【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第93回
2011/6/2
「連敗」
J1第12節、G大阪×新潟。
競り負けた。一番悔しい負けだ。スコア1対1のまま進行した後半43分、ガンバ・宇佐美のどえらいシュートをいったん東口が前に弾く。そこへ詰めてたのがアドリアーノだ。ねじこまれた。
東口は試合後、「2失点めは自分のミスでもあったと思う。ボールを弾くにしても、外に弾くとか角度のないとこに弾くとか出来た筈」とコメント。彼自身の成長のためにはその反省はあってしかるべきと思う。が、ミスは言いすぎ。振り幅の小さい宇佐美のシュートはタイミングを読むのが至難の業だ。
宇佐美はすごい選手に成長したなぁ。2点ともにアドリアーノに得点がついたが、宇佐美にやられた印象。「70パーセントくらいの出来だけど、いかにサッカーを楽しめたかということで言えば100パーセント。めっちゃ疲れたけどすごくいい疲れ方」(宇佐美貴史コメント)には納得だ。
僕はジュニアユース時代、15歳の宇佐美貴史を取材したことがある。たぶん間違いなくメジャーなスポーツ誌の取材は初めてだったろう。『スポルティーバ』誌でガンバ大阪の育成の秘密に迫ろうという企画を立てた。ガンバは資金力のある「Jのビッグクラブ」と呼ぶべき存在だけど、一方で育成に定評を持ったクラブだ。その伝統は稲本潤一に始まり、東口順昭や宇佐美貴史まで連続している。
取材に訪れた大阪・千里のグラウンドで、どうやら宇佐美少年は集英社のカメラを意識してリキんでしまったようだった。動画で見ていた抜群の冴えは感じない。コーチが「調子にのらさんとってくださいよ。所詮、中学生やから」と笑っていた。ガンバのジュニアユース、ユースは人間的なところを意識して育てる方針だ。思春期、身体が大きくなりだす年代の子は、心が身体に追いついていかないところがある。練習後、インタビューをお願いすると顔を赤く染めて「ランパードのようにひとりで全部やりきれる選手になりたい」と答えてくれた。
ガンバがすごいなと思ったのは「小学生を見る専従(スカウト)を置く」方針だった。スキルは小学生、技術習得のゴールデンエイジに勝負が決まってしまう。だからいかに優秀な子を発見して、ジュニアユースに連れてくるかだという。才能のある子を集めれば、あとはそれをチームのなかで生かす部分を教えていけばいい。それは人間性でもあるし、バランス感覚でもあるし、メンタルの成長でもあるだろう。技術習得に関しては実践的なレベルから入れる。
あの取材から今日までたった4年しかたっていないのだけど、その4年の密度は想像を絶するものがある。試合開始から藤田にプレッシャーをかけ続け、「蛇ににらまれたカエル」状態にしてしまった。こりゃもう、Jの新時代を背負うモンスターだ。直近のロンドン五輪代表はもちろん、A代表の中心選手に飛躍してもらいたい。
新潟はこの試合、開始早々から圧倒された。まぁ、ガンバが意識して圧をかけてきた(2日後にACLベスト8をかけた大阪ダービーが控えていた)事情もある。が、最もやられたのは宇佐美のところだった。8分にたまらず失点。15分、交錯・負傷した二川が交代して、ようやく何となく局面が落ち着く。まぁ、前半はヒヤヒヤだったけれど何とか1対0。活路はカウンターなのかな。大島、ブルーノ・ロペスの2トップにボールがおさまらない。
ひとつ考えどころは藤田征也だった。ハーフタイムのロッカーで黒崎監督は相当ネジを巻いたと思う。僕はコンサドーレ札幌時代、ハートの弱さを指摘されていた藤田を覚えている。北海道の友人は「才能は一流なんだけど」といつもヤキモキしていた。心機一転、新潟で勝負をかけることになった「未完の大器」に大変注目している。たぶん「男・黒崎久志」のもとでサイドバックをやるのは彼には得難い経験になる。「いーから行けって!怖がんな、行け!」とドヤされて、自分の勇気も、弱さも、ともにコントロールできるようになっていくのじゃないか。
宇佐美のようなアメージングな物語もあれば、藤田のような人間っぽい物語もある。で、これが仔細に見ていくとどちらも面白いのだ。相当、黒さんにドヤされた藤田は後半、頑張って前へ出ていた。僕は思う。自分の弱さをわかったとき、人はもう弱くない。臆病さをのり越えたとき、もう臆病ではない。ダメなのはわからないときなのだ。藤田は今季、「未完の大器」を脱皮して、職人に成長するかもしれないよ。
だもんで後半32分、敵失を突いたミシェウの同点弾は「みんなで必死に押し返せばいいことがある」という、成功体験をチームにもたらす筈だった。それは途中交代で入った木暮に。同じく川又に。そして当然、藤田にも。サッカーは内容も大事だけど、こういう気持ちに支えられたもんも非常に大事。
そーれがやられたわけよ、最後の最後。悔しいよ、意味わからんけどルナシーよ。『神様、もう少しだけ』主題歌よ。金城武と深キョンよ。故・田中好子さんも出てたのよ。言いたいことは何かというと、神様、もう2分か3分だけたのむのよ。しまった、ちょっといい話を書いたつもりが最終的にわけわからんデレスケになってしもうた。
附記1、仲間由紀恵が金城武プロデューサーんとこの所属アーティストでしたね。あと宮沢りえが出てた。そんなことどうでもいいけど。
2、ガンバの「小学生スカウト」すごいでしょ。だからもう、小学生の試合ばっかり見てまわるんですよ。だけど、当時、ガンバ・ジュニアユースには北摂の子(つまり、通える範囲の子)しかいないって言ってたなぁ。九州の子を持ってきて寮に入れるみたいな発想ではなかったですね。
3、その取材のとき、大阪・千里の喫茶店で飲んだ「カルピスコーラ」という飲み物が忘れられません。メニューにあったんでつい注文したんだけど、これが文字通りカルピスの原液をコーラで割ったものだった。めちゃめちゃ甘いでやんの。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
J1第12節、G大阪×新潟。
競り負けた。一番悔しい負けだ。スコア1対1のまま進行した後半43分、ガンバ・宇佐美のどえらいシュートをいったん東口が前に弾く。そこへ詰めてたのがアドリアーノだ。ねじこまれた。
東口は試合後、「2失点めは自分のミスでもあったと思う。ボールを弾くにしても、外に弾くとか角度のないとこに弾くとか出来た筈」とコメント。彼自身の成長のためにはその反省はあってしかるべきと思う。が、ミスは言いすぎ。振り幅の小さい宇佐美のシュートはタイミングを読むのが至難の業だ。
宇佐美はすごい選手に成長したなぁ。2点ともにアドリアーノに得点がついたが、宇佐美にやられた印象。「70パーセントくらいの出来だけど、いかにサッカーを楽しめたかということで言えば100パーセント。めっちゃ疲れたけどすごくいい疲れ方」(宇佐美貴史コメント)には納得だ。
僕はジュニアユース時代、15歳の宇佐美貴史を取材したことがある。たぶん間違いなくメジャーなスポーツ誌の取材は初めてだったろう。『スポルティーバ』誌でガンバ大阪の育成の秘密に迫ろうという企画を立てた。ガンバは資金力のある「Jのビッグクラブ」と呼ぶべき存在だけど、一方で育成に定評を持ったクラブだ。その伝統は稲本潤一に始まり、東口順昭や宇佐美貴史まで連続している。
取材に訪れた大阪・千里のグラウンドで、どうやら宇佐美少年は集英社のカメラを意識してリキんでしまったようだった。動画で見ていた抜群の冴えは感じない。コーチが「調子にのらさんとってくださいよ。所詮、中学生やから」と笑っていた。ガンバのジュニアユース、ユースは人間的なところを意識して育てる方針だ。思春期、身体が大きくなりだす年代の子は、心が身体に追いついていかないところがある。練習後、インタビューをお願いすると顔を赤く染めて「ランパードのようにひとりで全部やりきれる選手になりたい」と答えてくれた。
ガンバがすごいなと思ったのは「小学生を見る専従(スカウト)を置く」方針だった。スキルは小学生、技術習得のゴールデンエイジに勝負が決まってしまう。だからいかに優秀な子を発見して、ジュニアユースに連れてくるかだという。才能のある子を集めれば、あとはそれをチームのなかで生かす部分を教えていけばいい。それは人間性でもあるし、バランス感覚でもあるし、メンタルの成長でもあるだろう。技術習得に関しては実践的なレベルから入れる。
あの取材から今日までたった4年しかたっていないのだけど、その4年の密度は想像を絶するものがある。試合開始から藤田にプレッシャーをかけ続け、「蛇ににらまれたカエル」状態にしてしまった。こりゃもう、Jの新時代を背負うモンスターだ。直近のロンドン五輪代表はもちろん、A代表の中心選手に飛躍してもらいたい。
新潟はこの試合、開始早々から圧倒された。まぁ、ガンバが意識して圧をかけてきた(2日後にACLベスト8をかけた大阪ダービーが控えていた)事情もある。が、最もやられたのは宇佐美のところだった。8分にたまらず失点。15分、交錯・負傷した二川が交代して、ようやく何となく局面が落ち着く。まぁ、前半はヒヤヒヤだったけれど何とか1対0。活路はカウンターなのかな。大島、ブルーノ・ロペスの2トップにボールがおさまらない。
ひとつ考えどころは藤田征也だった。ハーフタイムのロッカーで黒崎監督は相当ネジを巻いたと思う。僕はコンサドーレ札幌時代、ハートの弱さを指摘されていた藤田を覚えている。北海道の友人は「才能は一流なんだけど」といつもヤキモキしていた。心機一転、新潟で勝負をかけることになった「未完の大器」に大変注目している。たぶん「男・黒崎久志」のもとでサイドバックをやるのは彼には得難い経験になる。「いーから行けって!怖がんな、行け!」とドヤされて、自分の勇気も、弱さも、ともにコントロールできるようになっていくのじゃないか。
宇佐美のようなアメージングな物語もあれば、藤田のような人間っぽい物語もある。で、これが仔細に見ていくとどちらも面白いのだ。相当、黒さんにドヤされた藤田は後半、頑張って前へ出ていた。僕は思う。自分の弱さをわかったとき、人はもう弱くない。臆病さをのり越えたとき、もう臆病ではない。ダメなのはわからないときなのだ。藤田は今季、「未完の大器」を脱皮して、職人に成長するかもしれないよ。
だもんで後半32分、敵失を突いたミシェウの同点弾は「みんなで必死に押し返せばいいことがある」という、成功体験をチームにもたらす筈だった。それは途中交代で入った木暮に。同じく川又に。そして当然、藤田にも。サッカーは内容も大事だけど、こういう気持ちに支えられたもんも非常に大事。
そーれがやられたわけよ、最後の最後。悔しいよ、意味わからんけどルナシーよ。『神様、もう少しだけ』主題歌よ。金城武と深キョンよ。故・田中好子さんも出てたのよ。言いたいことは何かというと、神様、もう2分か3分だけたのむのよ。しまった、ちょっといい話を書いたつもりが最終的にわけわからんデレスケになってしもうた。
附記1、仲間由紀恵が金城武プロデューサーんとこの所属アーティストでしたね。あと宮沢りえが出てた。そんなことどうでもいいけど。
2、ガンバの「小学生スカウト」すごいでしょ。だからもう、小学生の試合ばっかり見てまわるんですよ。だけど、当時、ガンバ・ジュニアユースには北摂の子(つまり、通える範囲の子)しかいないって言ってたなぁ。九州の子を持ってきて寮に入れるみたいな発想ではなかったですね。
3、その取材のとき、大阪・千里の喫茶店で飲んだ「カルピスコーラ」という飲み物が忘れられません。メニューにあったんでつい注文したんだけど、これが文字通りカルピスの原液をコーラで割ったものだった。めちゃめちゃ甘いでやんの。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。