【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第60回

2010/7/22
「ビリーブ、ビリーブ」

 さぁ、Jリーグだ。
 先週、「にいがたSMILEプロジェクト2010」協力要請の為、小山直久・取締役事業本部長が上京された。小山さんは肩書き抜きのつき合いをしてくださる(何しろ98年W杯フランス大会のとき、現地で出逢ったのが奥様とのなれそめという方だ。本当にサッカーの好きな人だ)ので、お会いするのが楽しみだった。
 「にいがたSMILEプロジェクト2010」は、W杯南ア大会の熱気を今度は日本代表ならぬ「新潟代表」につなげていこうというもので、企画書に意欲がみなぎっている。もちろん、全面協力をお約束する。

 話はW杯期間中の新潟市の様子へ移る。小山さんは新潟競馬場のパブリックビューイング(オランダ戦)へはいらっしゃらなかった由。けれど、今大会は御近所の気合いの入り方が全然違った。未明のデンマーク戦のとき、3時前に御近所の電気が次々と灯り、皆、起きてきたのに感動されたという。
 当然のことながら「カメルーン戦、矢野貴章が出てきたとき、小山さんはどうなりましたか?」とうかがう。
 「あれは不思議ですね、カメルーン戦は大事な初戦だからそれまでだって凄く集中して見てたんですよ。だけど、矢野貴章がベンチで映って、投入来たっとなった途端、頭が爆発するような感じで真っ白になっちゃったんですよ。来たっ来たって言って、又、来た来た来たって言って。あぁいう風になっちゃうんですね。それと不思議なもんで、ゴール決めろと思うより、ミスだけはしないでくれって思ってるんです。時間帯もあるけど、心配の方をしてましたね(笑)」
 たぶんそれは多くのサポーターが共有した感情だと思う。身内意識というのか親心というのか。何というか無事を祈るような心境。新潟から次の日本代表が選出されるときは(もちろん矢野貴章であって構わないが)、皆でゴールを願う次のステップへ進めると最高だ。

 「ところで新潟のサポーターは、今季のアルビと代表を重ねて見てた人がけっこう多いみたいですね」、そう水を向けてみる。未勝利の足踏み状態からV字回復したアルビ、テストマッチの連敗から立ち直った代表、面白いことに貴章や高徳は短期間に2つのチームがブレークするのを体験した。
 そうしたら小山さんは「チームは生きものですね…」と言った後、今季未勝利の泥沼にハマッていたとき、「ハラの底から勇気がわいてきた話」を始めたのだ。

 ファビーニョの話だった。御存知の通り、かつての名選手・ファビーニョは現在、クラブに復帰し、サッカースクールの仕事をしている。今季未勝利で苦しんでいた頃、クラブでは皆、務めて元気にふるまおうと話していた。
 「それでもやっぱり、ふとしたときに暗い顔をしてたんだと思います。サッカースクールのバスから降りてきたファビーニョが僕の顔を見て、急に『小山サン、ビリーブ、ダイジョウブヨ、ビリーブ、ビリーブ』って言うんですよ」
 ファビーニョは小山さんの目を見つめ、いっしょうけんめい言葉を続ける。
 『小山サン、ビリーブ、ダイジョウブヨ、ビリーブ。
 2006、ジュビロ。スコア、0vs7。サポーター、アルービレックスアルービレックス。ビリーブ、ビリーブ。
 小山サン、ビリーブ、ダイジョウブヨ、アルビレックス、ビリーブ、ビリーブ』
 
小山さんは聞いてて涙がこぼれそうになった。06年第22節、敵地の磐田戦のことをファビーニョは言っている。0対7の惨敗だった。その惨劇のなかで「アルービレックスアルービレックス」と叫び続けてくれたサポーターの声をファビーニョは忘れていない。あのとき、サポーターが信じていてくれた。だから自分たちは頑張れた。小山サン、ビリーブ、ビリーブ、アルビレックス、ビリーブ。

 言いながら浜松町のカフェで小山さんは泣きそうになっている。さぁ、Jリーグだ。僕もハラの底から勇気がわいてきた。


附記1、「にいがたSMILEプロジェクト2010」に僕も賞品を出すことになっちゃって、あんまり何もないので当『散歩道』の生原稿にさせてもらいました。僕、これ企業秘密なんですけど、いっぺんコクヨの原稿用紙に手書きしてから、PCでタイピングしてるんですよ。何と生原稿が残ってる。どれにしようかと思ったけど、貴章W杯出場記念ということで、09シーズン第17話「俺たちと共に戦おう」にします。そのうち告知があるんじゃないかなぁ。

2、週末(17日)のC大坂戦、SMILEプロジェクトの一環、「ラブレターコンテスト」のデモンストレーション原稿を僕が書きました。大型ビジョンに御注目ください。

3、旅えっさの鹿島戦応援バスツアー、中止になっちゃいました。しょぼーん。
 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※アルビレックス新潟からのお知らせ
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