【第28回】スタイルや戦術以前のゆずれない部分

2018/9/4
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いまの新潟の状態を示した立ち上がり

8月26日アビスパ福岡戦を迎えたビッグスワンは、試合前から雨が降り、ピッチはスリッピーなコンディションでした。まず、この雨の中でもチームとともに闘ってくださった愛あるサポーターの皆さんに感謝したいと思います。

立ち上がりは両チームともにピッチコンディションに苦しんでいたようには感じましたが、いまの新潟の状態を示すような場面が立ち上がりにありました。福岡の22輪湖選手がフリーな状況でボールを持っていました。輪湖選手の状態を見て、福岡のFWは最初に狙うべき新潟の最終ライン突破のためにランニングを開始しました。

これに対して新潟の最終ラインの準備はというと、輪湖選手が蹴りそうなタイミングでラインを下げて準備をしたのは、対面する右サイドのカンペーさん、尚紀。ただ、それ以外はそうではなかったように感じました。おそらく、輪湖選手はカンペーさんと対峙(じ)する選手にパスを送りたかったのではと思いますが、雨やピッチの状況からでしょうか、ボールはジュフンの方向に流れました。

いい準備をすることが、基本でありポイント

雨でピッチが濡れていたため球足は速くなり、上手くクリアができず、CKになってしまいました。何ということのないプレーがピンチに変わってしまった瞬間です。僕自身も、2年前のホーム開幕戦のマリノス戦でクリアが上手く当たらず、CKを与えたことがありました。結局、そこで失点をし、引き分けにできたのに、負けにつながるミスになったことが忘れられません。

蹴られるボールに、しっかりといい準備をして迎える。当たり前のように聞こえるかもしれません。でも、結局はこれをやり続けることが、失点を未然に防ぐ、基本であり、かつ大きなポイントになるんです。

ジュフンの良さを活かすには

ジュフンについて話をしようと思います。1対1やヘディングの強さ、スピードなどは、間違いなくチームでもトップレベル。これまでも、相手の外国人選手をはじめ、屈強な選手たちに対応してチームに貢献してくれました。フィジカルに特長のあるジュフンだからこそ、その良さを活かすために準備が必要だと自分は思います。それによって、リーグでも群を抜いた存在になるのですから。

「いい準備をして視野を確保し、状況を把握してボールに向かう」。もちろんジュフンだけではなく、すべての新潟の選手に求めたいです。何より、守備をする時に一番意識しなければならないのは、「もしかしたら」という万が一の事態を想定することだと思います。

万が一に備えて

ここ何試合かの失点で見えてくるもの。それは、万が一の事態に備えた守備ができていないことです。千葉戦1失点目のクリアミスからの場面、大分戦2失点目のクロスにスルーされた場面、栃木戦2失点目のシュートブロックからフリーで決められた場面。守備をしている時に、「ここはボールが来ないだろう」という予想からのポジションで守備をするのではなく、「もしかしたら、ここにもボールが来るかも」という連想を持って、ポジションを取れるか。

「守るべき場所」「見るべき相手、スペース」を認識し、つまりは『正しいポジション』から万が一の状況に備える必要があるはずです。認識がないまま、万が一に備えても守れません。正しいポジションを取っても、「もしかしたら」の意識を持たなければ防げません。『正しいポジション』と『もしかしたら』という2つがセットでなければ、失点は減らないのです。

1失点目は、「ボールがスリップして伸び、ジュフンが触れずクロスを上げられるかも」と思って中の選手は対応できていたでしょうか。もちろん、最初のジュフンの対応は良くなかったかもしれません。しかし、この「もしかしたら」が足りない結果、相手に一歩先に触られたり、反応が遅れてしまう原因になっています。これは、「最後まであきらめない」という姿勢にもつながる重要なものだと僕は捉えています。

新潟らしさとは

新潟に関わる皆さんが言う「新潟らしさ」というワードがあります。みんなさりげなく、何気なく使ってしまっていますよね。ほかならぬ僕自身も、インタビューで「新潟らしいサッカーを」「新潟のサッカーをずっと見たり、アカデミーから育ってきた」と言ってきました。そもそも「新潟らしさ」って何だろう?どこから来ているのだろう?と、このコラムを書くためにコーヒー店で一番大きいサイズのコーヒーを飲みつつ、考えているところです。

いま、コラムを書き進める中で見えてきたのは、「最後まであきらめない」こと。「え、それだけ? そんなのどこのチームでも普通にやっていることでしょう!?」と怒られるかもしれませんが(笑)。でも、僕は自信を持って、「はい! でも、『最後まであきらめない』度合いが、圧倒的に違うんですよ!」と、言い返したい。サポーターも含めて、「最後まであきらめない」、ある種の圧倒的なあきらめの悪さが、J1で長年戦ってこられた要因であると感じています。

クラブアイデンティティを財産として残す

格上相手でも、一枚岩となって一歩先にボールに触り、体を張って全員で闘う。そのプレーをサポーターも一緒に熱い応援で支える。互いの熱が、相乗効果になり、「鬼門ビッグスワン」と、たしかに相手チームに怖れられる場所になっていました。

ただ、シーズンを重ねて人も入れ替わり、実際に体現してきた選手、知っていた選手が少なくなってきました。中でも新潟らしさを一番体現してきた、「ミスターアルビレックス・本間勲」が引退してしまった現在、僕たちはクラブアイデンティティを言葉として理解し、「最後まであきらめない」が、どこから来ているのかを明確に、財産として残さなくてはいけないと強く思います。

スタイルや戦術以前のゆずれない部分

少し話を戻して。攻撃で「最後まであきらめない」のは、「もしかしたらここにボールが来る、こぼれてくる」と信じて、ポジションを取ったり、走れるかだと思います。「もしかしたら」「信じる」「正しいポジション」。自分の言葉が十分でなくて恥ずかしいですが、逆説的には、「これらがあれば、最後まであきらめないこと」につながると感じます。

これはサッカーのスタイルや戦術よりも、サッカーにおけるアクション(行動)のひとつに過ぎないものです。でも、僕は新潟にとってスタイルや戦術以前に、大前提となるゆずれない部分だと思います。この新潟らしさを、試合で活かすために、どう守備をしてボールを奪い、どう攻撃をしてゴールを奪うかを、みんなで考えていきたいのです。

アイデンティティがサポーターの皆さんにもあるから

いまは、「どう守るか、どう攻めるか」以前に、新潟のアイデンティティが曖昧(あいまい)になってきていることが問題だと思います。「あきらめない」「信じる」という人間味あふれたものが新潟の代名詞で、それがサポーターの皆さんにもあるから、新潟に加入を決めた選手は「サポーターの温かさ」と表現するのではないでしょうか。

前述の通り、ひとつのアクションに過ぎない「新潟らしさ」は、歯車や考え方がズレてしまえば、すぐに崩れ、壊れてしまうものです。だからこそ、それを明確に、しっかり言語化できるようにしたいと思います。僕が考えた「新潟らしさ」は、ほんの一部に過ぎないと思います。サポーターの皆さんも含めて、さまざまな方々の考えを聞かせてもらいたいと思います。

厳しい結果でも、次につながる材料はある

6連敗という結果もあり、フチさん自身も言っていましたが、決して上手くいっているという内容ではなかったと思います。ただ、ボールをいい形で奪った場面も何度かありました。1stディフェンダーがサイドで制限をかけ、後ろがそれを受けてパスコースを潰したところなどです。

相手陣内で良い形でボールを奪える場面は増えましたが、相手が新潟のプレスを回避し新潟陣内に侵入してきた際の守備は、改善の余地があるように感じました。FWへ入ってくる縦パスへ厳しく行ったり、パスを出した選手についていくなど、自由にプレーさせないためにもう少しタイトにマークできればと思います。

そのために縦横の距離感を大事にし、1stディフェンダーをはっきり、パスコースを限定させ、次の選手がボールを奪いやすくしたいところです。また、チャレンジしやすいように、周りの選手のカバーもいい距離感で行えるといいですね。組織としての守備を向上させることで、ピンチを防ぐ確率が増えると思います。

奪った後のサポートを!

フチさんになってから、相手陣内でのプレスの掛け方は、比較的強調されていると感じます。ただ、いい守備でボールを奪ったり、セカンドボールを回収した後のつなぎは、まだまだ課題があります。ボールの近くにいる、できるだけ状態のいい選手にあずけ、相手も多くいる密集地帯を回避してボールをキープすることが、新潟のリズムを作る上では大切になると思います。

ボール保持者の判断もですが、周りのサポートをする位置もとても大切。福岡戦で言えば、その範を示してくれたのが達さんでした。達さんは自信も守備意識が高く、いい制限をかけてくれますが、新潟がボールを奪えば、いち早くサポートに回って助けてくれます。この達さんの動きに、さらに全体がつながることで、達さんによるパスコースが消されても、他の選手がボールをつなげ、マイボールにできる時間が増えるはずです。

右サイドに抜てきされた2人

52分に新潟が攻撃からファウルをもらったのはとてもいい攻撃でした。ある程度引いた福岡に、テンポよくサイドに展開して幅を使いながら、タテ→横→タテと相手の目線を変えて、スピードを上げた攻撃を仕掛け、相手も食い止めるのに苦労したはずです。

結果的には尚紀が倒され、ファウルをもらう形でフィニッシュには行けませんでしたが、複数人が関わり、連動したいい流れでした。ここに関わったみんなを褒めるべきですが、見逃せないのは、凌磨のパスコースを作り出す動きと、尚紀の前への関わり方です。

凌磨と尚紀、互いの良さを活かして

凌磨は自ら動いてボールを受けることも、動くことによって他の選手にパスコースを作ることもできる。また、受けるために何度も動き直せる良さを持つ選手です。一方の尚紀は前への推進力や1対1にストロングがあります。

互いの良さが出たのは66分にも。凌磨は一度足元で受けるために前線から降りてきましたが、尚紀にボールが展開されると、今度は相手左SBの背後で受ける動きに変えました。これによって尚紀から貴章さんへのパスコースが生まれ、それを使った尚紀はリターンをもらってドリブルに。同時にシュートを狙える位置を取り直していた凌磨が、尚紀からのパスを受けてシュートを放ちました。

結果はオフサイドになっていましたが、右サイドの2人が、互いの良さを活かしあい、もたらされたものです。こういったことを全体で続けていきたい。それはもちろん、十分可能なことだと思うのです。

その日が必ず来ると信じて!

最後に。大雨の中でも途切れることのないサポーターの皆さんの応援。ハーフタイム中も、声を切らすことなく応援してくださったこと。心に響きましたし、本当に感謝しなければならないと思います。福岡のサポーターの皆さんが勝利に喜んでいるのを見て、本当に悔しかったです。僕たちも、応援してくださる新潟の皆さんと一緒になって喜びたい!

いまの僕はサポーターという立場も持っています。苦しくても、その日が必ず来ると信じて、チームを応援しますし、支えたいと思います。今はみんなが苦しいですが、もう一度、「新潟らしさ」を考えて、強い気持ちを持ってアウェイ・愛媛戦を迎えたい。僕らに下を向いたり、天を仰ぐ時間はない。しっかりと前を向いて、誇りを持ち、覚悟を胸に闘うだけだ! さあ行こうぜ新潟!闘え新潟!俺たちの誇り新潟!


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