【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第94回(後編)

2011/6/9
 話戻る。呪縛を解く試合。つまり、新潟は「鬼門・埼スタ」と「マルシオがいないと勝てない」の2大呪縛をこの機会に払拭したい。「マルシオがいないと勝てない」に関しては今季、既に2勝して払拭してるわけだけど、本当の意味で超克するには「マルシオがいないどころか、向こうのチームにいる」に勝利したいじゃないか。
 それにはビッグチャンスと呼べるタイミングだった。ゼリコ・ペトロビッチ新体制の浦和が迷走している。オランダっぽい戦術が全然チームにフィットしない。あの熱狂的サポーターがスタジアム離れを起こしつつある。この試合ではついにエジミウソン1トップに見切りをつけ、高崎との2トップにしてきた。自信を失ってるチームには粘り強く当たることだ。必ず不安感が伝染し、ペースを乱す時間帯が生まれる。新潟だって選手が揃わず、苦しい台所ではあるが、絶対に勝機がある。

 試合。小雨のなかだった。しかし、まぁ浦和はタレントが揃っている。早い話、柏木ひとりでハマればとんでもないことをしでかす。どこを警戒して、しすぎということはないよなぁと思う。試合もそういう推移だった。黒崎監督は試合後の会見で「前半は相手を多少リスペクトしすぎた部分があって、ボール際に行けなくて押し込まれた」と表現する。
 
 そのなかでも新潟は粘り強く持ちこたえていたのだ。相手にボールを持たせて、カウンターを狙う。が、前半22分、自陣でFKを与えてしまった。もちろんキッカーはマルシオ・リシャルデス。賭けてもいいが、新潟応援席は全員嫌な予感がしたと思う。角度といい距離といい、マルシオの好きな位置だ。やられた。うわ、やっぱりなぁという軌道で最後はエジミウソンのヘッド。去年まではあれがうちの武器だった。

 問題はそこからだった。マルシオがスペシャルな選手だなんてことは最初からわかっている。先取点を奪われた後、どれだけ粘れるかがカギだった。あんな失点はしょうがない。あくまで自分たちの良さを貫徹すること。粘っていれば必ず浦和はおかしくなる。1点返せば自信を失う。

 両軍えらい決定機もあったが決めきれず、後半になって新潟がペースを握る。見ていて確かに浦和は重症に思えた。選手が動かない。リズムが作れない。そのうちに全体が間伸びしてきた。新潟のカウンターが有効打を生みだす。得点はこちらもセットプレーからだ。藤田のFKを敵GK・山岸がはじき、それを石川が折り返す。鈴木大輔の初ゴールはやけにあっさり決まった。浦和のマーカーにエアポケットが生じていた。

 そして新潟優勢のままタイムアップ。結果はドローだが、印象としては「新潟が勝ち切れなかった試合」。次につながるものはあきらかにこちらにある。僕は両チームの位相が実に対照的に思える。浦和のようにタレントを揃えても、生かせなければ下位に沈む。新潟のように毎年主力を抜かれても、適材適所のやりくりで「生きたチーム」ができる。この試合は小林慶行の後半投入がヒットだった。黒崎さんの「妙手」に賛辞を送りたい。まぁ、埼スタで勝ち点1、一歩前進で今日のところは引き上げるか。次は勝たしてもらうよ。悪いけどさ、マルシオのFKだけが怖かった。


附記1、なんつっって柏木のシュート、ゴール前でゴートクがクリアしたやつ怖かったですねー。ああいうのサッカーでたまに見るけど、よくあんなとこに立ってますよね。あの緊急性ってものは「すいません、お客様のなかにお医者さんはいらっしゃいませんか?」「はい、私は医者ですが」をしのぐものがあります。「すいま」くらい言ったときにはクリアしてる計算だ。まぁ、「お客様のなかにDF登録の方はいらっしゃいませんか?」という機内アナウンスもアレですけど。

2、田中亜土夢がひと仕事しないかと、もう泣く準備始めてたんですけど不発でしたねー。あそこのくだりは石川選手が面白かった。まぁ、何でもやってるうちに良くなります。そういうのが新潟のいいところでしょ。

3、代表のペルー戦は久々、青でびっしり埋まったビッグスワンがいい感じだった。東口出してほしかったですけどねー。スワンの代表戦に初めて新潟の選手が選ばれたんだけど。あとU-22代表のオーストラリア戦は結局、大輔&ゴートクどっちも不出場ですか。違和感あるときは出ない方がいいけど、ちょっと寂しかった。しかし、コンディション崩す選手多いなぁ。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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