【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第393回

2018/10/25
「秋天をあおぐ」

 J2第37節、甲府×新潟。
 ただでさえ川中島ダービーだ。プロビンチャどうしの戦いは歴史や地政学の上からいっても盛り上がる仕組みになっている。今季はともに「J1降格組」であり、目標は再昇格に決まっている。そして監督さんに因縁があるのだ。ちょっと前までは「吉田達磨ダービー」だった。今は「片渕浩一郎vs上野展裕」、かつてアルビレックス新潟ユースを率いた監督さん2人が激突することになった。

 アルビサポは1600人の大軍勢だったそうだ。山梨中銀スタというと猛暑酷暑のイメージだが、今年は秋のベストシーズンに試合が組まれた。スタグル企画の「山梨ワイン・グルメ祭り」を楽しみにされてた方もいるだろうし、ワインガーデンステージで相撲芸人あかつさんのステージを見て爆笑した方もいるだろう。そして多くの方が上野さんや小塚和季との再会を楽しみにしてたと思う。

 前回、ホームでは1対5とこてんぱんにやられた。そのリベンジの機会だ。今の新潟ならやり返せるに違いない。と勢い込んで戦績表を見たら甲府も負けずに好調なのだった。直近は3連勝(しかも無失点!)。前節、東京Vと当たってるのでライターの海江田哲朗さんに様子を聞いてみると「ヴェルディがダメすぎたんですけどね。これから順位を上げて来そうだなとは思いました」とのこと。攻略可能なのにしくじった、というニュアンスか。まぁ、プレーオフ圏でしのぎを削るヴェルディ目線(海江田さんは「ヴェルディ担」)だと、甲府に零敗は「痛い取りこぼし」という色合いなのか。あぁ、そこに混ざりたかったな。

 試合は非常にゴワゴワというのか、硬質なものに終始した。こう、ニュアンスを言うと旅館のゆかたに異様に糊がきいてて、着たらゴワゴワなんだね。で、まぁ最初はしょうがないかとガマンして着てて、温泉に入ったりゲームコーナーへ行ったり、晩ごはんで山海の珍味をいただいたりしたけどゴワゴワが取れない。で、ふかふかの布団で一晩寝て、鮭と海苔で朝食をいただいて、チェックアウトしたんだけど、何故か最後までゆかたがゴワゴワしてた。例えたせいでむしろ伝わりにくいかもしれないが、そういう試合だ(どういう試合だ!)。

 そのゴワゴワは何かというと、互いに警戒し合い、ハイテンションでやり合った結果、生じたものだ。気候がいいことも手伝って、両軍最後まで運動量が落ちなかった。ゆかたが型くずれしてなじむ感じがない。いや、厳密にはところどころ緩んでもいるんだけどそれが大事には至らない。あぁ、糊のきいたまま終わってしまったなぁと思う。サッカーの試合がもし倍の180分くらいあればもっとなじんだかもなぁ。

 それくらいどっちのチームもパリッと糊がきいていた。別の言い方をすれば状態が良かった。甲府はシステム的にはアルビが苦手とする3バックのチームだ。守るときは両サイドが戻り5バックになる。だから3ー4ー2ー1というのか5ー4ー1というのか。噛み合わせは悪いはずだが、何とかうまくやれた。CB2枚とボランチ2枚がしっかり守っていた。といって攻めるのも簡単じゃない。カウンターをケアしながら、相手の人垣を崩さなきゃならない。チャンスの数は両軍ともに決して多くはなかった。が、チャンスがなかったわけじゃない。

 アルビの決定機の最たるものは、後半41分の矢野貴章で間違いないだろう。渡邉新太や戸嶋祥郎にもチャンスは訪れたが、ちょっと決めきるのに難易度があった。貴章のは何で右に外れちゃったのかわからない。時間帯も最高。加藤大のシュートがこぼれて、ピンボールみたいになって、絶好のタイミングだった。うおおお、もらったああ~。記者席でこぶしを握りしめる。

 それが外れたんだなぁ。ああ~。大きく天を仰いでのけぞった。で、気がついたけど、まわりでのけぞってる人は僕ひとりだった。山梨の記者さんと、その後ろにヴァンフォーレのベンチ外の選手らが並んでいる。敵方の皆さんは両手で頭を抱えた人はいても、ぜんぜんのけぞらない。おお~と言う人はいても、ああ~と残念そうな声は出ないんだ。試合が続いてるからノートに「何故のけぞる?」「何故ああ~?」とメモして、終盤の攻防を見つめた。終盤も手堅くまとめてた。何か必然の勝ち点1という感じだった。

 で、帰りのシャトルバスがなかなか来なかったので、ヒマつぶしにスマホで「惜しい 何故のけぞる?」「惜しい 何故ああ~?」と検索してみた。検索したもののまさかそんなことに答えがあるなんて想像しなかった。ていうか答えもないと思ったし、世の中に同じことを考えてネットでそれについて書いてる人がいるなんて想像しなかった。欄外に「惜しい なぜのけぞる?」ではありませんか?、とガイドが出た。それって「何故」をひら仮名にしただけじゃん。

 で、驚くなかれ、検索結果のトップは何とNHKだった。『すイエんサー』(Eテレ)のHPだ。どうも番組は2015年6月6日にその疑問を取り上げたらしい。以下、引用する。

 「人間が無意識のうちに感情によってどう動いてしまうかを研究する高橋直樹さん(新潟医療福祉大学)によるとおしいときにのけぞってしまうのは予想してない失敗から起きる”驚き”に原因があるそうです。的をめがけて打ったテニスのサーブがはずれたとき、見ている人がのけぞるのは…、見ている人はボールの軌道から『当たる』と予測します。しかし、結果は『はずれ』。見ている人は思わずのけぞります。これは予想していなかった失敗が起きたため”驚き”となってのけぞってしまったのです」
「では人によってのけぞり具合が異なるのはなぜなのでしょうか? 人間のコミュニケーションの仕組みに詳しい川合伸幸さん(名古屋大学)によると、初対面の人のような、心の距離が遠い場合、どんなに『おしい』場面であっても人はあんまりのけぞりません。しかし、一緒に運動したり、話し合ったりして、心の距離が近くなると『おしい』場面ではのけぞるようになるそうです」(『なんで「おしい!」ときのけぞる?』)

 読み始めていきなり「高橋直樹さん」「新潟医療福祉大学」とアルビに寄せて来たから笑いがこみ上げた。しかし、そういうことなのか。僕らは貴章に心の距離が近く、かつ失敗を予想してなかったからのけぞったのか。(一部で「(決まらなかったのが)貴章らしい」とか言ってるあなた、口で何を言ってものけぞってる以上、負けですよ。「予想しなかった失敗」の反応がはっきり出てますよ)。

 ちなみに「惜しい 何故ああ~?」のほうも(「惜しい なぜああ~」ではありませんか?とガイドされつつ)『すイエんサー』だった。かいつまんで言うと「人は意識を集中させるとき息を止めるから」だそうだ。なるほど、止めてた息が「ああ~」と出るのか。敵方の皆さんは「おお~」と出るのか。

 こういうのも甲府戦の収穫と呼んでいいのだろうか。秋の収穫だろうか。山梨交通のシャトルバスが来たので乗って帰るとしよう。アルビは5連勝の後、1分で小休止だ。次節・京都戦からまた連勝を始めるぜ。

附記1、翌朝の新潟日報(10月15日朝刊運動面)に「新潟 決め切れずドロー/J1復帰消滅」と見出しが出ていて、ハッとしました。そうか、消滅なんですね。どんなに絶望的になっても数字の上ではわずかに可能性が残っていた、そのわずかが消えたんですね。

2、アレックス・ムラーリャ選手の離脱というか休養(?)が、ケガ等じゃないと知って安心しました。奥様が出産間近ということで新潟に残ったということです。これはフチさんナイスアイデア! 代わりにスタメンを張った大谷幸輝選手も零封で信頼に応えた。すごくいい感じだ。

3、日本代表のウルグアイ戦すごく面白かったですね。2列目のフレッシュな3人(中島、南野、堂安)魅力ありますね。そこに大迫だもん。アルビの選手も代表で見たくなったな。あ、あとUEFAネーションズリーグはどこかで放送してくれないんですかねぇ。ドイツどうなってるんだ、一体全体。


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