。イメージしたのはB「自在型のチーム」だ。いつでも去年、実績を残したベースには戻れる。その上でポゼッションサッカーの引き出しも持っておきたい。例えば「ポゼッション志向をW杯中断まで続け、中断明け、夏場のハードなところからカウンターに切り替える」とか。そういうことでなく、W杯のオランダのように「試合展開のなかで使い分ける」とか。
たぶん時代は「ポゼッションか、カウンターか」というような問題の立て方より先に進んでると思うのだ。どちらか一辺倒ではなく、あくまでバランス。で、現状、新潟は前が詰まって渋滞しても、あくまでつなごうとしている。前が詰まってるときは、例えば川又堅碁みたいな、委細構わず突っ込んでいって、泥臭くもがきまわるような選手がいると面白いのだが、まぁ、それでも結果は出なかった。エリア(特に真ん中へん)に人がごちゃごちゃいて、もう、打っても味方に当たったりするし、狭すぎて仕事ができない状況。仕方なく下げてミドルシュートが多くなる。
では、その辺りを「平澤メモ」で見てみよう。「ボール保持から崩しへの条件」という項目。
「ボールを保持して攻めるための主な条件は、①、技術力が高いこと ②、パスコースを間断なくつくり続けること、だと思います。①の技術については、もちろんレベルが高いほど有利です。ボールを受けて出すためのスペースが狭くても対応できるからです。高いテクニックがあれば、例えば50センチ四方のスペースでも受けて出すことができます。だから中央突破だろうがサイドの突破だろうが、自由にできます。しかし、テクニックが低ければ、それに比べて広いスペースが必要になります。アルビの場合は残念ながら後者ですので、パスを回していくのならば広いスペースを常に確保しておく必要があります。逆に広いスペースを使うことで、技術力が劣る部分をうまく隠しながら戦いを進めることができます」
「スペースを常に確保するための方法は、すでにそこにある広いスペースを活用することです。つまり、ボールサイドとは逆のエリア、または最終ラインのウラを突くことです。しかし、つなぐことが第一義だと刷り込まれてしまうと、近距離の選手の足元にパスを出してつながることに酔ってしまい、視野狭窄になるように感じます」(同)
「つながることが第一義」のくだりは前節・川崎戦後の成岡翔のコメントを連想させるものがある。彼にはわかるのだ。ヤンツーさんのイメージするサッカーを具体化するには何が足りないか。
その成岡が後半6分、FW起用されてひと仕事した。ヤンツーさんは会見で起用の理由を「スペースが最終ラインと中盤の間にあった。(成岡は)そこをうまく使える選手。点をとったように、相手にとっていちばん嫌なとこに入れる」としている。もう、本当にその通りの得点だった(後半10分)。岡本からのクロスに「つぶれ役になろうと」(成岡コメント)飛び込む。
で、まぁ成岡はその4分くらい仕事をした後、急にガス欠になって、前線を何もせずふわぁ~っとクラゲのように漂うのだ。途中で入ってあの消え方はすごい。いや、ぜんぜんけなして言ってるんじゃなく、自分の状態とやるべきことをハッキリさせている。たぶんね、同点に追いつかれたらもうひと仕事するつもりで力を貯めてたんだ。
新潟は連敗を3で止めた。何かとざわつくチームのなかでベテランが仕事をした。監督采配が当たったことも意味が大きい。ただ面白いことに得点はカウンターからだった。
附記1、昨日はモバアルメールにドキッとしたら、坪内秀介選手のレンタル移籍でした。坪内選手はやっぱり「奇跡の残留」の年がパッと浮かびますね。ジュビロで出場機会を得て、また戻ってきて欲しいです。川又堅碁選手に関してはサポーターもやれることはやったと思う。僕も今週の新潟日報に率直な気持ちを書きました。まぁ正式な移籍リリースがあるまであきらめたくないですけどね。
2、成岡選手が「力を貯めてた」のじゃないかという見立てについて補足。実はね、昔、ジュビロ時代の彼について水沼貴史さんが「全部全力で行って、肝心のときに残ってない」と言ったのを覚えています。『サッカーマガジン』の対談だったんですけど、水沼さんは現役時代のラモスさんを例に「ゴールを決めた後、すごい顔でセンターサークルまでダッシュで戻ってくるから勘違いするけど、案外、力を貯めてた」と笑わしてくれた。で、「成岡がひと皮むける条件」として「最後まで全力プレー」みたいな世間の常識とは逆のことを挙げたんです。勝負どころで力を使え、そして仕事をしろと。
3、セレッソ戦の後、平澤大輔さんからLINEメッセージが来ました。「多くの問題がありながら勝ち点3がとれました。これはでかいですね。勝つと問題点が隠されてしまう、なんてよく言いますが、勝ち点3が問題解決の最大のきっかけになりますよね」とのこと。ちなみに今年のサポーターズCDのライナーノーツは平澤さんです。もうすぐ発売じゃないかなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1第18節、新潟×C大阪。
8月に入ってそろそろ時候のあいさつは「残暑厳しき折」だろう。が、体感的には夏真っ盛りだ。キックオフの19時になっても場内に熱がこもってる。気温30℃を下回らない。セレッソは柿谷曜一郎がスイス・バーゼルへ移籍したけど、南野拓実、山口蛍と人気者が残ってる。もちろんW杯にも出てたウルグアイ代表・フォルランをビッグスワンで見る機会でもある。長岡花火とぶつかった週末に何と3万人がスタンドを埋めた。だから雰囲気は夏祭りだ。
僕は駒沢公園へインターハイ取材に行くつもりが、急きょ方針変更、知人のクルマで新潟へ日帰りすることになった。いや、川又堅碁の移籍報道も気がかりだし、何より連敗中のチームが心配で心配で。到着後、まずEゲート前広場のBBM社ブースを訪ね、元サッカーマガジン編集長・平澤大輔さんに声をかける。平澤さんは八色スイカ配布も手伝ったらしい。何か新潟が板についてきた。「今日は人が多いですね」とすっかり嬉しそうだった。
会場入りして、やっぱりスワンは人が入ってナンボだなぁとしみじみ思う。めっちゃ勝ちそうじゃん。まだコイントスも行われてない時点でそう思う。そりゃ高温多湿のコンディションは過酷だ。新加入の選手ならスワンの応援になじみが少ないかもしれない。だけど、のせられちゃうと思うんだよね。きつくても何故か走れちゃう。何故か気持ちが入る。デンカビッグスワンっていうスタジアムは魔力を持ってる。
選手入場のとき、サポーターの掲げたビッグジャージが「20」番になっていた。あれは選手をアゲると思った。会場のどっかで見ているケンゴ本人もジーンと来ただろう。それだけじゃないんだよね。ピッチで見た他の選手も、よっしゃという気になったはずだ。移籍の是非だとか、ケンゴとのつき合いはどうあれ、選手は「選手が大事にされている」のを見るのが嬉しい。それもまたビッグスワンの魔法のひとつじゃないかなぁと僕は感じる。
今季途中からセレッソを率いているイタリア人監督、マルコ・ペッツァイオリさんも、我らが柳下正明監督も、両軍のチーム状況がよく似ているとコメントしている。突破口を探している。具体的には攻撃に手づまり感がある。開幕前は大きな期待が寄せられ、現在の順位でそれを裏切っている。
試合が始まってどっちもミスが多いなぁと苦笑した。暑いんだなぁ。身体にキレがない。感覚がちょっとずつ狂ってる。お互いチャンスをもらうんだけど決めきれない。「ここは私が」「いやいや、ここは私が」「それでは申し訳ありません、今回は私が。次回お願いします」「いやいや、そのときはそのときで」とレジのところで譲り合ってるみたいだった。
僕は手元の「平澤メモ」を開いた。3連敗の録画を元サカマガ編集長にチェックしてもらったのだ。特に僕の苦手な戦術的な分析をお願いした。そしたら長文メモが送られてきて、これが実に勉強になったので、これから何回かに分けて紹介させていただきたい。僕が試合を見ながら目を走らせたのは「超人が常人に?」という最初の項目だった。
「怒られるかもしれませんが、不調の原因の一つはレオ・シルバにあると感じました。威光に陰りが見えたというか、超人が常人になっていました。疲れがあるのは承知していますが、彼のパスミスからピンチを生んだり、ピンチに直接つながらなくてもパスのリズムが崩れて相手にリズムを渡してしまったりというシーンが多すぎます。激しいプレースタイルの持ち主だからミスはつきものだし、監督やコーチもそこは織り込み済みだとは思いますが、レオに頼ってきたつけが出ているようにも感じられて仕方ありません。もちろん、疲れがとれてまた超人に戻ってくれることを期待しています」(平澤メモ)
これは本当にそう思うんだなぁ。そりゃレオひとりだけがミスしてるわけじゃなく、皆、暑くて疲れてるんだけど、じゃ、どこにミスが出たらいちばん影響デカいかっていったらレオのところなんだ。レオが持ったら皆、信じて動き出す。そこでターンオーバー食らったら大あわてだよ。この日、ミスの多い試合だったという象徴として僕はレオに注目した。レオ・シルバほどの選手が思うようにボールを動かせずノッキングを起こしたり、あるいはサイドチェンジのパスが1メートルずれたりするんだ。
で、僕が「平澤メモ」の力を借りながら検討したいと思うのは、今季のポゼッション志向についてだ。柳下アルビは昨シーズン、ショートカウンター戦法が見事にハマって圧倒的な強さを発揮した。ショートカウンター(プレスをかけ、前めで奪ってすぐ攻撃に結びつける)自体は決して珍しい戦い方ではなく、例えば鈴木淳監督時代にも好チームを生んでいる。前回、僕が「見誤った」と書いたのは、今シーズンの新潟がショートカウンターをお蔵入りさせると想像がつかなかったからだ。
僕の想像はA「カウンター戦法をブラッシュアップする」だった。それは二度じっくり取り組むチャンスがありそうだぞと思った。今季は開幕前だけでなく、W杯期間中にもういっぺんキャンプが張れる。中断前の戦い方を見て、なるほどポゼッションとる戦法にも挑戦するんだな、そりゃカウンターだけじゃ安定した成績は残せないもんな、と考えた。イメージしたのはB「自在型のチーム」だ。いつでも去年、実績を残したベースには戻れる。その上でポゼッションサッカーの引き出しも持っておきたい。例えば「ポゼッション志向をW杯中断まで続け、中断明け、夏場のハードなところからカウンターに切り替える」とか。そういうことでなく、W杯のオランダのように「試合展開のなかで使い分ける」とか。
たぶん時代は「ポゼッションか、カウンターか」というような問題の立て方より先に進んでると思うのだ。どちらか一辺倒ではなく、あくまでバランス。で、現状、新潟は前が詰まって渋滞しても、あくまでつなごうとしている。前が詰まってるときは、例えば川又堅碁みたいな、委細構わず突っ込んでいって、泥臭くもがきまわるような選手がいると面白いのだが、まぁ、それでも結果は出なかった。エリア(特に真ん中へん)に人がごちゃごちゃいて、もう、打っても味方に当たったりするし、狭すぎて仕事ができない状況。仕方なく下げてミドルシュートが多くなる。
では、その辺りを「平澤メモ」で見てみよう。「ボール保持から崩しへの条件」という項目。
「ボールを保持して攻めるための主な条件は、①、技術力が高いこと ②、パスコースを間断なくつくり続けること、だと思います。①の技術については、もちろんレベルが高いほど有利です。ボールを受けて出すためのスペースが狭くても対応できるからです。高いテクニックがあれば、例えば50センチ四方のスペースでも受けて出すことができます。だから中央突破だろうがサイドの突破だろうが、自由にできます。しかし、テクニックが低ければ、それに比べて広いスペースが必要になります。アルビの場合は残念ながら後者ですので、パスを回していくのならば広いスペースを常に確保しておく必要があります。逆に広いスペースを使うことで、技術力が劣る部分をうまく隠しながら戦いを進めることができます」
「スペースを常に確保するための方法は、すでにそこにある広いスペースを活用することです。つまり、ボールサイドとは逆のエリア、または最終ラインのウラを突くことです。しかし、つなぐことが第一義だと刷り込まれてしまうと、近距離の選手の足元にパスを出してつながることに酔ってしまい、視野狭窄になるように感じます」(同)
「つながることが第一義」のくだりは前節・川崎戦後の成岡翔のコメントを連想させるものがある。彼にはわかるのだ。ヤンツーさんのイメージするサッカーを具体化するには何が足りないか。
その成岡が後半6分、FW起用されてひと仕事した。ヤンツーさんは会見で起用の理由を「スペースが最終ラインと中盤の間にあった。(成岡は)そこをうまく使える選手。点をとったように、相手にとっていちばん嫌なとこに入れる」としている。もう、本当にその通りの得点だった(後半10分)。岡本からのクロスに「つぶれ役になろうと」(成岡コメント)飛び込む。
で、まぁ成岡はその4分くらい仕事をした後、急にガス欠になって、前線を何もせずふわぁ~っとクラゲのように漂うのだ。途中で入ってあの消え方はすごい。いや、ぜんぜんけなして言ってるんじゃなく、自分の状態とやるべきことをハッキリさせている。たぶんね、同点に追いつかれたらもうひと仕事するつもりで力を貯めてたんだ。
新潟は連敗を3で止めた。何かとざわつくチームのなかでベテランが仕事をした。監督采配が当たったことも意味が大きい。ただ面白いことに得点はカウンターからだった。
附記1、昨日はモバアルメールにドキッとしたら、坪内秀介選手のレンタル移籍でした。坪内選手はやっぱり「奇跡の残留」の年がパッと浮かびますね。ジュビロで出場機会を得て、また戻ってきて欲しいです。川又堅碁選手に関してはサポーターもやれることはやったと思う。僕も今週の新潟日報に率直な気持ちを書きました。まぁ正式な移籍リリースがあるまであきらめたくないですけどね。
2、成岡選手が「力を貯めてた」のじゃないかという見立てについて補足。実はね、昔、ジュビロ時代の彼について水沼貴史さんが「全部全力で行って、肝心のときに残ってない」と言ったのを覚えています。『サッカーマガジン』の対談だったんですけど、水沼さんは現役時代のラモスさんを例に「ゴールを決めた後、すごい顔でセンターサークルまでダッシュで戻ってくるから勘違いするけど、案外、力を貯めてた」と笑わしてくれた。で、「成岡がひと皮むける条件」として「最後まで全力プレー」みたいな世間の常識とは逆のことを挙げたんです。勝負どころで力を使え、そして仕事をしろと。
3、セレッソ戦の後、平澤大輔さんからLINEメッセージが来ました。「多くの問題がありながら勝ち点3がとれました。これはでかいですね。勝つと問題点が隠されてしまう、なんてよく言いますが、勝ち点3が問題解決の最大のきっかけになりますよね」とのこと。ちなみに今年のサポーターズCDのライナーノーツは平澤さんです。もうすぐ発売じゃないかなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
