【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第85回(前編)

2011/4/7
「キングカズ」
 
 東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ、日本代表×J選抜。
 節電でほの暗くなった西荻窪の街をてくてく歩き、北尾トロ事務所へ行くと、もうユーストの準備が整っていた。僕はこれでもう8週続けて、毎週火曜日はここへ来て22時から『季刊レポ』誌のインターネット中継「レポTV」に生出演している。台東区の自宅から移動に小一時間かかり、チャリティーマッチは録画するしかない。残念だけど無理なものは無理だからサクッとあきらめ、18時から御茶ノ水の総評会館で行なわれた原子力資料情報室の公開研究会「福島第1原発でいま、何が起きているか」を聴きにいって、その足で西荻へ向かったのだ。

 NPO法人・原子力資料情報室の公開研究会は異様な盛況ぶりだった。まぁ、僕のようなノンポリの一般人がとにかく少しでも情報を得たくて行ってみるくらいだから、当たり前かもしれない。皆、本当に不安なのだ。大会議場に人が入りきれず、もうひと部屋でユースト生中継のモニターが用意される。東芝で原子炉格納容器の設計に携わった後藤政志さんらが楽観できない状況について、ていねいにレクチャーしてくれた。

 少なくとも事態は長期化するだろうと思う。電力不足はもちろん福島第1原発の沈静化も時間がかかる。このなかで僕らはやっていくのだ。被災地を助けて、日常をまわしていく。ひと昔前、近未来SFか何かで描かれたような日常が現実になってしまった。朝の天気予報で「今日の花粉情報」を見るような感じで、「今日の放射性物質と風向き」を確認するのだろう。

 そして読者よ、僕らにはサッカーを支え切る覚悟が必要だ。Jリーグは単にクラブ経営というレベルを離れて、ひとつの産業だ。まわらなくなれば本当に沢山の関連業種が窮乏する。いや、もっと率直な話をしよう。アルビレックス新潟は大変なピンチにある。親会社がないから試合数減になった場合、まともにダメージを食らう。東北電力管区にホームを持つ以上、ナイターは向こう2年ほど開催できない可能性だってある。夏の電力の足りない時期に炎天下で試合をするか、もしくは早朝キックオフということだってあり得る。それで観客が減れば、これもまともにダメージになる。フロントもチームもサポーターも、それでやり切る覚悟を固めるしかないだろう。

 もしくはナイター開催の担保を作るのだ。開催に要する電力消費量を示し、その時間帯の節電協力を呼びかける。県内にコンセンサスが醸成されれば(つまり、観客4万人分の家々が消灯し、それに加えて地域コミュニティの節電協力が得られれば)、ナイター開催が前向きに実現するかもしれない。その場合、サポーターは日頃から節電に自覚的である必要があるだろう。サッカーを見せてもらう分のお返しを地域コミュニティにしたい。

 まぁ、状況は流動的だ。東北電力管区の電力需給バランスは、被災地のライフライン復旧とも密接にかかわってくる。といって、もしかすると企業活動が止まる土日開催が基本のサッカーは案外、電力的に余裕が持てるのかもしれない(それも企業の輪番操業が実現すれば状況が変わり得る)。何でもあり得る。2、3時間前倒しのサマータイム制導入を提言する識者もいる。いやー、それにしてもマジで大ピンチだな、過密日程の平日デーゲームだってフツーにあり得るもんな、収益大打撃だな、などと考えながら西荻の夜道を歩き、北尾トロ事務所に到着した。

後編に続く


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