【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第296回

2016/6/23
 「GET the WIN!」

 J1第15節(第1ステージ)、新潟×大宮。
 関東甲信は梅雨入りしたが、越はまだだった。炎天下のデーゲーム。14時キックオフの段階で気温は30℃近い。バックスタンド側は直射日光が当たって、もっと上昇しているだろう。アルビレックス新潟は巻き返しの一戦だった。公式戦2戦続けて最低の試合を演じてしまった。ファン、サポーターのフラストレーションはたまる一方だ。リーグ戦のホーム未勝利もここまで続くと観客動員に影響が出る。

 試合前に行われたクラブ創設20周年記念のOBエキシビションマッチ「新潟クラシック」は、僕には何となくウルトラ兄弟大集合に思えた。いや、新シリーズのウルトラマンが絶体絶命のピンチに陥ったとき、歴代ウルトラマンたちが集まって力を貸してくれるパターンがあったじゃないか。新潟イレブンSC、アルビレオ新潟FC、アルビレックス新潟歴代のレジェンドが会場の雰囲気をアゲてくれた。彼らの前で恥ずかしい戦いはできない。

 大宮は4位を走る好調チームだった。とても「昇格組」のくくりにはおさまらない。僕はまだ本拠地が県営大宮公園サッカー場(日本初のサッカー専用球技場)だった頃から見ているが、アルディージャに家長昭博ほどの絶対的エースが存在したことはなかったように思う。それから渋谷洋樹監督は昨年のJ1昇格時、「選手たちが頑張ってくれた」と男泣きしていた姿が忘れられない。この人ならチームがまとまるだろうと思わせる温かさがあった。

 が、がけっぷちの新潟はそれどころじゃないのだ。相手が3位だろうと4位だろうと勝たなきゃならない。この日はネジ巻いた感じだったな。開始と同時に火の出るようなアグレッシブさだ。出足がすごい。プレスがハンパない。いきなり大宮に後手を踏ませた。そして前半4分、端山豪の入れた右からのクロスに成岡翔が詰める。成岡さんしか決められない「成岡さんあざすゴール」でいきなり先制だ。

 「(端山)豪が相手と競り合ってマイボールにした時点で、ゴール前に入っていくと、試合前に豪とも話してたので、当てるだけだった。ゴールは狙っていた。今季の自分の出場にも関わってくるし、試合で結果を残さないとメンバーにも残れない。印象に残るようなプレーがしたかった」(ぶらさがり会見・成岡翔コメント)

 だけど、この後はね、苦しい試合になった。ショートカットして言うと「先制した後、ロスタイム90分」みたいな試合だった。長いよ、ロスタイム90分は。前半のうちに追加点が取れていたら何でもなかったと思うんだ。いちばん可能性を感じさせたのは端山豪が積極的に突っかけていったところだったな。あとコルテースが中に切れ込んですさまじい仕掛けをした(さすが元セレソン!)。ちゃんとシュートまで行ったものならレオ・シルバのミドルがいい感じだった。それら全てがゴールには結びつかない。

 逃げ切る試合になってしまうんだ。きつかった。特に後半、大宮のパワープレーの時間帯だなぁ。生きた心地がしなかった。セカンドボールが全部相手に渡った感覚。ゴール前の混戦で「辛くもクリア」の連続。だけど、この日は皆、素晴らしい武者働きをする。驚異的な集中が最後まで続く。見違えるようだった。気持ちの強さがダイレクトに伝わってきて、ちょっと泣けるくらいだった。選手名を挙げるとしたらGK守田達弥とCBの舞行龍だけど、そういうことでなく皆、本当に戦った。ていうか、ビッグスワン全体がタイムアップの笛まで頑張った。

 勝った瞬間、本当にホッとしたのだ。これだけ頑張って、最後にセットプレーで失点したりしたらどうしようと怖くて仕方なかった。そうならなくてよかった。新潟は大敗続きの後、一転、こんな試合ができるチームなんだ。これがポテンシャルだ。見てくれたか。どんな苦しい試合でも気持ちをひとつにして戦える。その頑張りに結果をつけてやりたかった。

 僕は(双眼鏡を持ってたにも関わらず)途中交代でOUTする成岡翔と小林裕紀の表情を見逃していた。特に小林の涙に録画を見るまで気がつかなかった。小林は選手の焼肉会をセットする等、キャプテンとして大いに働いてくれた。最後までピッチに残りたかっただろうが、あの暑さだ、チーム全体が最初から飛ばしていてガス欠が心配だった。ベテラン2枚を替えるのは妥当だろうと思って(たぶん敵のエース・家長は暑さのせいもあって精彩を欠いた)、その表情を見逃してしまった。

 タイムアップ後の端山の涙、ヒーローインタビュー時の成岡の涙。思えば涙が多すぎたのだ。僕は「1勝の重さ」という意味に受け止めてテンから疑わなかった。皆、苦しんだんだと思った。泥くさい勝利だけど、これはきっかけになると思った。そして、それ自体はもちろん間違いではない。

 「自分たちは新潟のスポーツを代表しているチームとして、誇りを持ってやっている。ピッチに立てない仲間もいるなかで、出たからには身体を張ってやろうと思っていた。結果も出てグッと来た」(同・成岡コメント)

 もうひとつの過酷な意味を僕らは週明けに知ることになる。早川史哉に急性白血病の診断が出て、闘病生活に入ったのだ。開幕スタメンを務めた大卒ルーキーはしばらくの間、ピッチに立てなくなった。大宮戦は特別な試合だったのだ。チームはフミヤの分も全力で戦っていた。フミヤのためにも絶対負けられなかった。


附記1、今週のタイトルは大宮戦のコレオから取りました。この日は長岡のアルビ居酒屋「ごろえん」で祝勝会でした。いい店だったなぁ。その晩は長岡泊して、翌日曜日はJ3第12節・長野×琉球(南長野)観戦です。JSCの子も見に来てましたよ。

2、さっそく「アルビレックス新潟 早川史哉選手支援基金」(クラブ公式HP参照のこと)が設立されましたね。FC東京戦ではサポーターがメッセージ幕の寄せ書き、「28」のコレオ掲示を計画しているそうです。また早川選手のチャントがお披露目されることになりました。元歌は(フミヤが憧れの選手として名を挙げる)内田潤チャントです。歌詞は「オー史哉、勝利を掴め、俺らも共に戦おう」。僕も共に戦いますよ。できることがあったら何でも協力します。

3、中日スポーツのレオ移籍報道ですが、そんなのに釣られて今から大騒ぎしてどうしますか? まぁ選手はプロだから契約がらみで色んなことがありますよ。先のことは僕だってわからないけど、レオは家族ですよ。家族は大切にしましょう。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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