【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第336回

2017/7/6
 「プレッシングサッカー」

 J1第16節、鹿島×新潟。
 これから書くことは読者の賛同を得にくいのかもしれない。皆、チームが最下位に沈み、クラブ(タイ)記録の4連敗を喫したのだから不愉快でならないだろう。サポーターからもよく「最近、負けても悔しさがなくなりました」「身体が空いても試合行かなくてもういいかなと思う自分がいます」「『Jリーグタイム』とか、サッカー番組を見る気がしません」等々の声を聞く。何年も続く低迷は確実にファン、サポーターにダメージをもたらしている。ちょっとサッカーに疲れているのだ。

 だから賛同は得られないのは承知だ。大方の人にとっては負けてるチームがまた負けたという試合だろう。それはもちろん正しい。0対2の完敗だ。ファン、サポーターは勝利が見たい。今年は降格してしまうんじゃないかと気が気じゃない。というのが自然な感情だと思う。

 が、僕は鹿島戦に感じるものがあったのだ。呂比須監督はアルビを手中に収めたと思う。もう緊急避難的に指揮を執った時期は終わった。雨漏り補修の必要な箇所はあるけれど、既に手は打ってある。呂比須さんは鹿島の強さを知っている。この試合は鹿島とサッカーをしようとしたのだ。これまでのように「サッカーにも何にもならない」ではなく、しっかりサッカーができるかどうか試した。僕はできたと思っている。呂比須さんのアプローチは積極的に評価すべきだ。

 僕は「失点までは綻(ほころ)びが目立たなかった」と言ってるわけじゃない。新潟はこれまでのようなその場しのぎの対応で幸運にすがっていたわけじゃない。呂比須体制で初めてプレッシングサッカーをした。ボールの奪いどころが前に設定された。チャンスもつくったし、鹿島の緩急にもしっかりついていった。気持ちが入っていて、それが鹿島の選手にも伝わり、ぎゅっと引き締まった応酬が続く。たぶん前半、鹿島はやりにくかったと思う。

 但し相手の勢いをいなして、その後、がつんと勝負かけてくるのは鹿島の得意パターンだ。僕がハーフタイム(スコアは0対0)に考えていたのは、こんないい試合してるんだから勝たせてやれないかなぁということだった。これは(後で自分で気づいたが)微妙なニュアンスがあって、「よし、勝てるぞ」「勝てそうだ」とは違うのだ。雨漏りはするだろうと思っていた。いくらまわりが気をつけても防げない領域がある。鹿島はミスを狙っていた。そして残念ながら「最強の雨漏り補修人」レオ・シルバは相手のユニホームを着ている。

 新潟はまずベーシックな部分を固める必要があるのだ。高度な要求じゃない。得点機に落ち着いて決め、自陣ゴール前で凡ミスをしない。たったそれだけで結果はだいぶ違うと思う。何でそれができないのかは単にスキルの問題かもしれないし、イップスなのかもしれない。だけど、繰り返されると困るのだ。繰り返すということは相手から狙われるということだ。そしてチームの士気にも影響してしまう。

 僕は個人攻撃したいわけじゃないからこの話題はここまでとする。GK守田達弥がビッグセーブしてくれて、わかりやすい雨漏りは防ぐことができた。が、セットプレーから先に失点し、そこからチームがどんよりして失点を重ねる連鎖は打破できなかった。

 この試合で目立ったのはボランチ起用の加藤大だ。出色だった。小泉慶がずっと不調なので、この試合は久々に「中盤に人がいる」感じに見えた。大はポジションを奪ってほしい。試合にメドが立つ。ボランチは端山豪とかいっぱいいるじゃないか。レギュラー獲るチャンスだ。目の色変えてほしい。何をすればいいかを大が示してくれた。

 大は前半、ポストを叩くナイスシュートもあった。あの一連の流れは素晴らしかった。もしかすると「入らなければ同じ」とか「どうせ決まらない」と言われてしまうのかもしれないが、僕は続けてほしい。チームは良くなってる。やろうとする選手、変わろうとする選手がわかる。僕は心のなかでフライパンを鳴らしたい。

 実際のフライパンはスタジアムに持ち込めないかもしれないが(ちょっと僕にはわからない)、これは人生や世界にどう向き合うかという問題だ。感情を露わに異議申し立てをするやり方もある。それが社会変革の原動力になる場合もある。一方、フライパンを鳴らすやり方もある。いいところを見つけてカンカン鳴らすのだ。「これはこう変えたらいいんじゃないか」というアイデア(そして意欲!)を示す者にカンカン鳴らす。チームのため、クラブのために闘う者にカンカン鳴らす。

 読者は不振を極めるチームに嫌気がさし、サッカーに疲れているのかもしれない。だけど、わざわざこの文章を読んでくれている。アルビレックスの情報発信につき合ってくれている。よく思い返してほしいんだ。鹿島戦は何もなかったか。サッカーになってなかったか。敗戦のなかで誰がチームのために走り続けたか。変化の兆しはなかったか。


附記1、僕は山崎亮平選手にもカンカンカンです。いや、カンカンに怒ってるんじゃなくてフライパンです。

2、カシマスタジアムのホーム&アウェー入れ替えは「向きがビッグスワンっぽくて違和感ない」「ビジョンが見やすい」と案外好評でした。なるほど。

3、タンキ選手、大武峻選手の入団会見がありました。大活躍を期待します。もう、体格からして頼もしいですね。ようこそアルビレックス新潟へ!
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!


ユニフォームパートナー